このままでは選べない グローバルファンド次期事務局長の選出、今年後半に持ち越し

 今年5月31日で退任する世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)のマーク・ダイブル事務局長の後任選考が難航しています。2月27日の理事会で次期事務局長を選出する予定だったのですが、理事会では結論が出ず、決定は今年後半に持ち越されました。グローバルファンド日本委員会の公式サイトによると『次期事務局長が選出されるまでは、現在ナンバー2である官房長をのマライケ・ヴェインロクス氏が事務局長代行』を務めるということです。 

fgfj.jcie.or.jp

 なんでこうなるの!? と欽ちゃん走りしちゃいそうな展開ですね。ニューヨークタイムズの2月15日と28日の記事が背景を報じています。かいつまんで紹介しましょう。
 次期事務総長候補の絞り込みはノミネート委員会が担当し、多数の応募者の中から10人に絞り込んだ候補者をさらに3人に絞って、理事会に報告しました。


 ムハマド・アリ・ペイト氏(ナイジェリア元保健相)
 サブハヌ・サクセナ氏(シプラ社元CEO)
 ヘレン・クラーク氏(UNDP総裁、ニュージーランド元首相)

 この3人の中から27日に理事会が選出することになっていたのですが、クラーク氏は選出過程を不満として辞退し、残る2人のどちらか・・・と思っていたら、理事会で、いまは選べないという結論になりました。もう一回、選考をやり直し、年内には決定するということです。

 ここからは、私の推測もかなり入っていますが、どうも米国のトランプ政権発足がこの事態にかなり影響しているようですね。ニューヨークタイムズの記事によるとペイト氏はイスラム教徒で、大統領選当時からトランプ氏についてはツイッターなどでかなり批判していたということです。ヘレン・クラーク氏はUNDPのトップだし、サクセナ氏は国境なき医師団とも協力して事業を展開していたということです。米国はグローバルファンドへの最大の資金拠出者なんですが、トランプ大統領は国連に批判的であり、米国の国際援助資金のカットを表明してはばからない方なので、最後に残った候補者の誰一人としてトランプ新政権との相性がよさそうな方はいません。

 また、今回の選考に対しては、グローバルファンドの理事会のうち、資金を受けて事業を実施する立場の国やNGO側の代表から、プロセスをもっと透明化してほしいという要望も出ていました。候補者を事前に発表し、公聴会を開いて直接、意見を聞ける機会を設けるといったプロセスで、昨年の国連事務総長選出の際に採用されたプロセスとほぼ同じようなイメージでしょうか。

 仕切りなおしとなった選考プロセスがどのようになるのかはちょっとまだ分かりませんが、最短でも半年はかかりそうです。どんな人ならいいのか。ダイブルさんに引き続きやっていただくわけにはいかないのか。いかないでしょうね。というわけで、グローバルファンドも大変ですが、おそらくそれは氷山の一角、2017年は世界中のあちらこちらで試行錯誤が続く1年になりそうです。

 

Only Yesterday というか Yesterday Once More というか・・・

 あまり認めなくないけれど、記憶力が激しく減退しています。ちょっと調べ物をしていたら、あちゃ~。ほんの1年前のことだというのに・・・。

 まずは当ブログ2月13日付けの書き込み。

 《内容的にはこれまでのメッセージの繰り返しですが、T as Pだとか、PrEPだとかに入れ込み気味の時期にまたどうしてわざわざ声明なのか・・・と思って訳して見たら、冒頭にでてきました。バレンタインデー前日の2月13日が国際コンドームデー(International Condom Day)ということで、それにあわせた声明です》 

miyatak.hatenablog.com


 で、1年前の2016年2月14日はどうだったかというと・・・。

《世界のあちらこちらでHIV治療に取り組むお医者さんや製薬関係者が、T as P、T as P(予防としての治療)・・・と熱に浮かされたように唱え、日本国内ではそれを真に受けて(というか一段と曲解して)コンドーム普及にはもはや効果は期待できないといわんばかりの発言を繰り返す保健関係者も出てくる(ごく一部だけど)中で、なんでまたこの時期にコンドーム普及の声明なの?と思ったら、2月13日は国際コンドームデーなのだそうです》

miyatak.hatenablog.com

 ほとんど同じことの繰り返し。しかも、1年前に国際コンドームデーを紹介したことなどすっかり忘れ、今年もまた、へぇ~、そうなんだ、という感覚。困ったね、まったく。ぶれない・・・と言えば聞こえはいいけど、これじゃあ年寄りは話がくどいと言われても致し方ないか(年齢よりもむしろ、垂れ流しで書いている安易な姿勢の結果じゃないの)。どっちにしても、つらいか。

 

力強い科学、果敢なアクティビズム  国際エイズ学会(IAS)年次書簡2017

 国際エイズ学会(IAS)の公式サイトに2017年の年次書簡が掲載されました。時期的に見て年頭にあたってのメッセージという感じでしょうか。その冒頭のオーウェン・ライアン事務局長あいさつの日本語仮訳です。

《地球上のいくつかの地域がナショナリズムと外国人嫌悪へとシフトしつつあるという懸念の中で、私たちの世界的な闘いの将来はどうなるのでしょうか。同時代における最大のパンデミックと闘い、獲得してきた成果がするりと手の内から滑り落ちてしまうのでしょうか》

世界の現状に対するかなり厳しい認識が示されています。当然というべきでしょうか。2016年の「エイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合」からまだ1年もたっていません。どうなるのか。書簡の表紙写真の女性のマスクには、ACT UPのスローガン

