混乱の中での同意 強引にエイズ対策と解散総選挙を結びつける視点 エイズと社会ウェブ版296

 先ほどHIV検査に関連して「Informed Consent(インフォームドコンセント)」のことを少し書きました。世界保健機関WHO)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)はHIV検査サービスに関する共同声明の中で、次のように説明しています。

HIV 検査のプロセスとその結果、および結果が出た時に利用できるサービス、そしてどんな状況でも検査を断る権利があることなどについて説明を受け、それを理解したうえで検査を受けることに同意する』

 さらに簡略化すれば「十分な情報を得たうえでの検査同意」といったところでしょうか。情報もないのに判断などできない。これはまあ、HIV検査に限った話ではありません。そういえばConfused Consent(混乱の中での同意)というのもありそうだな、などと考えているうちに時節柄、ついつい・・・。

『民主主義のプロセスとその結果、および結果が出た時に想像される事態、そしてどんな状況でも投票を断る権利があることなどについて説明を受け、それを理解したうえで投票を行うことに同意する』

おじさんのダジャレはどうもタチが悪い。つくづくそう思いはしますが、同時に選挙も基本はインフォームドコンセントに基づく一票の集積であってほしいとも思う。一人一人が投じた一票は同じ重み(制度的にはなかなかうまくいきませんが、少なくとも同一選挙区内では)であり、しかもそれぞれの一票にはインフォームドな判断がなされているという前提がないと民意の数的な把握はできません。

 

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(鎌倉は衆義院議員選挙と鎌倉市長選のW選挙

 

 つまり、選挙にもインフォームドコンセントが必要・・・ということなんだけど、このインフォームド(十分な情報を得たうえでの)という部分が21世紀の高度情報化社会では曲者ですね。

いや、もともとラジオデイズの頃から情報の怪物性は連綿として続き、それを手なずけたり、飼いならしたり、組織的に研究したり、研究したものはついつい使ってみたくなっちゃったりする人たちもまた、常にいました。

したがって、今になって、ことさら驚くにはあたらないことなのかもしれませんが、それにしても!であります、皆さん(なんか演説調になってきちゃったね)。

最近はあふれるような情報がもたらす混乱が激しい。世界中でインフォームドよりもコンフューズドコンセント(どさくさに紛れた同意)ではないかと思えるような現象がしばしば発生します。したがって日本だけではないけれど・・・、どないなっとんのや、責任者出てこい!おっと、人生師匠。だんだん興奮して血圧があがるといけないので、この辺りにしておきましょう。

明日(10日)はいよいよ、エイズソサエティ研究会議の第126回フォーラム『90-90-90ターゲットとHIV郵送検査』が開催されます。奇しくも衆議院解散総選挙の公示日と重なりました。これも何かの縁(ではまったくないと思うけれど)、もともと感染症の流行、とりわけHIV/エイズの流行は、情報やコミュニケーションに深くかかわる現象でもあります。ほら、感染症のことを英語で『Communicable Desease』ということもあるでしょ。

 蛇足ながら、付け加えておくと、HIV/エイズ分野では、インフォームドコンセントを得て検査を実施し、その結果、感染が判明した人の方が、混乱状態のまま検査を受けたケースよりも治療やケアを継続していける割合が高くなる。そうしたこともしばしば指摘されてきました。十分に情報の提供を受け、検査を受ける意味、検査で感染が判明したことの意味を理解したうえで検査を受けることの重要性はこの点からも指摘されています。

 過度な一般化は慎まなければなりませんが、風に吹かれて投票はしたものの、その意味はあまり深く考えず、あとになって苦い思いをするといった事例は世界中、そして日本国内でも、比較的、容易に探せるのではないでしょうか。明日のフォーラムは情報について考える貴重な機会でもあります。情報分野に関心がある方もぜひご参加ください。 

 

5つのCとインフォームドコンセント 『HIV検査サービスに関するWHO・UNAIDS声明』から エイズと社会ウェブ版295 

 

