言葉が持つ多面性というか、可変性といいますか、文脈や使い手によって含意が大きく変わってしまうい、そしてそれに当惑しながらも現実が言葉に追随していってしまうのではないか。キャンペーンにはそうした危うさがつきまとうことがしばしばあります。最近では よく似た外来語が政治の文脈で広がり、世界エイズデーの啓発キャンペーン担当者の一部からは、困るんだよねえ~といった小さなつぶやきも聞こえてきそうです。
12月1日の世界エイズデーを中心にした今年の国内啓発キャンペーンのテーマは、7月に決定しています。『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』です。その「UPDATE!」が曲解されて伝わってしまうかもしれないという危惧ですね。まあ、そんなことはないと思うけど・・・。
TOP-HAT News第109号では、今年のテーマがどういう経緯で策定に至ったのかを報告しています。
《ひとことで言えば、『治療の進歩を踏まえて「エイズのイメージ」を更新し、新たな予防や支援の枠組みを構築していこうというメッセージです。
予防、支援、そして治療の普及を妨げる最大の障壁というべき社会的な偏見や差別の克服、誤解の解消はもちろん、最重要の「アップデート」対象です。治療の進歩を予防や支援に生かすこと。そして、効果的な予防や支援を妨げる社会的な障壁を克服すること。どちらも大切です》
エイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログにも掲載されている全文を以下に再掲します。
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第109号(2017年 9月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』
2 確定値は1448件 2016年の国内新規HIV感染者・エイズ患者報告
3 15年間で2200万人の生命を救う グローバルファンド2017年成果報告書
4 フォーラム『90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題』
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1 はじめに 『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』
12月1日の世界エイズデーを中心にした国内啓発キャンペーンのテーマは毎年夏に発表されます。厚労省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱して、「今年はこういうことを伝えたい」というメッセージを端的に短い言葉でまとめたものです。
もちろん、全国各地のキャンペーンは、それぞれの自治体やHIV/エイズ対策に取り組む人たちが工夫をこらして企画し、メッセージを発信しています。押し付けでなく、その地域の事情を踏まえ、自らの判断で、いま何が必要か、何を訴えたいかを考え、実行していく。この姿勢は大切です。
でも同時に、できることなら全国で共通するメッセージを伝えたいという思いも現場にはあります。多様性と包括性、HIV/エイズ対策にはもちろん、その両方が必要です。
テーマを夏の間に決定しているのはそのためです。各自治体やNPOが世界エイズデーに向けて作成するポスターやチラシに共通するメッセージを取り入れるためには準備期間も必要なので、少なくとも7月中にはテーマが届いていなければなりません。2017年のテーマは7月11日に決定しました。
『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』
毎年のテーマは、NPOや自治体、民間企業などでHIV/エイズ分野の予防啓発や支援活動を行っている人たちの意見を集約したうえで、エイズ予防財団が候補案を策定し、それをもとに厚労省が決定する方式をとっています。API-Net(エイズ予防情報ネット)にそのプロセスが紹介されているので、そちらも参考にしてください。
http://api-net.jfap.or.jp/lot/2017camp_theme.html
4~6月の間にネットで意見を募集し、誰でも参加できるフォーラムを開催し、啓発の現場に詳しい人たちによる検討委員会でそれらの意見を踏まえて候補案をまとめるというスケジュールです。どうして今年は『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』なのか。その趣旨については、HIV/エイズ総合情報サイトCommunity Action on AIDS(コミュニティアクション)のキャンペーンテーマのページに説明があります。
ひとことで言えば 『治療の進歩を踏まえて「エイズのイメージ」を更新し、新たな予防や支援の枠組みを構築していこう』というメッセージです。次のようにも書かれています。
『予防、支援、そして治療の普及を妨げる最大の障壁というべき社会的な偏見や差別の克服、誤解の解消はもちろん、最重要の「アップデート」対象です』
治療の進歩を予防や支援に生かすこと。そして、効果的な予防や支援を妨げる社会的な障壁を克服すること。どちらも大切です。もう少し引用を続けましょう。
『HIV陽性者は感染の早期把握、および治療の早期開始・継続により、エイズの発症を防いで、感染していない人と同じくらい長く、社会生活を送ることが期待できるようになっています。治療を継続して体内のウイルス量が大きく減少すれば、HIVに感染している人から他の人への感染リスクをゼロに近いレベルまで下げられることも確認されています』
『一方で、現状はそうした変化が正確な情報として社会に広く伝わっているとは言えず、いまなお以前のままのHIV/エイズのイメージを持つ人も少なくありません。そのことが感染を心配する人たちを検査や治療から遠ざけ、効果的なHIV/エイズ対策の遂行を困難にする要因のひとつにもなっています』
情報をUPDATE(更新)して、エイズのイメージをより現実に近づけていくこと、それが今年、最も伝えたいメッセージです。皆さんも大いに活用してください。
2 確定値は1448件 2016年の国内新規HIV感染者・エイズ患者報告
厚労省のエイズ動向委員会が8月30日、昨年(2016年)1年間の新規HIV感染者・患者報告数の確定値を明らかにしました。
http://api-net.jfap.or.jp/status/2016/16nenpo/16nenpo_menu.html
HIV感染者報告 1011件(過去8位)
エイズ患者報告 437件(過去6位)
計 1448件(過去9位)
年間の報告数は3月末に速報値が発表されています。そのときと比べるとHIV感染者報告が8件増え、エイズ患者報告は同数でした。動向委員会は「新規HIV感染者報告数及び新規AIDS患者報告数ともに横這い傾向である」とする委員長コメントを発表しています。横ばい傾向は過去10年続いています。
確定値の感染経路別では、同性間の性感染がHIV感染者報告で約73%、エイズ患者報告で約55%と多数を占めています。この傾向も変わっていません。
3 15年間で2200万人の生命を救う グローバルファンド2017年成果報告書
エイズ、結核、マラリアの三大感染症対策に取り組むグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)が2017年の成果報告書を発表し、設立から2016年までに2200万人の生命を救うことができたとする推計を明らかにしました。
グローバルファンドは、中低所得国の三大感染症対策のために資金を提供する機関として2002年に設立。G7を初めとする各国政府や民間財団、企業など、国際社会から大規模な資金を調達し、中低所得国が自ら行う三大感染症の予防、治療、感染者支援、保健システム強化に資金を提供しています。日本は現在グローバルファンドの第5位の資金拠出国で、2002年からの累計で約 28億3862万ドルを拠出しています。
グローバルファンド日本委員会のサイトで、報告書エグゼクティブサマリー(要旨)の日本語版を読むことができます。
http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2017-09-14_gf_results
4 フォーラム『90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題』
特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議(JASA)の第126回フォーラムが10月10日(火)午後7時~8時45分、ねぎし内科診療所(東京都新宿区四谷三丁目9番地 光明堂ビル5階)で開かれます。
テーマは『90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題』。厚労省の『男性同性間のHIV 感染予防対策とその介入効果の評価に関する研究』の分担研究員として『HIV郵送検査の在り方とその有効活用の研究』に取り組んだ東京保健医療大学の木村哲学長、および研究協力者として参加した日本HIV陽性者ネットワークJaNP+の高久陽介代表の2人が、わが国におけるHIV郵送検査の普及に向けた展望と課題について報告します。詳細はこちらでご覧ください。
http://www.ca-aids.jp/event/171010_90-90-90.html