『薬の価格を下げる』 IAS2017年次書簡その4

 国際エイズ学会(IAS)の年次書簡2017『力強い科学 果敢なアクティビズム』。日本語仮訳の4回目です。限りある資金で最大限の成果を収めるには、抗レトロウイルス薬の価格引き下げが急務という指摘です。まったくもってその通り・・・ではありますが、これもまた注文通りというわけにはいきません。

 21世紀の最初の15年間の劇的な成果は治療コストの引き下げがなければ実現しなかったでしょう。ジェネリック薬を重視し、途上国と先進国間で二重価格を認めるなど様々な工夫が積み重ねられてきました。大量購入によって価格引き下げの交渉力をつけるといった方策もありました。

 でも、まだ十分とは到底いえない。今後もさらにエイズ対策が成果をあげていくには、なお一層の価格引き下げが必要になります。T as Pが重視されれば、予防対策の観点からもますますそうなるでしょうね。ただし・・・ということで課題も山積みです。

《しかし、HIV治療薬の手頃な価格が将来も維持できるかどうかは危うい状態です。より高価で特許もかかっている第2、第3選択薬の需要増、世界貿易機関WTO)のもとでの国別の特許制度、抗レトロウイルス薬のジェネリック市場への需要の集中などが脅威となるからです。高所得国が二国間および多国間貿易協定を通して、煩雑で理不尽な知的財産条項を押しつけるために、ARVなど必要な治療薬を必要な時に必要な場所で入手することが世界中で困難になっています》

 訳語が適切かどうか。ちょっと自信がありません。おかしいところはご指摘ください。エイズ対策が切り開いた突破口ではありますが、最近は、エイズだけ特別というシフトでは苦しいという雰囲気もますます広がっています。

 こんなことで大丈夫かいなと、いじけたおじさんはついつい思ってしまう。

 「エイズは普通の病気です」というメッセージは両刃の剣でもあります。「あ、そうなの」という反応が返ってきたときに、『力強い』と豪語する科学と『果敢な』とアピールしてはばからないアクティビズムは、どう対応するのか。

     ◇

 

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薬の価格を下げる

 エイズ対策の新たな資金源を開拓する一方で、コストを下げる努力も必要です。中でも優先させなければならないのは、必要な薬の価格引き下げを働きかけ続けることです。2016年6月現在、世界で1800万人以上が抗レトロウイルス薬(ARV)による治療を受けています(注11)。治療薬へのアクセス確保には、この人たち、そしてさらに多くの人たちの生命がかかっています。低・中所得国ではARV第1選択薬の価格は過去15年で90%も下がっています(注12)。

 

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図 ARV第1選択薬の価格例。2016年のWHOガイドラインで第1選択薬に推奨されているtenofovir disoproxil fumarate / emtricitabine (TDF/FTC)の固定容量合剤(データは2005年から2013年までの300/200mg剤を示す)(注13)。

 

しかし、HIV治療薬の手頃な価格が将来も維持できるかどうかは危うい状態です。より高価で特許もかかっている第2、第3選択薬の需要増、世界貿易機関WTO)のもとでの国別の特許制度、抗レトロウイルス薬のジェネリック市場への需要の集中などが脅威となるからです。高所得国が二国間および多国間貿易協定を通して、煩雑で理不尽な知的財産条項を押しつけるために、ARVなど必要な治療薬を必要な時に必要な場所で入手することが世界中で困難になっています。

 新たなHIV治療薬の開発に際し、メーカー側は低・中所得国でアクセスを拡大する手段として、ジェネリック製薬会社と自主的な使用許諾契約を結ぶようになっています。資金力の弱い国の患者が新しい薬を使えるようになるまで長年にわたって待ち続けるしかなかった時代に比べれば、こうした自主的使用許諾契約は大きな進歩なのですが、大きな欠点もあります。中所得国の多くを完全に排除してしまうことに加え、臨床医に煩わしい報告を求める契約であることも多いのです。また、ジェネリック製薬会社が安価な医薬品有効成分を探す能力を制限し、患者にとっては治療薬が利用しにくくなるような手段が含まれていることもあります。