 エイズ&ソサエティ研究会議(JASA)の第126回フォーラムがいよいよ明日午後7時から、東京・四谷三丁目の『ねぎし内科診療所』で開かれます。今回テーマは検査普及の選択肢として期待される郵送検査をめぐる課題です。

90-90-90ターゲットとHIV郵送検査』

http://www.ca-aids.jp/event/171010_90-90-90.html

 

 関連資料としてAPI-Netに掲載されている『HIV検査サービスに関するWHOUNAIDS声明:新たな機会と継続的な課題』の日本語版も印刷して配布すべく準備を進めています。郵送検査も含めたHIV検査を実施するうえでの留意点を簡潔にまとめた資料です。PDF版はこちらで見ることができます。

 http://api-net.jfap.or.jp/

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 ということで、ちょっと予習ですが、このWHOUNAIDS声明をさらに要約して以下に説明しておきましょう。あくまで私の勉強用ですので、誤解している部分もあるかもしれません。あれ?と思った方は元のPDF版を照合してください。

 

 まずは、大前提としてHIV検査に対するWHOUNAIDSの考え方はこうなっています・・・というところから押さえておきましょう。

 

WHOUNAIDSは、公衆衛生の観点から、個人に対し義務的もしくは強制的な検査を行うことは支持しません。どんなかたちで提供されるにせよ、HIV検査は常に個人の選択を尊重し、倫理および人権の原則を守らなければなりません。公衆衛生戦略と人権の尊重は、互いに補強しあう関 係にあります。すべてのHIV検査サービスはWHOの「5つのC」を守る必要があることを、WHO UNAIDSは引き続き強調しています》

 

 じゃあ、5つのCってなんだということになりますね。最初のConsent(同意)の項では、以前からよく指摘されてきた「インフォームドコンセント」についての定義も示されています。

 

5つのC

1. Consent(同意) 

HIV検査の機会はすべての人に提供すべきだが、受けるかどうかを決めるのは個人の判断であるとして、「インフォームドコンセント」の必要性を強調している。

それでは、インフォームドコンセントとは何か(注:少し要約して引用)。

HIV 検査のプロセスとその結果、および結果が出た時に利用できるサービス、そしてどんな状況でも検査を断る権利があることなどについて説明を受け、それを理解したうえで検査を受けることに同意する』

また、『義務的または強制的な検査は、保健医療提供者、パートナー、家族、雇用主、法執行当局、その他の誰から強制されたものであれ、決して適切ではない』と明記している。

 

2. Confidentiality(秘密保護) 

検査結果および、受検者本人と検査提供者、カウンセラー、その他の保健医療従事者の間で話し合われたことが、受検者の同意なしに他のいかなる人にも開示されてはならない。

 

3. Counselling(カウンセリング)

 適切で信頼できる情報を検査前に提供し、検査後には当事者の事情と検査結果に即したカウンセリングが受けられるようにする。

 

4. Correct results(正確な検査結果) 

各地域の流行の特徴を踏まえて適切な検査戦略や確認方式を採用することも含め、WHOまたは各国の品質保証システムと保証基準に適合した方法で検査結果の正確を期す。検査を受けた人が後で結果を知りたくないと決めない限り、検査結果は直接、本人に伝える。

 

5. Connections(連携)

 HIV予防、治療、ケア、支援のサービスにつなげるための支援を行う。

 

 さらに新しい検査サービスアプローチとして、WHOが推奨する「自己検査」と「パートナー告知」についても説明があります。ここでは、このうち郵送検査にもかかわりがある自己検査について紹介しましょう。

 

1. HIV自己検査はWHOHIV検査の追加的な選択肢として推奨。

HIV自己検査は極めて受けやすく、男性やキーポピュレーションの人たち、10代の少年少女、若者(1524歳)など、自己検査以外ではなかなか検査を受けないと思われる人にも届く。

