『政治を抜きにした科学は影響力を持てず、科学を無視した政治には危険が伴う』 エイズと社会ウェブ版286

 北海道釧路市で息の長いHIV/エイズ対策の講演・啓発活動を展開しているイルファー釧路の宮城島拓人代表(釧路労災病院副院長)が、公式サイトのブログ『代表徒然草』で、ピーター・ピオット著『NO TIME TO LOSE エボラとエイズと国際政治』(慶應義塾大学出版会)を取り上げてくださいました。

イルファー釧路 - livedoor Blog(ブログ)

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 樽井正義・慶応義塾大学名誉教授、元NHK国際放送キャスターの大村朋子さん、そして私の3人がかりで翻訳した大著です。ピオット博士はエボラウイルスの発見者の一人であり、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の初代事務局長も務めた著名な研究者ですが、その回想録は波乱万丈のストーリーでもあります。

 今年6月、北海道の道東エイズ拠点病院等連絡協議会・研修会に講師としてお招きいただいた際に、よかったら皆さんで読んでくださいと一冊、お渡ししていたのですが、まず代表が読んでくださったのですね。お忙しい中をありがとうございます。訳者の一人として、ピーターになりかわりまして、お礼を申し上げます。

 そのコラムの中で宮城島先生は、『政治を抜きにした科学は影響力を持てず、科学を無視した政治には危険が伴う』というピオット博士の言葉を引用し、次のように指摘しています。

HIV/エイズは単に感染症という問題にとどまらず、大きな社会現象を生み出しました。エイズが私達に様々なことを教えてくれたのです』

 僭越ながら訳者としても、我が意を得たり、であります。

 宮城島先生ご自身も、ケニアHIV/エイズ対策の最前線に立つ稲田頼太郎博士のもとを毎年のように訪れ、医療キャンプで活動されています。アフリカにおけるピオット博士の体験には、時期こそ違え共有できる部分がたくさんあるのでしょうね。秋には稲田先生も一時帰国されるようです。東京で開かれる第31回日本エイズ学会学術集会・総会あたりで、お二人と再会できるのではないかと私もひそかに楽しみにしております。

 『是非、ご一読ください。我々はどうやって生きるべきか、人生の指南書としても最適な作品です』

 重ねてありがとうございます。皆さんもぜひ。

 

「エイズ流行終結」と効果50%のワクチン エイズと社会ウェブ版285

 

 世界のHIV/エイズ対策はいま、2020年の90-90-90ターゲット達成を当面の戦略目標にしています。

1HIVに感染している人の90%が検査を受けて自らの感染を知り、

2)感染を知った人の90%が抗レトロウイルス治療を始め、

3)さらにその90%は治療を継続して体内のHIV量を低く抑えられるようになる。

この状態が実現できれば、計算上90×90×90で、HIV陽性者の約73%は、自ら健康状態を良好に保てるだけでなく、その人から他の人にHIVが感染するリスクもほぼゼロになる。これが「予防としての治療」(T as P)の最も期待される効果です。

 90-90-90の先にはさらに「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行」を2030年までに終結に導くという大目標があり、そのためには「T as P」のハードルを95-95-95に引き上げる必要があるというのも一応、国際的な共通理解となっています。

 では、95-95-95が達成できると、流行はどの程度まで抑えられるのか。

米国の研究グループの数学モデルによる最近の試算について、エイズ対策関連の会合で教えていただきました。立ち話程度だったので、数字については後で確認したものを使っていますが、2030年に95-95-95が実現すると(そして、その前提として2020年に90-90-90が達成できていると)世界はこうなるそうです。

 

・抗レトロウイルス治療の普及が現在のレベルのままだと、2015年から35年の間に世界全体で4900万人[4400万~5800万人]が新たにHIVに感染する。

 ・UNAIDS95-95-95ターゲットが実現できれば、このうちの2500万人[2000万~3300万人]の新規感染を防ぐことができる。

・それでもなお、2400万もの人がHIVに感染することになるが、2020年に50%の効果があるワクチンを導入し、その効果を70%まで徐々に引き上げていけば、さらに630万人[480万~870万人]の感染が防げる。

 

