東京都の委託を受けてエイズ&ソサエティ研究会議が毎月発行しているTOP-HAT Newsの第114号です。今回は1月に改正されたエイズ予防指針の紹介を中心にPrEPの話題などを加えました。グローバルファンドのピーター・サンズ次期事務局長は3月に就任予定ですが、早くも日本を訪れています。この行動力に期待したいですね。UHCについては外務省サイトに分かりやすい資料がありました。もっとアピールすればいいのに。
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第114号(2018年2月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに エイズ予防指針3度目の改正
2 ピーター・サンズ次期事務局長が来日 グローバルファンド
3 UHCって何?
4 国内でPrEP研究スタート
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1 はじめに エイズ予防指針3度目の改正
日本のHIV/エイズ対策の基本となる後天性免疫不全症候群特定予防指針(エイズ予防指針)が改正され、1月18日付で厚生労働大臣告示が発表されました。今回が3度目の改正です・・・といっても、エイズ予防指針って何?と思われる方も少なくないでしょうね。この機会に説明しておきましょう。
エイズ予防指針は感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)のもとで、国や自治体がエイズ政策を進めるための根拠となる指針です。感染症法は1999年4月に伝染病予防法、性病予防法、エイズ予防法の3つの法律が廃止統合され、新たに施行された法律です。この法律を受けて同年10月に厚生労働大臣が指針を告示し、その後はほぼ5年ごとに見直しが行われてきました。今回の改正は2006年、2011年に次いで3回目となります。
改正の際にはほぼ1年前から厚生科学審議会のもとに委員会あるいは検討会が編成され、医師、研究者、感染の当事者、現場で対策に取り組む人たちの意見を集約して検討が進められています。今回の指針改正でも、2016年12月から2017年4月まで、4回にわたって厚生科学審議会エイズ・性感染症小委員会が開催され、パブリックコメントの募集を経て、改正案がまとめられています。
わが国のHIV感染者・エイズ患者新規報告数はこの10年あまり、年間1500件前後で横ばいの状態が続いてきました。流行の拡大は何とか食い止めているものの、縮小に転じるには至っていません。一方で、抗HIV療法の進歩により、HIV感染者の生命予後は大きく改善され、長期にわたり社会生活を続けていくことが可能になっています。
こうした現状を踏まえ、新指針の改正概要では「早期発見に向けた更なる施策」の必要性を強調し、以下の4点を改正のポイントとして挙げています。
・効果的な普及啓発
・発生動向調査の強化
・保健所等・医療機関での検査拡大
・予後改善に伴う新たな課題へ対応するための医療の提供
これまでの考え方が今回の改正によって大きく転換したわけではなく、基本的な考え方は踏襲されています。ただし、この5年余りは国際的にみて、新たな治療や予防の研究が大きく進んだ時期でもあるので、その成果に基づく国際的な流行の動向、社会の対応などを踏まえ、対策の効果をより高めることを目指した改正がなされているといえるでしょう。
厚生労働省の公式サイトを見ると、HIV/エイズ予防対策のページの施策紹介欄に「改正後のエイズ予防指針に基づき、国と地方の役割分担の下、人権を尊重しつつ、普及啓発及び教育、検査・相談体制の充実、医療の提供などの施策に取り組む」として、今回の改正の概要、および改正指針全文、都道府県などの衛生主管部(局)長にあてた通知が掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/aids/
2 ピーター・サンズ次期事務局長が来日 グローバルファンド
3月に就任が予定されている世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の次期事務局長、ピーター・サンズ氏が来日し、2月2日午前、外務省の中根一幸外務副大臣を表敬訪問しました。三大感染症対策や強靭な保健システムの構築、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進などについて約20分間、意見交換を行っています。詳細は外務省サイトの報道発表でご覧ください。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_005608.html
3 UHCって何?
サンズ氏と中根外務副大臣との会合でもテーマの一つとなったユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)。保健政策の分野では最近、しばしば話題になりますが、日本語ではどう訳したらいいのか。なかなかしっくりくる訳語がありません。
「たとえば日本の健康保険がその見本」などと説明されると、「ああなるほど」とある程度、納得はできますが、どうもそれだけではなさそうです。そもそも、様々な条件を抱える世界中の国がすべて日本のモデルに合わせるという発想は現実的ではありません。
参考までに外務省の公式サイトでは「世界中のすべての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられること」と説明されています。図入りのPDF版解説もあわせてご覧ください。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000316831.pdf
4 国内でPrEP研究スタート
国立国際医療研究センター(東京都新宿区)のSH外来(セクシャルヘルス外来)で曝露前予防内服(PrEP)の臨床研究が始まりました。2月からSH外来に通院中の患者さんを対象に参加者を募集しています。
PrEPは、エイズの病原ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していない人が予防目的で抗HIV薬を継続して服用し、感染を防ぐ方法です。あくまでHIV感染の高いリスクに曝されていて、PrEP実施時点ではHIVに感染していないことが確認されている人が対象ですが、海外の研究では高い予防効果が報告されています。
ただし、実施に伴う課題も多く、普及はこれまでのところ米国など特定の国に偏るなど、予防の選択肢としてはまだ限定的なものにとどまっています。一方で、HIV関連の国際機関や研究者による国際的な推奨の動きは急速に高まっており、課題への対応は一定程度積み残されたまま普及が加速する可能性も現状ではあります。
国内では初となるSH外来の研究は『HIV予防の選択肢としてPrEPを確立すること』を目的とし、『HIVの感染リスクが高い方に抗HIV薬ツルバダを内服していただき、PrEPのHIV感染予防効果を確認するとともに、PrEPの実行可能性を検証します』ということです。課題への対応という観点からも必要な研究となりそうです。研究概要や参加条件はSH外来公式サイトの『SH外来でPrEP』のページをご覧ください。
http://shclinic.ncgm.go.jp/prep_research.html