HIV自己検査は正確に行うことができ、リスク行動や社会的な悪影響、有害事象などを増やすことなく、検査への理解と検査回数を増やせる。

・コミュニティのシステムに支えられ、そうしたシステムに組み込んでいけば、HIV自己検査後に治療や予防サービスにうまくつなげられる。

  

 課題については、以下にかなりどっさりと挙げられています。郵送検査の普及を考えるうえでも参考になりそうですね。

 

   ■ HIV自己検査キットは常に、WHOあるいは他の国際機関、各国の監督官庁で承認されたものを使う。わかりやすく、的確な使用説明書を付けるべきであり、教育程度や読み書き能力、障害のレベルに応じて、実演説明や視聴覚教材などの補助ツールを活用できるようにしておく。

   ■ HIV自己検査で反応が出た(結果が陽性の)人にはすべて、コミュニティか保健医療施設でHIV検査の訓練を積んだ人による確認検査をさらに受ける必要があることを情報として明確に伝える。陽性が確認された人はHIV予防、治療、ケア、支援のサービスにつなげる。

   ■ HIV自己検査で反応が出なかった(結果が陰性の)人には、その結果の意味を考えてもらい、検査前3か月間にHIV感染の可能性がある機会がなければ、確認検査を受ける必要はないことを伝える。感染の機会が最近あった人には612週間後にもう一度、検査を受けるよう助言する。

■ 日常的に感染の可能性がある人、現在進行形で感染の高いリスクがある人には半年ごとに検査を受けるよう助言する。

   ■ HIV 自己検査を完了できなかった人、検査の結果を疑うか、理解できない人には、次に何をすべきか明確な情報を伝える。他のHIV検査サービスを受けられる場所と方法を伝え、コミュニティまたは保健医療施設で検査を受けることを勧める。

■ 抗レトロウイルス薬はウイルス量を抑え、HIV抗体の産生を減らす働きがあるので、抗レトロウイルス治療を受けている人はHIV検査の結果が偽陰性になることがある。

   ■ HIV 自己検査キットを使う人には検査前の情報提供と検査後のカウンセリングにより、医療サービスやコミュニティの支援グループへの連絡方法などを伝えられるようにしておく。

   ■ HIV自己検査も強制されて受けるようなことがあってはならない。

 

なお、強制的検査については『WHOUNAIDSが支持できるのは以下の場合に限られます』としています。

■ 輸血や血液製剤の原料となるすべての血液に対するHIV及び他の血液媒介感染症のスクリーニング検査

■ 人工授精や角膜移植、臓器移植など体液および体の一部を他の人に移行する手続きに先立って行うドナーへのスクリーニング検査

庭の句碑だけでしたが 鎌倉虚子立子記念館訪問記

 10月の3連休初日、昨夜からの雨が上がり、午後はさわやかな秋晴れとなりました。鎌倉の中心部は予想通り大変な人・・・。サンマは目黒、混雑は避けるに限る、ということで午後の散歩は二階堂に繰り出しました。

 

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 ここまでくれば人も少ない・・・閑静な住宅街にひっそりとたたずむこのお屋敷は?

 

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 高浜虚子とその次女、星野立子にちなんで平成13年に開館した鎌倉虚子立子記念館です。公式サイトはこちら

 代表が高浜虚子のお孫さん、館長はそのご長男ですから、虚子のひ孫になりますね。

 字が下手なことでは自他ともに許す私のような者が言うのもなんですが、看板の文字はあまりうまくないね・・・ん? 帰ってからネットで調べたら、書かれたのはどうも日本画の巨匠、小泉淳作画伯のようです。あちゃ~、ホンマでっか。

