それでは虎はどこにいる

 政局に関する情報には極めて疎いので、解散総選挙をめぐる最近のドタバタ劇にはあまり触れないようにしてきましたが、面白そうなのでついつい取り上げたくなってきました。地道に情報を集めたり、精緻な分析を試みたりした結果ではもちろんありません。単なる面白がりおじさんの感想です。不謹慎のそしりは免れません。それはもちろん認めます。でも、ついつい・・・。

 名前を直接あげることは控えておきますが、新しい政党の代表になられた方が首都の首長の座を投げ打って国政に転身するのではないかという観測が先週あたりずっと流されていました。この点についてはいままで何も書いてこなかったので、後出しじゃんけん気味であることは否定しませんが、私はずっと、それはないでしょーと思っていました。土曜日に同年代のおじさん仲間と飲み会があり、酒飲み話のついでに、出ないと思うよとお話をすると、ほぼ全員(78人なのでサンプル数は圧倒的に不足していますが)の賛同を得ました。

 もちろん、おじさん層の感覚は、同年代とはいえ女性である首長、ええい面倒くさいな、小池都知事の判断とは大きかけ離れているかもしれません。でも、少なくとも現段階で2020東京五輪開会式という檜舞台を控える首都の長の方が、イメージは首相よりはるかによさそうだし、そもそも今度の選挙で首相になれるという保証も実はない。

 先週あたりはそのあたりの確証が得られるなら、ということで値踏みをしていた節も見受けられましたが(あくまでお茶の間レベルの感想です)、雲行きはあまり芳しくないようですね。

 代表自らが候補者の選別をする。この辺りの枠組みが致命的に苦しいのではないかと思います。政党として必要なプロセスなのかもしれませんが、どうにも嫌~な舌触りが残ります。丸呑みするなら飲んじゃえばいいのにと私などは思いますが、このあたりが自分ファーストの限界でしょうか。

 昔のことばかりが思い出してしまう傾向が強い前期高齢者層のおじさんとしましては、この懐かしい後味の悪さは・・・、ありましたねぇ、あった、あった。

かつて自民党の派閥の会長代行だった小沢一郎氏が宮沢喜一渡辺美智雄三塚博という三人の総裁候補を自分の事務所に呼びつけ、話を聞いたいわゆる「小沢面接」というのがありました。当時は自民党内の派閥力学、現在は小池人気というものを背景にした振る舞いなのでしょうが、虎の威を借る蛇(そういうのがいたと仮定して)による蛇の生殺しのような印象ですね。イメージは極めてよろしくない。

 これもテレビのワイドショーから得た、また聞き、かつ底の浅い知識にすぎませんが、小池さんは、剛腕政治家といわれた小沢一郎さん、そして元首相の小泉純一郎さんの政治手法を身近で学び、政局に対する独特の勝負勘を自分のものにしたということです(また聞きですよ)。

 そうか、さすがだなあと思う一方、そこには一抹というか十抹、十四抹くらいの危惧も感じます。小沢さんは剛腕であると同時に「壊し屋」ともいわれ、小泉さんは「自民党をぶっ壊す」のキャッチコピーで首相の座をつかみました。いわば破壊のエネルギーを糧とする政治家です。でも、壊してどうなったかという点での評価は・・・どうなったんでしょうね。

 この選挙を契機に、政権交代可能な保守の二大政党へ・・・などという話もよく聞きますが、事なかれ中間層のおじさんとしては、破壊は保守なの?という疑念もぬぐえません。リベラルでもなく、保守でもなく、それではなんなの・・・ということになると、あまり考えたくない民主主義的選択も浮上します。

 だったら、「生殺し」にされかかった人たちが、さっさと愛想をつかして、新たな選択肢を設ける動きに出ることは当然だし、貴重でもあると思います。そこは評価したい。評価したいけれど、同時に、個人的にはますます選択肢がなくなり、選べないなあという印象です。どうすっかなあ。とにかく判断は放棄せず、投票には必ず行くよう努力は続けたい。

