エイズ40周年が過ぎ、エイズに関する国連総会ハイレベル会合も終わり・・・と思ったら、国内ではまたCOVID-19の感染が広がり始め、7月に入ると東京は再び緊急事態宣言下の日常に逆戻りですね。
『40年後の2021年6月を迎え、世界は(そして日本も)、COVID-19というもう一つの困難な新興感染症のパンデミックに直面して再び大きな不安と動揺に包まれています。
この新たな事態に対し「いまはもうエイズどころではない」と考えるのではなく、先行するパンデミックの40年に及ぶ経験をいまこそ生かすべきではないか・・・』
TOP-HAT NEWS第154号(2021年6月)の一節です。HIV/エイズ対策も、COVID-19という新たなパンデミックからの影響も織り込みつつ、2021年政治宣言のもとで再出発ですね。
『COVID-19パンデミック対策はコミュニティ主導の組織の重要性を強調することになりました。困難で変化の激しい環境に対応し、厳しい影響を受けているコミュニティにCOVID-19 の検査とワクチン接種、HIV の予防・検査・治療、その他の保健・社会サービスを提供できるようにするには、その力が不可欠だからです』(ハイレベル皆具に向けたUNAIDS報告書から)
2つのパンデミックが同時進行する時代から受けるのは負の影響だけではないということも肝に銘じ、地道にやっていきましょう。
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第154号(2021年6月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 『世界のコミュニティ それぞれの活動』
2 新規感染者推計は年間150万人 1日平均だと4100人
3 ファストトラックシティのワークショップを7月10日に開催 日本エイズ学会など
4 今年もハイブリッド開催 第28回AIDS文化フォーラムin横浜
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1 はじめに 『世界のコミュニティ それぞれの活動』
これまでに何度か紹介していますが、2021年6月はHIV/エイズの流行開始から40周年の節目です。その起点となるのは1981年6月5日に米疾病管理予防センター(CDC)の死亡疾病週報(MMWR)にカリフォルニアのゲイ男性5人の肺炎症例が報告されたことでした。
ただし、ニューヨークやサンフランシスコなど米国の大都市圏では、その前の年ぐらいから若いゲイ男性の間で珍しい肺炎や皮膚がんが広がっていることに医師らが気づき始めています。
したがって、流行はもう始まっていたわけですが、最初の症例報告があった日を起点にすることがエイズ対策の一応の了解事項になっています。参考までに付け加えておくと、その謎の病気がAIDSと呼ばれるようになるのは、さらに1年後の1982年夏でした。
40年後の2021年6月を迎え、世界は(そして日本も)、COVID-19というもう一つの困難な新興感染症のパンデミックに直面して再び大きな不安と動揺に包まれています。
この新たな事態に対し「いまはもうエイズどころではない」と考えるのではなく、先行するパンデミックの40年に及ぶ経験をいまこそ生かすべきではないか・・・。エイズ対策に携わってきた人たちの多くはいま、そう考え、行動しています。エイズの流行を経験し、HIV治療やケアに取り組んできた医療従事者にも、そうした思いでコロナの診療や研究に取り組んでいる人は少なくありません。
40周年の2日前の6月3日には、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が国連総会ハイレベル会合に向けた報告書『GLOBAL COMMITMENTS, LOCAL ACTION(世界のコミュニティ それぞれの活動)』を発表しました。
https://www.unaids.org/en/resources/documents/2021/global-commitments-local-action
国連は2030年に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ」の終結を目指し、2020年までの中間目標として90-90-90ターゲットを掲げてきました。HIV陽性者の90%がHIV検査を受け、そのうち90%が治療を開始し、さらにその90%が治療の継続により体内のHIV量を検出限界値未満に抑える状態を維持する、という目標です。
残念ながら世界全体としては、2020年末にそのターゲットを達成することはできませんでした。目標に遠く及ばなかった国が多く「大きく軌道を外れた状態」だったからです。
ただし、極めて大きな成果を上げ、ターゲットに到達した国も数十カ国に達しました。報告書はそうした国々に共通した特徴をあげ、こう指摘しています。