 うん、確かにこの独特の味わいと力強さは、並大抵のものでは・・・(もう、遅いよ)。話を変えましょう。

 建物の扉はしまっていたので、休館日かな? 残念と思いつつ、大小の句碑が並ぶ脇の通路をたどっていくと芝生のお庭に出ます。その奥にひと際、大きな石碑。

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 右は高浜虚子の作品。

 鎌倉を驚かしたる・・・

 次の漢字は何と読むのか。答えはCMの後で(じゃないでしょ、おじさんは最近、TVの見過ぎ・・・)。CMはないけど後ほど。

 左は星野立子

 父が付けし わが名立子や 月を仰ぐ

 いいねえ、ふっくらとお米が立っているといいますか、言葉が立っています。おそらくは秋の夜空を仰ぎ、すっくと立って月を眺めていたんでしょうね。

 というわけで、軟投派のおじさんとしては、少し緩急をつけたつもりで、先ほどの虚子の句に戻りましょう。

 鎌倉を 驚かしたる 余寒かな

 「余寒」だったか。読み方は「よかん」ですね。「よさむ」と読んでいました・・・などと書くと恥の上塗り。それは「夜寒」ですよ。

 と、まあ、くだらないことを考えながら写真を撮っていたら、建物のガラス戸が開いて、年配のおじさんが出てきました。記念館の方ですね。お休みではなかったのか。

 「怪しいものではございません。せっかく来たもので、せめて写真でもと思いまして・・・(しどろもどろ)」

 じゅうぶん怪しい不法侵入者に対しても、記念館の方は「受け付けているのは予約された方だけなんですよ」と逆に申し訳なさそうな様子。こちらこそ恐縮です。

 

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  帰り道。永福寺跡です。源頼朝建久3(1192)に建てた大寺院の跡ですね。鎌倉市の『かまくら観光』サイトでは以下のように説明しています。 

鎌倉市/永福寺跡(ようふくじあと)

『応永12(1405)の火事で焼失したといわれ、現在は廃寺。発掘調査により本堂、阿弥陀堂、薬師堂の三堂が横に並び、その前面には広い池が作られ、中の島や釣殿がある浄土式庭園を持つ壮大な寺院の遺構が確認されている。現在は、鎌倉時代を代表する遺跡として国の史跡に指定され、史跡を生かした公園として整備工事が進められている』 

ただし、今日はここも入れません。

 

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注意報って・・・雨はもう、とっくの昔にやんじゃって、いまは青空なんだけど、と文句を言ってみても始まりませんね。なにしろ、がっちり鍵がかかっていて、誰もいないのだから。まあ、致し方ないか。さらにそのまた先の鎌倉宮も夕方から薪能があるということで、境内には入れず・・・外ればかりの休日でしたが、それでもけっこう楽しめるのが鎌倉の怖いところであります。

 

 

『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』 TOP-HAT News第109号(2017年9月)

言葉が持つ多面性というか、可変性といいますか、文脈や使い手によって含意が大きく変わってしまうい、そしてそれに当惑しながらも現実が言葉に追随していってしまうのではないか。キャンペーンにはそうした危うさがつきまとうことがしばしばあります。最近では よく似た外来語が政治の文脈で広がり、世界エイズデーの啓発キャンペーン担当者の一部からは、困るんだよねえ~といった小さなつぶやきも聞こえてきそうです。

121日の世界エイズデーを中心にした今年の国内啓発キャンペーンのテーマは、7月に決定しています。UPDATE! エイズのイメージを変えよう』です。その「UPDATE!」が曲解されて伝わってしまうかもしれないという危惧ですね。まあ、そんなことはないと思うけど・・・。

 

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TOP-HAT News109号では、今年のテーマがどういう経緯で策定に至ったのかを報告しています。

《ひとことで言えば、『治療の進歩を踏まえて「エイズのイメージ」を更新し、新たな予防や支援の枠組みを構築していこうというメッセージです。

予防、支援、そして治療の普及を妨げる最大の障壁というべき社会的な偏見や差別の克服、誤解の解消はもちろん、最重要の「アップデート」対象です。治療の進歩を予防や支援に生かすこと。そして、効果的な予防や支援を妨げる社会的な障壁を克服すること。どちらも大切です》

エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログにも掲載されている全文を以下に再掲します。

 

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第109号(2017 9月)

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TOP-HAT News特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに UPDATE! エイズのイメージを変えよう』

 

2 確定値は1448件 2016年の国内新規HIV感染者・エイズ患者報告

 

3  15年間で2200万人の生命を救う グローバルファンド2017年成果報告書

 

4 フォーラム『90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題』 

 

◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに UPDATE! エイズのイメージを変えよう』

121日の世界エイズデーを中心にした国内啓発キャンペーンのテーマは毎年夏に発表されます。厚労省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱して、「今年はこういうことを伝えたい」というメッセージを端的に短い言葉でまとめたものです。

もちろん、全国各地のキャンペーンは、それぞれの自治体やHIV/エイズ対策に取り組む人たちが工夫をこらして企画し、メッセージを発信しています。押し付けでなく、その地域の事情を踏まえ、自らの判断で、いま何が必要か、何を訴えたいかを考え、実行していく。この姿勢は大切です。

でも同時に、できることなら全国で共通するメッセージを伝えたいという思いも現場にはあります。多様性と包括性、HIV/エイズ対策にはもちろん、その両方が必要です。

テーマを夏の間に決定しているのはそのためです。各自治体やNPO世界エイズデーに向けて作成するポスターやチラシに共通するメッセージを取り入れるためには準備期間も必要なので、少なくとも7月中にはテーマが届いていなければなりません。2017年のテーマは711日に決定しました。

UPDATE! エイズのイメージを変えよう』

 毎年のテーマは、NPOや自治体、民間企業などでHIV/エイズ分野の予防啓発や支援活動を行っている人たちの意見を集約したうえで、エイズ予防財団が候補案を策定し、それをもとに厚労省が決定する方式をとっています。API-Netエイズ予防情報ネット)にそのプロセスが紹介されているので、そちらも参考にしてください。

 http://api-net.jfap.or.jp/lot/2017camp_theme.html

 46月の間にネットで意見を募集し、誰でも参加できるフォーラムを開催し、啓発の現場に詳しい人たちによる検討委員会でそれらの意見を踏まえて候補案をまとめるというスケジュールです。どうして今年は『UPDATE! エイズのイメージを変えよう』なのか。その趣旨については、HIV/エイズ総合情報サイトCommunity Action on AIDS(コミュニティアクション)のキャンペーンテーマのページに説明があります。

http://www.ca-aids.jp/theme/

ひとことで言えば 『治療の進歩を踏まえて「エイズのイメージ」を更新し、新たな予防や支援の枠組みを構築していこう』というメッセージです。次のようにも書かれています。

 『予防、支援、そして治療の普及を妨げる最大の障壁というべき社会的な偏見や差別の克服、誤解の解消はもちろん、最重要の「アップデート」対象です』

 治療の進歩を予防や支援に生かすこと。そして、効果的な予防や支援を妨げる社会的な障壁を克服すること。どちらも大切です。もう少し引用を続けましょう。

HIV陽性者は感染の早期把握、および治療の早期開始・継続により、エイズの発症を防いで、感染していない人と同じくらい長く、社会生活を送ることが期待できるようになっています。治療を継続して体内のウイルス量が大きく減少すれば、HIVに感染している人から他の人への感染リスクをゼロに近いレベルまで下げられることも確認されています』

『一方で、現状はそうした変化が正確な情報として社会に広く伝わっているとは言えず、いまなお以前のままのHIV/エイズのイメージを持つ人も少なくありません。そのことが感染を心配する人たちを検査や治療から遠ざけ、効果的なHIV/エイズ対策の遂行を困難にする要因のひとつにもなっています』

情報をUPDATE(更新)して、エイズのイメージをより現実に近づけていくこと、それが今年、最も伝えたいメッセージです。皆さんも大いに活用してください。

 

