『サル痘対策にエイズの教訓を生かす』 TOP-HAT News第166号から エイズと社会ウェブ版618

 新聞やテレビのニュースでもしばしば取り上げられていますが、今年5月以降、サル痘の症例が世界各地で報告されています。今後、流行がどうなっていくのか、6月23日には世界保健機関(WHO)が、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たるのかどうかを検討するため、緊急専門委員会を開催しました。委員会報告を受け、WHOは現状について、緊急事態の宣言には至らないが、今後も感染拡大の推移を注視していく必要があるとの判断をしているようです。

 そもそも、サル痘ってなに?という疑問もあるので、TOP-HAT News 166号(2022年6月)でも、情報を集めてみました。

 とくにHIV/エイズ対策の関連では、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が、保健当局や報道機関などがサル痘を取り上げる際の用語や呼称の問題点を取り上げ、プレス声明を発表していることに注目しています。

 長年にわたってHIV/エイズ対策に取り組んできた経験を踏まえた指摘です。

 WHOの緊急専門委員会では、サル痘という病名自体がスティグマを呼び起こす恐れがあるとして、呼び方の変更なども検討されているようです。ただし、その結果がどうなったかもまだよく分かりません。今後、何らかの動きが出てくるのではないかと思います。

 TOP-HAT News166号では、締め切りの関係もあり、6月24日までの動きしか取り上げていません。次号以降に向け、継続して情報収集を続けていく必要がありそうです。

 

 

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        第166 号(2022年6月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに サル痘対策にエイズの教訓を生かす

2 日本語でサル痘情報を得るには

3 『科学的成果に基づき、仕切り直しを』 第24回国際エイズ会議(AIDS2022)

4 第8回アフリカ開発会議(TICAD8)

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1 はじめに サル痘対策にエイズの教訓を生かす

 サル痘はアフリカにほぼ限定されたウイルス感染症と考えられていたのですが、その症例が5月以降、ヨーロッパや北米を中心に世界各地で報告されています。6月23日には今回の感染拡大が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たるかどうかを検討する世界保健機関(WHO)の緊急専門家委員会も開かれました。

疾病や病原体に関する説明は東京都安全健康センターのサイトの《サル痘の世界的流行について》に分かりやすい解説があるので、それをご覧ください。

https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_virus/monkey_pox/

 ここではその知識を踏まえたうえで、エイズ対策に関連する側面から少し補足しておきましょう。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は5月22日に『サル痘に関する用語がスティグマを強め、公衆衛生の危機をもたらす』というプレス声明を発表しています。今回のアウトブレークの最初の症例がイギリスからWHOに報告されたのが5月7日だったということなので、その15日後です。声明の日本語仮訳はエイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログでご覧ください。

 https://asajp.at.webry.info/202206/article_1.html

エイズ対策の教訓は、特定の人口集団に対するスティグマや非難が感染症のアウトブレーク対応を大きく妨げる恐れがあることを示してきた》

 プレス声明はこう指摘したうえで、次のように書いています。

《症例のかなりの部分はゲイ・バイセクシュアル男性など男性とセックスをする男性で占められ、一部症例はセクシュアルヘルスのクリニックで特定された。さらに詳しい調査が現在、進められている。入手可能なエビデンスによると感染の最も高いリスクに曝されているのは、サル痘のある人と身体的に濃厚接触した人であると示唆され、そのリスクは男性とセックスする男性に限定されるものではないと世界保健機関(WHO)は述べている》

 UNAIDSの懸念はエイズ流行初期の1980年代前半、「エイズはゲイがかかる病気」とか「エイズはゲイが広げる」などといった言動が広がり、それが性的少数者に対する非難を引き起こす結果になった苦い経験があるからです。

 「スティグマと非難が強まると、今回のようなアウトブレークに効果的に対応するための信頼と能力が損なわれてしまいます」とUNAIDSのマシュー・カバナ副事務局長は語っています。「人びとは医療サービスを利用しなくなり、症例の特定が妨げられ、効果のない懲罰的な措置が奨励される。こうして恐怖と不安のサイクルが増幅されていくのです」

 それでは、男性とセックスをする男性からの報告が多数を占めていることには触れない方がいいのか、というとそうではありません。疾病のリスクに直面しているコミュニティにとっても、情報は必要です。

UNAIDSの声明が発表されたのと同じ5月22日には、WHOが『最近のサル痘アウトブレークについて、ゲイ、バイセクシュアル、および他の男性とセックスをする男性のための公衆衛生アドバイス』というリーフレットをPDF版で公開しています。

https://cdn.who.int/media/docs/default-source/hq-hiv-hepatitis-and-stis-library/public-health-advice-for-msm-on-monkeypox-22-may-2022.pdf?sfvrsn=7648499_9

英文のままですいません。裏表2ページで表面には「あなたが知るべきこと」が短くまとめられ、裏面はQ&Aになっています。

『男性とセックスをする男性のコミュニティに情報を提供し、コミュニティリーダーやインフルエンサー、医療従事者、社会的イベントやパーティーに参加する人たちに利用してもらえるよう作成した』

