戦後の経験生かし支援を 結核に関する記者ブリーフィング3

 国内の結核対策で現在、大きな課題となっているのは、日本に滞在する外国人の患者(外国生まれの患者)の割合が増えていることです。記者ブリーフィングでは、横浜の港町診療所で外国人の診療を長く続けている沢田貴志所長が「日本における外国生まれの結核患者の動向と課題」について報告しました。

 結核予防会結核研究所疫学情報センターの集計によると、国内の人口10万人あたりの結核罹患率はいまなお中蔓延国の範疇にあるとはいえ、減少を続けています。ところが、その中で「外国生まれの患者」の罹患率は増えているのです。

 これは国際化が進み、結核の流行が深刻な国からも日本を訪れる人が増えているという事情が一つあります。ただし、その背景には、結核に感染している人が日本に来ているということだけでなく、日本に来てから結核に感染しやすい環境のもとでの生活を余儀なくされ、感染している人もいます。

 戦後、国内の結核罹患率が劇的な減少を果たした要因について、沢田所長は「結核患者が治療に専念できる環境を作ってきた」と説明しています。結核医療の公費負担や国民皆保険制度の成果ともいえるでしょう。

 ただし、いま国内に滞在する外国人については「治療に専念できない患者」が数多くいるという現実があります。

 しかも、新規に登録される結核患者の中で「外国生まれの人」が占める割合は、2010年ごろまで10年ほどは増加が止まり、頭打ち状態だったのですが、2011年からは急速な増加に転じています。沢田さんはその2011年について「この時期から外国生まれの結核患者の出身国がかわってきた」とも述べています。それまではフィリピン、中国、韓国の出身者が多数を占めていたのに対し、2011年以降はベトナム、ネパール、ミャンマーインドネシアの出身者が増加しています。

 また、在留資格別でみると、以前は超過滞在者が多かったのですが、現在は特定活動・技能実習、および資格外活動(留学生等)の人が多数を占めているということです。

 以前なら超過滞在者となる人たちが日本で働けるようになっている(つまり国外から呼べるようにしている)ことがその背景にあり、国内にそうしたかたちでの働き手を必要とする事情があるということでもあります。沢田さんの報告を私が理解できた範囲で説明するとそういうことでしょうね。

つまり、国内のニーズがあって働き手として日本に来てもらっているのに、その人たちのサポートが十分できていない。そのことが結核罹患率の増加を促している。これはまずいんじゃないの。

危機感、責任感をもって支援を充実させていく必要があると沢田さんは指摘します。「結核患者が治療に専念できる環境を作ってきた」ことが戦後の日本における結核対策の目覚ましい成果につながったのだとすれば、沢田さんの指摘には十分、説得力があります。また、そのための知識も経験も日本にはあるはずです。

 ブリーフィングには、日本で超多剤耐性結核を発病し、複十字病院に入院して困難な闘病生活を経験した中国人起業家の葛鋒(かつほう)さんも出席しました。葛鋒さんは自らの経験を語り、複十字病院の医師、看護師さんを含め、たくさんの人に支えられてきたことに感謝の言葉を述べています。

国内の「外国生まれの結核患者への支援」がうまく機能すれば、あるいは結核に限らずHIV/エイズや他の健康課題についても同様に言えることですが、その時こそ日本の蓄積が世界に貢献できる資源となるのではないか。ニューヨークの国連本部などというはるか彼方で開催されるハイレベル会合も意外に身近な話題だぞと、ローレベルなロートル記者にも改めて感じられるブリーフィングでした。

 

 

ボランティア説明会を追加開催 ぷれいす東京

 特定非営利活動法人ぷれいす東京が95日(水)、新人ボランティア説明会を追加開催します。

 開催時間: 13:0015:00(開場12:45

  19:3021:30(開場19:15

場所: ぷれいす東京事務所(新宿区高田馬場4-11-5 三幸ハイツ403

 

f:id:miyatak:20180824171551j:plain 

説明会は91日(土)に実施されましたが、日程の都合で参加できなかった人のために追加開催されます。

 『活動に参加する/しないは、説明会終了後に決めていただいてかまいません(ただし、ボランティア・スタッフとして活動を希望される方は、その後に行われる3日間の基礎研修を受講し、修了後必ず1年間は活動に参加できる方とさせていただきます)。研修では、多彩な講師陣の講義や参加型ワークショップを予定しています』