この試算が言いたかったのは「したがって、HIVに関して言えば50%の効果しか見込めないワクチンであっても実用化する必然性が十分にある」ということでしょう。

確かにワクチン開発は必要です。ただし、この試算については教えていただいたときにまず私が感じたのは「あれ? T as Pって喧伝されているほど効果があるわけではないんですね」ということでした。

だってそうでしょ。仮に2030年に95-95-95が実現するような目いっぱいの成果があがったとしても、今後20年間で2400万人もの新規感染者が予想される。平均すると、年間で100万人以上です。

UNAIDSの説明では、90-90-90が達成できれば2020年の年間新規感染者数は世界で50万人に減少する。そして95-95-952030年に実現すれば新規感染者数は20万人以下になるということでした。

このため、昨年6月の『エイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合』で採択された『HIV エイズに関する政治宣言:HIV との闘いを高速対応軌道に乗せ、2030年のエイズ 流行終結を目指す』にもパラグラフ56には次のように明記されています。

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562020年に世界の新規HIV感染者数を年間50万人以下、エイズ関連の原因で死亡する人を年間50万人以下に減らし、スティグマと差別をなくすというターゲットを約束する』

もしも試算が正しいとすると、だいぶ話が違ってきますね。それでも95-95-95の達成をもって、「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行」は終結したといえるのでしょうか。

一方で、ワクチンに関していえば、「半分ぐらいは効きますよ」といわれて、接種したいと思う人が果たしてどのくらいいるのだろうか。この点も疑問です。

ネガティブなことばかり言ってすいません。世界の・・・は荷が重いにしても、せめて日本国内の対策が理にかなったものであってほしいという思いのしからしむるところでありまして、T as Pやワクチン開発を否定しようという意図はありません。

 

ネットで検索すると、この試算は今年3月、米国科学アカデミー紀要(PNAS)という学術雑誌の電子版に掲載された《Effectiveness of UNAIDS targets and HIV vaccination across 127 countries》という論文で紹介されています。

 http://www.pnas.org/content/114/15/4017

報告しているのはオレゴン州立大学や、イェール大学の研究者です。アブストラクト(要約)のページだけ読みました。本文を全部読んだわけではありません(読んでも試算のしかたなどは理解できないと思うので、悪しからず)。その要約ページを日本語に仮に訳すとこんな感じでしょうか。

 

【重要性】

 HIV治療の極めて大きな進歩にも関わらず、世界的な大流行はまだ縮小には転じていない。HIV感染の診断および感染した人の治療の拡大を目指す国連合同エイズ計画(UNAIDS)のターゲットと部分的に有効なHIVワクチンを評価するため、私たちは127か国を対象にした数学モデルを開発した。診断と治療が現在のレベルのままだと2015年から35年までの約20年で約4900万人が新たにHIVに感染すると私たちは推計した。UNAIDSの野心的ターゲットが実現できれば、このうちの2500万人の感染が防げる。また、2020年に50%有効なワクチンを導入すれば、さらに630万人の感染を防ぐことが期待できる。私たちの研究は、部分的に有効なワクチン導入が特定の国々にもたらす影響を推定し、世界的にHIV感染をなくしていくうえでの重要性を示した。

アブストラクト】

 HIVパンデミックは依然、多くの死者と新規感染、世界的な経済負担をもたらしている。それと同時に抗レトロウイルス治療や診断技術の改善、ワクチン開発が、予防としての治療および治療法の新たなツールとなっている。私たちは127か国において、診断、治療、ウイルス量の抑制を目指すという文脈の中でHIVワクチンがもたらす追加的な成果を評価するための数学モデルを開発した。現在のままの対策が続けば、2015年から2035年の間に世界全体で4900万人[4400万~5800万人]が新たにHIVに感染すると私たちは推定している。UNAIDS95-95-95ターゲットが実現できれば、このうちの2500万人[2000万~3300万人]の新規感染を防ぐことができ、さらに2020年に50%の効果があるワクチンを導入してその効果を徐々に70%まで引き上げれば、さらに630万人[480万~870万人]の感染が防げるとの見通しを示した。ワクチンによってこうした追加的な利益が望めることで、現在進められているワクチン臨床試験HIVコントロールのゴールを実現するための差し迫った、そして使用可能な候補のとしての必要性を有していることを示すものだ。

 

 【重要性】も【アブストラクト】も、同じことを繰り返しているような感じです。論文には論文の様式美というものがあって、こんな具合にくどくどと書かなければいけないのでしょうね。同情します。

