TOP-HAT News第106号(2017年6月)です。発行付きを大幅に超えてしまいました。もう梅雨明け猛暑の印象ですね。東京都のHIV検査・相談月間も終わっています。それでも改めて。『HIV検査や相談が重要なのは6月だけではないので、この機会にHIV検査は誰のために、そして何のために行うのかということを考えてみましょう』(治療が進歩したいまこそ 検査と相談の重要性)。HATプロジェクトのブログに掲載してありますが、当ブログにも再掲しておきます。
◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 治療が進歩したいまこそ 検査と相談の重要性
2 WHO新事務局長にエチオピアのテドロス元外相・保健相
3 aktaが7月9日に活動報告会
4 HIV.govに名称変更 米啓発サイトAIDS.gov
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1 はじめに 治療が進歩したいまこそ 検査と相談の重要性
6月は梅雨と紫陽花、そしてHIV検査の普及に力を入れる月でした。1日~7日は厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱するHIV検査普及週間。HIV/エイズ対策の年間カレンダーで見ると12月1日の世界エイズデーとは対角にあたる時期に設定されています。
2006年にスタートしているので、今年が12回目でした。
東京都はこの1週間を含め、6月がまるごとHIV検査・相談月間。
検査普及だけでなく、相談が強調されている点に注目したいと思います。より現場に近い感覚が反映されたキャンペーンというべきでしょう。
その1カ月も間もなく終わります。ただし、HIV検査や相談が重要なのは6月だけではないので、この機会にHIV検査は誰のために、そして何のために行うのかということを考えてみましょう。
突然、英語を持ち出して恐縮ですが、最近は「Treatment as Prevention」の必要性が世界中でことあるごとに強調されています。Treatment(治療)とPrevention(予防)の頭文字をとって「T as P」、日本語では「予防としての治療」と訳しています。
エイズの病原ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した人の体内で、そのウイルスが増えていくのを邪魔する薬が抗レトロウイルス薬です。その薬を使った治療(抗レトロウイルス治療)を続けていると、治療開始の6カ月後あたりから血液中のウイルス量が大きく減少して他の人に性行為で感染するリスクがほとんどなくなるところまで下がることが研究で確認され、治療と予防との関係が注目されるようになりました。
一方で、抗レトロウイルス治療をきちんと続けていれば、HIVに感染している人が健康状態を保ちつつ長く生きていくことができる。治療本来のそうした目標の実現にも大きな期待が持てるようになっています。しかも、感染後できるだけ早く治療を開始し、継続していくことができれば、治療の効果はそれだけ高くなることも分かってきました。
つまり、早期の治療開始によりHIV陽性者は働いたり、勉強したりしつつ社会生活を続ける可能性がこれまで考えられていた以上に高くなるし、その結果として他の人への感染を心配しないでもよくなる。
そういうことなら予防対策にも治療の普及を取り入れようではないかというのが、T as Pの基本的考え方です。
ただし、治療の予防効果を強調する際には、注意しておきたいことが2つあります。
まず、T as Pはセーファーセックスなど既存の感染予防策を否定するものではありません。これまでの予防策では効果がないので治療がそれに取ってかわるというわけではなく、予防の選択肢として治療も新たに加わったと考えるべきでしょう。
予防手段の選択肢を増やし、複数の選択肢の中からそれぞれの地域や集団の現実に最も適した組み合わせを採用して予防対策に臨む。これが昨年6月の国連総会ハイレベル会合でも確認されたコンビネーション予防の考え方です。
2番目は訳語の問題にもなりますが、T as Pはあくまで「予防としての治療」であって、「予防のための治療」ではないということです。治療はあくまで治療を受ける人の利益のために行う。これが大前提ではないでしょうか。