 (ぷれいす東京公式サイトから)

申込方法など詳細は、ぷれいす東京公式サイトでご覧ください。

ptokyo.org

 

 

イメージ→知識→行動のUPDATEを TOP-HAT News第120号(2018年8月) エイズと社会ウェブ版349

 まだ残暑が続きますが、全国の自治体では121日の世界エイズデーに向けた準備が本格化する時期でもあります。その準備に間に合うよう厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する2018世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマは7月の下旬に発表されました。

 『UPDATE

 エイズ治療のこと HIV検査のこと』

 自治体やHIV/エイズ分野のNGO/NPOが制作するポスターやチラシ、イベントの告知などにも活用してもらおうと、テーマの策定手続きは今年4月から大急ぎで進められました。TOP-HAT News120号(20188月)では巻頭に『イメージ→知識→行動のUPDATEを』というタイトルで、策定のプロセスやテーマの趣旨について報告しています。7月の第22回国際エイズ会議についてもいくつかの話題を紹介しています。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第120号(20188月)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1  はじめに イメージ→知識→行動のUPDATE

 

2 『U=U説明書』 日本語仮訳版を作成

 

3 メンスター連合を立ち上げ AIDS2018(第22回国際エイズ会議)から1

 

4 『刑法とHIV科学に関する専門家合意声明』を発表 AIDS2018から2 

 

◇◆◇◆◇◆

 

1  はじめに イメージ→知識→行動のUPDATE

 厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する2018世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマが決まりました。

 

  UPDATE

 エイズ治療のこと HIV検査のこと

f:id:miyatak:20180901091720j:plain

 

 世界エイズデー121日ですが、テーマについては7月下旬に決定し、厚労省から各自治体のHIV/エイズ対策担当者に送られる「実施要項」もAPI-Netエイズ情報ネット)で公開されています。

 http://api-net.jfap.or.jp/event/aidsday/2018/H30_AidsDay-yoko.pdf

 

 全国各地のキャンペーンは世界エイズデー当日の121日だけでなく、その前後の期間にも展開されます。かなり幅があるわけですね。東京都の例をあげれば、毎年1116日か~1215日の1か月間が「エイズ予防月間」となります。

キャンペーンの準備には当然、時間がかかります。せっかくなら自治体やNPOが作成するポスターやチラシにもテーマを入れてほしい。そうなるとデザインや印刷に回す時間もあるので、遅くとも7月末までにはテーマを決定し、大急ぎで全国各地のHIV/エイズ担当者に伝える必要があります。

今年のテーマについては、4月にAPI-Netエイズ予防情報ネット)でインターネットを通じた意見募集を開始するとともに、5月に大阪でフォーラムを開催し、6月には東京でエイズ対策関係者による検討委員会を開いて候補案を策定しました。さらに候補案をエイズ予防財団から厚労省に提案し、最終的に厚労省が決定するという手順を踏んでいます。

 そのプロセスの詳細もAPI-Netに掲載されているので参考にしてください。

 http://api-net.jfap.or.jp/lot/2018camp_theme.html

 

なるべく多くの人がテーマ案の策定に関与できるようにしたいという期待を込めたプロセスなのですが、残念ながら現状ではAPI-Netに寄せられる意見も、フォーラムに参加する人も、そう多いわけではありません。HIV/エイズに対する社会的関心の低下はこうしたところにも表れているのでしょうか。その現状をいかにUPDATEしていくかというのはキャンペーン自体の課題でもあります。

今年のテーマの趣旨については、候補案の策定にかかわったHIV/エイズ総合情報サイト『コミュニティアクション』のスタッフが同サイトのキャンペーンテーマのページで報告しています。

http://www.ca-aids.jp/theme/

 

《キャンペーンのテーマは2年連続で『UPDATE!』がキーワードになります。2017年度は『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』でした。ではそのイメージの更新を支えるものは何か。2018年度は「検査と治療」に関する知識や情報の更新に焦点を当てています。分かりやすく情報を伝えることで、実際に検査を受ける人が増え、HIVに感染していることが分かれば、いち早く治療を受けられるようになる。そうした行動の変化を視野に入れたテーマでもあります》

