横ばい傾向続く 東京都HIV感染者報告

 メルマガ東京都エイズ通信の第114号が発行されました。今年1月2日から2月21日までの東京のHIV感染者報告数が紹介されています。
 http://archives.mag2.com/0001002629/?l=nzj09bf662

 平成29年1月2日から平成29年2月21日までの感染者報告数(東京都)
  ※()は昨年同時期の報告数
    HIV感染者    49件 (51件)   
    AIDS患者     16件 (13件)   
     合計        65件 (64件)

 HIV感染者数、AIDS患者数ともに昨年同時期と同程度のペースで報告されています。]

                ◇

 昨年同時期とほぼ同数ですね。内訳を見ると新規HIV感染者報告がちょっと減って、エイズ患者報告はちょっと増えたかたちになっています。2カ月だけで傾向を判断するのは早計に過ぎますが、東京都内の報告は1昨年かなり減り、昨年はまた少し増加に転じ、結果として横ばい傾向かなあという印象です。基本的にはその状態が続いている(つまり、増加を抑えている)ということは、東京の場合、感染が集中的に報告されているコミュニティでの努力が一定の(あるいはそれ以上の)成果をあげていることだと評価すべきでしょう。
 統計情報に基づく専門家のお話を聞くと、微減の傾向も現れているということのようですが、コミュニティの努力に対するサポートがなくなってしまえば、そうした傾向もおそらくは消え、別の傾向が顕著になってくるでしょう。
 T as PがT as P単独では成立しないといった程度の智恵は政策決定者、あるいはそれに影響を与える発言者にも求められるのではないかという印象もますます強くなります(注:最後の2行は東京都の専門家会議ではなく、厚労省の委員会を傍聴した際の感想でした。話が跳んでもうしわけありません)。

エイズ&ソサエティ研究会議(JASA)第125回フォーラム『エイズ予防指針見直し傍聴報告』 3月21日(火)

 昨年12月から続けられているエイズ予防指針の改訂に向けた議論をテーマにフォーラムを開催します。

 日時:2017年3月21日(火)午後7時~8時半
    場所:ねぎし内科診療所(地下鉄丸ノ内線四谷三丁目1番出口)
    東京都新宿区四谷三丁目9 光明堂ビル5階
     http://www1.odn.ne.jp/negishi-naika/basho.html
参加費:1000円
問い合わせ:エイズ&ソサエティ研究会議事務局 yz235887@za3.so-net.ne.jp

 

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 《感染症法に基づくエイズ予防指針は1989年に告示されて以来、ほぼ5年をメドに見直しが行われています。医学研究の成果や社会的環境の変化などを踏まえ、流行の現状により即した対策を実施していくための見直しです。これまでに2度にわたる改訂があり、今回が3度目の見直しとなります。
 昨年12月に厚生科学審議会エイズ性感染症小委員会で検証作業がスタートし、今年2月までに3回の会合が開かれました。4回目の会合は4月になる見通しです。
 今回はエイズ性感染症の2つの予防指針の見直しが同時に進められていることが大きな特徴です。また、エイズ予防指針については最近のHIV治療の進歩と研究の成果を踏まえ、予防としての治療(T as P)の考え方をどこまで指針に反映させるか、HIV感染にまつわる社会的な諸課題への対応にそうした発想がどのように影響していくのかが焦点となっています》

 厚生科学審議会エイズ性感染症小委員会については、厚労省の公式サイトに資料や議事録が掲載されています。こちらから。
 

「HIV.gov」に名称変更へ 

 米国政府のHIV/エイズ啓発サイト「AIDS.gov」の名称がこの春から「HIV.gov」に変更になるそうです。昨年の世界エイズデー(12月1日)の前日にAIDS.govのコミュニケーション担当の方が公式サイトのブログで変更方針を発表しました。その日本語仮訳です。

 春というのは3月なのか、4月なのか。ブログには明確な期日は示されていませんが、変更されればすぐに分かることですね。

 なぜ変更するのかという背景説明も載っています。抗レトロウイルス治療の進歩で、HIVに感染した人の多くがエイズを発症せずに長く生きていること、サイトの検索にもキーワードとして「エイズ」より「HIV」の方が多く使われるようになっていることなどが理由として挙げられています。

 米保健福祉省HIV/エイズ感染症政策事務所のRichard Wolitski所長(事務所の名称、所長の名前の読み方、そして、そもそもこの方が所長なのかどうかも私は知らないので、詳しい方がいらしたら教えてください)という方の「HIVの感染を止めるという意味でも、HIVで健康が損なわれるのを防ぐという意味でも、名称変更により私たちすべてがより明確にHIV終結を目指していくことができます」コメントも最後に紹介されています。世間的には「エイズ」の方が通りはいいけれど、これまでの医学的な研究の成果とHIVに感染している人たちの生活の実情を踏まえれば、「HIV」をもっと強調すべきだという考え方に基づく変更ということのようです。

 ところで、日本ではどうなのか。

 「エイズ」という呼び方も、もともと英語由来の名称(というか略称)で、それが日本語化されるほどに根付いてしまったという事情が根底にあります。また、個人的には、HIVをなるべく使用するよう試みつつも、なかなか広がらないなあという実感もあります。そうしたことを考えながらエイズHIVを使い分け、今日に至るという面もあるので、激変は困難でしょう。今後も併用状態を認めつつ、それでもHIVエイズの違いを機会あるごとに説明する労はいとわず、徐々にでもHIVへの移行を進めていくといったところでしょうか。

 

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HIV.gov」に名称変更へ

 2016年11月30日、ミゲル・ゴメス、AIDS.govディレクター兼コミュニケーション担当上級顧問、米保健福祉省HIV/エイズ感染症政策事務所

https://blog.aids.gov/2016/11/we-are-changing-our-name-to-hiv-gov.html?hpslider=4

 

 世界エイズデーに際し、AIDS.govの名称を2017年春から、HIV.govに変更することを公表します。

 

