エイズ学会・東京エイズウィークス記者会見報告(というか言い訳) エイズと社会ウェブ版302

 第31回日本エイズ学会学術集会・総会の生島嗣会長(特定非営利活動法人ぷれいす東京代表)とTOKYO AIDS WEEKS2017(東京エイズウィークス)の事務局を担当する特定非営利活動法人日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス、高久陽介代表が111日(水)午後、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見を行いました。

 今年のエイズ学会は1124日(金)から3日間、東京都中野区の中野サンプラザを主会場に開催されます。また、TOKYO AIDS WEEKS2017はその前日の23日(木・祝)の前夜祭を含め、直近会場で同時開催される世界エイズデー関連の集中イベントです。

 会見ではまず、生島さんからエイズ学会の見どころ、ならびに国連90-90-90ターゲットおよび曝露前予防内服(PrEP)について報告をしていただきました。今年の学会のテーマは『未来へつなぐケアと予防 Living Together』です。

 高久さんからも東京エイズウィークスのプログラムに加え、PrEPおよびそのベースとなる『予防としての治療(T as P)』について説明していただきました。

 会見の様子については日本記者クラブの公式サイトに会見リポートが掲載され、You tubeの動画にもアクセスできるようになっているので、そちらをご覧ください。 

www.jnpc.or.jp

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(写真左から高久陽介さん、生島嗣さん。日本記者クラブ公式サイトから)

 実は今回の会見については、司会を仰せつかった私の不手際により、予防に偏した内容になってしまったのではないかという悔いが個人的には少し残っています。『今年のエイズ学会の見どころ』みたいなタイトルでは魅力に欠けると思い、私の一存で会見のタイトルを『エイズ対策最前線  PrEPって何?』に決めてしまったという経緯があるからです。

タイトルにはこだわることなくエイズ学会と東京エイズウィークスの注目ポイントを心おきなく話していただきたいとは思っていたのですが、わが国のHIV/エイズ分野でもとりわけ責任感の強いお二人なので、きちんとタイトルに応えられる資料を準備され、それなりの時間も割いていただきました。

 もちろん、PrEPも大事なテーマの一つだし、治療の進歩を予防に生かしていく視点は極めて重要です。しかし、予防がすべてというわけではありません。というか、予防を予防だけの視点で語ることはできません。

You tubeの動画を見ていただければ、お二人のお話が、予防だけの視点ではないことは十分にお分かりいただけると思うので、その点ではうまくお話をつないでいただき、かろうじて救われた印象です。

したがって、馬の耳に念仏・・・じゃなかった、釈迦に説法ではありますが、ここで少しだけ余分な言い訳を付け加えておきましょう。

 予防は支援がなければ成り立たないし、支援の基盤は予防がうまく機能しなければ崩れてしまいます。したがって治療の進歩もケアの枠組みも、予防と支援の両立が可能になるよう工夫して対策に反映させていく必要があります。カタカナを使えば、それがイノベーションでしょうか。

 ということで、冷や汗をぬぐいつつではありましたが、会見はつつがなく終了いたしました。この際、会見の冒頭に戻って生島さんから興味深い報告があったことも付け加えておきましょう。

 今回のエイズ学会では、ゲイであることを公表している石坂わたる区議の仲介で、中野区と区議会が開催を応援することになり、区役所の都市観光・地域活性化担当がその窓口として保健所と連携しつつ取り組んでいるそうです。

その結果、学会の開催期間中は区役所庁舎にレッドリボンの大きなバナーが掲げられ、商店街にもレッドリボンが飾られることになりました。楽しみですね。

HIV/エイズの流行は保健医療分野に限定された課題ではなく、広く社会的な対応が必要だということは以前から繰り返し指摘されてきました。もともとは医学者中心の組織であったエイズ学会が進化を遂げ、今回の生島さんのように、HIV陽性者の支援や予防啓発にあたるNPOの代表が学術集会の会長を務めるようになっているのもこのためです。他の医学関連の学会には見られない大きな特徴というべきでしょう。

同じように、行政の都市観光・地域活性化部門が学会開催を応援するということも、プレーヤーの多様化という意味で注目すべき動きではないかと思います。

わが国のHIV/エイズの流行は全体としてみれば、いまなお何とか低流行期の状態に踏みとどまっています。ただし、年間の感染報告はこの10年、1500件前後で推移し、男性の同性間の性感染がその大半を占めています。横ばいの状態ではあるものの、そこから減少へと移行する動きが確認されているわけではありません。

そうした中で、感染予防や治療、ケア、支援の対策は、MSMをはじめ、感染の高いリスクにさらされていると考えられる個別施策層、国際的にいえばキーポピュレーションへの支援に焦点を当てて進めていく必要があることは、これまた繰り返し指摘されてきました。

一方で、広く社会全体に向けて「エイズは他人ごとではありません」といったメッセージが使われることもあります。

ただし、それが「あなたも、いつ感染するか分かりませんよ」という脅しのメッセージとして伝えられると、現実との間に齟齬が生じ、時間の経過とともに関心は薄れていくことになる。そうしたこともこの30年、何度も経験してきました。

社会の少数の人たちが主に直面している課題を「他人ごとではなく」とらえるとはどういうことなのか。一般と個別との関係から、この点を考えてみましょう。

それは結局のところ、個別の課題と思われているものに対応することが、社会の中で多数を占めると自認している人たち、あるいは漠然と多数者性を疑わない人たちにとっても、生きやすい社会的環境を整えることになるということではないでしょうか。

あるいは感染症に関して言えば、少数の人たちが先駆的に抱えている課題への対応こそが、医療体制の面でも、情報への対応や行動の指針という面でも、未知の感染症の流行という危機に対する社会的な基盤を、費用対効果の高いかたちで(つまり、現実のニーズに即したかたちをとりつつ)整えているのではないか。

 天網恢恢というか、Walk don't runといいますか。そのようにとらえれば、エイズ学会の学術集会と東京エイズウィークスという社会、文化、アート分野のイベントとを都市観光や地域活性化の視点からつなぐ回路も見えてきそうです。

あのピンクリボンはずいぶん色が濃いねぇ。区役所の前や商店街で、もしもそんな感想を漏らす方に行き会うことがあったら、あのレッドリボンはエイズで亡くなった人を追悼するためのぎりぎりの表現の手段として、1990年代の初めにニューヨークのアーティストたちが着けはじめ、いまは世界のHIV/エイズ対策全体のシンボルになっているんですよと、短く説明してあげてください。