戦後の経験生かし支援を 結核に関する記者ブリーフィング3

 国内の結核対策で現在、大きな課題となっているのは、日本に滞在する外国人の患者(外国生まれの患者)の割合が増えていることです。記者ブリーフィングでは、横浜の港町診療所で外国人の診療を長く続けている沢田貴志所長が「日本における外国生まれの結核患者の動向と課題」について報告しました。

 結核予防会結核研究所疫学情報センターの集計によると、国内の人口10万人あたりの結核罹患率はいまなお中蔓延国の範疇にあるとはいえ、減少を続けています。ところが、その中で「外国生まれの患者」の罹患率は増えているのです。

 これは国際化が進み、結核の流行が深刻な国からも日本を訪れる人が増えているという事情が一つあります。ただし、その背景には、結核に感染している人が日本に来ているということだけでなく、日本に来てから結核に感染しやすい環境のもとでの生活を余儀なくされ、感染している人もいます。

 戦後、国内の結核罹患率が劇的な減少を果たした要因について、沢田所長は「結核患者が治療に専念できる環境を作ってきた」と説明しています。結核医療の公費負担や国民皆保険制度の成果ともいえるでしょう。

 ただし、いま国内に滞在する外国人については「治療に専念できない患者」が数多くいるという現実があります。

 しかも、新規に登録される結核患者の中で「外国生まれの人」が占める割合は、2010年ごろまで10年ほどは増加が止まり、頭打ち状態だったのですが、2011年からは急速な増加に転じています。沢田さんはその2011年について「この時期から外国生まれの結核患者の出身国がかわってきた」とも述べています。それまではフィリピン、中国、韓国の出身者が多数を占めていたのに対し、2011年以降はベトナム、ネパール、ミャンマーインドネシアの出身者が増加しています。

 また、在留資格別でみると、以前は超過滞在者が多かったのですが、現在は特定活動・技能実習、および資格外活動(留学生等)の人が多数を占めているということです。

 以前なら超過滞在者となる人たちが日本で働けるようになっている(つまり国外から呼べるようにしている)ことがその背景にあり、国内にそうしたかたちでの働き手を必要とする事情があるということでもあります。沢田さんの報告を私が理解できた範囲で説明するとそういうことでしょうね。

つまり、国内のニーズがあって働き手として日本に来てもらっているのに、その人たちのサポートが十分できていない。そのことが結核罹患率の増加を促している。これはまずいんじゃないの。

危機感、責任感をもって支援を充実させていく必要があると沢田さんは指摘します。「結核患者が治療に専念できる環境を作ってきた」ことが戦後の日本における結核対策の目覚ましい成果につながったのだとすれば、沢田さんの指摘には十分、説得力があります。また、そのための知識も経験も日本にはあるはずです。

 ブリーフィングには、日本で超多剤耐性結核を発病し、複十字病院に入院して困難な闘病生活を経験した中国人起業家の葛鋒(かつほう)さんも出席しました。葛鋒さんは自らの経験を語り、複十字病院の医師、看護師さんを含め、たくさんの人に支えられてきたことに感謝の言葉を述べています。

国内の「外国生まれの結核患者への支援」がうまく機能すれば、あるいは結核に限らずHIV/エイズや他の健康課題についても同様に言えることですが、その時こそ日本の蓄積が世界に貢献できる資源となるのではないか。ニューヨークの国連本部などというはるか彼方で開催されるハイレベル会合も意外に身近な話題だぞと、ローレベルなロートル記者にも改めて感じられるブリーフィングでした。