 

 

2 確定値は1448件 2016年の国内新規HIV感染者・エイズ患者報告

  厚労省エイズ動向委員会が830日、昨年(2016年)1年間の新規HIV感染者・患者報告数の確定値を明らかにしました。

http://api-net.jfap.or.jp/status/2016/16nenpo/16nenpo_menu.html

HIV感染者報告 1011件(過去8位)

  エイズ患者報告    437件(過去6位)

      計       1448件(過去9位)

年間の報告数は3月末に速報値が発表されています。そのときと比べるとHIV感染者報告が8件増え、エイズ患者報告は同数でした。動向委員会は「新規HIV感染者報告数及び新規AIDS患者報告数ともに横這い傾向である」とする委員長コメントを発表しています。横ばい傾向は過去10年続いています。

 確定値の感染経路別では、同性間の性感染がHIV感染者報告で約73%エイズ患者報告で約55%と多数を占めています。この傾向も変わっていません。

 

 

 

3  15年間で2200万人の生命を救う グローバルファンド2017年成果報告書

 エイズ結核マラリアの三大感染症対策に取り組むグローバルファンド(世界エイズ結核マラリア対策基金)が2017年の成果報告書を発表し、設立から2016年までに2200万人の生命を救うことができたとする推計を明らかにしました。

 グローバルファンドは、中低所得国の三大感染症対策のために資金を提供する機関として2002年に設立。G7を初めとする各国政府や民間財団、企業など、国際社会から大規模な資金を調達し、中低所得国が自ら行う三大感染症の予防、治療、感染者支援、保健システム強化に資金を提供しています。日本は現在グローバルファンドの第5位の資金拠出国で、2002年からの累計で約 283862万ドルを拠出しています。

グローバルファンド日本委員会のサイトで、報告書エグゼクティブサマリー(要旨)の日本語版を読むことができます。

http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2017-09-14_gf_results

 

 

 

4 フォーラム『90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題』

 特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議(JASA)の第126回フォーラムが1010日(火)午後7時~845分、ねぎし内科診療所(東京都新宿区四谷三丁目9番地 光明堂ビル5階)で開かれます。

テーマは『90-90-90ターゲットとHIV郵送検査の課題』。厚労省の『男性同性間のHIV 感染予防対策とその介入効果の評価に関する研究』の分担研究員として『HIV郵送検査の在り方とその有効活用の研究』に取り組んだ東京保健医療大学の木村哲学長、および研究協力者として参加した日本HIV陽性者ネットワークJaNP+の高久陽介代表の2人が、わが国におけるHIV郵送検査の普及に向けた展望と課題について報告します。詳細はこちらでご覧ください。

http://www.ca-aids.jp/event/171010_90-90-90.html

 

 

いまこそ、というわけでもなかったのですが、憲政記念館訪問記

 超多忙な日々の中、どうしても外せない用事があり、本日は東京大遠征を敢行しました。暇を持て余しているように誤解されるといけないので、あらかじめお断りしておくと、国会議事堂前の衆議院憲政記念館を訪れたのは、その時間調整というか、スケジュールに少し隙間ができたためであります。ま、誤解されてもいいけど・・・。入り口で「見学です」と言うと、「解散詔書も見ることができますよ」と受付の女性が教えてくれました。こちらですね。

  

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説明文を採録しておきます。

 『928日、衆議院本会議開会中に菅内閣官房長官から解散の詔書が伝達されました。中央は内閣総理大臣からの伝達書、左は大島理森衆議院議長が読み上げた解散の詔書です』

 だからどうしたと言われると困るのですが、「そうかあ、現下の迷走劇はここから(というか、もうちょっと前からだけど)始まったのか」と思うと、意味もなく重要な歴史の証人になったような気分になります(注:おじさんは権威に弱い)。

 

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 詔書が公開されているのはこの部屋です。『議場体験コーナー』ということで、入ってみると、壇上からは安倍首相の所信表明演説のビデオが流れていました。