なぜ変えるのか

 私たちは科学的成果とデータに基づき、利用者の声を集めてコミュニティのニーズに対応することを約束してきました。名称変更はこの約束を尊重するものです。科学的成果を反映したプログラムを進めていきたいと考えるからです。また、HIVという用語を使用する投稿者が増え、ウェッブサイトの情報検索も「HIVエイズ」で行われることが多くなっています。

 名称変更の準備にあたり、更新とフィードバックを皆さんと共有したいと考えています。変更後は「AIDS.gov」でこのプログラムを検索するユーザーが自動的に新しいURL(またはアドレス)につながる予定です。このプログラムは保健福祉省のマイノリティ・エイズ・イニシアティブ基金(SMAIF)の資金で運営されています。

 情報は迅速に共有したいと思います。詳細は下記をご覧下さい。フィードバックをお待ちしています。

 

背景

 

なぜ変更するのか

 HIVエイズの語られ方について、私たちは1年以上前から注目し、名称変更に関するパートナーや利用者の意見を集めてきました。また、他のウェブサイトやソーシャルメディアで使われている用語も調べ、その用語が当サイトではどう使われているかも確認してきました。その結果、以下のようなことが分かりました:

 

・科学は進歩している: 流行の初期から「エイズ」という用語は社会に広く浸透しています。研究者がエイズの原因を特定し、国際科学機関がその原因ウイルスをヒト免疫不全ウイルス(HIV)と命名する以前に、広く報道で使われたからです。

   現在では早期に検査で診断され、ケアにつながり、抗レトロウイルス治療(ART)を開始し、処方通りに治療を継続しているHIV陽性者は、生涯にわたってウイルス量を検出限界以下に抑え、エイズの発症を防ぐことができます。ウイルス量が抑えられているので、HIV陽性者(PLWH)の健康状態は改善し、HIV関連の死亡が減り、他の人への感染を防ぐこともできます。

   エイズはなくなったわけではありません。米国でも世界全体でも、多くの人がエイズを発症し、その併発症で亡くなっています。しかし、HIV感染の治療は何年にもわたって改善を重ねてきました。エイズはすでにHIV感染の避けがたい結果というわけではありません。ウイルス量を極めて低く、あるいは検出限界以下に抑え、エイズの発症を未然に食い止めることが現在のHIV医療ケアの第一目標となっています。効果的なARTにより、過去にエイズと診断された人も含め、ほとんどすべてのHIV陽性者がウイルス量の抑制を達成することができます。

   エイズではなくHIVに焦点をあてる理由はほかにもあります。一連の科学的成果によりHIV感染予防策は2010年以降、劇的に改善しました。HIV陽性者が早期に治療を受ければ、HIV陰性のパートナーへの感染は93%も減らせることが長期的な追跡調査で明らかにされています(HPTN052)。また、抗HIV薬の錠剤を1日1回服用することで、HIV陰性の人の感染リスクも大きく下げることができます。(iPrEx研究、TDF2研究、パートナーPrEP試験)。

・検索が変化している: 当サイトのインターネット検索は現在、「エイズ」よりも「HIV」の方が2倍も多くなっています。さらに私たちが加わるソーシャルメディアの会話でも“#HIV”という用語がフォーカスされています。名称をHIV.govに変えることで、ユーザーに必要な情報を提供するための私たちの能力が高くなります。

 ・ストーリーは進化している:流行の初期には、「エイズ・ビクティム(エイズの犠牲者)」という呼び方がしばしばなされました。しかし、エイズを発症した人の多くはそう呼ばれることに異を唱えています。自らを「犠牲者」とは思っていないからです。多くの人が「ピープル・ウィズ・エイズ」と呼ぶように求めています。HIV陽性者が自ら選んだ用語で自己を定義する動きの出発点でした

 

 現在では国内のHIV陽性者の多くが自分自身およびより広いHIVコミュニティについて議論をするときには、「エイズ」よりも「HIV」という言葉を使っています。

 コミュニティによるコミュニティのための他のサイトと同様、私たちのサイトのPositive Spin digital storytelling initiativeやBlack Voicesブログシリーズでもそうした動向は確認できます。

 

パートナーの意見は?

 名称変更の議論は、35年におよぶ対策の成果の反映であり、HIV陽性者が長く、健康的に生きていけるようになったことで、その必要性はますます強くなっています。

 私たちのパートナーも、「エイズ」という言葉がHIV感染のリスクに直面するキーポピュレーションへのサービス提供を困難にしていると指摘しています。「有色人種のコミュニティやLGBTコミュニティの若者が保健医療システムを避けるのは、エイズにまつわるスティグマをより多く経験しているからです。HIVについて現状を話し、それは死の宣告ではないと伝えることができれば、多くの人が診療所を訪れ、治療を受け、生きていけるようになるのです。他の医師もエイズの発想から抜け出し、人びとが生きていく助けになることを歓迎すると思います」とワレン・バンス・コミュニティ診療所のミシェル・コリンズ・オグレさんは語っています。

 「多数の人の努力と闘いの継続により、やっとここまできました。私が今の仕事を始めた1985年には、HIVに感染して生きることのリアリティは、現在とはまったく異なっていました。その成果をいかに嬉しく思っているか、説明もできないほどです。それでもまだ、私たちの仕事は終わりにはほど遠い状態です」と米保健福祉省HIV/エイズ感染症政策事務所長、リチャード・ウォリツキ博士は述べています。「HIV陽性者は、HIVに感染していない人と同じくらい長く生きられるようになりました。私はHIVに感染して20年以上生きていますが、エイズを発症するとは思っていません」

 ウォリツキ博士は次のように指摘しています:「HIVの感染を止めるという意味でも、HIVで健康が損なわれるのを防ぐという意味でも、名称変更により私たちすべてがより明確にHIV終結を目指していくことができます。HIV感染の防止とHIVケアの改善に献身的努力を続けている人たち、そしてエイズと診断されたか否かを問わず、私たちの中のHIVに感染している人たちのすべてが対象なのです。これからもHIV感染のリスクにさらされているすべての人たち、HIV陽性のすべての人たちのニーズに対応できるように活動を続けていきます。エイズを発症している人とそうでないHIV陽性者では、経験もニーズも異なっていること、そしてそれを考慮しながら活動を続けていく必要があることも理解しています。私たちすべてが、流行の終結という夢に向け、力をあわせて活動していく必要があります。目標の達成はすでに私たちの視野に入っています。ただし、まだ終わったわけではありません」

 

 

We Are Changing Our Name To: “HIV.gov”

 

November 30, 2016 • By Miguel Gomez, Director, AIDS.gov, and Senior Communications Advisor, Office of HIV/AIDS and Infectious Disease Policy, U.S. Department of Health and Human Services

 

 

This week of World AIDS Day, we are announcing that we will be changing our name from AIDS.gov to HIV.gov in the spring of 2017.

