まだ残暑が続きますが、全国の自治体では12月1日の世界エイズデーに向けた準備が本格化する時期でもあります。その準備に間に合うよう厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する2018年世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマは7月の下旬に発表されました。
『UPDATE!
自治体やHIV/エイズ分野のNGO/NPOが制作するポスターやチラシ、イベントの告知などにも活用してもらおうと、テーマの策定手続きは今年4月から大急ぎで進められました。TOP-HAT News第120号(2018年8月)では巻頭に『イメージ→知識→行動のUPDATEを』というタイトルで、策定のプロセスやテーマの趣旨について報告しています。7月の第22回国際エイズ会議についてもいくつかの話題を紹介しています。
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第120号(2018年8月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに イメージ→知識→行動のUPDATEを
2 『U=U説明書』 日本語仮訳版を作成
3 メンスター連合を立ち上げ AIDS2018(第22回国際エイズ会議)から1
4 『刑法とHIV科学に関する専門家合意声明』を発表 AIDS2018から2
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1 はじめに イメージ→知識→行動のUPDATEを
厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する2018年世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマが決まりました。
UPDATE!
世界エイズデーは12月1日ですが、テーマについては7月下旬に決定し、厚労省から各自治体のHIV/エイズ対策担当者に送られる「実施要項」もAPI-Net(エイズ情報ネット)で公開されています。
http://api-net.jfap.or.jp/event/aidsday/2018/H30_AidsDay-yoko.pdf
全国各地のキャンペーンは世界エイズデー当日の12月1日だけでなく、その前後の期間にも展開されます。かなり幅があるわけですね。東京都の例をあげれば、毎年11月16日か~12月15日の1か月間が「エイズ予防月間」となります。
キャンペーンの準備には当然、時間がかかります。せっかくなら自治体やNPOが作成するポスターやチラシにもテーマを入れてほしい。そうなるとデザインや印刷に回す時間もあるので、遅くとも7月末までにはテーマを決定し、大急ぎで全国各地のHIV/エイズ担当者に伝える必要があります。
今年のテーマについては、4月にAPI-Net(エイズ予防情報ネット)でインターネットを通じた意見募集を開始するとともに、5月に大阪でフォーラムを開催し、6月には東京でエイズ対策関係者による検討委員会を開いて候補案を策定しました。さらに候補案をエイズ予防財団から厚労省に提案し、最終的に厚労省が決定するという手順を踏んでいます。
そのプロセスの詳細もAPI-Netに掲載されているので参考にしてください。
http://api-net.jfap.or.jp/lot/2018camp_theme.html
なるべく多くの人がテーマ案の策定に関与できるようにしたいという期待を込めたプロセスなのですが、残念ながら現状ではAPI-Netに寄せられる意見も、フォーラムに参加する人も、そう多いわけではありません。HIV/エイズに対する社会的関心の低下はこうしたところにも表れているのでしょうか。その現状をいかにUPDATEしていくかというのはキャンペーン自体の課題でもあります。
今年のテーマの趣旨については、候補案の策定にかかわったHIV/エイズ総合情報サイト『コミュニティアクション』のスタッフが同サイトのキャンペーンテーマのページで報告しています。
《キャンペーンのテーマは2年連続で『UPDATE!』がキーワードになります。2017年度は『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』でした。ではそのイメージの更新を支えるものは何か。2018年度は「検査と治療」に関する知識や情報の更新に焦点を当てています。分かりやすく情報を伝えることで、実際に検査を受ける人が増え、HIVに感染していることが分かれば、いち早く治療を受けられるようになる。そうした行動の変化を視野に入れたテーマでもあります》
・HIVに感染しても治療を受ければ、長く社会生活を続けていくことができます
・治療を開始するにはHIVに感染していることを知る必要があります
・HIV検査を受けなければ、感染していることも、していないことも分かりません。
・保健所に行けばHIV検査は無料匿名で受けられます。
・HIVの検査や治療、支援に関する相談先は全国にあります。
イメージ→知識→行動という流れの中で《関心がない人にも、悩んでいる人にも情報は必要です》と知識・情報のUPDATEを呼びかけています。
2 『U=U説明書』 日本語仮訳版を作成
『UNDETECATABLE = UNTRANSMITTABLE(検出限界以下なら感染はしない)』について、国連合同エイズ計画(UNAIDS)がExplainer(説明書)を作成しました。公益財団法人エイズ予防財団が翻訳を担当した日本語仮訳のPDF版もAPI-Netでダウンロードできます。
http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20180802
説明書は最近の研究成果をもとに『体内のHIV量が検出限界以下に下がれば、HIV陽性者から他の人にHIVが性感染するリスクは無視できるのです』と述べ、感染予防効果と同時にHIV陽性者に対するスティグマや差別の解消という観点からも大きな意味があることを指摘しています。
ただし、検出限界以下の状態は短期的に達成するだけでなく、その状態を維持することが大切であり『ウイルス量検査を受けなければ、体内のウイルス量が抑制されているかどうかは分からない』と注意を促しています。
また、5つの主要メッセージのひとつとしてコンビネーション予防の必要性を指摘し、他の性感染症予防や望まない妊娠を防ぐ点からもコンドーム普及プログラムの重要性をあわせて強調しています。
3 メンスター連合を立ち上げ AIDS2018(第22回国際エイズ会議)から1
「障壁を破り、橋を架けよう」をテーマにしたAIDS2018(第22回国際エイズ会議)が7月23日から27日まで、オランダのアムステルダムで開かれました。
国際エイズ会議は1994年に横浜で第10回会議が開催されているので、ある程度の年齢の方なら、日本でも「ああ、あの会議ですか」と思い出されるかもしれません。
『グローバルヘルス分野では世界最大の会議であり、科学、アドボカシー、人権について分野を超えて議論を交わす場となっている』(UNAIDS)ということで、AIDS2018は参加者が1万5000人を超えています。
今年の会議には英国のハリー王子やロック歌手のエルトン・ジョンさんも出席し、メンスター連合(MenStar Coalition)という新たなプロジェクトの発足を宣言しました。医薬品購入などを通じ途上国の感染症対策を支援する国際機関『UNITAID』がプレスリリースを発表しています。
そのリリースによると、メンスター連合は『公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結』の実現を目指して『HIV感染サイクルを断ち切るため鍵となる男性、地域的にはサハラ以南のアフリカ』の予防対策に力を入れ、男性対象のHIV診断・治療拡大に12億ドル超の初期投入資金を予定しているということです。
4 『刑法とHIV科学に関する専門家合意声明』を発表 AIDS2018から2
会議3日目の7月25日には、HIV/エイズ分野の世界的な研究者らが、HIV感染の刑法上の取り扱いについて、科学的な成果を踏まえるよう求める合意声明を発表しました。
HIV非開示(例えば性行為などの際に相手に自らの感染を伝えないこと)、曝露、感染といった行為をそれだけで犯罪とみなす法律や政策の不当性を指摘し、『HIVに対する刑法の過剰かつ不適切な適用は依然として世界に憂慮すべき事態をもたらしている』と強く警告しています。
国際エイズ学会誌(JIAS)が声明のアブストラクト(要旨)と全文を掲載し、AIDS2018会場で行われた記者会見については、UNAIDSがプレスリリースを発表しています。エイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログには、そのプレスリリースの日本語仮訳を掲載してあるのでご覧ください。
https://asajp.at.webry.info/201808/article_2.html