世界エイズデーのような知名度には欠けますが、5月18日はHIVワクチン啓発デーでした。もともとは、1997年に当時の米国大統領だったビル・クリントン氏が、メリーランド州ボルチモアのモーガン州立大学で卒業式に出席し「エイズの脅威を取り除くには有効なHIVワクチンが不可欠である」と演説を行った日にちなむ記念日です。今年で21回目ということになりますね。米国だけでなく、国連合同エイズ計画(UNAIDS)もこの日に合わせて声明を出すなど国際的にも広がっています。
やや遅くなりましたがTOP-HAT News第118号(2018年6月)はこの記念日を巻頭で紹介しました。米国立衛生研究所(NIH)の公式サイトで声明が発表され、抗レトロウイルス治療による高い延命効果や性感染予防効果などを重視しつつも、現在の治療戦略だけではHIV/エイズのパンデミックを終結させることはできないと厳しい認識を示しています。このあたりのことはしっかりと踏まえておく必要がありそうです。
日本でもHIVワクチンの開発には長い蓄積があります。「継続的なワクチン研究は大切だね」と機会があれば研究者に声をかけ、励ます。ワクチン研究の中身を説明されても付いていけず、「う~ん、難しいなあ」とうなるばかりのおじさんにも、その程度のことはできそうです。研究者の皆さん、がんばってください。
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第118号(2018年6月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに HIVワクチンの重要性
2 7月7日開幕 第27回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~
3 「POSITIVE TALK 2018」のHIV陽性者スピーカーを募集
4 『エイズ対策を国連改革とグローバルヘルスのテコに』 国連事務総長が報告書
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1 はじめに HIVワクチンの重要性
少し前の話になりますが、5月18日のHIVワクチン啓発デーにあわせ、米国立衛生研究所(NIH)が声明を発表しています。その日本語仮訳をエイズ&ソサエティ研究会議のHATプロジェクトのブログに掲載したのでご覧ください。
http://asajp.at.webry.info/201805/article_4.html
この声明はNIHの研究機関のひとつである国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長、およびNIHエイズ研究室のモーリーン・M・グッデナウ室長の連名で発表されています。抗レトロウイルス治療による高い延命効果や性感染予防効果などを強調しつつも、現在の治療戦略だけではHIV/エイズのパンデミックを終結させることはできないとして、次のように指摘しています。
『数学モデルによると、現時点で利用可能であり効果も高い予防と治療のツールがさらに普及していったとしても、HIV/エイズのパンデミックを終結に導けるほどには新規感染が減少しないことが示唆されています。本当にHIVパンデミックの終結を実現するには、安全で効果的なワクチンを開発しなければならないのです』
まあ、ワクチン啓発デーなので、ワクチンの必要性を強調するのは当然と言えば当然なのですが、そうした事情を差し引いたとしてもこの指摘は重要です。
政策目標としては抗レトロウイルス治療の普及を進める90-90-90ターゲットの重要性を認めるとしても、それで予定調和的に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行」を終結に導けると考える研究者は、仮にいたとしても、いまはもう少数派ではないでしょうか。
もちろん、治療の普及がHIV感染の予防にもたらす影響の重要性は否定できません。ただし、それだけに頼ることもまたできない。予防はもう少し幅広く複合的に考える必要があるというのが、現在の国際社会の、そして日本国内でも、考え方の趨勢になりつつあります。
実は、同じことはワクチンについても言えます。ワクチンがあればそれで解決という話にはなりませんが、ワクチン開発はセーファー(より安全な)セックスや薬物使用に対するハームリダクション(被害軽減策)、そして抗レトロウイルス治療の普及などとともに不可欠な要素のひとつです。
これがあれば他の方法はいらないというものではなく、いままでの方法ではだめだからこっちに変えようというものでもありません。使えるツールを組み合わせて、それぞれの国や地域に最適な予防対策のパッケージを生み出していく必要があるのです。
有効なワクチン開発への道のりは依然、険しいものではありますが、声明は地道な研究が着実に積み重ねられていることも伝えています。