 どうしていま、50%のワクチンが話題になるのか。それには背景があります。

2016年末に7年ぶりのHIVワクチン臨床試験南アフリカで始まりました。その試験で使われている候補ワクチンの効果が50%とされているので、研究するのはいいとして、それじゃあ実際には使えないでしょう・・・という批判もあります。試験の結果は2020年後半にわかる見通しのようです。奇しくも90-90-90ターゲット締め切りの直前。微妙な時期ですね。

 

米国でHIV陽性者向けに発行されている雑誌POZマガジンのサイトには201759日付けで『新たなHIVワクチン候補が半分しかリスクを下げられないとしたらどうする?』という記事が掲載されています。

What If the New Experimental HIV Vaccine Cuts Risk by Only Half?

        By Benjamin Ryan

https://www.poz.com/article/new-experimental-hiv-vaccine-cuts-risk-half

 

その記事によると、HVTN702と呼ばれる南アの臨床試験には5400人の男女が参加しています。使われる候補ワクチンは、タイで行われたRV144臨床試験のワクチンの改善型ということです。

タイの臨床試験では2009年に控え目な効果が確認されています。ワクチン接種後3年半の時点で、HIV感染のリスクを31%減らすということです。これがHIVワクチンの臨床試験で唯一の成功例とされている事例なのですが、31%ではさすがに使えません。

改善の結果、50%のリスク削減効果が示せればどうなるか。それがいま、ワクチン開発分野における議論の焦点です。POZマガジンの記事によると、米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は「50%の効果は確実にありますということなら、ゴーサインを出す」と語っているそうです。詳しくは記事を読んでください。60%以上の効果が望ましいけれど、50%でも何もしないよりまし。50%の効果が確認されれば、実用化に踏み切り、広く普及をはかる中で70%ぐらいにまで徐々に効果を高めていければ・・・というシナリオのようです。

こうしたシナリオが認められるのも、HIVにはワクチンだけが予防に有効な手段というわけではないという事情もあります。

POZの記事では、たとえばはしかのワクチンとの比較において次のように書いています。

『はしかを防ぐにはワクチンしかないが、HIV感染の予防ツールには、コンドーム、性行動の変容、予防としての治療(治療がうまくいけば感染のリスクを減らせる)、曝露前予防投与またはPrEP99%以上の効果があるかもしれない)、VMMC(男性器包皮切除、60%の効果)などがある。こうした方法を広げていけば、世界的な流行を封じ込めることも可能になる』

まさにコンビネーション予防の考え方ですね。ワクチンも抗レトロウイルス治療も、期待すべきなのは、追加的手段としてのインパクトです。これがあれば、もう他の予防手段はいらないというものではない。このことはきちんと理解しておく必要があります。

 

 

♪いまはもう秋、誰も・・・いますねえ、たくさん

 午前中に雨があがって、海辺にも久しぶりに強い日が差してきました。海水浴シーズンが終わって最初の土曜日。

 

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 滑川の河口にかかる木橋。海の家の撤収工事に合わせ、夏限定のこの橋ももうすぐ取り外されてしまいます。ちょっと名残惜しいですね。

 

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 台風の影響で波も風もそれなりに強く、海の様子も元に戻ったというか、海水浴風景とはだいぶ変わっています。

 

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 材木座沖もこの混雑。波がくるとこんな感じになります。

 

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 再び滑川の河口に戻って・・・。

 

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 由比ガ浜です。波打ち際にはたくさんの人。日差しは強いけれど、空はもう秋かなあ。

 

 

 


 

文化の視点でエイズをとらえる TOP-HAT News 第108号(2017年8月)

 涼しいというか、冷えますね。調子に乗って半ズボンで町を歩いていたら風邪をひいたかな。年寄りに鼻水・・・これじゃあ、しゃれにもならない。
 今年の8月は恐るべき冷夏でした。第24回エイズ文化フォーラムin横浜の初日も初秋を思わせる涼しい1日だったけれど、オープニングセッションの会場は超満員でした。その理由は・・・。
 TOP-HAT News第108号(2017年8月)の巻頭は横浜から。HATプロジェクトのブログにも掲載しましたが、再掲します。

 

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第108号(20178月)