 前にも書きましたが、NHK1か月間、ハンナ・アーレントの「100分で名著」を観た後なので、とりわけそのような印象を受けるのかもしれませんね。

www.nhk-book.co.jp

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NHK、グッジョブだったと思います。放送は終わってしまったけれど、テキストはまだ書店で購入できるかもしれません。同様のテーマでもう一冊、この時期にお勧めするとすれば、ピーター・ドラッカー著『「経済人」の終わり』でしょうか。

 

昨年との比較で報告数が減少に転換 東京都の新規HIV感染者・エイズ患者報告数(1~9月)

 

 

 世の中の関心が政局一色になるような時期はこれまでにも何度もありました。そのたびに、これまた何度も書いてきたのでお題目のようになってしまいますが、どんなに大きなニュースがあっても、HIVというウイルスは「世の中も忙しいようだから、それじゃあ、しばらく感染するのは控えておこうか」などと考えたり、希望に翻弄されたり、解散総選挙に遠慮したり・・・というようなことはありません。感染の条件が成立したときに感染するという極めてシンプルな行動原理のもとに動いており、だからこそ逆にもろもろの社会条件が流行の動向を左右することになります。

出るのか、出ないのか、やめるの? やめないの?・・・とざわざわした職場環境で日常業務をこなすめぐりあわせになってしまった東京都職員の皆さんにはご同情申し上げますが、業務の遂行は粛々と進めていただく必要があります。

 ・・・ということで、あ~あ、今日も前置きが長くなってしまいました。申し訳ありません。東京都メルマガ「東京都エイズ通信」の第121号が発行されました(それが言いたかったの?)。

 

archives.mag2.com

 

 今年12日から924日までの都内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数が掲載されています。( )は昨年同時期の報告数です。

   ◇

HIV感染者           273件  (276件)

AIDS患者              69件   ( 82件)

 合計                 342件  (358件)

HIV感染者数は昨年同時期と同程度、AIDS患者数は昨年同時期を下回っています。

   ◇

 昨年同期との比較で言うと、8月までは、HIV感染者報告は今年の方が多く、エイズ患者報告は昨年の方が多い(つまり今年の方が少ない)というかたちで推移し、合計では今年の方が多くなっていました。

 しかし、9月までの集計では、感染者報告、患者報告ともに昨年より少なく、したがって報告数の合計も昨年より減っています。報告から推定される流行の同行は、横ばいの状態が依然、続いているのか、それとも減少のトレンドに転換しつつあるのか。そうだとすると、それはT as P(予防としての治療)の成果なのか、もう少し様子を見る必要があります。

 

立ち止まって深呼吸でもしよう 昨日と同じ道

 午後6時を過ぎると真っ暗だけど、午後5時過ぎはさわやかな秋の夕暮れでした。昨日の夜道と同じ場所です。明るいですね。

 

 

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 買い物帰り。海が見えます。

 

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 前にも書いたので、「またか」と言われてしまいますが、ゴジラ由比ガ浜海浜公園に上陸し、この道を通って御成通商店街に向かいました。だから何だ・・・といわれると困りますが、絶望的状況に追い込まれても、きっと町は甦る。したがって、絶望のあまり不合理な選択に走る前に、ちょっと立ち止まって深呼吸でもしよう。

どう違う? 「使いやすさ」と「受けやすさ」 エイズと社会ウェッブ版294

 世の中は総選挙に向けて騒然としていますね。ま、そちらの方はその道のステークホルダー(利害関係者)の皆さんにお任せして・・・と書くと、有権者こそ最大のステークホルダーではないのかという突っ込みがすかさず入りそうですね。

もちろん、その通り、個人のレベルで一票を誰に(あるいはどこに)投じるかは(投じないかも含め)、じっくりと考え、自分で決める必要があります。ただし、あれこれの情報発信や推測に関しては(いずれまた、あれこれと根拠の薄い推測を書きたくなるかもしれませんが)、とりあえず当面は、いまが稼ぎどころの政治メディアの面々にお任せしておきましょう。

したがって、この際、我が道を行くといいますか、当ブログではこの時期に極めて注目率が悪いであろうHIV/エイズ分野の話題にフォーカスを当てていくことにします。

 

