『サル痘からM痘に 1年かけて名称変更』 TOP-HAT News第172号

 明けましておめでとうございます。ということは、すでに去年の話になってしまい、恐縮ですが、懸案になっていたサル痘(Monkey pox)の名称が、M痘に変えられることになりました。世界保健機関(WHO)が11月28日、名称変更の推奨を発表しました。WHOのプレスリリースによると『1年間の移行期間を経て、サル痘に代わりM痘が優先用語となる』ということで・・・あれ? それなら今年の話でもあります。

『去年今年貫く棒の如きもの』(虚子)

 そうか、うまいことというね。

 サル痘の痘は2022年の「今年の漢字」にもならず、国内の流行は小規模にとどまって2023年を迎えました。初期対応による情報伝達の成果といっていいのかもしれません。

TOP-HAT News第172号(2022年12月)の巻頭で取り上げたので、詳しくはこちらをお読みください。

 

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第172号(2022年12月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに サル痘からM痘に 1年かけて名称変更

2 『ヤローページ』2022新宿版が登場

3 PrEP利用の手引きを発行

4 HIVプリベンション2025ロードマップ

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1 はじめに サル痘からM痘に 1年かけて名称変更

今年5月ごろから、欧米諸国を中心に世界各地で感染報告が相次いだサル痘(Monkey Pox)の名称が変わります。世界保健機関(WHO)は11月28日、M痘(m pox)への変更を推奨すると発表しました。こちらがWHOの公式サイトに掲載されたニュースリリースです。

https://www.who.int/news/item/28-11-2022-who-recommends-new-name-for-monkeypox-disease

英文なので、部分的に日本語に訳しながら紹介します。サル痘は新興感染症ではなく、かなり以前から知られている病気です。ただし、あまり知名度は高くなかったのですが、今回のアウトブレークで一気に注目されるようになりました。

ニュースリリースによると、『サル痘拡大期には人種差別的でスティグマを生み出すような発言がオンラインなどで観察され、WHOに報告がありました』ということで、8月に出された「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)の宣言と合わせ名称変更の検討が進められました。『さまざまな専門家、国、一般市民からの意見を収集する協議』を実施したということで、報道によると名称の公募も行われています。

その結果、次のような結論に達したということです。

  • 疾患の同義語として英語のmpox(M痘)を採用する。
  • 1年間の移行期間を経て、サル痘に代わりM痘が優先用語となる。この措置は世界的なアウトブレークの最中に名前が変わることで起きる混乱の軽減に役立つ。また国際疾病分類(ICD)の更新プロセスを完了し、WHOの出版物の手直しの時間も得られる。
  • 「サル痘」という用語は、過去の情報を調べられるようICDで検索可能用語として残る。

 

ニュースリリースには、背景情報が「編集者への注」として付けられています。これも公開情報なので、一部を日本語仮訳で紹介しておきましょう。

『ヒトのサル痘は1958年に飼育下のサルから病原ウイルスが発見されたことにより、1970年に名前が付けられている。WHOが2015年に病気命名におけるベストプラクティス(模範的方法)を発表する以前のことだった。そのベストプラクティスによると、新しい病名を付ける時には、貿易、旅行、観光、または動物福祉に不必要に悪影響を与えることを最小限に抑えること、文化的、社会的、国家的、地域的、専門的または民族的グループに不快感を与えないようにすることを考慮すべきである』

『サル痘』を『M痘』に変えても、「あっ、モンキーのMだね」ということで、どうしてもサルを思い浮かべてしまいそうですね。でも、そこで止まらずに、「実は名称変更の背景にはこういう理由があるようだよ」という話になれば、感染症対策の中で誤解や偏見の解消がいかに大切かという話題に発展するかもしれません。蛇足ながら付け加えれば、実は自然宿主はサルではなく、げっ歯類と考えられているそうです。

過去にさかのぼって、サル痘をM痘に変えようとすると、膨大な作業になりますが、『サル痘という用語は、過去の情報を調べられるようICDで検索可能用語として残る」ということなので、ネット情報を活用する観点からは、少しほっとします。せっかくの機会です。感染症対策への理解が進むように、一年間の移行期間をうまく利用したいですね。

 

2 『ヤローページ』2022新宿版が登場

特定非営利活動法人aktaが11月26日、冊子『ヤローページ2022新宿版』(新宿二丁目のスポットガイド、HIV検査情報&MAP)を発行しました。

『ヤローページは、ゲイのライフ(人生)には、バーやショップ、ハッテン場などで楽しむこととあわせて、HIV性感染症など性の健康についても一緒に知って欲しい!という願いを込めてつくられたパンフレット。新宿二丁目の街を「ヤローページ」が盛り上げるきっかけになって欲しい!という想いで、3年ぶりに復刊を行いました』

(akta公式サイトから)

コミュニティセンターakta(新宿区新宿2-15-13、第二中江ビル301)や新宿二丁目を中心にしたバーなどの店舗で配布しています。

 

3 PrEP利用の手引きを発行

日本エイズ学会のPrEP導入準備委員会が『日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用の手引き』【第1版】および『日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用者ガイド』【第1版】を発行しました。前者は医療従事者・支援者向け、後者は利用者向けの冊子です。どちらも厚労科研「HIV感染症の曝露前及び曝露後の予防投薬の提供体制の整備に資する研究」班による研究の成果に基づくもので、冊子のPDF版が日本エイズ学会の公式サイトでダウンロードできます。

https://jaids.jp/

『利用者ガイド』の「はじめに」では、PrEPについて以下のように説明しています。

   ◇

PrEPとは、曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis)の略です。

PrEPは、HIV感染の可能性のあるセックスの前と後に、専用の薬を飲むことで、感染リスクを大きく減らす方法のことです。薬そのものを指してPrEPと言うこともあります(「PrEPを服用する」など)。

PrEPは、正しく利用しないとHIV感染を予防する効果が下がるだけでなく、副作用が生じたりするおそれがあります。

このガイドブックには、PrEPをおこなう上で知っておくべき情報について書いてあります。PrEPを始める前に、必ずこのガイドブックに目を通してください。

 

4 HIVプリベンション2025ロードマップ

世界HIV予防連合は2017年、国連合同エイズ計画(UNAIDS)と国連人口基金UNFPA)が、エイズの流行に大きく影響を受けている国の政府やNGOに呼びかけて創設。90-90-90ターゲットを掲げ、2020年を達成年とする予防目標のロードマップを公表していました。

しかし、新規HIV感染の予防には期待通りの成果が上がらず、目標には到達せずに終わっています。

その反省の上に立って公表されたのが、2025年を目標年とする新たなロードマップで、5つの予防の柱に焦点を当て、10項目の行動計画を示しています。エイズ予防情報ネット(API-Net)にその日本語仮訳が掲載されています。

https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet063.html