『SILENCE=DEATH』のピンクトライアングルが書き込まれています。

科学とアクティビズムの連帯。それはそれで力強くはあるのだけど、私などはその「連帯」のしかたが科学に引きずられすぎているような印象もぬぐえません。事務局長メッセージには賛同しつつも、書簡全体で現状をどうとらえているのか、そのあたりを見ていく必要もありそうです。ちょっと長いけど時間を見つけながら全文を少しずつ訳していくか。

 

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力強い科学、果敢なアクティビズム

 国際エイズ学会(IAS)年次書簡2017

http://www.iasociety.org/Annual-Letter-2017

 

2017年を行動の年に

親愛なるIASメンバー、パートナーの皆さん

 2017年の年頭、私たちのコミュニティは心配と不安でいっぱいでした。政治的、社会的な変化は期待を裏切り続け、前途に何が待ち受けているのか、まったく予想ができなくなってしまうのではないか。人権について、難民や移民の窮状について、ジェンダーの平等について、そして人としてかわした約束の効力について、心配なことばかりです。

 そのどれもが私たちのHIVとの闘いに深く関わっています。HIV/エイズはまさに変化を糧に世界に広がる感染症であるからです。

 地球上のいくつかの地域がナショナリズムと外国人嫌悪へとシフトしつつあるという懸念の中で、私たちの世界的な闘いの将来はどうなるのでしょうか。同時代における最大のパンデミックと闘い、獲得してきた成果がするりと手の内から滑り落ちてしまうのでしょうか。

 いいえ、そんなことはありません。少なくとも、いまはまだ、そうなっていません。

  不安と懸念のまさにその中にあって、ようやく勝ち得た成果を守ろうとする動きが起きています。世界各地で何百万という人が1月のウーマンズマーチに加わりました。助けを必要とする人たちを危険視したり、孤立させたりするような新たな世界秩序に決然と反対し、無関心ではいられないという大きな意思を示したのです。

 私たちは歴史を観察したり、生き延びたりしているだけではありません。そうではなく、歴史をどう作るのか、その方法を知っていることも活動を通して明らかにしてきました。それが私たちの強みです。単なる歴史の旅行者ではなく、コンダクターでもあるのです。

 2016年が目覚ましい成果をあげた年だったことを忘れてはなりません。世界エイズ結核マラリア対策基金は、今年から3年間の資金が補充されました。エイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合では、すべてのレベルでエイズと闘うことを世界が約束しました。第21回国際エイズ会議(AIDS2016)が南アフリカのダーバンで開催され、再びHIV/エイズ分野の歴史的な会議となりました。

 長時間作用型抗レトロウイルス薬開発、南部アフリカにおけるこの10年で初の大規模HIVワクチン臨床試験開始、HIV治療を受けている人が1800万人を突破、世界保健機関(WHO)勧告にも後押しされたHIV自己検査の普及拡大など、さまざまな分野で私たちは引き続き成果をあげています。

 ダーバンへの帰還は、2000年の治療アクセス運動の誕生から私たちがどれほど大きな成果をあげてきたのか再認識する機会となり、エイズコミュニティは再会と再生を果たしました。AIDS2016にはエイズ会議史上最多の若者が参加し、その若いリーダーたちによって科学とアクティビズムの団結は一段と強固なものになりました。

 しかし、ダーバンは注意喚起の機会でもあります。UNAIDSが発表した報告書は、国際的な予防対策の成果があがっていないことを警告しています(注1)。資金動向に関する別の報告書は、国際ドナーがエイズから離れつつあるという恐るべき事態を指摘しています(注2)。キーポピュレーションのニーズにどう対応するかをめぐり、国連ハイレベル会合で国際社会の議論が大きく揺れ動いてからわずか数週間後には、こうした問題が指摘されているのです。

 2016年が自己満足に対する警告の年だったとしたら、2017年はエイズコミュニティが自らの課題を受け止め、医学研究とコミュニティのリーダーシップがもたらした歴史的なチャンスをつかみ取るために、決意を新たにする年としなければなりません。

 また、今年は多分野と真に連帯すべき年でもあります。初の国連ハイレベル会合に向けて準備を進める結核コミュニティ;グローバル・ギャグ・ルール復活に反対して闘うセクシュアル・アンド・リプロダクティブ・ヘルスアンドライツ(性と生殖の健康と権利)コミュニティ;手頃な価格の治療薬へのアクセスを拡大し、予防可能な疾病による死亡を減らすべく闘っている肝炎コミュニティ;私たちが生きているうちにHIV、がんの治癒実現を目指す、がんコミュニティ、と連携していかなければなりません。最終的にわたしたちすべてが一つの国際保健コミュニティの一員として、人権と社会正義を実現し、健康を追求するために連帯していく必要があります。

 今年7月には第9回国際エイズ学会HIV基礎研究・治療・予防会議(IAS2017)が、パリで開催されます。HIV研究史上で最も重要なブレークスルーのいくつかが生まれた都市です。この会議こそが、内向きになる世界と闘い、トンネルの向こうに光が見えてきたこの瞬間に、何千万というHIV陽性者およびHIVに影響を受けている人びとへの信義を守る最も重要な機会となるでしょう。

 パリで皆さんにお会いできることを期待しています。

 

 IAS事務局長、オーウェン・ライアン

 

 

 

STRONG SCIENCE, BOLD ACTIVISM

 

Making 2017 a year of action

 

Dear IAS Members and Partners

 

As 2017 begins, our community is anxious and concerned. Political and societal changes continue to upend our expectations and generate uncertainty about what is ahead of us. We worry about human rights, the plight of refugees and migrants, progress towards gender equality, and the strength of our commitment to each other as human beings.

 

Deeply wrapped up in all of this is our fight against HIV – a disease that has shown itself adept at exploiting the very changes that seem to be dominating our world.

