最近は「レガシー」という言葉も日本語化してそのまま通用するようになりましたね・・・と言い切っていいのかどうか、微妙なところです。オリンピック・パラリンピックのおかげで、新聞の記事やテレビのニュースでも「レガシー」のまま使っていることもあるし、分かっているようでなんだかよく分からないような気もするし。
TOP-HAT News第121号ではちょっとドキドキしながらそのレガシーをタイトルにしました。
《辞書を引くと『遺産』『相続財産』といった訳語がでてきますが、カタカナの「レガシー」で通用することも多くなりました。『遺産』であるだけでなく、『新しい価値の創造』といた現在進行形の意味も含まれているようです》
2001年に国連エイズ特別総会が開かれた当時の国連事務総長で、同じ年にノーベル平和賞を受賞したコフィ・アナン氏が8月に亡くなりました。特別総会最終日に国連エイズ合同計画(UNAIDS)のピーター・ピオット事務局長と並んで記者会見を行っていた姿を思い出します。アナン氏が残したレガシーとは何か。遅ればせながらささやかな追悼の文章でもあります。
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第121号(2018年9月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに エイズ対策のレガシー
2 11年ぶり1400件以下に 2017年エイズ動向委員会報告確定値
3 『Global Topics(グローバル・トピックス)』創刊
4 HIV陽性者への精神・心理的支援とそのための連携体制構築 ウェブサイト紹介
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1 はじめに エイズ対策のレガシー
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの準備が進む中で、『legacy(レガシー)』という言葉が日本国内でしばしば使われるようになっています。辞書を引くと『遺産』『相続財産』といった訳語がでてきますが、カタカナの「レガシー」で通用することも多くなりました。『遺産』であるだけでなく、『新しい価値の創造』といた現在進行形の意味も含まれているようです。
少し前の話になりますが、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに8月20日付けで《Kofi Annan’s AIDS legacy(コフィ・アナンが残したエイズ対策のレガシー)》が掲載されました。8月18日に80歳で亡くなったコフィ・アナン元国連事務総長を追悼する文章で、筆者はミシェル・シディベUNAIDS事務局長です。
コフィ・アナン氏は、ガーナ出身の国連職員としてPKO局長などを務め、1997年1月、国連事務総長に就任しました。以来2期10年の間、国連のトップとして世界の平和や人権の尊重、貧困の解消といった課題に取り組み、事務総長在任中の2001年には国連とともにアナン氏自身もノーベル平和賞を受賞しています。
もちろん、その努力がすべて大きな成果を収めたわけではなく、うまくいっかなかったこともたくさんありました。2001年9月の米中枢同時テロをはさみ、世界はより大きな困難に直面して現在に至っています。ただし、そのことでアナン氏を過少に評価することもまたできません。
(コフィ・アナン氏。背広の襟にはレッドリボン UNAIDS公式サイトから)
アナン氏の多方面にわたる功績の中でも、とりわけ評価すべきなのは実は、21世紀の最初の10年間における世界規模のHIV/エイズ対策への貢献だったのではないでしょうか。UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は追悼文の中で次のように書いています。
《20世紀から21世紀への移行期は、エイズ否認主義がピークに達した時期でした。アナン氏がそれを打破する力になりました。「アフリカでは昨年、この大陸のすべての戦争による死者よりも多くの人がエイズで亡くなっています。エイズはこの大陸における最も大きな危機であり、各国政府は何らかの対応を迫られています。エイズの流行を恥と感じ、沈黙で対応する状態に終止符を打たなければならないのです」と2001年に述べています》
ニューヨークで6月に国連エイズ特別総会が開かれた年です。米中枢同時テロで世界貿易センタービルが崩壊する3か月前のことでした。翌2002年の1月には世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)が創設されています。
激動の2001年の中で、戦争や紛争の解決ほど目立った動きではなかったかもしれませんが、世界は確実に希望への投資を開始し、そのきっかけを作ったキーパーソンの一人がアナン氏だったことは記憶しておく必要があります。
ミシェル・シディベ氏の追悼文『Kofi Annan’s AIDS legacy(コフィ・アナンが残したエイズ対策のレガシー)』は、エイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに全文の日本語仮訳を掲載しました。
https://asajp.at.webry.info/201808/article_4.html
2 11年ぶり1400件以下に 2017年エイズ動向委員会報告確定値
国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数が11年ぶりに1400件を下回りました。厚労省のエイズ動向委員会がまとめた2017年の年間報告確定値によると、新規HIV感染者報告976 件、エイズ患者報告 413 件で、患者・感染者報告の合計は1389 件でした。いずれも過去11位ということです。
感染者・患者報告の合計が1300件台に減ったのは2006年の1358件(406件、952件)以来で、HIV感染者報告が1000件の大台を割ったのも2006年以来11年ぶりです。
国内の患者・感染者報告数は2007年から10年間にわたり、年間1500件前後で横ばいの状態が続いていました。詳しくはAPI-Netの『日本の状況=エイズ動向委員会報告』で2018年8月の委員長コメントをご覧ください。
http://api-net.jfap.or.jp/status/index.html
3 『Global Topics(グローバル・トピックス)』創刊
世界の三大感染症とされるエイズ、結核、マラリアについて、国際的な動向や課題をわかりやすくまとめた『Global Topics(グローバル・トピックス)』が創刊されました。グローバルファンド日本委員会(FGFJ)が年4回、季刊で発行します。
創刊号は『結核の最新動向』です。『結核は“昔の病気”あるいは“貧しい国の問題”と思われがちですが、日本を含む先進諸国も関わるグローバルヘルス最大の課題の一つです』とFGFJは説明しています。9月26日には、ニューヨークの国連本部で結核に関する「国連総会ハイレベル会合」が開かれました。
『Global Topics』では、結核の世界的な発生状況や課題、終息に向けた国際社会の動向を概説しています。世界全体でみると、結核はHIV陽性者の最大の死亡原因でもあります。FCFJの公式サイトで創刊号のPDF版がダウンロードできます。
http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2018-07-30_global-topics-vol-1
4 HIV陽性者への精神・心理的支援とそのための連携体制構築 ウェブサイト紹介
厚生労働省の『HIV陽性者に対する精神・心理的支援方策および連携体制構築に資する研究班』が公式サイトを開設しました。
https://www.haart-support.jp/psychology/index.htm
『HIV感染症は抗HIV薬の多剤併用療法によって慢性疾患と捉えられるまでになったが、精神疾患や認知機能の低下、その他様々な心理的問題を有するHIV陽性者が一定数いることが指摘されており、その支援やケアは重要な課題である。本研究では、薬害被害者を含むHIV陽性者の精神医学的・神経学的・心理学的問題を明らかにし、それに対する支援方策を提示すること、またHIV陽性者に支援を提供するために必要な連携体制を構築することを目的とする』 (研究の目的から)