 保健分野の有力エコノミストが入手可能なデータを分析した結果、多くのARVの製造コストは年間1人あたり80ドルに抑えられるとしています。ジェネリック製薬会社がこの程度の手頃な価格で治療薬を供給できるようになれば、すべての国がエイズ流行終結を目指すという約束からして、その動きを阻害することはできなくなります。

 

挿入コメント

 「私のジェネリック製薬会社はHIV抗レトロウイルス薬を1日1ドルで作れます」

   ユスフ・ハミド、シプラ会長 2000

 

 低・中所得国で手頃な価格の治療薬を使える用にすることが急務な一方、高所得国におけるこれらの薬の価格が高いために保健システムに大きな負担を課し、生死にかかわる治療が受けにくくなるという現実もあります。

 ただし、手頃な価格によるアクセス確保には課題があるといっても、薬の価格は今後数年でさらに下がることが期待できます。いくつかのARVの有効成分は間もなく特許期限が切れので、このことが治療を受ける人や保健医療システムにとって、とりわけ使用許諾契約から除外されてきた中所得国にとっては、救いになるはずです。

 HIVコミュニティは他の慢性疾患の対応策を求める活動と協力して、世界的な薬価値下げ要求を新たに進めていかなければなりません。隠された規制や煩瑣な報告の義務などがない透明性の高い使用許諾契約が必要です。各国には強制特許の採用に最大限、柔軟に対応することが国際法上の権利として認められています。必要な医薬品を必要な人が使えるようにするため、輸入など他のさまざまな戦略と並行して進めるべきです。

 

 

 

 

BRING DOWN THE COST OF DRUGS

 

While working to generate new funding for AIDS, we also must minimize the costs of key inputs into our programmes. Continuing our efforts to lower the prices of essential medicines is a priority. More than 18 million people worldwide had initiated ARV therapy as of June 201611, and the lives of these and many more who will start treatment depend on future access to these life-saving medicines. In low- and middle-income countries, the cost of first-line ARV regimens has fallen by 90% over the past 15 years12.

 

GRAPH

 Example price evolution of first line ARVs. Price reduction for the 2016 WHO Guidelines first-line recommended tenofovir disoproxil fumarate / emtricitabine (TDF/FTC) fixed dose combination (data shown for the 300/200 mg tablet over the period from 2005 until 2016)13.

 

However, threats are now emerging that imperil the future affordability of HIV medicines, including the growing demand for more expensive, patented second- and third-line regimens, the spread of national patent regimes in compliance with requirements of the World Trade Organization, and the increasing concentration within the generics market for antiretroviral medicines. The world’s ability to ensure that ARVs and other essential medicines are readily available and affordable when and where they are needed is further undermined by the increasing efforts of some high-income countries to impose onerous and unwarranted intellectual property provisions through bilateral and multilateral trade agreements.

 

As new HIV medicines are developed, their makers are increasingly opting to enter into voluntary licensing agreements with generic manufacturers as a means of expanding access to these drugs in low- and middle-income countries. Although these voluntary licensing agreements represent progress over earlier practice when patients in resource-limited settings often had to wait many years to obtain new medical innovations, they also have important shortcomings. In addition to omitting many middle-income countries altogether, these licensing agreements frequently impose onerous reporting requirements on clinicians, limit the ability of generic manufacturers to find the least expensive source of active pharmaceutical ingredients, and include other measures that actually worsen consumers’ access to drugs in some countries.

 

Leading health economists have analysed available data and determined that the costs of manufacturing many ARV medicines are minimal – roughly US$80 per person per year. When generic manufacturers are available to supply these medicines at such affordable prices, actions that undermine their ability to do so cannot be aligned with the commitments that every country has made to work towards ending the AIDS epidemic.

 

 “My generics company can manufacture HIV antiretrovirals for a dollar per day.”

    Yusuf Hamied, Cipla Chairman 2000

 

While the need to ensure access to affordable medicines is especially urgent in low- and middle-income countries, prices at which drugs are marketed in high-income countries inflict onerous burdens on health systems and inevitably limit access to life-saving therapies.

 

Although new challenges to access and affordability are emerging, the next few years also offer opportunities to further lower drug costs. Several ARV compounds will soon lose patent protection, affording possible relief to health consumers and systems, especially in middle-income countries that are now excluded from licensing agreements.

