『(経済・社会の)安全な再開には、ワクチンだけでなく「検査・追跡・隔離」が必要』 エイズと社会ウェブ版550

 ワクチンの普及に対する期待が高まる中で、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンドの)のピーター・サンズ事務局長と国連開発計画(UNDP)のアヒム・シュタイナー総裁が2月11日、連名で『(経済・社会の)安全な再開には、ワクチンだけでなく「検査・追跡・隔離」が必要』という重要な見解をグローバルファンドのブログに寄稿しています。

 Safely Reopening Requires Testing, Tracing and Isolation, Not Just Vaccines

 https://www.theglobalfund.org/en/blog/2021-02-11-safely-reopening-requires-testing-tracing-and-isolation-not-just-vaccines/

 重要だけど英文で読むのはちょっときついなあと思っていたら、グローバルファンド日本委員会(FGFJ)のサイトには、電光石火の早わざで日本語仮訳が22日に掲載されました。助かります。

 http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2021-02-11_safely-reopening

まずはその日本語仮訳ページの紹介文から。

 《ワクチンが低・中所得国で利用可能になるには、物流、資金など、様々な課題をクリアしなければならず、時間がかかります。現在直面している課題をクリアし、ワクチンや治療薬が開発され世界中で公平に供給されるようになるまで、新型コロナウイルスを抑えるためには、依然としてファンダメンタルズ(基礎的な対策)― 検査を広め、接触者を追跡し、陽性者を隔離すること ―が重要であると説いています》

 まったくもってその通りですね。寄稿文ではそのことを最初の1行で『いかに効果が高くても、ワクチンだけでは不十分』と直截に書いています。

 『必要としているすべての人にワクチン、治療、検査キットを届けるには時間と費用がかかるのが現実です。かつてHIV陽性者の治療に効果がある抗レトロウイルス薬が導入されたとき、最も貧しいコミュニティにまで薬が到達するのに7年かかりました。これは深刻に受け止めるべき教訓です。その間に、何百万人もの命が奪われ、さらに何百万人もが感染し、HIVパンデミックは拡大を続けたのです』

 その教訓を踏まえ、今回は《「Access to COVID-19 Tools Accelerator」(ACTアクセラレーター)》のような仕組みが作られているのですが、うまく仕組みが機能したとしても時間はかかります。

『こうした障害を乗り越え、ワクチンと治療薬が開発され世界中で公平に供給されるようになるまで、このウイルスを抑えるためには、依然としてファンダメンタルズ(基礎的な対策)が重要なのです』

 この点もおおむね同意。

『公式はシンプルです。検査を広め、接触者を追跡し、陽性者を隔離すること、これに尽きるのです』『検査・追跡・隔離―今後、より多くの治療法が利用できるようになれば最終的には検査・追跡・治療―がウイルスを抑制する効率的で持続可能方法です』

 ここで注目しておかなければならないのは、ロックダウンとの比較で『検査・追跡・隔離』は社会的な支持と信頼がなければ成立しないと指摘していることです。

『特筆すべきは、この手順が最終的な緊急措置としてのロックダウンとは対照的であることでしょう。ロックダウンは、一般社会の支持や信頼を損ないかねません。しかし、ワクチン接種やマスクの着用など他の有効な公衆衛生措置の実践にはこうした支持や信頼が不可欠なのです』

 ほとんど丸写しの紹介ですいません。何が言いたいのかというと、途上国の現場を知り尽くしたグローバルファンドとUNDPの見解に異論をはさむ余地はありません。ただし、日本の現状に引き移したときには、一点だけ疑問が残ります。

 漠然とした感覚なのかもしれませんが、検査や治療の機会を提供できるようにすることと、検査や治療を強制することとの微妙な境目が見えません。この境目が恐怖や不安の社会的感情が強くなると、やすやすと乗り越えられてしまうかもしれない。そのことへの一抹の危惧と言いますか・・・。

 善意でやっていると思っているうちに困惑を招くような結果を招いてしまう。そのような事例は、感染症に対する過去の社会的対応をみたときに、何度かあったのではないでしょうか。

 もちろん、ワクチンは大切です。国内における接種の普及も進めてほしい。

 ただし、『検査・追跡・隔離』を受ける人、あるいはそこに直面しそうで不安を持っている人への想像力を失わないという前提条件のもとでなら、『いかに効果が高くても、ワクチンだけでは不十分なのです』というグローバルファンドとUNDPの二人のトップの指摘は日本の現状にも当てはまるはずです。国内でもぜひ、多くの人に(日本語で)読んでほしいと思います。