 

As corners of the planet shift towards nationalism and xenophobia, we wonder where the future of our global cause lies. Is the progress we have made against the greatest pandemic of our time slipping through our hands?

 

 

No, it’s not – at least not yet.

 

In the midst of this anxiety and uncertainty, we’ve seen action and defiance against rolling back hard-won gains. The millions of people who participated in Women’s Marches around the world in January are proof that apathy doesn’t rule, that a collective determination is there to resist a new world order that demonizes and isolates those in need.

 

Our movement has shown that we know how to make history, not merely observe or survive it. That is our strength. We are not history’s passengers. We are its conductors.

 

And let’s remember: 2016 was a remarkable year for our work. In those 12 months: The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria was replenished; the world demonstrated its political commitment at all levels to fight AIDS at the United Nations General Assembly High-Level Meeting on Ending AIDS; and we returned to Durban for the 21st International AIDS Conference (AIDS 2016) for a, yet again, historic meeting on HIV and AIDS.

 

Continued progress can be seen across our work – in the development of long-acting antiretrovirals; the launch of the first large-scale HIV vaccine trial in southern Africa in nearly 10 years; the more than 18 million people receiving HIV treatment; and growing momentum for the scale-up of HIV self-testing, spurred in part by the World Health Organization’s (WHO) recommendation.

 

The return to Durban reunited and rejuvenated the AIDS community, reminding us how far we have come from the birth of the treatment access movement in 2000. AIDS 2016 sparked a revitalized union between science and activism led by a new generation of leaders as demonstrated by one of the largest youth participation levels ever seen at an AIDS conference.

 

But Durban was also a wake-up call. UNAIDS released an alarming report detailing how our prevention efforts have faltered1. And a separate report on funding trends gave rise to genuine fears that international donors are moving on from AIDS2. These signs of trouble came only weeks after the global community wavered in its commitment to address the needs of key populations at the UN High-Level Meeting.

 

If 2016 served as a wake-up call from complacency and premature congratulations, 2017 must be the year when the AIDS community confronts our challenges and renews our determination to grasp the historic opportunities that scientific research and community leadership have given us.

 

This must also be the year we truly join arms with our colleagues in other disciplines. We must align our cause with the TB community as it prepares for the first-ever High-Level Meeting on TB at the United Nations; with the sexual and reproductive health and rights community as it grapples with the reinstatement of the Global Gag Rule; with the hepatitis community as it works to increase access to affordable medicines and reduce mortality to preventable illness; and the cancer community as we together look for a cure to end HIV and cancer in our lifetimes. Finally, we must all as one global health community work to solidify and entrench human rights and social justice in the pursuit of health.

 

In July this year, we reconvene for the 9th IAS Conference on HIV Science (IAS 2017) in Paris, the home of some of the most important breakthroughs in HIV science. The meeting offers a critical opportunity for our community to resist a world turning inward, and to demand that at this pivotal moment – when we can actually see the light at the end of the tunnel – we must keep faith with the tens of millions of people living with and affected by HIV.

 

I hope to see you there.

Sincerely

 

OWEN RYAN

IAS Executive Director

 

振り向けばネコが 鎌倉看板傑作選 

 おニャり・・・じやなかった。鎌倉駅西口から南に由比ガ浜通りまでのこの商店街は。

 

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 御成通り商店街でしたね。歩いていると看板のネコ率が意外と高かったので、つい。駅に近い方から紹介しましょう。

 

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 鎌倉ねこサロン。何のお店と言ったらいいのか、おじさんにはうまく表現できないのですが、Facebookを見ると「ねこ雑貨のお店」ということです。

 

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 御成通りに出ている看板の手前に極めて細い通路がありそこを入ると突き当たりにハンバーガーショップがあります。

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 こちらのお店は御成通りに出ていた看板の向かい側の路地を入るとすぐ。

 

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 KIBIYAベーカリーの「あんず食パン」は不肖・私のお気に入りアイテム・・・そういえば最近、あまり食べていなかった。久々に買いに行こうかな。

 

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 路地を入った本店。こちらは木の看板ですね。2階は以前、小さなフレンチのお店でしたが、いまはワインバーのようです。

 御成通り商店街は、昔ながらのような、新しいような・・・。最初に訪れた頃には、光と風の感じが米東海岸にあるボストン近郊の港町に出かけたときとそっくりだったので、ちょっと心が浮き立ちました。そんな季節まで、もうひと息。

 時間の流れがゆるやかな商店街といいますか。いかにもネコが昼寝をしていそうな雰囲気なんだけど、残念ながら、今回は看板だけで、本物のネコには遭遇しませんでした。ま、こういうときにおあつらえ向きに出てこないのが、ネコのネコたる所以でしょうか。

 

『保健医療分野の差別ゼロに向けた課題』 UNAIDS

 2017年3月1日の差別ゼロデーに向けて、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が作成した資料《AGEDA FOR ZERO DISCRIMINATION IN HEALTH-CARE SETTINGS》の日本語仮訳です。訳文だけ見ると堅苦しい印象ですが、元の英文資料はカラフルでビジュアルな体裁です。UNAIDSの公式サイトでご覧下さい。

http://www.unaids.org/en/resources/documents/2017/2017-agenda-zero-discrimination-health-care

 キャンペーン期間はもう過ぎてしまいましたが、保健医療分野の差別解消は、わが国のHIV/エイズ対策でも重要な課題の一つです。「T as P」ですべてが解決できるかのような言説が繰り返されていると、私のような専門外の人間はついついそうかなと思ってしまいます。そうした迷妄を避ける意味でも、内容を確認したいと思い、大急ぎで訳しました。

《良質な医療サービスやケアを受けることが妨げられるといったかたちの差別や人権侵害は保健医療の場でも起きています。また、保健医療従事者も同僚や経営者からの差別にさらされ、権利や役割、責任を十分に果たせずにいることがあります。

