時系列的に言うと、日本記者クラブの記者会見報告と順番が前後してしまいましたが、10月末発行のTOP-HAT News 第110号です。巻頭は第31回日本エイズ学会学術集会・総会とTOKYO AIDS WEEKS 2017の案内です。英語表記で恐縮ですが、それぞれのメッセージから気になる言葉を一つずつあげるとすれば、エイズ学会は「Living Together」、東京エイズウィークスは「Silence=Death」でしょうか。
新しいメッセージというわけではありません。2017年いま、なぜその旧知のメッセージが必要なのか。「生きる」か「死ぬ」か。異なるアプローチから同じことを伝えようとしている。そんなとらえ方もできます。
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第110号(2017年10月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 「一緒に生きている」というメッセージ
2 最終日(11月26日)には市民公開講座
3 年間75ドルで最新の抗レトロウイルス治療を提供
4 世界全体で新規HIV感染を75%減らすためのロードマップ
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1 はじめに 「一緒に生きている」というメッセージ
『未来へつなぐケアと予防 Living Together』をテーマにした第31回日本エイズ学会学術集会・総会が11月24日(金)から26日(日)まで、東京都中野区の中野サンプラザを主会場に開催されます。今年の学会長は特定非営利活動法人ぷれいす東京代表の生島嗣さんです。
もともとは医学系の学会である日本エイズ学会の会長を、医師でも研究者でもないNPOの代表が務めるのは、2006年の第20回学会以来、2回目となります。11年前の会長も、ぷれいす東京の当時の代表だった池上千寿子さんです。
HIV/エイズの流行という世界史的な現象には、保健や医療の分野だけでなく、広く社会的に対応する必要があることは、国際社会の共通認識となっています。生島さんの登板もまた、歴史の必然というべきでしょう。公式サイトはこちらです。
「会長挨拶」の中で、生島さんはこう書いています。
《「HIV陽性の人も、陰性の人も、どちらかわからない人も、一緒に生きている」というリアリティを共有するためのキャンペーン「Living Together」を、私たちが始めたのは2002年のことです。これは、エイズ対策において、HIV陽性者へのケアとHIVの感染予防は車の両輪として必要であり、当事者の参加が重要であることを伝えるメッセージでもありました》
15年前に生まれた「Living Together(一緒に生きている)」というメッセージはいまなお、日本のHIV/エイズ対策の重要なキーワードであり続けています。もう少し、生島会長の言葉を紹介しましょう。
《本会議では、HIV/エイズを通じて映し出される社会の課題、就労問題、介護や精神保健領域へのケアの連続性といった課題を解決するために、医療従事者、研究者、行政、NGO/NPO関係者、HIV陽性者などが、立場を超えて語り合いたいと願っています。「未来へつなぐケアと予防 Living Together」というテーマには、大きな転換期を迎えつつある今だからこそ、あらためて考え、共有しておくべき核心が含まれているものと信じます》
3日間のプログラムもすでに公式サイトに掲載されています。海外からは国連合同エイズ計画(UNAIDS)のルイス・ロウレス事務局次長、チュラロンコン大学(タイ)のキアット・ラクルンタム教授、タイ赤十字エイズ研究センターのニッタヤ・ファヌファク予防医学部長、デュースブルク・エッセン大学HIV研究所(ドイツ)のヘンドリック・ストレーク博士が参加し、プレナリー(全体会議)の講演および特別教育講演を行う予定です。
また、24日午後のプレナリーでは、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部の松本俊彦部長が『薬物依存症は孤立の病 ― 安心して「やめられない」といえる社会を目指して』をテーマに講演します。
さらに今年は学会会場から徒歩圏内にある中野区産業振興センター(東京都中野区2-13-14)、なかのZEROホール(東京都中野区2-9-7)の2カ所でTOKYO AIDS WEEKS 2017の様々なイベントが同時開催されます。エイズで亡くなったニューヨークの画家、キース・ヘリングの作品「Silence=Death」をメインビジュアルにして、HIV/AIDSをテーマとした講演・トークショー・映画・展示などの準備がいま、着々と進められています。
おっと、会期は24日からとなっていますが、23日夜にも、なかのZEROホールで映画上映の試写会があります。スケジュールや会場へのアクセスはTOKYO AIDS WEEKS 2017公式サイトをご覧ください。エイズ学会には参加費が必要ですが、こちらは無料です。
2 最終日(11月26日)には市民公開講座
第31回日本エイズ学会学術集会・総会最終日の11月26日(日)には、学会サブ会場のコングレスクエア中野B1階ホールで午後3時半から、市民公開講座『日本のHIV/エイズの現状は今~エイズ予防指針の改定と日本』が開かれます。
昨年末から今年春にかけて、ほぼ5年に一度のエイズ予防指針改定に向けた議論に中心的に加わった厚労省エイズ動向委員会の岩本愛吉委員長、および「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究班」の横幕能行主任研究者のお二人が講演を行います。
市民公開講座は学会登録者以外の方も無料で参加できます。詳細は第31回学会公式サイトのプログラムをご覧ください。
3 年間75ドルで最新の抗レトロウイルス治療を提供
最新のインテグラーゼ阻害剤であるドルテグラビルを含めた抗レトロウイルス治療(ART)の合剤が低・中所得国で安価に使用できるようにする国際合意が成立し、国連総会開会中の9月21日、南アフリカ、ケニア両国政府や国連機関などがその内容をニューヨークで発表しました。来年から90カ国で実施されるようになるということで、国連合同エイズ計画(UNADS)など合意関係機関は抗レトロウイルス治療の普及が大きく進むと期待しています。合意発表のプレスリリースの日本語仮訳がHATプロジェクトのブログに掲載されています。
http://asajp.at.webry.info/201709/article_7.html
4 世界全体で新規HIV感染を75%減らすためのロードマップ
国際社会の当面の共通目標となっている90-90-90ターゲットの2020年達成を目指し、国連合同エイズ計画(UNAIDS)と国連人口基金(UNFPA)が10月10日、『HIV予防2020ロードマップ』を発表しました。こちらもプレスリリースの日本語仮訳がHATプロジェクトのブログに掲載されています。
http://asajp.at.webry.info/201710/article_2.html
90-90-90ターゲットは『HIVに感染している人の90%が自らの感染を知り、そのうちの90%は治療を開始し、さらに治療を受けている人の90%が体内のウイルス量を低く抑えられる状態』で、UNAIDSの試算では2020年にこのターゲットが実現できれば、年間の新規HIV感染件数は現在の4分の1の50万人以下になるということです。
ただし、現在のペースではその実現は到底望めないことから、ロードマップを示し、検査の普及などに力を入れるよう各国に呼び掛けています。
ロードマップは国連機関や国連加盟国、市民社会組織、国際組織などが参加する『世界HIV予防連合』の創設会合で発表されました。