HIVに感染しても治療を受ければ、長く社会生活を続けていくことができます

・治療を開始するにはHIVに感染していることを知る必要があります

HIV検査を受けなければ、感染していることも、していないことも分かりません。

・保健所に行けばHIV検査は無料匿名で受けられます。

医療機関HIV検査を受けることもできます。

HIVの検査や治療、支援に関する相談先は全国にあります。

 

イメージ→知識→行動という流れの中で《関心がない人にも、悩んでいる人にも情報は必要です》と知識・情報のUPDATEを呼びかけています。

 

 

 

2 『U=U説明書』 日本語仮訳版を作成

 『UNDETECATABLE = UNTRANSMITTABLE(検出限界以下なら感染はしない)』について、国連合同エイズ計画(UNAIDS)がExplainer(説明書)を作成しました。公益財団法人エイズ予防財団が翻訳を担当した日本語仮訳のPDF版もAPI-Netでダウンロードできます。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20180802

f:id:miyatak:20180901092443j:plain

説明書は最近の研究成果をもとに『体内のHIV量が検出限界以下に下がれば、HIV陽性者から他の人にHIVが性感染するリスクは無視できるのです』と述べ、感染予防効果と同時にHIV陽性者に対するスティグマや差別の解消という観点からも大きな意味があることを指摘しています。

 ただし、検出限界以下の状態は短期的に達成するだけでなく、その状態を維持することが大切であり『ウイルス量検査を受けなければ、体内のウイルス量が抑制されているかどうかは分からない』と注意を促しています。

 また、5つの主要メッセージのひとつとしてコンビネーション予防の必要性を指摘し、他の性感染症予防や望まない妊娠を防ぐ点からもコンドーム普及プログラムの重要性をあわせて強調しています。

 

 

 

3 メンスター連合を立ち上げ AIDS2018(第22回国際エイズ会議)から1

 「障壁を破り、橋を架けよう」をテーマにしたAIDS2018(第22回国際エイズ会議)が723日から27日まで、オランダのアムステルダムで開かれました。

  国際エイズ会議は1994年に横浜で第10回会議が開催されているので、ある程度の年齢の方なら、日本でも「ああ、あの会議ですか」と思い出されるかもしれません。

 『グローバルヘルス分野では世界最大の会議であり、科学、アドボカシー、人権について分野を超えて議論を交わす場となっている』(UNAIDS)ということで、AIDS2018は参加者が15000人を超えています。

 今年の会議には英国のハリー王子やロック歌手のエルトン・ジョンさんも出席し、メンスター連合(MenStar Coalition)という新たなプロジェクトの発足を宣言しました。医薬品購入などを通じ途上国の感染症対策を支援する国際機関『UNITAID』がプレスリリースを発表しています。

 そのリリースによると、メンスター連合は『公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結』の実現を目指して『HIV感染サイクルを断ち切るため鍵となる男性、地域的にはサハラ以南のアフリカ』の予防対策に力を入れ、男性対象のHIV診断・治療拡大に12億ドル超の初期投入資金を予定しているということです。

 

 

 

4 『刑法とHIV科学に関する専門家合意声明』を発表 AIDS2018から2

 会議3日目の725日には、HIV/エイズ分野の世界的な研究者らが、HIV感染の刑法上の取り扱いについて、科学的な成果を踏まえるよう求める合意声明を発表しました。

HIV非開示(例えば性行為などの際に相手に自らの感染を伝えないこと)、曝露、感染といった行為をそれだけで犯罪とみなす法律や政策の不当性を指摘し、『HIVに対する刑法の過剰かつ不適切な適用は依然として世界に憂慮すべき事態をもたらしている』と強く警告しています。

 国際エイズ学会誌(JIAS)が声明のアブストラクト(要旨)と全文を掲載し、AIDS2018会場で行われた記者会見については、UNAIDSがプレスリリースを発表しています。エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログには、そのプレスリリースの日本語仮訳を掲載してあるのでご覧ください。

 https://asajp.at.webry.info/201808/article_2.html

 

 

なぜ、いまハイレベル会合なのか 結核に関する記者ブリーフィング報告2

 「結核に関する国連総会ハイレベル会合」に向けた記者ブリーフィング(830日、日本記者クラブ)報告の続きです。世界の首脳が集まり、いま結核をテーマに会合を開くことがどうして必要なのでしょうか。