 

Why the name change?

 

We write frequently about our commitments to following the science, tracking data, gathering user feedback, and responding to the community’s needs—and our name change honors those commitments. We want our program to reflect today’s science, as well as the terms most of our visitors use to tell their stories about HIV or to search for information about HIV and AIDS on our website.

 

As we prepare for this name change, we’ll share updates and feedback we receive. After the changeover, our program, which is funded through the Secretary’s Minority AIDS Initiative Fund (SMAIF), will automatically redirect users who search for “AIDS.gov” to the new URL (or web address).

 

We look forward to sharing more with you soon! For more details about our name change, read below. And we look forward to your feedback.

 

 

Background

What factors are driving the change?

 

For more than a year, we’ve been listening to how people talk about HIV and AIDS, and we asked our partners and users for their input on the name change. We’ve also been watching how the terms are used on other websites and social media, and we assessed how they’re used on our site. Here’s what we found:

 

    Science is advancing: In the beginning of the epidemic, the term “AIDS” became implanted in the public’s mind because it was used in the popular press before researchers identified the cause of AIDS and an international committee of scientists named it the Human Immunodeficiency Virus (HIV).

 

Today, people with HIV who are diagnosed early, linked to care, start antiretroviral therapy (ART), and take it as prescribed, can achieve life-long viral suppression that prevents HIV infection from progressing to AIDS. Viral suppression improves health outcomes for people living with HIV (PLWH), reduces HIV-related deaths, and prevents transmission of the virus to others.

 

AIDS has not gone away. People in the United States and around the world still develop AIDS and die from its complications. But as our ability to treat HIV infection has improved again and again over the years, AIDS is no longer an expected outcome of having HIV. Today, stopping the progression of the disease before AIDS develops by suppressing the virus to very low or undetectable levels is the primary aim of HIV medical care. Effective ART means that almost everyone living with HIV can achieve viral suppression, including many of those who had been diagnosed with AIDS in the past.

 

There are other reasons for focusing now on HIV rather than AIDS. Since 2010, a string of major scientific advances have dramatically improved our ability to prevent HIV transmission. Key studies showed that early treatment of PLWH could reduce transmission of the virus to HIV-negative partners by 93% over extended follow-up (HPTN 052), and that taking a daily pill containing HIV drugs significantly lowered the risk of an HIV-negative person contracting the virus (iPrEx study, the TDF2 Study and the Partners PrEP trial ).

 

 

    Searches are changing: Today, twice the number of people who come to our website from internet searches use the term “HIV” rather than “AIDS.” In addition, the majority of the social media conversations we participate in focus on the term “#HIV.” Changing our name to HIV.gov will improve our ability to help our users find the information they need.

 

Stories are evolving: In the early days of the epidemic, the public often referred to “AIDS victims.” But many people living with AIDS pushed back against that term because they did not see themselves as “victims.” They asked to be called “people with AIDS,” and this marked the beginning of a movement by those with HIV to define themselves on their own terms.

 

Now many of the people living with HIV with whom we work across the nation use the term “HIV” more often than “AIDS” to discuss themselves and the wider HIV community.

 

We see this in the personal stories shared by those who are HIV-positive in our Positive Spin digital storytelling initiative and in our Black Voices blog series, as well as in other resources by and for the community.

 

 

 

 

What did our partners say?

 

Our partners tell us that the pending name change reflects the progress we’ve made over 35 years of the epidemic and reinforces that it’s now possible for individuals to live long and healthy lives with HIV.

 

Our partners also noted that the term “AIDS” continues to make it difficult to serve key populations at risk for/living with HIV infection. “A big reason youth from communities of color and the LGBT community don’t come into the healthcare system is because they experience more stigma associated with AIDS. Talking about HIV in its current state and that it’s not a death sentence helps people come into my clinic, get on treatment, and be able to live life. I think other physicians would also welcome the chance to get out of the AIDS mindset and help people live,” said Michelle Collins Ogle, at the Warren-Vance Community Health Center, Inc.

 

“So many people have worked so hard and fought for so long to get us to this place. I started doing this work in 1985 when the reality of living with HIV was so very different than it is today. I cannot tell you how happy I am about the progress that has been made, but our work is far from over,” said Dr. Richard Wolitski, Director of the HHS Office of HIV/AIDS and Infectious Disease Policy. “Now people with HIV can live just as long as their HIV-negative peers. I’ve been living with HIV for more than 20 years, and I don’t expect to ever develop AIDS.”

 

Wolitski noted: “This change focuses all of us more clearly on ending HIV, whether that’s stopping transmission or preventing the destructive effects of HIV on the body. It represents all of us who are dedicated to stopping HIV transmission and improving HIV care, as well as those of us who are living with HIV, regardless of whether we have been diagnosed with AIDS. We will continue working to address the needs of all people who are at risk for, or living with, HIV. We understand that the experiences and needs of people living with AIDS can be different from those of other people living with HIV and that we all need to take this into account in the work that we do. Together we’ll continue to work toward our dream of seeing the end of this epidemic. It is within our grasp, but our work is not over yet.”