 保健医療の場における差別は、診療やサービス提供の拒否だけではありません。誤った情報を提供したり、サービス提供に第三者機関の承認を必要としたり、プライバシーや個人情報を保護する意識を欠いていたりする事例もあります》

 どうも前にも似たような資料を訳したことがあるような気もしますが、新しい情報を入れ、キャンペーン向けにリニューアルしたものかもしれません。

 

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保健医療分野の差別ゼロに向けた課題

http://www.unaids.org/sites/default/files/media_asset/2017ZeroDiscriminationHealthCare.pdf

 

 差別がないことは人権の基本原則であり、同時に義務でもあります。しかし、保健医療の場における差別は、様々なかたちで広く存在しています。差別は保健やコミュニティサービスへのアクセスを妨げ、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現を阻んでいます。保健状態が悪化し、エイズ流行の終結やすべての人に対する健康な生活の保障を目指す努力を台無しにしてしまうのです。

 

保健医療分野の差別

 HIVへの対応は過去10年、大きく進展しました。世界は子どものHIV感染の排除に一歩近づき、自らの感染を知って治療にアクセスできるHIV陽性者が増え、エイズ関連の死者は減少しています。

 それでも、世界中で多数の人びとがスティグマや差別、排斥、不平等な扱いを受け、そのためにHIVに感染しやすく、HIVの予防、治療、ケアのサービスが受けにくい状態に置かれています。

 HIV陽性者やキーポピュレーションの人びと、あるいはその他のHIVに感染しやすいグループは依然、実際の健康状態や見かけの状態、人種、社会経済状態、年齢、性別、性的指向ジェンダー自認、その他の理由でスティグマと差別、犯罪視、虐待などにさらされています。

 良質な医療サービスやケアを受けることが妨げられるといったかたちの差別や人権侵害は保健医療の場でも起きています。また、保健医療従事者も同僚や経営者からの差別にさらされ、権利や役割、責任を十分に果たせずにいることがあります。

 保健医療の場における差別は、診療やサービス提供の拒否だけではありません。誤った情報を提供したり、サービス提供に第三者機関の承認を必要としたり、プライバシーや個人情報を保護する意識を欠いていたりする事例もあります。

 HIV関連の差別はほかにも、以下のように、さまざまなかたちで現れています。本人の承諾や適切なカウンセリングのない強制的な検査、HIV陽性の女性に対する強制的な不妊手術、保健医療提供者がHIV陽性の患者との接触やケア提供を極力避けようとする傾向、治療提供の敬遠や拒否、感染管理のための追加料金請求、HIV陽性の患者の隔離、母子保健サービス提供の拒否、家族や病院職員に対し患者のHIV感染を無許可で開示することを含むプライバシーや個人情報の侵害。

 

各国は何ができるのでしょうか

 国際人権法により、各国は、保健医療の場や職場における差別に取り組む法的義務があります。また、保健情報を秘匿したり、検閲したり、誤って伝えたりしてはならないと定められています。例えば、コンドーム使用ではHIVや他の性感染症の感染を防げないと述べることはできません。

 また、各国は第三者機関が人権の実現を妨げることのないようにしなければなりません。HIV陽性の女性に対する不妊の強制やHIV陽性の妊婦に対する強制妊娠中絶、キーポピュレーションに属する人たちへのサービス提供の拒否などを目的にした調査や懲罰的行為を保健医療提供者や他の人たちが行うこともそこには含まれます。

 各国は市民が自らの権利を十分に享受できる環境を確保する必要があります。たとえば、政府は保健医療の場や職場などでキーポピュレーションへの差別を禁止する法律を通すべきです。保健医療提供者は、人権を尊重してサービスを提供できるように研修を受けなければなりません。例えば、患者の尊厳と自主性を尊重し、差別なくサービスを提供する必要があります。保健サービスの利用者が自らの権利を知り、権利が侵害されたときには修正を求めることも含め、それらの権利を要求できるようにしなければならないのです。

 

保健医療分野の差別ゼロに向けた課題

 各国は2030年までにエイズ結核マラリアの流行を終結させ、肝炎と闘うことを目指す持続可能な開発目標(SDGs)を2015年に設定しました。この目標の達成には、ジェンダーの平等を実現し、すべての人が雇用ときちんとした仕事を確保でき、格差を解消するといった他のSDGsも極めて重要です。

 エイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合で加盟国が採択したエイズ終結に関する政治宣言は、すべてのSDGsを実現するには、誰も置き去りにせず、保健医療分野を含めた差別を解消する必要があることを改めて強調しました。

 保健医療の場と職場、教育の場に焦点をあてた差別ゼロは、UNAIDSのヴィジョンの中心であり、高速対応のターゲットの一つでもあります。

 その目標に向けて、UNAIDSと世界保健機関(WHO)の世界保健人材連盟(GHWA)は2016年3月1日、保健医療分野における差別ゼロの課題を発表しました。誰もが、どこでも差別を受けることなく、必要な医療を受けられる世界を実現できるよう、すべての関係者が力を合わせて努力していくための課題です。それは質の高い保健医療サービスへのアクセスを妨げ、HIV陽性者やキーポピュレーションその他の弱い立場の人びとを傷つける懲罰的な法律、政策、慣行を撤廃するなど、さまざまなかたちの差別と闘い、この人たちが自らの権利を行使できるよう力づけるということです。同時に保健医療従事者がスティグマや差別を受けずに働く権利を享受できるようにするということでもあります。

 

 

 保健医療分野における差別ゼロの課題は、主要な関係者の力を集めて行動につなげ、誰もが、どこでも差別を受けることなく必要な医療を受けられるという共通のヴィジョンの実現を目指しています。