結核は昔からある病気です。日本の場合、戦後の早い時期までは「国民病」と言われていました。国際基準で見ると、日本はいまなお中蔓延国のカテゴリーに入るそうで、楽観や油断は禁物ですが、それでも以前ほど流行が広がっているわけではありません。結核対策は戦後の保健政策の目覚ましい成果のひとつです。

 ただし、世界的な結核の流行はいまなお、極めて深刻です。ブリーフィングでは公益財団法人結核予防会結核研究所の加藤誠也所長が、国内および国外の結核流行の概況について説明しました。

 結核2016年現在、世界で毎年、推定1040万人が新たに発病し、年間約130万人が死亡しています。ただし、この130万人にはHIV結核に重感染して死亡したHIV陽性者37万人が含まれていないので、HIV陽性の死者数も含めると約170万人となります。

心臓病やがんなどを含めたすべての死亡原因でみても結核は世界の十大死因に入り、単一では死者数が最も多い感染症です。以前はHIV/エイズが最も死者の多い感染症だったのですが、抗レトロウイルス治療の普及により、エイズ関連の疾病による死者数は年間100万人前後に減っています。

 それに比べ、治療薬があるのに、結核の死者数は期待されたほどには減少しておらず、エイズにかわって最大の死者を出す感染症となったのです。最近は薬剤耐性結核や超薬剤耐性結核の流行も深刻な課題となっています。

 ここで大急ぎで注釈をつけなければならないのは、HIV/エイズ関連の死者数についても大きく減少したとはいえ、年間約100万人が亡くなっています。新規感染も年間200万人近いのです。とても「エイズはもうほどほどにして、次は結核だ」といえる状態ではありません。新規のHIV感染者数もエイズ関連の死者数も何とか減少軌道には乗ってきたということで、ここで世界が「もういいだろう」と思ってしまえば、再び流行は拡大し始めるでしょう。減りだしたかなという手ごたえがあった時こそが正念場なのです。

 しかも、アフリカなどでは、HIV結核の重感染者も少なくありません。HIVに感染し、結核にもかかっている人の推定死亡数は年間37人に達しています。また、HIV/エイズ対策の観点からみると、結核HIV陽性者の最大の死亡原因です。HIV/エイズ対策上も結核対策は重要です。「エイズはもういいだろう」などとは到底、言えないのと同様、「結核はほどほどにして、もっとエイズ対策に力を入れよう」ということもできません。両方とも大切です。ほどほどでいい状態ではありません。HIV/エイズ結核の対策には相乗効果を生み出すインテグレーション(統合)が必要です。

 ということで、HIV/エイズ対策からの牽制球も投げたうえで話を進めましょう。

 世界保健機関WHO)は2015年からEnd-TB戦略を打ち出しています。2035年までに結核による死亡者を95%減らす、結核罹患率90%減らす、結核医療費に悩まされる世帯をなくすという3つの目標の実現を目指しているのです。

 そのためには、(1)統合された患者中心のケアと予防、(2)骨太の政策と支援システム、(3)研究と技術革新の強化が必要ですということで、この3本柱の目標は、よく考えてみるとHIV/エイズ対策でも指摘されていることです。つまり、世界の感染症対策の基本的な考え方には共通の基盤があります。その最たるものが「患者中心」であり、「誰も取り残さない」という持続可能な開発目標(SDGs)にも示されている基本理念です。

 患者中心というのはつまり、利用者が使いやすいということですね。そもそも利用者に苦痛を強いるシステムがあったとして(実は、実際にあるけど)、それを利用したいという人はいません・・・とまでは言い切れないけれど、あまりいないのではないでしょうか。ごくまっとうな理念がなかなか実践されないということは、他の分野でもうんざりするほどありますが、だからと言って理念の旗を降ろしていいことにはならない。世界はまあ、そんな状態です。

 では、日本はどうかというと、2016年現在の結核罹患率が人口10万人あたり13.3人で、中蔓延国の状態です。人口10万人あたり10.0人以下が低蔓延国なので、もうひと息です。2020年に低蔓延国の仲間入りをすることが当面の目標です。

 欧米はとっくの昔に低蔓延国なのに、どうして日本は・・・という疑問が出てきますね。加藤所長は「出発点が違う」と説明します。

 かつて日本の結核の流行はそれほど深刻でした。数々の文学作品にも結核で亡くなる人が登場します。宮崎駿監督の『風立ちぬ』でもヒロインが結核を患い療養生活を続けていました。そうした高蔓延の状態から1965年以降、毎年平均10%以上の罹患率の減少を達成する時期が続き、目覚ましい成果を経て、現在のもう一息で低蔓延国までこぎつけています。