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TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発メールマガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに 文化の視点でエイズをとらえる

 

2 国連UNHCR難民映画祭2017 全国6都市で開催

 

3 パリ声明を発表 IAS2017

 

4  世界のHIV陽性者数は3670万人

 

5 HIVによる免疫機能障害の認定基準見直しを要望 

 

◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに 文化の視点でエイズをとらえる

 毎年8月の最初の金・土・日曜に開催されるAIDS文化フォーラムin横浜は今年で24回目を迎えました。例年なら朝から噴き出す汗を拭き拭き会場に向かうのですが、なんと初日の84日は初秋を思わせる涼しい一日でした。

 今年のテーマは「リアルにであう」。そしてオープニングトークセッションのタイトルが《ニュースとAVが抱える『リアルな壁』》。セクシー女優の吉沢明歩さんと元TBS報道キャスターの下村健一さんのお二人がゲストだったこともあって、会場は超満員でした。

 

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「性」と「情報」はエイズ対策の二大キーワードであり、同時にバーチャルとリアルが複雑かつ微妙にからみあう分野です。司会の岩室紳也医師の巧みな話術もあって、ジャーナリズムと性産業、そして公衆衛生というかなり異なるようで、関係もありそうな分野の話題が違和感なくつながり、実り大きなセッションとなりました。

 AIDS文化フォーラムが最初に開かれたのは1994年の夏でした。第10回国際エイズ会議という注目の大会議が横浜で開催された年です。この会議に参加するには登録料が7万円もかかるということでした。エイズ対策分野の専門家ならともかく、一般の人はそこまでして会議に参加したいとは思えない金額でしょうね。

 ただし、エイズの流行は、専門家が集まって高度な議論を展開していれば、解決できるという現象ではありません。もっと多くの人が参加し、議論に加われる企画が必要だということで、東京を中心に活動していたアクティビストの一人が、エイズの流行の文化や社会にかかわる側面に注目した「もう一つの会議」を開催したいと奔走し、その考え方に共鳴した地元・横浜の人たちが中心になって、文化フォーラムの実現にこぎつけました。

 国際的な大会議と並行して、一般の人が広く参加できる「もう一つの会議」が開かれたことは、それ自体が快挙です。ただし、AIDS文化フォーラムin横浜はそれでは終わりませんでした。その後も毎年夏には必ずフォーラムが開かれ、その時期、その時期に必要なテーマが散りあげられています。

 文化の課題としてAIDSの流行をとらえていく。フォーラムのこうした考え方は横浜にとどまらず、21世紀に入ると全国に広がっていきました。京都では6年前からAIDS文化フォーラムin京都が開かれています。陸前高田と佐賀、そして今年は新たに名古屋でも開かれることになりました。のれん分けのような感じもしますが、それぞれのAIDS文化フォーラムにはそれぞれの課題や枠組みを生かした特徴があり、この多様なあり方こそが「文化」だなという印象も一方で受けます。

参考までに、すでに実施済みのものも含め、2017年のエイズ文化フォーラム開催日程を紹介しておきましょう。

 61718日 第3AIDS文化フォーラムin佐賀

 8 4 6   24AIDS文化フォーラムin横浜

  924日     1AIDS文化フォーラムin NAGOYA

  930101日 第7AIDS文化フォーラムin京都

12月 3日    AIDS文化フォーラムin陸前高田

 

 このほかにも、東京や大阪では121日の世界エイズデーの前後を「エイズウィークス」として位置づけ、さまざまなイベントが計画されています。エイズの流行を「文化」の視点からとらえることの重要性はますます増していくようです。

 

 

 

2  国連UNHCR難民映画祭2017 全国6都市で開催

 国連難民高等弁務官UNHCR)駐日事務所と特定非営利活動法人国連UNHCR協会が主催する国連UNHCR難民映画祭2017930日(土)から1112日(日)までの間に、東京、札幌、名古屋、大阪、福岡、広島の6都市で開かれます。UNHCR国連合同エイズ計画(UNAIDS)の共同スポンサーとなっている11国連機関のひとつです。

 

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 12回目となる今年の映画祭のテーマは『観なかったことにできない映画祭』。6都市で合わせて13作品が上映の予定で、入場は無料ですが、予約申し込みが必要です。