厚労省の委託を受けてエイズ予防財団が運営しているHIV/エイズ啓発サイトAPI-Netエイズ予防情報ネット)には、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が20176月に発表した報告書Fast-Track and human rightsの日本語仮訳版『高速対応と人権』が掲載されています。

http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20170821

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《公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結を目指し、国連総会は20166月の「エイズ流行終結に関するハイレベル会合」で、2020年までの高速対応をHIV/エイズ対策の最優先課題として掲げる政治宣言を採択しました。2020年までにHIVの予防、検査、治療の普及を急がない限り、エイズ流行終結は期待できないというメッセージです。

ただし、その緊急性を理由に強権的、あるいは強制的な手法をとるようなことがあれば、目標の実現そのものが不可能になってしまうとの認識に基づき、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が20175月に発表したガイドライン(手引書)です》

 

 ちょっと裏話をすると、英文テキストの日本語仮訳を私が担当し、それをHIV/エイズ診療の専門家である木村哲、白阪琢磨のお二人のエイズ予防財団代表理事に全面監修していただいた労作(自分で言うのも変ですが)です。

 

 歳をとると前置きが長くなりますね。すいません。仮訳はPDF版でぜひお読みいただくとして、ここでは本文中に紹介されている5項目の《HIVサービスの主要人権原則》人権の中から 原則1:サービスの利便性、使いやすさ、受けやすさ、質の確保 の訳語について少し補足の説明を付けておきます。

(ちなみに他の4原則は以下のようになっています)

 原則2:平等で差別がないこと

 原則3:プライバシーと秘密保持

 原則4:個人の尊厳と自立の尊重

 原則5:意味のある形での参加と責任

 

 原則1に戻りましょう。英文ではこうなっています。

 Principle 1: availability, accessibility, acceptability and good quality of HIV service

 困るんだよねえ、こういう風に列挙されても見分けがつかなくて(すいません、愚痴です)。最初の3つの単語は日本語にすると、どれも同じになってしまうような印象です。英文なら語呂合わせの狙いも含めて3連発の意味があるのかもしれませんが、訳語の「利便性」「使いやすさ」「受けやすさ」では苦心の選挙区調整を試みたものの、どうしても同じことを言っている印象は免れません。それに、語呂はよくないわな。

 仮訳版の12ページには、それぞれの意味の違いが解説されているので、現場レベルではそちらも参考にしてください。その部分だけ再掲します。

 

 ・利便性は「公衆衛生の機能および保健医療の施設、製品、サービス、そしてプログラムと情報の量が十分に確保されていなければならない」という意味である

 

 ・使いやすさは「誰もが差別されることなく製品とサービスを使える」という意味であり、そこには身体的な条件や地理的な条件から見た使いやすさ、および経済的、資金的使いやすさ(つまり手頃な価格で利用できるかどうか)も含まれる

 

 ・受けやすさは、すべての「保健施設、製品、サービスが医療倫理を尊重し、文化的に適切なものでなければならない。すなわち個人、少数者、コミュニティによって異なるそれぞれの文化に敬意を払い、ジェンダーおよびライフサイクルによって求めるものが異なることに配慮し、同時に秘密を保持して、そこに関わる人びとの健康状態が改善するよう設計されている」ことを意味している

 

 ・質の確保とは「保健施設、製品、サービスが、文化的に受けやすいものであると同時に、科学的かつ医学的に適切で質の高いもの」であることが含まれている

 

つまり、availability(利便性)は「量的に確保されていること」、accessibility(使いやすさ)は「差別なく使えること」、acceptability(受けやすさ)は「個別の事情に配慮すること」といったあたりでしょうか。

説明の中には、「経済的なaccessibility(使いやすさ)」として、affordability(手ごろな価格)というのも出てきます。確かに高ければ使いにくいけど、ますます混乱してきそうですね

 

遮断機につるべ落としの秋の風 なぜか衆院解散の日に

 9月も終わりになると、日が落ちるのが早いですね。午後6時にお寺の鐘がご~んとなるころにはもう真っ暗。江ノ電和田塚駅から海へ向かう道も。 

 