 

 

「はじめに」で綴るエイズ対策史 その5

 《課長と部下2人が残業をしていた。部下の1人が指先を切って出血したので、もう1人が手当をしようとすると、指を切った部下があわてて「さわっちゃだめ」と制止する。会社には黙っていたが、HIVに感染しているのだという。HIV陽性者であることをカミングアウトする結果になった部下に対し、課長は何と言葉をかけるのか。課長になったと思って考えてください》『課長さんどうします 講演会傍聴記』から


 「はじめに」で綴るエイズ対策史 その5 をTOP-HAT Forum(東京都HIV/AIDS談話室)のサイトに掲載しました。2010年4月から7月までの4本(第21~23号)。各号の目次は以下の通りです。
 
《サッカーW杯にかける希望》(第20号 2010年4月)
《議論に筋目を 第24回日本エイズ学会ニューズレター発刊》(第21号 2010年5月)
《感染報告の減少をどう受け止めるか》(第22号 2010年6月)
《オフィス街のエイズ講演会》(第23号 2010年7月)

 サッカーのW杯が6月に開幕し、ほぼ1カ月にわたり熱戦が展開されました。開催国・南アフリカは世界最大のHIV陽性者人口を抱える国であり、2000年(と2016年)には国際エイズ会議が開かれています。これを見逃す手はないでしょうということで、さっそく取り上げました。
 「垣根を越えよう」をテーマにした11月の日本エイズ学会学術集会・総会では、準備段階からニューズレターを発行しています。啓発という意味でも注目の試みでした(ただし担当者はへとへと)。
 健康落語の立川らく朝さんは当時、二つ目でしたが、2015年4月に真打ちに昇進されています。

 東京都の講演会では、その日のサッカーW杯日本対パラグアイ戦をすかさず取り上げ・・・。
 《日本は惜しかったですねえ。惜しかったけれど、パラグアイもあまり調子は良くなかったそうです。腹具合が悪かった・・・》
 つかみだけでなく、講演全体も見事でした。傍聴記もあわせて、ぜひお読みください。
 http://www.tophat.jp/material/d.html

(追加) 冒頭で紹介した『課長さんどうします 講演会傍聴記』は私の感想文ですが、2010年当時の課長さんだけでなく、現在の課長さんにも聞いてみたいですね。

 どうします?

 

 

 

復刻シリーズ3 浅読みエイズ動向委員会報告2012年確定値 エイズと社会ウエブ版100

 先ほどの復刻シリーズ2は2012年の年間報告数の速報値段階での話でした。こちらはその3カ月後に確定値が発表された段階での感想文。この年は速報値と確定値の誤差がわずか3ということで、件数としてはほぼ同じでした。委員長コメントも《今回はあくまで傾向の指摘にとどめ、感染の実際の動向がどうなのかには踏み込まない慎重コメントの印象》です。ただし、状況認識は変わっていません。私の感想も同じことの繰り返しというか・・・。

 《日本の人口規模を考えれば、年間1500件程度の報告は、国際的な比較の上では極めて流行が小さく抑えられているということではあるが、そうした低流行期、ないしは局限流行の一歩手前ぐらいの時期というのは、対策の継続が非常に困難になる時期でもある。「あ、横ばいね、それじゃあもうエイズ対策はほどほどでいいんじゃないの」といったかたちで、この状態を何とか実現してきた人たちを窮地に追い込むような雰囲気が広がっていくような危惧もまたある》

 

 

◎浅読みエイズ動向委員会報告2012年確定値 エイズと社会ウエブ版100  (2013.5.23)

 エイズ動向委員会が22日に発表した2012年の新規HIV感染者報告と新規エイズ患者報告の年間確定値はAPI-Netにも掲載された。詳細はAPI-Netの『平成24年発生動向年報』でご覧いただくとして、ここでは少し、私の感想を書いておこう。まずは、2002年からの年間確定値の推移。動向年報概要にはグラフで傾向が分かりやすく示されているが、ローテクが売りの当ブログは数字で示しておく。数字は左から、対象年、合計報告数(感染者報告数、患者報告数) 合計報告数に占める患者報告数の割合になる。

 

 02年   922  ( 614,  308 )     33.4%

 03年   976    (640,  336 )  34.4%

 04年   1165 ( 780,   385 ) 33.0%

 05年  1199 ( 832,  367 ) 30.6%

 06年  1358 ( 952,  406 ) 29.9%

 07年  1500 ( 1082,  418 ) 27.9%

 08年     1557    ( 1126,   431 )   27.7%

    09年  1452 ( 1021,   431 )      29.7%

 10年  1544  ( 1075,  469 )      30.4%

 11年  1529 ( 1056,  473 )    30.9%

 12年   1449  ( 1002,   447 )      30.8%

 

 委員長コメントにもあるように新規感染者報告、患者報告ともに07年、08年あたりから横ばい傾向にある。年間の患者感染者報告の合計は04年に1000件の大台を超え、3年後の07年には1500件レベルに達し・・・というかたちで急増傾向を示していたが、08年の1557件以降、横ばい傾向に転じた。この3年は横ばいからさらに微減の傾向といえるかもしれない。ただし、これはあくまでも報告の話。実際の感染が増加しているのか、横ばいなのか、減っているのかを示すデータではない。2月の速報値段階の委員長コメントでは、報告数の推移を踏まえ、岩本愛吉委員長が「経年傾向として新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」とかなり踏み込んだ見解を示していた。この点について当ブログでも当時、そうかもしれないし、そうでないかもしれない、ああでもない、こうでもないと2回もぐだぐだと書いている。

 

 《「感染横ばいの可能性」2012年速報値でエイズ動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90 》 

 《しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について》

 

 速報値段階と比べ、確定値の報告数は3件しか増えていないが、今回はあくまで傾向の指摘にとどめ、感染の実際の動向がどうなのかには踏み込まない慎重コメントの印象を受けた。2000年ごろからの国内のHIV感染の増加は主にMSM(男性と性行為をする男性)の間での感染拡大によるものと見られていたし、実際の対策もそうした認識のもとでゲイコミュニティにフォーカスしていた。たとえば06年度から5年間の《エイズ予防のための戦略研究》の《首都圏および阪神圏の男性同性愛者を対象としたHIV抗体検査の普及強化プログラムの有効性に関する地域介入研究》などがそうした動きの一つといえる。

http://www.jfap.or.jp/strategic_study/htmls/page09_2.html

 

