HIV陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会 TOP-HAT News第102号(2017年2月)

 《日本エイズ学会へのHIV陽性者参加支援スカラシップは2006年に東京で開かれた第20回学会の際に創設されました。「医療従事者だけでなく、HIV感染の当事者にも開かれた学会にしたい」ということで、『自ら動き出したHIV陽性者たち』と題したシンポジウムが企画され、その参加者に旅費などを支援するスカラシップが設けられたのです》

 東京都のメルマガでもすでに紹介されていますが、TOP-HAT News第102号(2017年2月)を再掲します。今回は《陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会》を中心に編集しました。《この11年間で35都道府県のHIV陽性者延べ450人がスカラシップを受けて学会に参加した》ということです。スカラシップは今回でいったん終了となりましたが、プログラムに携わってきた人たちは、これまでの支援制度の趣旨を生かし、新たな枠組みを模索しているということです。

 

 

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第102号(2017年2月)

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  TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発メールマガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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    エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

  ◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

  1 はじめに 陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会

  2 MAKE SOME NOISE

  3    HIV自己検査推奨ガイドライン(WHO)

  4    エイズ予防指針見直し

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1 はじめに 陽性者参加支援スカラシップ、最後の報告会

 HIV陽性者による第30回日本エイズ学会報告会が2月19日(日)午後、東京・高田馬場のエムワイ貸会議室高田馬場で開かれました。昨年11月に鹿児島で開かれた第30回日本エイズ学会学術集会・総会への参加支援スカラシップを受けた人たちの報告会ですが、今回は例年の会合とは少し趣が異なっていました。現行スカラシップ制度が第30回エイズ学会をもって終了するからです。

 日本エイズ学会へのHIV陽性者参加支援スカラシップは2006年に東京で開かれた第20回学会の際に創設されました。「医療従事者だけでなく、HIV感染の当事者にも開かれた学会にしたい」ということで、『自ら動き出したHIV陽性者たち』と題したシンポジウムが企画され、その参加者に旅費などを支援するスカラシップが設けられたのです。

 社会福祉法人はばたき福祉事業団、特定非営利活動法人ぷれいす東京、特定非営利活動法人日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスが中心になって運営するスカラシップ委員会はその後も毎年、HIV陽性者の学会参加を支援してきました。スカラシップの資金は製薬会社などの企業、個人からの寄付や助成金により独立した運営体制を組み、2009年の23回学会(名古屋)からは、参加のための登録証は学術集会から提供されるようになっています。

 昨年からは委員会を発展させた一般社団法人HIV陽性者支援協会がスカラシップの運営を担当していましたが、スカラシップ終了に伴い、支援協会も今年4月30日で解散することが決まりました。

 個人の旅費などの支援に対しては、寄付が得にくくなっていること、11年間の活動でHIV陽性者の交流のネットワークが全国にでき、スカラシップ創設の初期目標が一定程度、達成されたことなどが終了の理由だということです。

 2月19日の報告会では、これまでの活動のまとめも報告されました。この11年間で35都道府県のHIV陽性者延べ450人がスカラシップを受けて学会に参加しています。

 このスカラシップ制度のおかげで、学会や医学関係者には、当事者の視点や発想に触れる貴重な機会が得られることになりました。また、全国各地でHIV陽性者による地域の活動が活性化するきっかけにもなりました。学会で発表をする陽性者も増えています。

 HIV陽性者にとっては、情報収集や他の陽性者とのネットワーク作りのほか、学会での議論を通して、診察室では知ることができなかった医療従事者の熱い情熱に接し、主治医を見直すといった現象もあったようです。

 国際的なエイズ対策にはGIPAという大原則があります。「HIV陽性者のより積極的な参加」と訳される英語の頭文字です。当事者の人生や生活に大きな影響のある政策には、企画、策定、実施、評価のすべての段階に当事者自身が意味のあるかたちで参加できる枠組みを保証しなければならないという趣旨です。

 しかし、HIV陽性者が社会的に孤立したままでは、そもそもGIPAは成り立ちません。陽性者が学会に参加し、自らの考え方を語る場も獲得することを支援し、可能にするスカラシップは、わが国のGIPAを下支えし、より効果的な予防や支援の対策を実現するうえでも貴重な制度でした。かたちとしては個人の旅費に対する援助でも、それが個人にとどまらず、実は公益の実現に資する有効な資金活用である。こうした当然過ぎる考え方すら社会的に理解されにくくなっているとしたら、わが国のエイズ対策は大きな壁に直面していると言わざるをえません。その壁とは何でしょうか。錯綜する論理の糸を解きほぐしつつ、よく考えていく必要がありそうです。

 今年11月の第31回日本エイズ学会で会長を務める ぷれいす東京の生島嗣代表は報告会で、これまでの支援制度の趣旨を生かした新たな枠組みの検討を進めていることを明らかにしました。これを機会に新たな時代の条件に即した新しい枠組みが生まれることを期待したいですね。

 

2 MAKE SOME NOISE

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が3月1日の差別ゼロデーに向けたキャンペーンを公式サイトで展開しています。今年のテーマは『MAKE SOME NOISE』です。日本語だと、声を上げようといったところでしょうか。「ノイズ」をあげるために以下のような行動を呼びかけています。

  UNAIDSの公式サイトからスピーチバブルという吹き出しカードのようなものをダウンロードする。

 →そこにメッセージを書いて写真を撮る。

  →その写真をキャンペーンのFacebookページに投稿する。

 差別ゼロデーのキャンペーンは2年前にスタートし、今年で3回目。詳しくはUNAIDSのサイトをご覧下さい。

http://www.unaids.org/en/

日本語による紹介はこちら(コミュニティアクション)

http://www.ca-aids.jp/features/177_make_some_noise.html

 

3 HIV自己検査推奨ガイドライン(WHO)

 世界保健機関(WHO)は昨年11月29日、HIVの自己検査を推奨するガイドラインを発表しました。《HIV自己検査(HIVST)はより多くのHIV陽性者に検査を受けてもらう有望かつ革新的な方法であり、国連の90-90-90の第1目標-2020年までにHIVに感染している人の90%が自らの感染を知る-の達成を助けることになる》ということです。

 WHOが自己検査について短く説明した政策解説パンフレットもあわせて発表され、API-Net(エイズ情報ネット)にはそのPDF日本語版(仮訳)が掲載されています。

http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20170120n1

 なお、自己検査についてはあくまでWHOの推奨であり、日本が国内エイズ政策の中で、自己検査を勧めているわけではありません。API-Netにも《現時点では10%近い見落としがあり得る検査です。また、日本での自己検査の導入については今後十分な検討が必要と思われます》という注釈付きの掲載となっています。

 

4 エイズ予防指針見直し

 厚生科学審議会のエイズ性感染症小委員会が現在、エイズ予防指針および性感染症予防指針の見直しに向けた検討を進めています。これらの指針は感染症法基づき、ほぼ5年に一度、見直しが行われることになっており、今回が3度目です。

 小委員会のスケジュールや資料、議事録は厚生労働省のサイトで見ることができます。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=403928