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 世の中は解散で浮足立ち・・・というか、沈み込んでいくような気分でもあります。去年の今頃は、ヒラリーかドナルドか、どっちも選びたくないよ、もう・・・という米国の友人たちの嘆きにご同情申し上げていたように思いますが、よその国の選挙に同情している場合ではありませんね。どうする、この選挙・・・。実は1022日は鎌倉市長選挙の投開票日でもあり、暗い夜道、トボトボ感がいや増しに増しますが、あまり絶望ばかりしてもいられない。踏切の遮断機が下りて、電車が来ました。 

 

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 鎌倉行き。希望という名の電車・・・などと言っている場合ではありませんね。おっと、あれは欲望という名の電車だったか。希望と欲望の混同・・・いや、他意はありません(お断り:この文章はフィクションではありませんが、特定の個人、団体ともまた一切、関係ありません)。NHK100分で名著』で、ハンナ・アーレントの勉強もしたばかりだし、考えることを放棄せずに、しっかりと判断していこう。

 

ロヒンギャ難民への医療支援 日本記者クラブ会見から

 政界大激震といいますか、昨日はいろいろなニュースが錯綜し、今日もまた、「えっ、どうなってるの?」といいたくなるような情報が飛び交いそうな雲行きです。窓の外は雨があがって、日が差してきましたが、こういうときに「希望」などという言葉を不用意に使えないご時世になっています。

 日本記者クラブも大忙しの秋の陣になりました。一介の個人会員である私にも、緊急で「司会をお願いします」という連絡が入ってくるぐらいですから大変さがしのばれます。

 世の中は、一つのニュースに関心が集まれば、他の様々な難問、課題はお休みして待ってくれている・・・というわけではもちろんありません。

・・・ということで、昨日は午後2時からロヒンギャ難民の医療支援に関する記者会見の司会をお引き受けしました。会見されたのはバングラディシュ、ミャンマー国境地帯で医療支援のための現地調査にあたり、26日に帰国されたばかりの日赤支援団先遣隊のお二人です。

横江正道・名古屋第二赤十字病院総合内科部長兼国際医療救援部副部長

矢野佐知子・大阪赤十字病院麻酔科・集中治療部看護係長

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1時間余りの記者会見の様子は日本記者クラブの上記サイトからYou tubeによる会見動画を観ることもできるので、そちらをご覧いただいた方がいいですね。

www.jnpc.or.jp

 

 

ここで大急ぎで付け加えておきますが、国際赤十字・赤新月社連盟では「ロヒンギャ」という呼称を使っていません。「政治的・民族的背景および非難されている方々の多様性に配慮し」というのがその理由だそうです。保健医療支援の場で、活動の妨げになるような摩擦や軋轢が生じるのを避けたいということでしょうね。

ただし、他の人および機関が「ロヒンギャ」という名称を使用することは妨げないということなので、会見でも、お二人は「バングラディシュ南部避難民救援」でしたが、司会者はマスメディアや他の国際機関などで広く使用されている「ロヒンギャ」を使うというやや変則的なかたちになりました。

日赤の医療チーム派遣は、急激な避難民増加に対応するための国際赤十字の緊急アピールに対応したもので、先遣隊に続き(部分的に日程が重複するかたちで)現在は本隊の第一班が現地で巡回診療活動を続けています。日本赤十字社のプレスリリースも参考にしてください。

www.jrc.or.jp

 

会見をされたお二人は、自然災害における医療支援活動の経験も豊富な方ですが、自然災害と今回の難民支援との相違点として「昨日見たことと、今日見ることが、まったくちがうということがありうる」と語っておられたのが私には印象的でした。サービスの提供を必要とする人の数が急激かつ現在進行形で増え、そのために必要なニーズも日に日に変わっていくということです。

医療に加え、あるいは医療の一環として、心のケアへの対応の必要性が極めて高いという指摘も大切だと思います。

ロヒンギャ難民危機についてはUNHCR駐日事務所の公式サイトでも新しい情報を得ることができます。

高等弁務官がバングラデシュを視察 - Japan — UNHCR Japan

 

 

 

 

 

『国連活動が優先すべきもの』 エイズと社会ウェブ版293

 当然のことだとは思いますが、今年の国連総会は安全保障に焦点が当てられています。もちろん国際保健や新興感染症対策も広い意味での安全保障課題ではあるのですが、現時点で国際社会の主要な関心事項はもっと対象を限定した意味での安全保障課題です。