 その対策の成果が現在の報告ベースにおける横ばい傾向に反映している可能性は十分にある。したがって速報値ベースでの「経年傾向として、新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」とする委員長見解にも可能性レベルではあるが、一定の説得力はあるだろう。ただし、報告データからそれが読み取れるようになった時期に(つまり、この1、2年ということだけど)、その要因と考えられる条件(たとえば戦略研究の成果を引き継ぎ、さらに発展させるような対策)が存在しているのかどうか。この点は少々、疑問ですある。むしろエイズの流行に対する社会的な関心の低下がそうした条件を崩しているのではないか。個人的にはそんな印象も受ける。また、MSM対策で築いた基盤を生かし、他の感染経路における感染の拡大を防ぐ動きが生まれるといった波及効果も、現状ではあまり期待できそうにない。

 

《一方で、20012年においても、新規HIV感染者報告数は1002件、新規AIDS患者報告数は447件と、年間1500件程度の新規報告があり、また、新規AIDS患者報告数が3割を占める状況が続いている》

 

 かりに実際に感染が拡大から横ばいの傾向に転じているとしても、それは「年間1500件程度の新規報告」があるという前提での話です。もちろん、日本の人口規模を考えれば、年間1500件程度の報告は、国際的な比較の上では極めて流行が小さく抑えられているということではあるが、そうした低流行期、ないしは局限流行の一歩手前ぐらいの時期というのは、対策の継続が非常に困難になる時期でもある。「あ、横ばいね、それじゃあもうエイズ対策はほどほどでいいんじゃないの」といったかたちで、この状態を何とか実現してきた人たちを窮地に追い込むような雰囲気が広がっていくような危惧もまたある。

 

 今回の委員長コメントはその意味で、速報値段階よりも危惧の部分への目配りを利かせたという感じも伝わり、ひとまず妥当な判断なのではないかと思う。

 

 

復刻シリーズ2 「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90

 失われたブログからの復刻シリーズ第2段です。2013年2月のエイズ動向委員会で発表された2012年の年間新規HIV感染者エイズ患者報告の速報値について取り上げた《「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント》およびその続報の《しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について》を掲載します。

動向委員会はこのときに初めて、報告だけでなく、国内における実際の感染も「横ばいとなっている可能性がある」との判断を示しました。

《あくまで、「可能性がある」という慎重な表現ではあるが、80年代後半からほぼ一貫して続いていた感染拡大傾向に歯止めがかかったとしたら対策の大きな成果といえる。とりわけ、何とか低流行期の段階に踏みとどまってきた日本のような国で、拡大を横ばいへと転じることができたのなら世界が注目すべき画期的な成果というべきだろう》

かなり踏み込んだ判断だったと思います。以下はそのときの私の感想。評価はしつつも、どっちつかずのことを言っていたわけですね。ま、「傍観者」といわれてもしかたがないかな。せめて「伴走者」ではありたいと思うけど、実際、「傍観者」なんだし・・・。

《様々な立場の人が、様々な観点から、地道に続けてきた対策が無意味であったり、効果のない無駄なことであったりしたわけでは決してない。そうした意味で、今回の動向委員長コメントは大いに勇気づけられるものであるが、同時にこれで何かが終わったような安心感が社会に広がり、エイズ対策はもういいんじゃないのといった気分が広がるようだと次の展開がむしろ心配になる。ここはもう少し注意深く推移を見ていく必要がありそうだ》

 

 

 

◎「感染横ばいの可能性」2012年速報値動向委員長コメント エイズと社会ウエブ版90

 (2013.2.13)

厚労省エイズ動向委員会が22日、昨年1年間の新規HIV感染者・エイズ患者の速報値を発表した。2011年12月26日から12年12月30日までの約1年間の四半期ごとの速報値を合計したもので、報告数は以下のようになっている。

 

 新規HIV感染者報告 1001件 (過去6位)

 新規エイズ患者報告   445件 (過去3位)

    合計     1446件  (過去6位)

 

今回の速報値について動向委員会の岩本愛吉委員長は「経年傾向として新規HIV感染が増加しているというデータはなく、新規の感染については横ばいとなっている可能性がある」との委員長コメントを発表した。

http://api-net.jfap.or.jp/status/2013/1302/20130222_coment.pdf

 

 動向委員会のデータはあくまで報告数であり、国内の感染の現状を表わすものではない。報告数はこの3年ほど横ばいないしは微減の傾向を示していたが、そこには検査・相談件数の減少からうかがえる社会的な関心の低下も要因として考えられることから、動向委員会はこれまで、実際の感染は拡大の傾向が続いているとの見方をとっていた。しかし、今回は速報値段階とはいえ、新規感染者、患者報告がともに前年より減少しており、報告データを詳細に検討したうえで、「横ばいとなっている可能性がある」との判断を示すことになった。あくまで、「可能性がある」という慎重な表現ではあるが、80年代後半からほぼ一貫して続いていた感染拡大傾向に歯止めがかかったとしたら対策の大きな成果といえる。とりわけ、何とか低流行期の段階に踏みとどまってきた日本のような国で、拡大を横ばいへと転じることができたのなら世界が注目すべき画期的な成果というべきだろう。

 