 

7つの優先行動計画

 保健医療における差別ゼロに向けた課題を支える行動計画は、以下の重点分野で各国や国連、開発パートナー、市民社会、保健医療専門機関、学者、その他の主要関係者の関与と協力を広げ、説明責任を果たしていくことを目指しています。

 

  1. 保健分野における法的、政策的障壁を取り除く。
  2. 差別のない保健医療について基準を設定する。
  3. 保健医療の場での差別をなくす基盤としてのエビデンスとベストプラクティスを確立し、共有する。
  4. 差別のない保健医療を求める患者および市民社会の発言力向上をはかる。
  5. 差別のない保健人材育成のための資金的支援を拡大する。
  6. 差別のない保健医療の場を確立するために保健医療の専門家組織がリーダーシップを発揮する。
  7. 差別のない保健医療のためのモニタリングと評価を行い、説明責任を果たすメカニズムと枠組を強化する。

 

道を開く

 保健医療分野の差別ゼロに向けた課題が発表されてから1年で、すべての人に差別のない保健医療の提供を可能にするための行動の統合は大きく進んでいます。それと同時に、なすべきことはまだまだ多く、良質で効果的な行動がさらに必要なことへの理解も一段と進みました。この1年で例えば以下のような成果がありました:

 

> 行動計画の枠組のもとで、意思疎通と協力、経験の共有をはかるバーチャルコミュニティ「すべての人に平等な保健医療」が創設されました。この1年で70機関160人のメンバーが参加しています。

>アジア太平洋地域では保健医療分野の差別ゼロを目指す地域支援戦略が策定され、UNAIDS、米国際開発庁(USAID)、タイ、ラオス政府が主催する地域会合が開かれています。

>タイでは、22の県のデータを集めた保健医療分野におけるスティグマと差別のモニタリングシステムが始動しました。タイ保健省は市民社会組織および関係コミュニティと協力してこのシステムをスティグマ低減プログラムに広げようとしています。

HIVに関連するスティグマと差別を減らすための保健医療スタッフ研修はタイ国内の4県ですでに実施され、2017年には全国レベルに拡大する予定です。e-ラーニングツールも開発中です。

>マラウィでは、抗レトロウイルス薬および結核治療薬の欠品状況やHIV陽性者が保健医療の場で体験したスティグマと差別をリアルタイムでモニタリングするために、HIV陽性者全国協会がエアテル・マラウイ(携帯電話会社)、UNAIDSと協力してSMS(ショートメッセージサービス)による報告システムを活用しています。

>アルゼンチンでは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーインターセックス(LGBTI)の人びとにフレンドリーな21のサービスセンターが、保健医療の場をLGBTIの人びとがより利用しやすくなり、同時に保健医療の場がGBTIの人びとをより積極的に受け入れられるようになることを目指しています。このため、保健医療の専門家がLGBTIの人びと特有の保健ニーズに対応できるよう研修を実施するとともに、差別がない施設にする、利用しやすい時間に施設を開けるようにする、サービスの設計や運営に対象層の人びとが積極的に参加するといったことが含まれています。また、保健サービスと社会サービスを統合的に提供できるよう多分野にまたがるチームも編成されています。

 

 

差別のない保健医療の場

 あなたが属する保健医療機関は差別のない施設ですか。患者および保健医療提供者にとって差別のない環境を確立するには以下の最低基準を満たす必要があります。

 

  1. 保健医療センターは、ジェンダーや国籍、年齢、障害、民族的な出自、性的指向、宗教、言語、社会経済的な地位、HIV感染および他の健康状態、その他どんなグループも含め、良質な医療とケアを必要とするすべての人に対し、適切な時期に提供できます。
  2. いかなる検査および治療を行うときでも事前のインフォームドコンセントが必要です。さらに、いかなるサービスも患者が強制されて受けることはありません。
  3. 保健医療提供者は患者のプライバシーと個人情報を常に尊重します。
  4. 保健医療提供者はスティグマと差別のないサービスが提供できるよう定期的に研修を受け、十分な能力と特性を有しています。
  5. 保健医療センターは差別や患者に対する権利侵害事例を直ちに把握し、正していくメカニズムを有しています。
  6. 保健医療センターは方針やプログラムを策定する際に、影響を受けているコミュニティが必ず参加できるようにし、平等で差別のない保健医療の場を実現していきます。

 

 

 

AGEDA FOR ZERO DISCRIMINATION IN HEALTH-CARE SETTINGS

 

NON-DISCRIMINATION IS A CORE HUMAN RIGHTS PRINCIPLE AND OBLIGATION, BUT DISCRIMINATION IN HEALTH-CARE SETTINGS REMAINS WIDESPREAD AND TAKES MANY FORMS. DISCRIMINATION IS A BARRIER TO ACCESSING HEALTH AND COMMUNITY SERVICES AND PREVENTS THE ATTAINMENT OF UNIVERSAL HEALTH COVERAGE. IT LEADS TO POOR HEALTH OUTCOMES AND HAMPERS EFFORTS TO END THE AIDS EPIDEMIC AND ACHIEVE HEALTHY LIVES FOR ALL

 

DISCRIMINATION IN HEALTH-CARE SETTINGS

 

There has been great progress in the response to HIV during the past decade. The world is one step closer to eliminating HIV infections among children, more people living with HIV know their status and are accessing HIV treatment and AIDS-related deaths are declining.

However, throughout the world, stigma, discrimination, exclusion and inequality continue to make people vulnerable to HIV and hinder their access to HIV prevention, treatment and care services.

People living with HIV, key populations and other vulnerable groups continue to face stigma, discrimination, criminalization and ill-treatment based on their actual or perceived health status, race, socioeconomic status, age, sex, sexual orientation or gender identity or other grounds.

