ぷれいす東京の生島さんから『東京都がおこなっているアジアの共同調査の会合で発表された、ロシアのトムスクからの報告』という資料を紹介していただきました。
たぶん、この会議でしょうね。うかつにも、見過ごしていましたが、東京都福祉保健局、「グッジョブ!」だと思います。
【会議の概要】
『平成28年12月20日から21日の日程で、東京において第8回共同調査研究会議が開催されました。参加都市はバンコク、ハノイ、マニラ、ソウル、トムスク、台北で、平成27年度から各都市で取り組んでいるHIV/エイズに関する共同調査研究について報告及び意見交換を行いました。また、近年感染拡大が続く梅毒についても各都市の現状の対策を共有しました』
トムスク報告については、以下のurlで発表スライドのpdf版を観ることができます。
州政府担当者の報告なので、その点は割り引いて考える必要がありますが、非常に興味深い内容だと思います。中でも個人的に注目したのは3枚目のスライドの『HIV陽性者数のハイリスク者層の割合が減少傾向』という図です。
「ハイリスク者層」については、その前のスライドで、以下のように説明されています。
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HIV感染リスクが高くなる行動をとるため、感染リスクが高まる層
• 薬物使用者(以下PID)
• セックスワーカー(以下SW)
• 男性と性交渉する男性(以下MSM)
これらの人々は周りが関わることが難しく、閉鎖的な存在とされている。
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「閉鎖的な存在」はあんまりだと思います。ただし、閉鎖的なのは社会か、集団か、どっちだ・・・といった議論は、私には荷が重いので、ここでは回避しますが、「ハイリスク者層」はつまり、最近の用語でいえば「キーポピュレーション」とほぼ重なる層と考えてよさそうです。
前置きが長くなりました。3枚目のスライドによると、『HIV陽性者数のハイリスク者層の割合』は、2005年には82.7%だったのが、2016年には59.0%となっています。
これはどういうことでしょうか。
2016年段階でトムスクのHIV陽性者数全体の6割近くがキーポピュレーションで占められているということは、依然としてきわめて高い割合ではありますが、それ以外の人たちの感染も、この10年あまりでかなり増えているということになります。
確かに感染がキーポピュレーションの枠を超えて社会全体に広がり始め、新たな流行の段階に入ったので、政権も危機感を持つに至った・・・という面はあるかもしれません。
と、同時に2013年の同性愛宣伝禁止法制定に象徴されるロシア国内の状況を遠く極東の島国から推察すれば、こうした(つまり同性愛宣伝禁止法があるような)社会の中では、キーポピュレーションであるMSM層は、検査を受けることも避けたくなるだろうし、仮に感染が判明したとしても、自らの性的指向が明らかになるのを強く恐れ、自分は異性間の性行為で感染したと主張するのではないでしょうか。
その場合、推計上の割合よりも実際のMSM層の感染の割合は、もう少し(場合によっては、もっとかなり)高いのかもしれません。
日本のHIV感染動向も頭の片隅に置きながら、そんなことも小さな図から考えました。