 考えられる要因はいくつかある。抗レトロウイルス治療が進歩し、HIVに感染した人の体内のウイルス量を長期にわたって大きく減らすことが可能になった。このことがHIVに感染した人のエイズ発症を防ぎ健康状態を保つという治療効果だけでなく、他の人への感染を防ぐ予防上の効果ももたらすことが最近、さまざまな研究成果から繰り返し指摘されている。つまり、自らの感染を早期に把握し、適切な治療を受ける人が増えれば、結果としてHIV感染が成立する機会も減る。したがって、新規感染の拡大が抑えられるという構図である。日本は長期のデフレにあえいできたとはいえ、なお安定した保健医療基盤と経済力を有しており、治療の進歩を予防対策上の成果につなげる条件にも恵まれている。ただし、そうした条件があっても、HIV感染が分かれば、不利益が大きくなるような社会では、検査を必要とする人ほど検査を避けることにもなりかねない。検査の普及が予防に結びつくには、HIVに感染している可能性のある人が安心して検査を受けられる環境を整えていく必要がある。世界のエイズ対策でキーポピュレーション(HIV/エイズの流行に大きな影響を受け、対策の鍵を握る人たち)の参加が重視され、わが国のエイズ予防指針で、特別な配慮を必要とする個別施策層への支援が強調されているのもそのためである。

 

 エイズ動向委員会の昨年の速報値を見ると、同性間の性感染が新規HIV感染者報告で報告全体の72%、新規エイズ患者報告で54%を占めている。一方でこの10年を振り返ると、エイズ予防のための戦略研究やHIV/AIDS予防啓発のためのコミュニティセンターの開設など、個別施策層の中でも、とりわけ男性と性行為をする男性(MSM)を対象にした予防啓発活動や支援対策にかなり重点を置いた施策が展開されてきた。感染が最も起きているところに対策の資源をシフトしていくという意味では、妥当な政策判断だったというべきだろう。治療の進歩を予防対策にも生かすという観点から、こうした地道な対策の積み重ねがもたらした成果はもっと重視されていい。同時にこのことは、HIV感染の流行がMSMの間での感染から他の個別施策層へと移行することがあるとすれば、その動向をいち早く察知し、それぞれの個別施策層に対応する当事者と協力して対策を組み立てていく必要があることも示している。引き続き動向把握には緊張感を持ってあたる必要がある。

 

 新規感染の拡大に歯止めがかかったのか、あるいはそこから縮小に向かうのか。動向委員会は「横ばいの可能性がある」という見方を打ち出したが、私には実はまだ、よく分からない。東京都のデータを見ると、11年には新規HIV感染者報告もエイズ患者報告も大きく減少したが、12年はまた増加に転じている。今回の全国レベルの速報値とは動きがやや異なる。その時期、地域によって一律には論じられないのかもしれない。また、診療や陽性者支援の現場の人たちから皮膚感覚ベースの話を聞くと、必ずしも拡大傾向に歯止めがかかったとは言えない感触を持つ人も多い。一時的に成果と見えたものに安心して対策に熱が入らなくなると、かえって次の感染拡大の要因を作ってしまう懸念もある。

 

 様々な立場の人が、様々な観点から、地道に続けてきた対策が無意味であったり、効果のない無駄なことであったりしたわけでは決してない。そうした意味で、今回の動向委員長コメントは大いに勇気づけられるものであるが、同時にこれで何かが終わったような安心感が社会に広がり、エイズ対策はもういいんじゃないのといった気分が広がるようだと次の展開がむしろ心配になる。ここはもう少し注意深く推移を見ていく必要がありそうだ。

 

 

 

 

◎しつこいようですが、もう一度「感染横ばいの可能性」について (2013.2.25)

 厚労省エイズ動向委員会が2月22日、わが国のHIV感染について「横ばいとなっている可能性がある」という新しい判断を示したことは先日、紹介した。どうも新聞の記事にはあまり取り上げられず、載ったとしても「報告が横ばい」と解釈しているようで、私にはこれは誤解というか、動向委員会のメッセージが正しく伝わっていないように思う。もちろん報告の数字も横ばいではあるが、新規HIV感染者・エイズ患者の報告数の合計で見ると、これはもう2007年ぐらいから1500件前後で推移しているので、目新しい傾向ではない。そうではなくて、今回は報告のデータを検討した結果、実際の国内の感染も横ばいになっているという判断を打ち出したわけで、これは何人かの動向委員に確かめてみても、いままでにはない判断だという。10年前の2002年の感染者・患者報告の合計は922件と1000件未満だったから、1500件前後での横ばいというのは、感染のフェイズが一段、上がったところでの横ばいということでもある。地道な対策の成果ということはできるが、同時にそれは横ばいから減少に転じたわけではないというメッセージでもある。これで対策をゆるめてもいいというような気分が広がれば、また拡大基調に戻ってしまうという微妙な分岐点だろう。重複になるが、念のためにもう一度、書いておく。

 

 

米国内の新規HIV感染は6年前より18%減少 CDC

 全米のHIV新規感染は《2008年には推計4万5700人だったのが14年には3万7600人になっている》ということで、年間ベースの比較では18%の減ということです。

 米国政府のエイズ啓発サイトAIDS.govのブログに2月14日付で掲載されたCDC報告の日本語仮訳。昨年末か今年の初めにすでに公表されていたように思いますが、2月13日~16日にシアトルでレトロウイルス・日和見感染症会議(CROI2017)が開かれたのを機会に資料を整理して発表したようですね。

 米国内のHIV新規感染の減少についてはハイ・インパクト予防(HIP)アプローチが機能しているとして、(自画自賛とまではいいませんが、ともかく)自ら評価するとともに、成果には集団や地域によるばらつきがあるため、このアプローチをさらに進めていく必要があることも指摘しています。

 HIPは簡単に説明すると《最も影響の大きい人口層や地域に特別な配慮をしつつ、科学的に証明され、費用対効果が高く、効果の測定が可能な対策》ということだそうです。HIPの成果をさらに高めるため、今後は以下のような対応に力を入れるようですね。

 ・HIV検査の簡素化し、利便性を高め、ルーティン化する;

 ・HIV感染が判明したその日からHIV陽性者がケアと治療を受けられるようにする;

 ・HIVに感染していない人が、包括的注射器サービスやPrEPなどすでに示した予防に関する情報とツールを得られるようにする。

  アメリカはこうなっていますよ(ただし、政治の激震でそれもかわるかもしれませんが、とにかくいまはまだ、こうなっている)ということを知っておく必要はあります。だからこそ、仮訳作りにもいそしみました。