Discrimination and other human rights violations may occur in health-care settings, barring people from accessing health services or enjoying quality health care. Workers in health-care settings can also face discrimination from their co-workers and employers, or work in environments where their rights, roles and responsibilities cannot be fully exercised.

Discrimination in health care does not only relate to denial of health-care services. Examples of discrimination in health-care settings also include misinformation, requiring third-party authorizations for the provision of services, lack of privacy and breaches of confidentiality.

HIV-related discrimination can also take many forms, including mandatory HIV testing without consent or appropriate counselling, forced or coerced sterilization of women living with HIV, health providers minimizing contact with, or care of, patients living with HIV, delayed or denied treatment, demands for additional payment for infection control, isolation of patients living with HIV, denial of maternal health services and violation of patients’ privacy and confidentiality, including disclosure of a patient’s HIV status to family members or hospital employees without authorization.

 

 

WHAT CAN COUNTRIES DO?

 

Under international human rights law, countries have a legal obligation to address discrimination in health care and the workplace. They are also obliged to refrain from withholding, censoring or misrepresenting health information—for example, stating that use of condoms does not prevent the spread of HIV and other sexually transmissible infections is not permitted.

They should also prevent third parties from interfering with the realization of human rights. This includes investigating and punishing practices by health-care providers and others such as coerced or forced sterilization of women living with HIV, forced termination of pregnancies in women living with HIV or refusal to provide services to individuals belonging to key populations.

 

Countries should create a conducive environment for its citizens to fully enjoy their rights. For example, states should pass laws that prohibit discrimination against key populations, including in health-care settings and workplaces. They should ensure that health-care providers are trained so that services are provided in a manner that is compliant with human rights—for example, services should be provided in a way that is non-discriminatory and respects the dignity and autonomy of clients. They should ensure that users of health services know their rights and are able to claim them, including by seeking redress should their rights be violated.

 

 

THE AGENDA FOR ZERO DISCRIMINATION IN HEALTH CARE

 

In 2015, countries committed to the Sustainable Development Goals (SDGs), which include the target of ending the epidemics of AIDS, tuberculosis and malaria, and combating hepatitis, by 2030. Other SDGs are also critically important in reaching this goal, including achieving gender equality, employment and decent work for all, and reducing inequalities.

 

The Political Declaration on Ending AIDS, adopted by Member States at the United Nations General Assembly High-Level Meeting on Ending AIDS, reinforced that, in reaching all of the SDG goals, no one must be left behind and that discrimination, including in health care, must be eliminated.

 

Zero discrimination is also at the heart of the UNAIDS vision, and one of the targets of a Fast-Track response, which focuses on addressing discrimination in health-care, workplace and education settings.

 

To that end, UNAIDS and the World Health Organization’s Global Health Workforce Alliance launched the Agenda for Zero Discrimination in Health Care on 1 March 2016, which brings together all stakeholders for joint efforts towards a world where everyone, everywhere, is able to receive the health care they need with no discrimination. This means tackling discrimination in its many forms, including by removing punitive laws, policies and practices that undermine people living with HIV, key populations and other vulnerable groups, or block their access to good quality health-care services, and by empowering them to exercise their rights. At the same time, it is important to ensure that health-care workers enjoy their labour rights free from stigma and discrimination.

 

 

THE AGENDA FOR ZERO DISCRIMINATION IN HEALTH CARE AIMS TO ACHIEVE THE SHARED VISION THAT EVERYONE, EVERYWHERE, ENJOYS HEALTH SERVICES WITHOUT DISCRIMINATION, BY BRINGING KEY STAKEHOLDERS TOGETHER TO TAKE JOINT ACTION.

 

 

7 PRIORITIES OF THE ACTION PLAN

The action plan underpinning the Agenda for Zero Discrimination in Health Care aims to increase commitment, collaboration and accountability among countries, the United Nations and development partners, civil society, professional health-care associations, academics and other key stakeholders, for the following key actions:

 

  1. Remove legal and policy barriers that promote discrimination in health care.
  2. Set the standards for discrimination-free health care.
  3. Build and share the evidence base and best practices to eliminate discrimination in health-care settings.
  4. Empower clients and civil society to demand discrimination-free health care.
  5. Increase funding support for a discrimination-free health workforce.
  6. Secure the leadership of professional health-care associations in actions to shape a discrimination-free health workforce.
  7. Strengthen mechanisms and frameworks for monitoring, evaluation and accountability for discrimination-free health care.

 

 

 

LEADING THE WAY

 

 

One year on after the launch of the Agenda for Zero Discrimination in Health Care, there is increasing support for cohesive actions as well as an understanding that more needs to be done, better and more effectively, for achieving discrimination-free health care for all. Some examples of progress made in the past year include the following:

 

>A virtual community of practice, Equal Health for All, has been created to facilitate communication, collaboration and experience sharing in the framework of the action plan. Over the year, its membership grew to more than 160 members from more than 70 organizations.

>A Regional Support Strategy for Zero Discrimination in Healthcare Settings in Asia and the Pacific has been developed and a regional meeting is being convened by UNAIDS, USAID and the Governments of Thailand and the Lao People’s Democratic Republic.

>Thailand has embarked on systematically monitoring stigma and discrimination in health-care settings, with data collected in 22 provinces. The Ministry of Public Health is rolling out an accelerated system-wide stigma reduction programme in collaboration with civil society and concerned communities.

>In-person HIV related stigma and discrimination reduction training for health-care staff has been implemented in four Thai provinces, with plans for a national scale-up in 2017. An e-learning tool is also being developed.