情報は主に感染する(した)かもしれないと心配になっている人の懸念に応えられるかたちでまとめられています。注目してほしいのは、表ページの一番下にかなり大きく次のように書かれていることです。

《病気のために人を非難することは決してokではありません。サル痘はセクシュアリティに関わりなく、誰でも感染し得るし、その人から他の人に感染することもあり得ます》

UNAIDSの声明も、このリーフレットと時期をそろえて発表したのかもしれませんね。

 

 

2 日本語でサル痘情報を得るには

 世界保健機関(WHO)は公式サイトのDisease Out Break Newsで定期的にサル痘の発生状況を更新。日本語では厚生労働省検疫所の情報サイトFORTHがその更新版を掲載しています。

 https://www.forth.go.jp/topics/20220621_00001.html

6月17日付のアップデートによると《2022年1月1日以降、WHOの5つの地域(アメリカ地域、アフリカ地域、欧州地域、東地中海地域、西太平洋地域)の42加盟国からサル痘の患者がWHOに報告されています。6月15日現在、合計2,103の検査確定例と1人の疑い例(1人の死亡例を含む)》となっています。

いまのところ(6月23日現在)国内でサル痘の症例は報告されていませんが、国立感染症研究所国立国際医療センターは6月15日、『サル痘患者とサル痘疑い例への感染予防策』を公表しました。主に医療従事者向けの内容です。

 https://www.niid.go.jp/niid/ja/monkeypox-m/2595-cfeir/11196-monkeypox-01.html

また、少し前になりますが、国立感染症研究所のサイトには《アフリカ大陸以外の複数国で報告されているサル痘について(第1報)》が5月24日時点の情報として載っています。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/monkeypox-m/2596-cepr/11166-monkeypox-ra-0524.html

その中で当面の推奨される対策として「早期の患者発見と積極的疫学調査」「感染者等への注意事項」と並んで、3点目に「差別や偏見への対策」を明記し、以下のように述べています。

《特定の集団や感染者、感染の疑いのある者等に対する差別や偏見は、人権の侵害につながる。さらに、受診行動を妨げ、感染拡大の抑制を遅らせる原因となる可能性がある。偏った情報や誤解は差別や偏見を生むため、客観的な情報に基づき、先入観を排した判断と行動が推奨される》

 コミュニティサイドの動きとしては、認定NPO法人ぷれいす東京が6月4日に学習会『知っておこう「サル痘」』をYouTube LIVEで緊急開催しました。イギリス留学経験のある医師ら3人の専門医を招き、生島嗣代表が現時点で分かっていることを確認しています。国内の報告症例はまだないとはいえ、影響を受けることが予想されるコミュニティとして必要な情報を得ておくことは、リスクコミュニケーションの基本です。HIV/エイズ対策を通しNPOと医師との間で築かれてきた信頼関係が、こうした機会に生かされました。

ぷれいす東京公式サイトに掲載されたお知らせの最後には、LIVE配信のアーカイブ動画も紹介されています。

https://ptokyo.org/news/15031

 

 

3 『科学的成果に基づき、仕切り直しを』 第24回国際エイズ会議(AIDS2022)

 隔年開催の第24回国際エイズ会議(AIDS2022)が7月29日(金)~8月2日(火)の5日間、カナダのモントリオールおよびオンラインで開かれます。国際会議もハイブリッド開催が定着してきましたね。

テーマは『Re-engage & follow the science』。日本語にすると『科学的成果に基づき、仕切り直しを』といった感じでしょうか。

 その大きなテーマのもとに以下の5点が示されています。

  1. Presenting evidence(エビデンスを提示する)
  2. Learning from COVID-9 and HIV( COVID-9とHIVから学ぶ)
  3. Addressing evidence and implementation gaps(エビデンスと実践とのギャップに取り組む)
  4. Moving evidence to implementation(エビデンスを実践に移す)
  5. Supporting the next generation(次世代を支える)

 3番目と4番目は同じことを言っているような感じもしますが、科学的には異なるのかもしれません。会議の英文公式サイトはこちらです。

 https://aids2022.org/

 

 

4 第8回アフリカ開発会議(TICAD8)

8回目を迎えるアフリカ開発会議(TICAD8)が8月27日(土)、28日(日)の2日間、チュニジアで開かれます。

 アフリカの開発をテーマにしたこの会議は1993年、日本政府が主導し東京で第1回会議が開かれました。以後2013年の第5回会議(TICAD5)までは5年に1度、日本国内での開催が続きましたが、その3年後の2016年には第6回会議(TICAD6)がケニアで開かれています。横浜開催のTICAD7(2019年)を挟み、今回は2度目のアフリカ開催です。

 アフリカの開発には、エイズ結核マラリアの世界三大感染症対策をはじめとする感染症への対応が大きな課題になってきました。TICAD7以降の3年間は、世界が新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行を経験し、感染症対策と保健課題の重要性、とりわけ必要な医薬品やワクチンへの平等なアクセスの確保が開発の面からも無視できない課題であることが再認識された時期でもあります。

外務省報道発表によると、鈴木貴子外務副大臣チュニジアオスマン・ジェランディ外務・移民・在外チュニジア人大臣が6月2日に会談し、TICAD8に向けた両国の連携強化を確認しています。

 https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000845.html