 

The HIV community should join together with advocates for other chronic diseases to demand a new global deal on drug pricing. Transparent voluntary licensing agreements that include no hidden restrictions or onerous reporting burdens are needed. Countries have the right under international law to maximum flexibility to adopt compulsory licensing. This should be in parallel to importation or using other strategies to make essential medicines available to those who need them.

 

 

人生はラグビーである(こともある)

 誰が言ったか、「人生はマラソンである」という格言には、ついついそうだなと納得してしまう説得力がありますね。その人生も35キロ地点を過ぎ、何かにつけて失速気味だなあと感じてしまうおじさん層にはとりわけその思いが強い・・・おっと、脱線してまた愚痴になってきた。軌道を修正しましょう。

 一定の説得力を認めた上で、ここではあえて、人生はマラソンがすべてというわけではない、「ラグビーである(こともある)」と付言しておきましょう。

 「計画策定を失敗するのは、失敗するための計画を作ろうとするからです」(レベル3コーチングマニュアルから)

 もうひと息(ふた息くらいかな)で黄パンツのおじさんとしては、無計画という名の計画も含め、思い当たる節がありすぎるほどあります。参考までに昨日(13日)付のビジネスアイ紙に掲載されたコラムです。

 http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/170314/cpd1703140500001-n1.htm

 

【視点】ラグビー最高峰チームに学ぶ 指導書通りに選手が役割果たす

  60歳を過ぎてから高校時代のラグビー仲間と高齢者ラグビーのチームを作った。60歳以上は赤パンツ、70歳に達すると黄パンツをはくことが許される。

 老化防止に、といった程度の動機だったが、ケガはやはり怖い。危険なプレーは避けまくり、試合にはあえて勝敗にこだわらない成熟した態度で臨む…。

 そんなことがきっかけになり、日本ラグビーフットボール協会のコーチ研修用英文資料の翻訳をお手伝いするめぐり合わせになった。各国協会の国際組織「ワールドラグビー」のパワーポイント資料を昨年秋に翻訳し、12月からはさらに150ページもある上級コーチ用マニュアルに挑んだ。年が明け2月半ばに訳し終えたときには、さすがにもうへとへとだった。

 あくまで下訳なので、研修には専門家の監修を経たうえで使われる。それでも日本ラグビーを最底辺で下支えしているようなどこか誇らしい気分ではある。

                   ■

 東京・秩父宮ラグビー場では2月25日、ラグビーの世界最高峰リーグであるスーパーラグビーサンウルブズハリケーンズ戦が行われた。サンウルブズは昨年、スーパーラグビーに日本から初参戦したチームで、1年目は1勝13敗1分。19年ラグビーW杯開催国の日本にとっては代表強化の切り札でもあるのだが、世界の壁は厚い。

今季初戦となるハリケーンズ戦も、結果は83対17で大敗を喫した。

 相手は昨年の優勝チームであり、ニュージーランド代表クラスの名選手がひしめく強豪なので、それでもよく戦った方だと高齢ラガーとしては思う。敗れたとはいえ、開発途上のチームとして希望が持てる試合でもあった。引き続き応援は続けたい。

 ただし、ここで書きたいのはそのことではなく、ハリケーンズの戦い方だ。テレビ中継で試合を見て驚いた。

 もちろん選手個々のスピードやパワーも素晴らしい。だが、それ以上に驚いたのはマニュアルを具現化するようなプレーが随所に再現されていたことだ。

 例えば、ラグビーではスペースを作り、そこにボールを動かすことが基本となる。そのスペースは防御側の選手がいないところではなく、選手が防御のために動いた後の場所(つまり、選手が元にいた場所)にできる。あるいは、パスは受け手をめがけて投げるのではなく、少し前の位置に投げ、受け手は深めの位置から走り込む。

 基本といえばそれまでだが、激しいぶつかり合いの中にあっても、まさしくその基本に沿ってボールが動く。

 逆にサンウルブズはチャンスでノックオンしたり、インターセプトされたりして流れを失う場面が何度もあった。なぜそうなるのか。チームが焦ってくると受け手の位置が浅くなり、パスの出し手はどうしても選手の体にめがけて投げるので、狙われたり、ボールを落としたりしやすくなる。

 そういうときはいったん選手を落ち着かせる手立てが必要になる。

                   ■

 チームの強みと弱みを分析する「チームプロファイル」をもとに、基本的な試合の進め方である「ゲームプロファイル」を定める。マニュアルにはそうした準備の手順も段階的に示されていた。