 そこには地域の保健所やお医者さんたちの地道な努力もあっただろうし、患者の皆さんがきちんと闘病生活に向き合い、それを家族や周囲の人が支えてきたという事情もあったでしょう。加えて、政策的観点から言えば、結核の治療の公費負担に踏み切ったこと、国民皆保険制度が実現したことがあげられます。いま保健分野における世界の最も大きな共通課題であるユニバーサル・ヘルス・カバレッジUHC)の重要性を説得的に示す事例でもあります

その日本のノウハウはおそらく、いま結核の流行に苦しむアフリカやアジアの低・中所得国にとっても貴重な財産として共有可能でしょう。個々の条件が異なるのでそのまま当てはめることはできないにしても、応用可能なヒントはたくさんあるはずです。日本がハイレベル会合の共同ファシリテーターとなったのも故なきことではなかったと改めて思い至ります。

ただし、ここで変な先輩風を吹かせるのではなく、いまなお中蔓延国でもある現実に謙虚に向き合うこともまた大切です。

 

東京都の最新報告も減少傾向 メルマガ東京都エイズ通信 エイズと社会ウェブ版348

 国内のHIV感染者・エイズ患者報告数について厚労省エイズ動向委員会がつい先日、は昨年1年間の確定値を発表したばかりですが、今年に入ってからも報告の減少傾向は続いています。

東京都が昨日、発行したメルマガ東京都エイズ通信の第132号を見ると、今年11日から828日までの報告数が集計されています。

archives.mag2.com

 

    ◇

平成3011日から平成30828日までの感染者報告数(東京都)

  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者 227件  (252件)   

AIDS患者       43件  (  64件)   

合計           270件  (316件)

HIV感染者数、AIDS患者数ともに昨年同時期を下回っています。

     ◇

 報告数の合計で比較すると46件(約15%)の減少です。最近の傾向を見ると、2014年には514件でしたが、2015以降の3年間は435件、464件、464件と400件台の半ばで推移しています。(東京都エイズニューズレター

  

今年は・・・といった予測は時期尚早かもしれませんが、300件台になる可能性もありそうです。

大づかみにいえば、東京都の報告数は全国のほぼ3分の1です。その増減は全国の傾向にも大きく反映されるでしょう。逆にいうと、東京の減少に隠れて東京の外に目を転じると実は増加傾向を示している地域もあります。国内全体の動向だけに目を奪われていると、それが分かりにくくなってしまうかもしれません。紋切り型の指摘で恐縮ですが、それぞれの地域の現状を把握し、その事情に即した対応を進めていくことが、動向委員会報告レベルでの減少傾向時代に入ったとすれば、ますます大切になります。

また、東京都内の減少傾向についても、何がその要因となっているのかを把握し、いま機能しているものについては「もうそろそろいいだろう」と手を抜いてしまうのではなく、減少傾向とはいえ新規HIV感染報告は報告ベースでさえすでに200件をこえている(月平均にすると30件近い)事実を直視する必要があります。効果が認められるものには持続的な施策を展開していくこと、そして、予防のためのサービスが十分に届いていない人口集団や年齢層、地域などの特性を把握し、そこにいる人たちと協力して予防と支援の対策をきめこまかく進めていく戦略眼がますます求められそうですね。

 

「結核に関する国連総会ハイレベル会合」に向けて記者ブリーフィング

ニューヨークの国連本部では926日(水)に「結核に関する国連総会ハイレベル会合」が開かれます。とはいえ、いったい何の会議?と思われる方もきっと多いでしょうね。実は私も重要な会議だということは承知しているのですが、その重要性の中身について突っ込んで尋ねられると、しどろもどろになってしまいます。

困ったなと思っていたら、日本記者クラブで「結核に関する国連総会ハイレベル会合」に向けた記者ブリーフィングが開かれました。付け焼刃の知識で恐縮ですが、結核のハイレベル会合の概要についてとりあえず紹介しましょう。