 

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その首相と向き合うかたちで、こちら側は議員の席になっていました。見学に来ていた中学生数人がなぜかバンザイをして盛り上がっています。テレビの影響でしょうね。

 

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 「憲政の神様」といわれる尾崎行雄の像です。

 『1952年(昭和27)にこの土地は衆議院の所管となり、1960年(昭和35)には、憲政の功労者である尾崎行雄を記念して、尾崎行雄記念財団によって尾崎記念館が建設され、衆議院に寄贈されました。その後これを拡大して憲政記念館となりました』

    (憲政記念館のパンフレットから)

 ちなみにこの記念館のある土地はかつて彦根藩の上屋敷だったそうです。庭に出ると、皇居並びに丸の内の高層ビル群が遠望できます。

 

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 桜田門も見えますね。幕末の大老井伊直弼はこの高台から江戸城に向かう途中で凶刃に倒れた・・・。亡くなった方には申し訳ないのですが、かなり職住接近だったんだなあ、と小人は不謹慎な感想を抱く。

小学生の頃に訪れた尾崎記念館はもっとこじんまり、かつひっそりと建っていた記憶がありましたが、その後で拡大されたのですね。憲政はますます重視されて現在に至って・・・いるはずなので、幻滅ばかりもしていられません。暗殺も大獄もなく、政治への不信が増幅することもなく(ま、多少は増幅するだろうけど、それでも)、民主主義が曲がりなりにも機能する世の中であってほしい。多くを望む前にまず、投票にはしっかりと行こう。

 

 

♪さよならは別れの~ あれは何の途中だったか


 書き物仕事に疲れ、午後は散歩がてら北鎌倉へ。目的は食パンの買い出し(注)でしたが、夏の光に秋の雲といいますか、今日は空がきれいでした。
 (注:本日の注文はブーンベーカリーの山ノ内トースト。鎌倉は小さいお店でおいしいパン屋さんが多い)

 

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 北鎌倉駅。平日の午後は人も少ない。電車に乗ったわけではなく、建長寺の前をてくてく歩いて、踏切を渡り、さらに鎌倉駅前を通り過ぎて少し行ったところに目的のパン屋さんがあります。その途中。通りすがりの一枚です。本日は由比ガ浜―北鎌倉往復、全行程を徒歩で観光、じゃなかった敢行。

 

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 帰り道。横須賀線の踏切は長く待つからねぇ~。ゆっくり写真が撮れました。車の皆さんは大渋滞。お疲れ様です。

 

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 さっきの電車は新宿湘南ライン。今度は横須賀線

 

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 亀ケ谷切通しに入って、長寿寺の裏山。今日の主役は雲かなあ。さあ、坂道を超えるぞ。寄る年波、足腰を鍛えねば。

『HIV検査サービスに関する WHO・UNAIDS声明: 新たな機会と 継続的な課題』

 世界保健機関(WHO)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)が8月28日に発表した共同声明《WHO, UNAIDS statement on HIV testing services: new opportunities and ongoing challenges》の日本語PDF版がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載されました。

api-net.jfap.or.jp

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 すいません、画像はタイトルが英文のままですが、日本語版はタイトルも日本語になっています。

HIV検査サービスに関する WHO・UNAIDS声明: 新たな機会と 継続的な課題』
    ◇
「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行」を終結に導くための大前提として、国際社会は現在、90-90-90ターゲットを2020年までに実現することを共通目標としています。
 HIV陽性者の90%が自らの感染を知り、そのうちの90%が抗レトロウイルス治療を受け、さらに治療を受けている人の90%が体内のウイルス量をきわめて低く抑える状態を実現するという目標です。
 その最初の90を実現するには検査の普及が不可欠なので、そのためにどうしたらいいのかを簡潔にまとめた声明です。『人権の重視と公衆衛生アプローチ』を検査の2大原則とし、『義務的もしくは強制的検査は推奨しない』と明記しています。また、インフォームドコンセントの必要性に言及するとともに、すべてのHIV検査サービスは以下の「5つのC」を守る必要があることも改めて強調しています。
 1. Consent(同意)
 2. Confidentiality(秘密保護)
 3. Counselling(カウンセリング)
 4. Correct status(正確な検査結果)
 5. Connections(連携)
   ◇