>In Malawi, the National Association of People Living With and Affected by AIDS, in partnership with Airtel Malawi and UNAIDS, is using an SMS-based reporting system to provide real-time monitoring for stock-outs of antiretroviral medicines and tuberculosis medicines and experiences of stigma and discrimination faced by people living with HIV in the health-care sector. 

>In Argentina, 21 service centres friendly to lesbian, gay, bisexual, transgender and intersex (LGBTI) people aim to increase the accessibility and acceptability of health services to LGBTI people. The components of the services include the training of health-care professionals on the specific health-care needs of LGBTI people as well as on non-discrimination, accessible opening hours, and the active involvement of the target population in the design and the functioning of the services and multidisciplinary teams that provide integrated health and social services.

 

 

DISCRIMINATION-FREE HEALTH-CARE SETTINGS

IS YOUR HEALTH FACILITY FREE FROM DISCRIMINATION? MINIMUM STANDARDS HEALTH-CARE SETTINGS COULD USE TO ENSURE A DISCRIMINATION-FREE ENVIRONMENT FOR PATIENTS AND HEALTH-CARE PROVIDERS INCLUDE THE FOLLOWING:

 

01.THE HEALTH-CARE CENTRE SHOULD PROVIDE TIMELY AND QUALITY HEALTH CARE TO ALL PEOPLE IN NEED, REGARDLESS OF GENDER, NATIONALITY, AGE, DISABILITY, ETHNIC ORIGIN, SEXUAL ORIENTATION, RELIGION, LANGUAGE, SOCIOECONOMIC STATUS, HIV OR OTHER HEALTH STATUS, OR ANY OTHER GROUNDS.

 

 

02.INFORMED CONSENT IS REQUESTED FROM THE PATIENT BEFORE ANY TESTS ARE CARRIED OUT OR ANY TREATMENT IS PRESCRIBED. FURTHERMORE, PATIENTS ARE NOT FORCED TO TAKE UP OR REQUEST ANY SERVICES.

  1. HEALTH-CARE PROVIDERS RESPECT THE PATIENT’S PRIVACY AND CONFIDENTIALITY AT ALL TIMES.

04.HEALTH-CARE PROVIDERS ARE REGULARLY TRAINED AND HAVE SUFFICIENT CAPACITIES AND COMPETENCIES TO PROVIDE SERVICES FREE FROM STIGMA AND DISCRIMINATION.

05.THE HEALTH-CARE CENTRE HAS MECHANISMS IN PLACE TO REDRESS EPISODES OF DISCRIMINATION AND VIOLATION OF THE RIGHTS OF ITS CLIENTS AND ENSURE ACCOUNTABILITY.

06.THE HEALTH-CARE CENTRE ENSURES THE PARTICIPATION OF AFFECTED COMMUNITIES IN THE DEVELOPMENT OF POLICIES AND PROGRAMMES PROMOTING EQUALITY AND NON-DISCRIMINATION IN HEALTH CARE.

 

HIV陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会 TOP-HAT News第102号(2017年2月)

 《日本エイズ学会へのHIV陽性者参加支援スカラシップは2006年に東京で開かれた第20回学会の際に創設されました。「医療従事者だけでなく、HIV感染の当事者にも開かれた学会にしたい」ということで、『自ら動き出したHIV陽性者たち』と題したシンポジウムが企画され、その参加者に旅費などを支援するスカラシップが設けられたのです》

 東京都のメルマガでもすでに紹介されていますが、TOP-HAT News第102号(2017年2月)を再掲します。今回は《陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会》を中心に編集しました。《この11年間で35都道府県のHIV陽性者延べ450人がスカラシップを受けて学会に参加した》ということです。スカラシップは今回でいったん終了となりましたが、プログラムに携わってきた人たちは、これまでの支援制度の趣旨を生かし、新たな枠組みを模索しているということです。

 

 

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第102号(2017年2月)

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  TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発メールマガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

    エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

  ◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

  1 はじめに 陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会

  2 MAKE SOME NOISE

  3    HIV自己検査推奨ガイドライン(WHO)

  4    エイズ予防指針見直し

    ◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに 陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会

 HIV陽性者による第30回日本エイズ学会報告会が2月19日(日)午後、東京・高田馬場のエムワイ貸会議室高田馬場で開かれました。昨年11月に鹿児島で開かれた第30回日本エイズ学会学術集会・総会への参加支援スカラシップを受けた人たちの報告会ですが、今回は例年の会合とは少し趣が異なっていました。現行スカラシップ制度が第30回エイズ学会をもって終了するからです。

 日本エイズ学会へのHIV陽性者参加支援スカラシップは2006年に東京で開かれた第20回学会の際に創設されました。「医療従事者だけでなく、HIV感染の当事者にも開かれた学会にしたい」ということで、『自ら動き出したHIV陽性者たち』と題したシンポジウムが企画され、その参加者に旅費などを支援するスカラシップが設けられたのです。

 社会福祉法人はばたき福祉事業団、特定非営利活動法人ぷれいす東京、特定非営利活動法人日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスが中心になって運営するスカラシップ委員会はその後も毎年、HIV陽性者の学会参加を支援してきました。スカラシップの資金は製薬会社などの企業、個人からの寄付や助成金により独立した運営体制を組み、2009年の23回学会(名古屋)からは、参加のための登録証は学術集会から提供されるようになっています。

 昨年からは委員会を発展させた一般社団法人HIV陽性者支援協会がスカラシップの運営を担当していましたが、スカラシップ終了に伴い、支援協会も今年4月30日で解散することが決まりました。

 個人の旅費などの支援に対しては、寄付が得にくくなっていること、11年間の活動でHIV陽性者の交流のネットワークが全国にでき、スカラシップ創設の初期目標が一定程度、達成されたことなどが終了の理由だということです。