南部アフリカ地域などで臨床試験が進められているワクチン候補は、予防効果が50%程度にとどまるものなので、素人考えでは「なんだ、ワクチンを打っても半数は感染するのか」と思ってしまいますが、現在の感染を半分防げるということは予防対策の観点からすると必ずしも小さな効果とは言い切れないようです。また、50%の効果を60%、70%と向上させていく道筋が開けていく可能性もあります。
HIVワクチン啓発デーには国連合同エイズ計画(UNAIDS)もワクチン研究の拡大を求める声明を発表し、次のように述べています。
『世界には現在3670万人のHIV陽性者が暮らしています。そのすべての人に生涯にわたって費用のかかる治療が必要とされているのですが、長期にわたってそれを支え続けることは難しいかもしれません。本当にエイズを終結させるには、効果的なHIVワクチンの開発と治癒を実現しなければなりません』
こちらもHATプロジェクトに日本語仮訳が掲載されているので、あわせてご覧ください。
http://asajp.at.webry.info/201806/article_1.html
また、声明は出ていませんが、日本でも国立感染症研究所を中心にワクチン開発に向けた研究は続いています。
集団としての予防効果と個人としてワクチンを接種することへの期待値の乖離を克服しつつ、必要な手順を踏まえて研究を着実に進めていくことはなかなか大変です。「継続的なワクチン研究は大切だね」と機会があれば研究者に声をかける。持続的な研究の確保には、その程度の精神的な支援が社会の側にも必要でしょう。啓発とはそうした認識を広げていくことでもあります。
2 7月7日開幕 第27回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~
セクシュアル・マイノリティをテーマにした世界各国の最新映画13プログラム21作品(うち日本初上映15作品)を集めた第27回レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~ が7月7日から東京都内2会場で開かれます。
『今年の上映プログラムの特徴は、複合的なテーマの作品が多いことです。家族との関係、伝統文化との軋轢、女性たちの葛藤など、現在の社会の中で生きるセクシュアル・マイノリティの姿が反映された作品は、現在の世相を反映していると言えます』(公式サイトから)
開催日程、プログラムなどは映画祭の公式サイトでご覧ください。
http://rainbowreeltokyo.com/2018/
3 「POSITIVE TALK 2018」のHIV陽性者スピーカーを募集
今年12月の第32回日本エイズ学会学術集会・総会でHIV陽性者によるスピーチプログラム『POSITIVE TALK』が昨年に続いて開催されることになりました。第32回学会公式サイトでスピーカーを募集しています。
https://www.c-linkage.co.jp/aids32/positive.html
HIV陽性者が、以下のいずれか1つを含む自らの経験や思いを語るプログラムで、発表時間は1人7~10分です。
・HIV検査
・治療(服薬、入院、HIVに関連する疾患など)
・医療従事者に知ってほしいこと
・恋愛やセックス、カミングアウト、結婚や挙児希望・子育て
・こころの健康
・仕事や家庭など日常生活とHIVの関わり
募集人員は5人程度。公募期間は6月1日(金)~8月20日(月)です。
第32回日本エイズ学会学術集会・総会は12月2日(日)~4日(火)に大阪国際会議場および大阪市中央公会堂で開かれます。
4 『エイズ対策を国連改革とグローバルヘルスのテコに』 国連事務総長が報告書
世界のHIV/エイズ対策の進捗状況をまとめた国連事務総長の年次報告書『エイズ対策を国連改革とグローバルヘルスのテコに』が6月13日、国連総会に提出されました。
国連は2030年のエイズ流行終結を目指し、2016年6月に『エイズ終結に関する国連政治宣言』を採択しています。
今年は宣言採択の2016年と当面の対応の目標年である2020年の中間年にあたり、検証会合で報告を行ったアントニオ・グテレス国連事務総長は「2030年のエイズ流行終結に向けて世界は大きな成果をあげてきました。しかし、その成果はまだ不均衡なものであり、もろくもあります。この節目の時にあたり、エイズから解放された世界の実現に向け、お互いの約束を果たす意思をもう一度しっかりと固めなければなりません」と語りました。
国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトには、報告書および会合の様子を含めたプレス声明が掲載されています。プレス声明の日本語仮訳はエイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログで見ることができます。
http://asajp.at.webry.info/201806/article_2.html