 そうした中で、国際エイズ学会(IAS)のオーエン・ライアン事務局長が国連総会の通常会期開始に際し、IAS公式サイトのブログ欄に『The key priorities that need UN action』というレポートを載せています。 

(お詫びと訂正:IASのオーエン・ライアン事務局長のお名前を誤って、ロバート・オーエン事務局長と紹介してしまいました。チェックの機会はいくらでもあったのに、一晩ぐっすり眠って、翌朝遅く目が覚めるまでまったく気づかずにいました。お詫びして訂正します。それにしても、どうしてこんなことになったのか・・・)

www.iasociety.org

 日本語にするとタイトルは『国連活動が優先すべきもの』といったところでしょうか。本文の日本語仮訳はエイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに掲載しました。ちょっと長いけれどこちらもご覧ください。

 日本語仮訳:『国連活動が優先すべきもの』

 

 困難な課題を山盛りで抱える世界の現状の中で、HIV/エイズ対策はともすれば「置き去り」にされがちですが、関心が盛り上がったり、下がったりは世の常ですね。「エイズはもう旬じゃないから、ほどほどに」というわけにはいきません。 

ライアン事務局長もだからこそ、この時期にあえて『エイズの流行は事務総長に対し、さらにもう一つ大きな課題を突き付けるとともに、変革をもたらす機会も提供しています』と書いたのでしょうね。

今年1月に就任したアントニオ・グテーレス国連事務総長に対しては『世界は公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行に終止符を打つことができるかどうか。任期中にそれを決定づける財政、政策、実践上の選択を迫られることになります』として、エイズ流行終結という国際社会の約束の実現に向け、明確なリーダーシップを発揮するよう求めています。

また、『エイズ対策の経験から得た教訓を踏まえ、より健康で安全で平等な世界のために事務総長が採用しうる5項目』も示しているので、その5項目も紹介しておきましょう。

・社会、経済格差との闘いに率先して取り組む

・世界の進歩を促す柱として人権と社会正義を重視する

 ・つらい仕事を積極的に引き受ける

 ・ユニバーサルアクセスを進め治療薬を手ごろな価格で利用できるようにする

 ・国連改革を加速させる

 

 それぞれに短い説明がついています。詳しくは日本語仮訳を読んでいただくとして、個人的に私が注目したのは、最初の『社会、経済格差との闘いに率先して取り組む』の中の次のような記述です。

『中所得国には信じられないほど裕福な人がいると同時に、世界の貧困層4分の3近くが暮らしています。社会の周縁に追いやられがちな人たちの間でHIVの新規感染が急速に拡大している地域でもあります』

HIV/エイズ分野では、ロシアや中国はその中所得国のカテゴリーに入るのだと思いますが、UNITED NATIONS(もともとは連合国という意味)である国連の中では大国です。安保理常任理事国であり、国際の平和と安全をめぐる課題に対しては拒否権も持っています。その大国でいまHIVの感染がどのくらい広がっていて、今後はさらにどこまで拡大していくのか。それがどうもいまひとつ、つかみきれません。

2番目の『世界の進歩を促す柱として人権と社会正義を重視する』にはこんな記述もあります。

『多くの国で独裁主義が広がり、市民社会は委縮し、人権の侵害や社会的な不公正を容認する傾向が強まる中で、国連事務総長は世界が認める指導者として、それに対抗しうる考えを明確に示す必要があります』

支援すべきは国なのか、人なのか。現実の問題として世界はいま、ますます悩ましい課題に直面しています。それらの課題と切り離して「HIV/エイズはあくまで医療の問題だから」などと無邪気に考える人はまあ、いないでしょう(と思っていたら、残念ながら日本にはいらっしゃるようなので、「そう多くはないでしょう」ぐらいにトーンを下げておいた方がいいかもしれませんね)。

かけ声はともかくとして、HIV/エイズの流行に対する国際社会の関心が以前より低下していることは否めません。エイズの流行は、終結どころか、現状のままでは再拡大を招きかねない。国連の外にある独立の専門家団体の事務局長が、あえて国連事務総長に改革を求めるのも、そうした危機の意識を強く感じているからではないかと思います。