 2月19日の報告会では、これまでの活動のまとめも報告されました。この11年間で35都道府県のHIV陽性者延べ450人がスカラシップを受けて学会に参加しています。

 このスカラシップ制度のおかげで、学会や医学関係者には、当事者の視点や発想に触れる貴重な機会が得られることになりました。また、全国各地でHIV陽性者による地域の活動が活性化するきっかけにもなりました。学会で発表をする陽性者も増えています。

 HIV陽性者にとっては、情報収集や他の陽性者とのネットワーク作りのほか、学会での議論を通して、診察室では知ることができなかった医療従事者の熱い情熱に接し、主治医を見直すといった現象もあったようです。

 国際的なエイズ対策にはGIPAという大原則があります。「HIV陽性者のより積極的な参加」と訳される英語の頭文字です。当事者の人生や生活に大きな影響のある政策には、企画、策定、実施、評価のすべての段階に当事者自身が意味のあるかたちで参加できる枠組みを保証しなければならないという趣旨です。

 しかし、HIV陽性者が社会的に孤立したままでは、そもそもGIPAは成り立ちません。陽性者が学会に参加し、自らの考え方を語る場も獲得することを支援し、可能にするスカラシップは、わが国のGIPAを下支えし、より効果的な予防や支援の対策を実現するうえでも貴重な制度でした。かたちとしては個人の旅費に対する援助でも、それが個人にとどまらず、実は公益の実現に資する有効な資金活用である。こうした当然過ぎる考え方すら社会的に理解されにくくなっているとしたら、わが国のエイズ対策は大きな壁に直面していると言わざるをえません。その壁とは何でしょうか。錯綜する論理の糸を解きほぐしつつ、よく考えていく必要がありそうです。

 今年11月の第31回日本エイズ学会で会長を務める ぷれいす東京の生島嗣代表は報告会で、これまでの支援制度の趣旨を生かした新たな枠組みの検討を進めていることを明らかにしました。これを機会に新たな時代の条件に即した新しい枠組みが生まれることを期待したいですね。

 

2 MAKE SOME NOISE

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が3月1日の差別ゼロデーに向けたキャンペーンを公式サイトで展開しています。今年のテーマは『MAKE SOME NOISE』です。日本語だと、声を上げようといったところでしょうか。「ノイズ」をあげるために以下のような行動を呼びかけています。

  UNAIDSの公式サイトからスピーチバブルという吹き出しカードのようなものをダウンロードする。

 →そこにメッセージを書いて写真を撮る。

  →その写真をキャンペーンのFacebookページに投稿する。

 差別ゼロデーのキャンペーンは2年前にスタートし、今年で3回目。詳しくはUNAIDSのサイトをご覧下さい。

http://www.unaids.org/en/

日本語による紹介はこちら(コミュニティアクション)

http://www.ca-aids.jp/features/177_make_some_noise.html

 

3 HIV自己検査推奨ガイドライン(WHO)

 世界保健機関(WHO)は昨年11月29日、HIVの自己検査を推奨するガイドラインを発表しました。《HIV自己検査(HIVST)はより多くのHIV陽性者に検査を受けてもらう有望かつ革新的な方法であり、国連の90-90-90の第1目標-2020年までにHIVに感染している人の90%が自らの感染を知る-の達成を助けることになる》ということです。

 WHOが自己検査について短く説明した政策解説パンフレットもあわせて発表され、API-Net(エイズ情報ネット)にはそのPDF日本語版(仮訳)が掲載されています。

http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20170120n1

 なお、自己検査についてはあくまでWHOの推奨であり、日本が国内エイズ政策の中で、自己検査を勧めているわけではありません。API-Netにも《現時点では10%近い見落としがあり得る検査です。また、日本での自己検査の導入については今後十分な検討が必要と思われます》という注釈付きの掲載となっています。

 

4 エイズ予防指針見直し

 厚生科学審議会のエイズ性感染症小委員会が現在、エイズ予防指針および性感染症予防指針の見直しに向けた検討を進めています。これらの指針は感染症法基づき、ほぼ5年に一度、見直しが行われることになっており、今回が3度目です。

 小委員会のスケジュールや資料、議事録は厚生労働省のサイトで見ることができます。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=403928

 

 

雲は湧き 光溢れて~

 あっと、これは高校野球の歌だったか。3月になりました。風はまだ冷たいけれど、もうひと息ですね。路地散策は鎌倉の魅力の一つ。ついつい分け入ってみたくなる小道が、あっちにも、こっちにも、ということで・・・お住まいの方の迷惑にならない範囲で楽しませていただきましょう。

 

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 先週末、土曜日の写真です。したがってまだ2月でしたが、大町の八雲神社から少し下馬交差点の方に歩いたあたりで、夏みかんが春の日射しを浴びて輝いていました。このまま歩いて行くとどこに出るのかなあ、と思ったら。

 

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 時宗の教恩寺ですね。小さなお寺ですが、街中にあってこのひっそりとしたたたずまい。いいなあ。鎌倉観光文化検定公式テキストブックには「本堂の本尊阿弥陀如来像は運慶作といわれる」と書かれています。昔、この付近は米町と呼ばれたようで、もう一筋離れた路地の奥には「米町マフィン」というおいしいマフィン屋さんもあります。

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 こちらは路地ではなくて、大町と下馬交差点(つまり若宮大路)の間にある横須賀線の踏切り。後ろの青空と雲が見事でした。うっかりすると夏雲のような錯覚も・・・しないか。

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 運が悪いと、鎌倉駅に停車した電車が走り出して通りすぎるまで、延々とまたなければならないこともありますが、ま、急ぐわけでもないし・・・ということで、電車がくるのを待って一枚。某タレントさんのように叱られるといけないので、ちゃんと踏切の外から撮っています。