 ただし、アメリカではここまでやっているのに、日本はガラパゴス化しちゃって・・・みたいな方向に話が拡大していくと、ちょっとややこしくなってきますね。

 

blog.aids.gov

  

米国内の新規HIV感染は6年前より18%減少

 この減少は米国のHIV予防と治療普及の努力が成果を上げていることを示している。ただし、コミュニティによってその成果は一様ではない

2017.2.14 米疾病管理予防センター(CDC)  AIDS.govのブログから

 2014年の米国内の年間新規HIV感染件数は2008年当時より18%減ったとする米疾病管理予防センター(CDC)の最新推計が本日、シアトルのレトロウイルス・日和見感染症会議(CROI)で報告された。2008年には推計4万5700人だったのが14年には3万7600人になっている。しかし、国内のすべての集団で同じように成果が上がっているわけではない。

 「わが国のHIV予防ハイ・インパクト・アプローチは機能しています。私たちにはツールがあり、HIVから自由になるためにそのツールを活用しています」とCDCのHIV/エイズ・ウイルス性肝炎・性感染症結核予防センターのジャナサン・マーミン所長はいう。「このデータは、全米、各州、各地方が一丸となった予防と治療の努力の成果です。こうした対策が最も必要とする人たちに届くよう、さらに努力を続ける必要があります」

 米国内の年間新規HIV感染推計の最新分析は、HIV予防の成果を示している。全国的な減少に加え、CDCは、2008年から14年までの感染経路のトレンドも分析、検証したうえで、感染減少の以下のような傾向も確認した。

 

 ・薬物使用者の感染は56%減(3900人から1700人へ)

 ・異性間の性感染は36%減(1万3400人から8600人へ)

 ・13歳から24歳までの若いゲイ男性は18%減(940人から770人へ)

 ・いくつかの州とワシントンDCではかなり減少 ― ワシントンDC(この6年間に毎年10%ずつ減少)、メリーランド州(毎年8%ずつ減少)、ペンシルバニア州(毎年7%ずつ減少)、ジョージア州(毎年6%ずつ減少)、ニューヨーク州ノースカロライナ州(毎年5%ずつ減少)、イリノイ州(毎年4%ずつ減少)、テキサス州(毎年2%ずつ減少)

 

 さらに、年間推計が得られた35州とワシントンDCでは、増加しているところはなく、減少もしくは横ばいだった。

 この減少傾向は主に、HIVの感染を知り、ウイルス量の抑制を果たすHIV陽性者が増えたこと、つまり効果的な治療によりHIV感染のコントロールができるようになった結果であるとCDCの研究者は考えている。これは公衆衛生上の最優先課題である。HIV陽性者の健康が改善されたことに加え、抗レトロウイルス薬による早期治療でHIV陽性者から他の人へのHIV感染のリスクも劇的に減っていることを研究は示している。

 曝露前予防投薬(PrEP)の使用拡大も最近の新規感染予防には大きな役割を果たしているようだ。CDCは2012年にPrEPに関する暫定臨床ガイドラインを発表し、HIVに感染していない人が、抗レトロウイルス薬を毎日、服用することで、性感染のリスクを90%以上、引き下げられるとしている。米食品医薬品局(FDA)も2012年にHIV予防目的でPrEPを承認した。

 「検査や教育の努力と合わせ、これらの新しい予防ツールの力を最大限に生かしていけば、この国のHIV流行終結に希望が生まれます」とCDCのユージン・マックレイHIV/エイズ予防部長は語っている。「HIVに感染している人にも、していない人にも、HIV治療薬が利益をもたらすことの力を科学が明らかにしているのです」

 

 

HIV感染のリスクが大きい人たちのためにこの成果を生かす

 ゲイ、バイセクシュアル男性は、2008年から2014年の間に年間の新規HIV感染件数が唯一、減少していない集団だった。白人および若年のゲイ、バイセクシュアル男性では減少したが、他の層の増加で相殺されている。ゲイ、バイセクシュアル男性全体の年間新規感染は約2万6000人、また黒人のゲイ、バイセクシュアル男性では年間約1万人でほぼ横ばいとなっている。それまでに10年以上、増加が続いていたことを考えると希望の持てる傾向とはいえる。だが、気がかりなのは年齢、民族集団によっては年間の新規感染が増加していることだ。

 

 ・25-34歳のゲイ、バイセクシュアル男性では35%増加(7200人から9700人へ)

 ・ラテンアメリカ系ゲイ、バイセクシュアル男性では20%増加(6100人から7300人へ)

 

 データでは地域的な不均衡も現れている。2014年には新規感染の50%が、全米人口の37%を占める南部諸州で起きたと推定されている。人種、民族別の年間HIV新規感染についてはさらに分析が進められることになる。

 「残念ながらコミュニティや人口層によって成果のばらつきがあります」とマックレイ博士はいう。「ハイ-インパクト予防戦略の成果を州や地方レベルに広げるためには継続が必要です。感染を把握するための検査の普及をはかり、効果的なHIV治療を受けるHIV陽性者の割合を増やし、予防ツールの効果を最大限に高める必要があります」

 2014年の注射薬物使用者のHIV新規感染は、2008年当時に比べると減少してはいるが、その成果もオピオイドの流行によって台無しになるおそれがある。

 「薬物注射使用者のHIV感染を減らした劇的な成果も、わが国のオピオイドの流行で危うくなっています」とマーミン博士は語る。「包括的な注射器サービスプログラムを拡大する必要があります。薬物使用を増やすことなく、HIV感染のリスクを減らし、薬物使用者が薬物使用を止めるのを助けるサービスにつなげるプログラムです」

 

 

CDCは効果が高く、費用対効果の高い対策に焦点をあてる

 CDCはハイ-インパクト予防(HIP)アプローチを実施することで予防対策の成果をさらに高めようとしている。HIPは、最も影響の大きい人口層や地域に特別な配慮をしつつ、科学的に証明され、費用対効果が高く、効果の測定が可能な対策である。その一環として、CDCは全米、各州、地方のパートナーとともに以下の活動を進めている:

 

 ・HIV検査の簡素化し、利便性を高め、ルーティン化する;

 ・HIV感染が判明したその日からHIV陽性者がケアと治療を受けられるようにする;

 ・HIVに感染していない人が、包括的注射器サービスやPrEPなどすでに示したような予防に関する情報とツールを得られるようにする

 

 CDCのHIV予防資金の大半は、最も緊急を要する地元のニーズを反映したプログラムに対応できるよう州や地方の保健部局に提供されている。

 

 

 

 

New HIV Infections Drop 18 Percent in Six Years

  February 14, 2017 • By Centers for Disease Control and Prevention

 

Decline signals HIV prevention and treatment efforts in the U.S. are paying off, but not all communities are seeing the same progress.