 以下、私の感想です。悪しからず。
 2020年の90-90-90ターゲット達成は、昨年6月のエイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合の政治宣言で、国際社会の共通目標として位置付けられています。この政治宣言にはもちろん、日本も賛成しています。検査の普及は近く告示される新たなエイズ予防指針の重要な柱として位置付けられるはずです。
 WHOとUNAIDSの声明は、主として低・中所得国に向けて、つまり治療の普及が急務である低・中所得国の現状を踏まえて出されたという面が多分にあるのではないかと思います。

 ただし、それでは日本のような高所得国は関係ないのかというと、もちろんそうではないでしょう。国連総会ハイレベル会合の2016政治宣言も、そしてさらに同じ年の1月からスタートした持続可能な開発目標(SDGs)も、先進国、途上国の努力と責務をともに前提としたグローバルスタンダードの約束です。

 とりわけ、90-90-90ターゲットの最初の90に関して言えば、わが国は低・中所得国と課題を共有していると思われる面が多分にあります。なぜそうなのかということは、たとえば、『人権の重視と公衆衛生アプローチ』が検査の2大原則であるといった共同声明の指摘を読むと、ああ、そうなのかと腑に落ちるように納得できる。そうした現実がわが国にもまた、あるのではないでしょうか。

 経済的な観点からいえば、あるいは医療基盤の面で見れば、日本はHIV検査も治療もケアも支援も十分に支えきれる資源を有しています。人的な資源も含め、そうだと思います。だからこそ、世界にもまれなほどに年間の新規感染もエイズ関連の死亡も低くおさえてこられたのです。ことHIV/エイズの流行に関して言えば、こんな国はちょっとありません。もちろんこの成果は、関係各方面の努力のたまものだと思います。

 ただし、いつまでもこの状態が続くと楽観視して構えていることはできません。40年にも満たないエイズの流行の歴史をみれば、東アジア地域はHIVというウイルスが比較的、遅れて入ってきた地域だったという事情も日本の成果の背景にはあります。それでもなお、年間の新規感染報告が過去10年間、横ばいから減少へとなかなか転じていかない。横ばいで抑え続けてこられたことだけでも大変な成果ではあるのですが、そこから縮小への道筋に踏み出せるかどうか。あるいは徐々に増加の傾向に移行するのか。

 報告ベースの横ばいが10年も続いていることは、現在がその重要な分岐点であること示すものではないか。素人考えにすぎませんが、私などはそう感じてます。

 では、どうすればいいのか。この際、四の五の言わさずに片っ端から検査する仕組みの整備を目指せばいいではないか。そんな誘惑に駆られる人たちは、少なくとも医療関係者には、いないだろうとは思いますが、ひょっとしたら、いるかもしれません。いそうな気も・・・だんだんしてきました。

 行政官はどうなのか、さらには政治家はどうなのか、という問題もあります。2016政治宣言が示しているグローバルスタンダードには逆行しますが、日本の場合、政治のリーダーシップがこの分野で発揮されない方がむしろいいのではないか・・・最近はそんな自虐的な気分にも、うっかりすると落ち込んでしまいそうです。

 あまりシニカルになってもいけませんね。インフォームド・コンセントや「5つのC」の重要性は、わが国でもしっかりと理解しておく必要があります。言わずもがなのことを付け加えれば、保健医療提供者や各自治体の保健政策担当部局、HIV/エイズ対策に取り組むNGO/NPO、企業の人事担当者といった人たちには必読の文書ではないかと思います。