『政治の強いリーダーシップ、適切な資金の確保、コミュニティによる真の関与、人権を重視した多部門のアプローチ、そして、科学的なエビデンスに基づき焦点を絞った戦略です。これらはHIVやCOVID-19にはもちろん、その他の数多くの感染症、非感染症対策にも極めて重要な要素なのです』
また、その中でもとくに『コミュニティの関与』に焦点を当てた次のような指摘も行っています。
『COVID-19パンデミック対策はコミュニティ主導の組織の重要性を強調することになりました。困難で変化の激しい環境に対応し、厳しい影響を受けているコミュニティにCOVID-19 の検査とワクチン接種、HIV の予防・検査・治療、その他の保健・社会サービスを提供できるようにするには、その力が不可欠だからです』
社会の中で生活している一人一人の力がなければ、そして困っている人に手を差し伸べることができなければ、パンデミックに対抗することはできない。そのためにはコミュニティが積極的に対策にかかわれるような仕組みと環境が必要になる。
このことはいま、日本国内でも現在進行形で経験中です。ただし、じゃあ、どうしたらいいの・・・という点で、総論的な「さわり」だけでなく、もう少し具体的内容も知りたいところですね。
報告書は全体で50ページを超え、かなり長いのですが、UNAIDSの了解を得て、その核心部分の30ページ余りを現在、日本語に翻訳中です。翻訳と編集の作業を終えたらAPI-Netで読んでいただけるようにしたいと思います。いましばしお待ちください。
2 新規感染者推計は年間150万人 1日平均だと4100人
UNAIDSの特設サイトには『エイズ流行、世界の現状2020』というパワーポイント資料も紹介されています。
https://www.unaids.org/en/resources/documents/2021/core-epidemiology-slides
その一部を日本語仮訳で紹介しておきましょう。
世界のHIV陽性者数 3760人 (3020万~4500万人)
成人 3590万人(2890万~4300万人)
女性(15歳以上) 1920万人(1550万~2300万人)
子供(15歳未満) 170万人 (120万~ 220万人)
年間新規HIV感染者数 150万人(110万~210万人)
成人 130万人( 94万~180万人)
女性(15歳以上) 67万人(46万~94万人)
子供(15歳未満) 16万人(10万~2万4000人)
エイズ関連の死亡者数 69万人(48万~100万人)
成人 59万人(40万~88万人)
女性(15歳以上) 25万人(17万~37万人)
子供(15歳未満) 10万人(6万9000~16万人)
新規感染者数は1日平均4100人
・ 58%がサハラ以南のアフリカ地域
・ 10%は15歳未満の子供
・ 90%は15歳以上の成人、このうち:
- 50%は女性
- 30%は若者(15~24歳)
- 19%は若い女性(15~24歳)
3 ファストトラックシティのワークショップを7月10日に開催 日本エイズ学会など
2030年のエイズ終結のカギを握るのは世界の大都市である。Fast Trac City構想は、こうした認識のもとに2014年の世界エイズデー(12月1日)にパリ宣言を発表し、スタートしました。
この構想への理解を広げるため、一般社団法人日本エイズ学会と米ワシントンDCに本部がある国際エイズケア提供者協会(IAPAC)が7月10日(土)、Fast Track Cities Workshop Japan 2021をオンライン(zoom使用)で開催します。
ワークショップのタイトルは英語ですが、使用言語は原則日本語です。英語のスピーカーが話をするときには、あらかじめ収録された動画に邦訳が入る予定になっています。
参加費は無料ですが、参加希望者は7月7日(水)までに予約申し込みが必要です。
予約方法およびプログラムの詳細は、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター(ACC)のウェブサイトの案内をご覧ください。
http://www.acc.ncgm.go.jp/news/20210604100722.html
4 今年もハイブリッド開催 第28回AIDS文化フォーラムin横浜
夏の恒例イベントとして定着している第28回AIDS文化フォーラムin横浜のテーマと開催形式などが公表されました。
開催日は8月6日(金)~8日(日)の3日間。テーマは《ともに生きる つながりの参加者になる》です。
コロナの流行に対応するため、昨年に続き、会場(あーすぷらざ)+オンライン(ZOOMウェビナー)、およびオンライン活動紹介(映像掲載)のハイブリッド開催となります。会場は昨年と変わっています。
詳細は公式サイトでご覧ください。