 

The number of annual HIV infections in the United States fell 18 percent between 2008 and 2014 — from an estimated 45,700 to 37,600 — according to new estimates from the Centers for Disease Control and Prevention (CDC) presented today at the Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections (CROI) in Seattle. Progress, however, was not the same among all populations or areas of the country.

 

“The nation’s new high-impact approach to HIV prevention Exit Disclaimer is working. We have the tools, and we are using them to bring us closer to a future free of HIV,” said Jonathan Mermin, M.D., director of CDC’s National Center for HIV/AIDS, Viral Hepatitis, STD, and TB Prevention. “These data reflect the success of collective prevention and treatment efforts at national, state and local levels. We must ensure the interventions that work reach those who need them most.”

 

The most recent analysis of the number of new HIV infections estimated to occur each year in the U.S. provides a sign of progress in HIV prevention. In addition to the national decline, a new CDC analysis also examined trends by transmission route from 2008 to 2014 and found annual HIV infections dropped:

 

    56 percent among people who inject drugs (from 3,900 to 1,700);

    36 percent among heterosexuals (from 13,400 to 8,600);

    18 percent among young gay and bisexual males ages 13 to 24 (from 9,400 to 7,700);

    18 percent among white gay and bisexual males (from 9,000 to 7,400);

    And substantially in some states and Washington, D.C. — Washington, D.C. (dropping 10 percent each year over the six-year period); Maryland (down about 8 percent annually); Pennsylvania (down about 7 percent annually); Georgia (down about 6 percent annually); New York and North Carolina (both down about 5 percent annually); Illinois (down about 4 percent annually); and Texas (down about 2 percent annually).

 

Furthermore, CDC researchers did not find any increases in annual HIV infections in the 35 states and Washington, D.C., where annual HIV infections could be estimated — they decreased or remained stable in all of those areas.

 

CDC researchers believe the declines in annual HIV infections are due, in large part, to efforts to increase the number of people living with HIV who know their HIV status and are virally suppressed — meaning their HIV infection is under control through effective treatment. This is a top public health priority. Studies have shown that, in addition to improving the health of people living with HIV, early treatment with antiretroviral medications dramatically reduces a person’s risk of transmitting the virus to others.

 

Increases in the use of pre-exposure prophylaxis, or PrEP, may also have played a role in preventing new infections in recent years. CDC issued interim clinical guidelines in 2012 for PrEP, a pill that people who do not have HIV can take daily to reduce their risk of infection from sex by more than 90 percent. The FDA approved PrEP for HIV prevention in 2012.

 

“Maximizing the power of these new prevention tools in conjunction with testing and education efforts, offers the hope of ending the HIV epidemic in this nation,” said Eugene McCray, M.D., director of CDC’s Division of HIV/AIDS Prevention. “Science has shown us the power of HIV treatment medicines in benefitting people with and without HIV.”

 

 

Progress must accelerate for people at greatest risk

 

Gay and bisexual men were the only group that did not experience an overall decline in annual HIV infections from 2008 to 2014. This is because reduced infections among whites and the youngest gay and bisexual men were offset by increases in other groups. Annual infections remained stable at about 26,000 per year among gay and bisexual men overall and about 10,000 infections per year among black gay and bisexual men — a hopeful sign after more than a decade of increases in these populations. However, concerning trends emerged among gay and bisexual males of certain ages and ethnicities, with annual infections increasing:

 

    35 percent among 25- to 34-year-old gay and bisexual males (from 7,200 to 9,700);

    20 percent among Latino gay and bisexual males (from 6,100 to 7,300);

 

These data also show regional disparities in southern states, which are home to 37 percent of the U.S. population but accounted for 50 percent of estimated infections in 2014. Future analyses will examine racial and ethnic disparities of annual HIV infections.

 

 “Unfortunately, progress remains uneven across communities and populations,” said Dr. McCray. “High-impact prevention strategies must continue to be developed and implemented at the state and local levels to accelerate progress. That means more testing to diagnose infections, increasing the proportion of people with HIV who are taking HIV treatment effectively and maximizing the impact of all available prevention tools.”

 

While HIV infections fell from 2008 to 2014 among people who inject drugs, this progress may be threatened by the nation’s opioid epidemic.

 

“The opioid epidemic in our country is jeopardizing the dramatic progress we’ve made in reducing HIV among people who inject drugs,” said Dr. Mermin. “We need to expand the reach of comprehensive syringe services programs, which reduce the risk of HIV infection without increasing drug use, and can link people to vital services to help them stop using drugs.”

 

 

CDC focuses on high-impact, cost-effective solutions

 

CDC is working to accelerate prevention progress by implementing its High-Impact Prevention (HIP) approach. HIP involves delivering scientifically proven, cost-effective, and scalable interventions, with particular attention to the most heavily affected populations and geographic areas.

 

As part of HIP, CDC is taking action with national, state and local partners to help ensure:

 

    HIV testing is simple, available and routine;

    People living with HIV get care and treatment, starting the day they are diagnosed;

    And that people who are not infected with HIV have prevention information and tools, such as comprehensive syringe services programs and PrEP, as indicated.

 

The bulk of CDC’s HIV prevention funding is provided to state and local health departments who tailor their programming to address the most urgent local needs.