 「ゲームプロファイル」が想定する試合を進めるには、どの地域でどんなプレーが必要になるか。その指針となる「プレーのパターン」とその前提ともいうべき「プレーの原則」、そしてさまざまな場面で個々の選手が果たすべき役割を示す「ファンクショナルロール(機能的役割)」…。そうした分析を積み上げ、最終的に次の試合に向け、彼我の戦力を比較しつつ個別の「ゲームプラン」を策定する。

 「計画策定を失敗するのは、失敗するための計画を作ろうとするからです」

 ラグビー以外で通用しそうな記述も多く個人的には少々耳が痛くもあった。

 訳している間は、ぼんやりと想像していたことが、実際のキックやパスや密集のプレーを見て「こういうことだったのか」と納得できる。このワクワク感。編集を工夫すればラグビーをますます面白く観るための観戦ガイドにもなりそうだ。できればそうした活用法も検討してほしい。

 

別れはそっとやってくる エイズと社会ウェブ版260

 ACT UP NY のアクティビストで、ビデオジャーナリストでもあるジェームズ・ウェンジー氏がやているDIVA TVというサイトにPrinted Matterというページがあります。
DIVA TV Printed Matter


 そこに載っている1994年8月6日付の記事。横浜で第10回国際エイズ会議が開幕する前日に掲載された、いわゆる前打ち記事ですね。当時私は産経新聞のNY駐在記者で、ストーンウォール25周年のパレードや国際会議に参加するため東京から来られた南定四郎さんとともにチャイナタウンの外れのビル地下室にあったジェームズのスタジオを訪れました。クレジットはなぜか
THE SANDEI SHIMBUN newspaper 8/6/94 (in Japanese) "AIDS Activists in Yokohama
 となっています。まあ、いいか。あの時は北丸さんも一緒だったような気もするけれど、もしかしたら北丸さんは98年に再訪したときにご同行いただいたのかもしれません。低レベルを自他共に許す私のIT力でも、なんとか記事のコピーをまたコピーする技術を習得したので、改めて掲載します。 

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 ジェームズに言及した詩も改めて掲載します。以前にもなんどか紹介してしつこいと言われそうですが、後で付け足した蛇足の説明も載せておきます。悪しからず。


別れはそっとやってくる
 
ショッピングバッグをぶら下げ
巨大なメープル並木の下を歩いていると
遠くかすかに聞こえる音がある
20世紀末の秋の夕暮れ
日本から遠く離れた米国東海岸
ニューヨーク市クイーンズ区の静かな住宅街で
どう考えたって存在しようはずもない
豆腐売りのおじさんが発するラッパの
そのかすかな音色が
ほおをなでる冷たい風に乗って
私には確かに聞こえてくる
 
あと8年の命だと思ったんだがな
1991年にHIVの感染を知ったとき
マンハッタンのアパートの地下室で
Jは覚悟を固めた
あと8年で何が残せるのか
10年のエイズの流行を経験して
医学が
その程度の希望を提供できるところまで
エイズとの闘いは進展していた
 
ところがね
とJはいった
8年を過ぎてもおれは生きている
さてどうするかな
 
いくつかの薬を組み合わせることで
症状の進行を抑え
長く生きていくことが可能になります
では、どれほど長く?
それは分かりません
 
トーフはすっかり健康食品の雄として
北米大陸に定着し
サラダの上にも乗っている
でもそれは
背中の薄い少年がなべを抱え
小銭をにぎりしめて
豆腐屋のおじさんの自転車を追いかけた
あのときのあの食品と同じものでは多分、ない
どこまでも高い
フォレストヒルズの秋の夕空と
冷たい風の中で
中性脂肪を気にしながら
一気によみがえる私の戦後
どこにいても
いつになっても
私は
私の聞きたかったものを聞くのだろうか
 
俺の場合はさ
いまの組み合わせが効かなくなっても
あと2つ変更できる
でも、そのあとはどうなのかな
 
新しい薬が登場して
組み合わせの選択肢が増えれば
つまり医学がさらに進歩すれば
人生の延長戦はそれだけ長くなる
だが、文字通りのサドンデス
突然の死によって
延長戦が終わることだって常にある
 