 上映作品と上映スケジュール、申し込み方法などは、映画祭の公式サイトでご覧ください。

 http://unhcr.refugeefilm.org/2017/

 

 

 

3 パリ声明を発表 IAS2017

 第9回国際エイズ学会HIVに関する学術会議(IAS2017)が723日(日)から26日(水)まで、フランスのパリで開かれました。2年に1度、国際エイズ会議の間の年に開かれる会議で、以前は「国際エイズ学会HIV基礎研究・治療・予防会議」という長い名称でしたが、少しだけ短くなりました。

 開催に先立ち、主催団体である国際エイズ学会(IAS)とフランス国立エイズ・ウイルス性肝炎研究機関(ANRS)が会議の公式サイトに連名で声明を発表し、会議の場でも報告されました。

 声明ではHIV学術研究で重視すべき5つの領域が上げられています。文章が少し長くなっていますが、その中で太字にして強調されている部分は以下の通りです。
 1 基礎医学
 2 ワクチン開発
 3 治療薬の処方や服薬支援
 4 予防への投資と構造的障壁の克服
 5 経済、投資効果

 パリ声明の日本語仮訳はHATプロジェクトのブログで読むことができます。

 http://asajp.at.webry.info/201708/article_1.html

 

 

 

4  世界のHIV陽性者数は3670万人

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は720日、HIV/エイズに関する最新の推計をもとにした報告書『エイズ終結を目指す:90-90-90目標への前進』を発表しました。UNAIDSのプレスリリースがHATプロジェクトのブログに日本語仮訳で掲載されています。

 http://asajp.at.webry.info/201707/article_3.html

 2016年末現在の主な推計値は次の通りです。

 ・抗レトロウイルス治療を受けているHIV陽性者 1950万人

 ・世界のHIV陽性者数 3670万人[3080万~4290万人] 

 ・年間の新規HIV感染者数 180万人[160万~210万人]  

 ・年間のエイズ関連の病気による死者数 100万人[83万~120万人]

 []内の数字は推計の最小値と最大値で、この幅が小さいほど推計の確度が高いことを示しています。

 

 

 

5 HIVによる免疫機能障害の認定基準見直しを要望

 「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」と「ぷれいす東京」の2つの特定非営利活動法人713日、『ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害の認定基準に関する要望書』を連名で厚労省に提出しました。

『国際基準では治療を開始すべきでありながら、障害認定による治療助成の利用が制限され、抗HIV薬の服薬が遅れている現状』を指摘し、『治療へのアクセスを難しくしている認定基準の見直し』を求めています。

JaNP+」および「ぷれいす東京」の公式サイトで要望書のPDF版を見ることができます。

 

TOKYO AIDS Weeks2017 参加申し込み受付を9月15日(金)まで延長

 11月25日(土)、26日(日)の2日間、東京都中野区の中野区産業振興センターで実施される東京エイズウィークスのイベントと展示について、参加申し込みの受付期間が9月15日(金)まで延長されました。

 

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《TOKYO AIDS WEEKS 2017は、市民のHIV/AIDSへの関心を高めて感染拡大の抑止をはかるとともに、HIV陽性者およびHIV/AIDSに対する偏見差別を解消し、感染した人々も安心して暮らせる社会を目指して実施します。その趣旨にご賛同いただき、それに沿った表現や内容となるようお願いいたします》

 締め切りは当初、8月31日でしたが、秋のイベント計画については夏休みシーズンが明けてから最終的に決定する団体も多いところから、約2週間の特別延長期間を設けたものです。
 実行委員会にはすでに数多くの参加希望が寄せられていますが、会場のキャパなどから考えて、時間的、空間的にはまだ少し余裕があるようです。
 開催期間は同じ中野区内の中野サンプラザで開かれる第31回日本エイズ学会学術集会(11月24~26日)と同時期になります。

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 HIV/エイズ分野における予防、治療、ケア、支援などの対策にさまざまなかたちで携わっている方が全国から集まる機会なので、注目度も一段と高くなりそうですね。
 参加申し込みは原則としてウェブサイトで受け付けています。詳細はTOKYO AIDS Weeks2017公式サイトの参加申し込みページでご覧ください。 

aidsweeks.tokyo

 