その発想が逆転して、流行の拡大を防止するために、つまり予防のために治療があるという考え方が強くなると、「隠れている」感染者を「割りだそう」とか「掘り起こそう」とか「捕まえる必要がある」などといったおかしな議論につながりかねません。それでは検査を必要としている人、検査を受ければ治療につながることができる人をかえって検査から遠ざけ、治療を受ける機会を奪ってしまう結果にもなります。
T as Pはあくまで、HIV感染を心配する人が安心して検査を受け、検査の結果、感染が分かった人は、そのことで社会的な不利益を受けることなく治療を続け、生活していけるようになる。そうした前提があってはじめて治療は予防対策としても有効に機能すると考えるべきでしょう。
「善は急げ」ということわざがあります。だから、感染しているかもしれない人にはいますぐ検査を受けてもらおうという考え方は当然、誤ってはいません。
ただし、その一方で「急がば回れ」ともいいます。「急いては事をし損じる」と考える余裕も少しは必要です。HIV検査の普及は大切ですが、そのためには遠回りのようでも、安心して検査を受け、治療を続けていけるような社会的環境が不可欠です。
実は、治療の普及は進んでいるのに、世界全体で見ると新たにHIVに感染する成人の数はこの5年間、減っていない。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は1年前に発表した「予防ギャップ報告書」でそう報告しています。
何とか横ばいは維持しているが、そこから減っていかない。治療の普及は大きく進んでいるのに、どうしてなのか、世界はいま、ようやくこのことを真剣に考え、予防対策の観点からも社会的な支援策を再び重視する動きが強くなってきました。
諸外国のHIV/エイズの現状と比べると、日本ははるかに低く流行を抑えてきた国ではありますが、それでもこの点では、世界の現実と同じ課題を共有しています。
もう一度、強調しておきましょう。検査・相談月間は間もなく終わりますが、HIV/エイズの流行は終わったわけではありません。検査と相談、そして支援の大切さは、治療が進歩したいまこそ、メッセージとして引き続き伝えていく必要があります。
2 WHO新事務局長にエチオピアのテドロス元外相・保健相
マーガレット・チャン事務局長の任期満了に伴う世界保健機関(WHO)の新事務局長にエチオピアのテドロス・アダノム・ゲブレイサス元外相・保健相が選ばれました。任期は7月1日から5年間です。
テドロス新事務局長はエチオピアの保健相時代に国内の保健基盤強化に手腕を発揮し、エイズ対策にも大きな成果をあげています。
WHOに対しては、西アフリカおけるエボラ流行(2014年)への対応が遅れたことに国際社会から強い批判があり、テドロス新事務局長には緊急の課題として組織改革への手腕が求められることになります。
テドロス氏の選出が決まった5月23日付WHOニュースリリースの日本語仮訳がHATプロジェクトのブログに掲載されています。
http://asajp.at.webry.info/201705/article_2.html
3 aktaが7月9日に活動報告会
東京・新宿2丁目のコミュニティセンターaktaで7月9日午後2時半から活報告会が開かれます。詳細はNPO法人akta公式サイトのインフォーメーション欄でご覧ください。
http://akta.jp/information/845/
『私たちは、コミュニティセンター「akta」を拠点に、コミュニティのみなさん、さまざまなNGOや商業施設、行政、医療や教育、研究機関等と連携をはかりながら、MSM(男性とセックスする男性)のためのHIVの予防啓発を行っています。日頃ご支援いただいているみなさまに1年間の活動についてご報告いたします』
4 HIV.govに名称変更 米啓発サイトAIDS.gov
米国政府のHIV/エイズ啓発サイトAIDS.govの名称が、6月5日付でHIV.govに変わりました。
・治療の進歩でエイズを発症していないHIV陽性者の方が、エイズを発症している人より多くなっている。
・サイト検索のサーチは「AIDS」よりも「HIV」で行う人の方が圧倒的に多い。
の2点が変更に至った主な理由のようです。6月5日付プレスリリースの日本語仮訳がHATプロジェクトのブログに掲載されています。
http://asajp.at.webry.info/201706/article_3.html