人は結局、誰もがサドンデスを抱えながら
延長戦を生きているようなものではないか
いつ死ぬか分からないという点では
私もあなたも事情はそう変わらないのだから
もちろんそれが気休めに過ぎないことは
気休めを言われた当人が一番良く知っている
でも、そうだねと
初めて知ったような顔をして見せるのも
死を抱えて生きる人間の
かすかな礼儀だったのだろうか
 
戦後は去り
私たちは
私たちの聞きたかったものと
少しずつ別れを告げていく
     (2003)

 

(蛇足説明) 先進国に限定した話ですが、20世紀の最後の5年間は、HIVに感染した人たちにとって、劇的に環境が変化した5年間でした。この詩に登場するJはチャイナタウンに近いマンハッタンのビルの地下室を自宅兼スタジオにして、エイズに関するテレビ番組を制作し、コミュニティ・チャンネルで流していました。ニューヨークでは当時、ケーブルTV放送の番組枠の一部を市が確保し、社会活動に提供することが義務付けられていました。Jのグループもエイズをテーマに隔週で30分の番組枠を持っていました。彼は自分に残されたと思った8年間のすべてをそこに注ぐつもりでいたようです。
 
 しかし、Jを取り巻く環境は激変しました。まず、治療の進歩により、彼自身が予想していたよりもはるかに長く生きることになりました。次にケーブルTVの公共放送枠がなくなり、エイズ番組の放映が困難になりました。そのかわりインターネットが普及し、Jは新たな表現手段を持つことになりました。彼はいま、ネットジャーナリスト兼エイズアクティビストとして活躍しています。
 2004年7月、バンコクで開かれた第15回国際エイズ会議のメディアセンターで、なつかしいJの顔を見ました。「I am OK」といって彼は胸を張っていました。まだ、元気だぞというわけです。その前に会ったのは2001年6月、ニューヨークの国連本部で国連エイズ特別総会が開かれていたときのことです。爆破テロで世界貿易センタービルが崩壊したのはその3カ月後でした。Jが住んでいたビルは世界貿易センタービルから歩いて10分と離れていないところにありました。エイズの流行から、からくも生き残り、あのテロもまた、潜り抜けてきた。そして、Jが8年の命を覚悟したときには予想もつかない展開で、21世紀は進行しています。
 かつて背中の薄い少年だった私は1995年秋、買い物帰りにニューヨーク市クイーンズ区フォレストヒルズの住宅街を歩いていて、ふとそこが戦後のある時期の東京の風景とよく似ていることに気が付きました。町の様子はまったく違うのに、それでも「あっ、懐かしい」と思ったのはなぜなのか。ずっと書けないでいた詩が、Jの物語とクロスさせることでようやく完成しました。

悪魔払いの惜敗を超えて

 標高1400メートルのブルームフォンテーンは、1995年ラグビーW杯で日本代表がニュージーランド代表と対戦し、145対17という歴史的大敗を喫した悪夢の地である。サンウルブズも昨年、ここでチーターズと対戦した時には、92対17と大差で敗れています。

 魔物が住んでいるのではないかと思いたくなるようなこの結果は、高地で酸素が薄く、選手の疲労蓄積度も平地で行うのとは大きく異なるためだろう。

 したがって、今度も大敗かなあと思っていたが、11日(日本時間12日未明)の試合は大健闘だった。

  チーターズ 38 - 31 サンウルブズ

 高地での試合は、力の差が増幅されて点差に出てくる。そう考えれば、今季のサンウルブズの力は昨年よりも大きく向上していると受け止めるべきだろう。

 だが、勝てなかった。末端ファンのおじさんとしては、よくやったと思う一方で、惜しかったなあ、勝てたのに、ここで勝たなきゃ・・・とすぐに態度が変わってしまう。

あえて言わずもがなのことに言及すれば、観るスポーツとしてのラグビーの人気度を高め、ファン層を広げるには、善戦ではなく、勝つことが何よりも必要になる。

 濃い目のファンなら、敗れたとはいえ、随所に光るプレーを見せた選手たちに拍手を惜しまないだろう。ただし、本日の新聞の運動面を見ても分かるように、大相撲やWBCの記事が大きく扱われている一方で、ラグビーに関しては「サンウルブズ開幕3連敗」程度のあっさりした見出しで短く報じられているだけだ。 

www.sanspo.com それはそうだろうと思う。私が編集長だったとしても、負けたのなら短く載せておけばいいやといった判断になるだろう。

 勝つことで少しずつ注目度を高める。その積み重ねがいまは重要だ。2015年の秋に、関心度という点ではお先真っ暗だったラグビーに何とか多くの人が関心を持つようになったのは、W杯イングランド大会で、日本代表が南ア代表に予想もしなかった勝利をつかみ取ったからに他ならない。この勝利によって2019年W杯日本開催にも何とか期待が持てるようになった。