東京都エイズ通信第120号

 メルマガ東京都エイズ通信第120号(20178月)が発行されました。

 http://archives.mag2.com/0001002629/?l=nzj09bf662

 

 今年12日から827日までの感染者報告数(東京都)が載っています。( )は昨年同時期の報告数です。

 

  HIV感染者        247件  (233件)

  エイズ患者          64件  ( 72件)

                  311件  (305件)

 

 HIV感染者報告数は昨年同時期を上回り、エイズ患者報告数は昨年同時期を下回っています。報告全体に占めるエイズ患者の割合を計算してみると、今年は20.6%。昨年(同時期まで)は23.6%。全国平均よりかなり低く、しかも、今年は昨年同時期より下がっています。こうした傾向がさらに進んでいくことを期待したいですね。

 

横ばい傾向続く エイズ動向委員会報告2016年確定値

 厚生労働省エイズ動向委員会が830日(水)に開かれました。これまでの年4回開催から年2回開催に代わり、今回は昨年(2016年)の新規HIV感染者・患者報告確定値と、今年上半期の報告数が明らかにされました。API-Netで概要と委員長コメントを見ることができます。

 http://api-net.jfap.or.jp/

 2016年の確定値は以下のようになっています。

  HIV感染者報告 1011件(過去8位)

  エイズ患者報告    437件(過去6位)

     計      1448件(過去9位)

 

 年間の報告数は3月末に速報値が発表されています。そのときと比べるとHIV感染者報告が8件増え、エイズ患者報告は同数でした。したがって報告数の合計も8件増です。

 確定値の感染経路別では、同性間の性感染がHIV感染者報告で約73%エイズ患者報告で約55%と多数を占めています。この傾向もここ数年変わっていません。

 参考までに、速報値段階の数値を確定値に差し替えた表とグラフを掲載します。まずは表から。

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 報告全体に占めるエイズ患者報告の割合は検査により早期に感染が把握できたかどうかを見ていく指標とも考えられていますが、こちらも30%前後で横ばいです。

 報告数の推移をグラフにするとこんな感じになります。

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 以下、委員長コメントです。

1.平成 28年は、新規HIV感染者報告数及び新規AIDS患者報告数ともに横這い傾向である。

2.新規HIV感染者及び新規AIDS患者報告の感染経路として、性的接触によるものがそれぞれ90%81%で、中でも男性同性間性的接触によるものが多い傾向も変わっていない。HIV感染症は予防が可能な感染症である。適切な予防策をとり、HIV感染の可能性があればまず検査を行って頂きたい。  

3.献血10万件当たりの陽性件数は昨年に比して減少した。

4.保健所等におけるHIV抗体検査のうち、陽性となった件数は 421 件である。近年の新規HIV感染者報告数の40%以上が、保健所等で診断されていると考えられる。国民の皆様には、保健所等の無料・匿名での相談や検査を積極的に利用いただきたい。

5.新規HIV感染者・新規AIDS患者報告数に占める新規AIDS患者報告数の割合は、約30%のままで推移しており、病気が進行した時点で診断される例が多い。早期発見は個人においては早期治療、社会においては感染 拡大の防止に結びつく。自治体におかれては、予防指針を踏まえ、引き続き利便性に配慮した検査相談体制を推進していただきたい。

 

 蛇足ながら、Facebookにも書いた報告の横ばい傾向についての感想を付け加えておきます。

 報告ベースの数値をどうとらえるか。T as P(予防としての治療)がもたらす効果により全体としては今後、減少に向かっていくだろうという評価があります。
 一方で、若年層の増加傾向から判断して、必要な人に必要な情報が届いておらず、新規感染はむしろ増加リスクを抱えているのではないかという見方もあります。当面の報告数は横ばいであっても、感染は再び緩やかに拡大するのではないかという認識です。どちらかというと私は後者の危惧を持っています。
 国内の流行はこれまで何とか低いレベルで抑えられてきました。その中で男性同性間の性感染が報告ベースですら感染の過半を占めています。最も大きな感染リスクを抱えている層を支援することが有効な対策につながる。そうした認識に基づく対策の成果は地道な目立たないものでしたが、決して小さくはなかったと思います。ただし、そのことに世の中が持続的な関心を維持できるかどうか。地道な努力を社会が支えることができるのか。このあたりも今後の感染動向に大きな影響を与える要因なのではないかと思います。