このブリーフィングはアフリカ日本協議会、日本国際交流センター・グローバルファンド日本委員会、結核予防会、ストップ結核パートナーシップが主催しました。国内および世界の結核の概況、日本における外国生まれの結核患者の動向と課題なども、それぞれの専門家から報告されましたが、そちらについては後日、改めて報告するとして、今回は主に外務省国際保健政策室の鷲見学室長による説明をもとに「結核に関する国連総会ハイレベル会合」とはどんな会議なのかをまとめてみました。

私の理解不足による思い違いがあるかもしれません。おかしいなと感じられるところがありましたらご指摘ください。言い訳兼前置きが長いですね。夜も更けてきたし急ぎましょう。

まずハイレベル会合とは何かというと、各国の大統領や首相といった首脳級の政治指導者が集まる会合です。めったには開けません。したがって今回は国連総会の通常会期がスタートするこの時期にまるまる1日を結核の討議にあてているわけですね。

目的は「2030年までに結核を終焉させる意思を示す」ということにあり、そのための首脳級宣言が採択できるよう現在、国際間の交渉が進められています。

この交渉については、今年1月からアンティグア・バーブーダ国連大使とともに日本の別所浩郎国連大使が共同ファシリテーターになり、NGOの事前ヒアリングや各国議員レベルの会合も含め、全加盟国が合意できる宣言案を作るための意見集約に尽力を続けています。

首脳級の会合が開かれる前にはだいたい1年前に担当閣僚(結核なら保健大臣)による会議が開かれるそうで、今回は昨年111617日にロシアで開かれたモスクワ会議(持続可能な開発時代のもとでの結核終結に向けた第1WHO閣僚会議)がそれに相当します。この時のモスクワ宣言については、私が仮訳を試み今年210日、HATプロジェクトのブログに4回に分けて掲載しました。あくまで参考ですが、時間を持て余している方はご覧ください。

https://asajp.at.webry.info/theme/048c3cc77a.html

 

 ハイレベル会合の宣言もこのモスクワ宣言がベースになるのでしょうね。ただし、各国間の調整はさすがに一筋縄ではいかず、最終草案が固まるまでにはもう少し時間がかかりそうですが、想定されるポイントは以下のようになります。

 ・結核対策の実施強化

 ・持続可能な結核対策の資金

 ・研究開発の強化

 ・結核対策の進捗をモニターする仕組み

 ところでなぜ、いま結核でハイレベル会合なのかということも説明しておく必要がありますね。それは次回、近日中にお届けします。乞うご期待。

 

過去11位が意味するもの エイズ動向委員会報告2017年確定値 エイズと社会ウェブ版347

 

 半年に一度のエイズ動向委員会が27日、厚労省で開かれ、昨年(2017年)の新規HIV感染者・エイズ患者報告の確定値がまとまりました。

 

新規HIV感染者報告数  976 件(過去 11 位)

新規エイズ患者報告数   413 件(過去 11 位)

計           1389 件(過去 11 位)

 

 新規HIV感染者報告とエイズ患者報告の合計が1400件以下になったのは2006年の1358件(406件、952件)以来11年ぶりです。新規HIV感染者報告が1000件の大台を割ったのも11年ぶりでした。

f:id:miyatak:20180828225356j:plain

 グラフをご覧いただければ分かるように2006年まで右肩上がりで増加を続けていた報告数が、翌2007年に1500件に達して以降、横ばい傾向に転じています。その横ばいがさらに減少へと移っていくのかどうか。これがこの10年、報告面から見た日本の予防対策の課題だったのですが、最近の推移は減少傾向への移行をうかがわせるものでもあります。

f:id:miyatak:20180828225513j:plain

 2007年は報告全体に占めるエイズ患者報告の割合も30%を下回りました。

 同時に報告された2018年上半期の報告数も減少の傾向を示しています。そちらの数字はAPI-Netの『日本の状況=エイズ動向委員会報告』でご覧ください。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/index.html

 20188月の委員長コメントをクリックすると報告数が分かります。

 この結果を「だからエイズはもういいんじゃないの」という楽観論に結びつけるのは危険だと私は思います。とくに若い年齢層の男性および女性にHIV/エイズに関する十分な情報が届いていないこと、性的少数者への理解を広げようとする動きとHIV/エイズという課題への対応とが必ずしも連動した動きになっていないこと、政治的な課題としての認識が希薄になりつつあることなどは、先行きに対する不安要因ではないかと個人的には感じています。実際に支援や予防啓発の活動に携わっている人たちの現場感覚も反映させた疫学の専門家による分析を待ちたいところです。