 あのときを思い出せば、日本代表は試合終了直前、3点差でペナルティを得た。FB五郎丸がPGを狙えば同点。つまり引き分けに持ち込める。それだって日本にとっては快挙である。

 だが、ジャパンは勝ちを目指してスクラムを選択した。あの決断。そして決断にいたる努力の蓄積。実はそんなことはまったく知らない日本国内の多くの人たちが「ラグビーもやるねえ」と関心を持つ。ルールなど知らなくても、面白そうじゃないのと振り向く。

 しつこいようだが、その積み重ねが大切になる。サンウルブズのスーパーラグビー参戦により多くの選手が本場のレベルを経験して力がついた。それはもちろん大切なことではある。ただし、2019年W杯という機会に向けて、ラグビー人気を高めるという観点に立てば、それだけではだめだ。このことは指摘しておかなければならない。

 サンウルブズはもちろん、日本代表ではないが、日本代表の強化の重要な手段としてチーム編成がなされ、疑似日本代表といった位置づけでファン層の拡大を目指す立場にもある。

 昨年は1勝13敗1分だった。1勝は貴重な実績ではあるが、実は相手のジャガーズが遠征の最後の試合で疲れ切ってへろへろになっているのに助けられ、何とか勝ったという試合である。それでもなお、たった1つでも勝った試合があったことでデビューシーズンは救われた。

 今年はもう1段、階段をあがろう。つまり、2勝しよう。ぜいたくはいわない。ただし、善戦だけではだめだ。

今回の惜敗はブルームフォンテーンの悪夢を払拭した。若手の活躍も目覚ましかった。選手の経験値が高まっている。こうしたもろもろの効果を考えれば、価値ある善戦として評価したい。それがラグビーファンの気持ちだろう。

 だが、そこまで入れ込んでいるファンは日本全国でもそうたくさんいるわけではない。好意的な評価に安住することなく、見るスポーツとしてのラグビーの魅力を高めるには、さまざまなプロモーション策があるのだろうが、それも試合での勝利体験を共有できる機会がなければ無駄になってしまう。

グラウンド上で激しくぶつかり合う心配のない末端ファンであり、一方で人は何に注目するかを考える仕事はうんざりするほど続けてきた賞味期限切れの記者(スポーツ記者じゃないけど)としては、しつこいようだが、この点は大いに強調しておきたい。

 

『いま資金を投入すれば将来負担は軽減』 IAS年次書簡2017 その3

  国際エイズ学会(IAS)の公式サイトに掲載されている2017年年次書簡『力強い科学 果敢なアクティビズム』の続き(3回目)です。「いまここで予防対策への資投入をためらっていたら、あとで大きなツケを払うことになりますよ」ということは前々から指摘されてきましたが、ここでは数字を示しながら重ねて強調しています。

 『HIVは終わっていないということ、そしていま撤退したのではこれまでの成果をすべて失い、すでに投じられている巨額の資金も無駄になってしまう』

 さんざん「エイズ流行終結」などと吹きまくっているからこういうことになっちゃうんだぞ! だれだって「エイズはもういいだろう」と思いたくなっちゃうよ!と、 私などはこの際、感嘆符をさらに3つくらいつけて言いたい気分ではありますが、ここは感情に走ることなく、IASの説明を聞きましょう。

 『欧州各国政府の多くは、他の資金需要を優先させるために、国際保健と開発への支出を縮小しています。エイズ資金の最大の供給源となってきた米国でも、赤字削減などいくつかの要因により、国際的なHIV対策への資金が大きく減ってしまう可能性があります。こうした困難の克服には、しっかりと計算したアドボカシーを続ける必要があるのです』

 残念ながら日本への言及はありませんが、国内のエイズ対策の現状を鑑みると、社会的に「エイズはもういいだろう」感覚はますます広がっている印象です。

 『資金配分の基準は国境ではなく、人であるべきです』

 この指摘も重要です。中所得国に関する言及ですが、日本国内でも一定程度あてはまるのではないでしょうか。現在進行中のエイズ予防指針見直しの議論をフォローしていくと、そんな印象も強く受けます。

 

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『いま資金を投入すれば将来負担は軽減』

http://www.iasociety.org/Annual-Letter-2017

 

 UNAIDSの推計によると、効果的なエイズ対策を実施するには2020年時点で少なくとも年間262億ドルが必要になります(注5)。2015年のHIV投資総額は190億ドルでした。エイズ資金は過去3年間、実質的に増えていない状態で、これまでの成果を持続できるかどうか、懸念されています(注1)。HIVの新規感染とエイズ関連の死亡をさらに減らしていくための必要額には遠く及びません。

 

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図 UNAIDS資金推計 2020年には年間262億ドル必要

 

 不可欠な資金を確保するための新たな財源の開拓が、私たちのコミュニティの大きな課題です。持続可能な開発目標(SDGs)に200項目近いターゲットが盛り込まれていることで分かるように、国際保健と開発にむけた優先課題は増え続けています。新たなエイズ資金を求め、そこに投資することが、いかに多くの開発課題の改善に役立つか。それを示せるような敏捷かつ着実なアドボカシーが必要なのです。

 エイズ対策を支えてきたのは、科学者、クライアント、保健医療従事者、コミュニティメンバーによるアクティビズムです。しかし、資金拠出国では、資金の増額を促す力になってきた草の根のエネルギーが失われようとしています。この流行がもたらす健康の脅威から次の世代を救うには、基本に立ち返る必要があります。HIVは終わっていないということ、そしていま撤退したのではこれまでの成果をすべて失い、すでに投じられている巨額の資金も無駄になってしまうことを政策決定者に再確認させるために、緊急の行動を一致して取りましょう。

 

安定的で持続可能な資金のための財源の強化

 この数年、HIV予防と治療のプログラムをまかなうための最も頼りになる財源はグローバルファンドと米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)でした。HIVの医科学研究には米国立衛生研究所(NIH)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などが大きく寄与しています。こうした財源力のさらなる強化が、エイズ対策を前進させていくための軸になります。2016年には、グローバルファンドの今年から3年間の資金補充誓約が目標額に達し、近い将来の資金を担える見通しになりました。

 したがって、エイズ資金の供給源はしかりしているように見えるとはいえ、確実に調達できるかどうかという点では危うさも残っています。欧州各国政府の多くは、他の資金需要を優先させるために、国際保健と開発への支出を縮小しています。エイズ資金の最大の供給源となってきた米国でも、赤字削減などいくつかの要因により、国際的なHIV対策への資金が大きく減ってしまう可能性があります。こうした困難の克服には、しっかりと計算したアドボカシーを続ける必要があるのです。

 さらに国民所得のみで、援助資格を判断する考え方にも反対しなければなりません。HIVの影響が甚大なキーポピュレーションの人びとの多くは、中所得国に住んでいます。HIV関連のキーポピュレーションのニーズに対応している中所得国もありますが、多くはありません。資金配分の基準は国境ではなく、人であるべきです。

 

 国内のエイズ投資の拡大

 エイズ支出の総額はここ2。3年、下降気味ですが、HIV予防、ケア、治療プログラムに公的資金を投入する国は次第に増え、エイズ対策への国内資金は増加しています。もちろん、国内資金の増加は歓迎すべき傾向ですが、ほとんどの国の支出額はなお、あまりにも少なく、とりわけ一次予防に向けられる資金は少額であることも認識しておかなければなりません。

 

挿入コメント

 「抗レトロウイルス治療普及の努力は高く評価しています。しかし、第3選択薬の組み合わせによる治療は依然として受けることができません。すでに第2選択薬の組み合わせでは治療できない患者がいるので、これは急務です。ウイルス量のモニタリング費用は以前より下がってはいますが、患者によってはいまなお、高すぎて使えません」

 ハーマイン・メリ博士、IAS会員、カメルーンの保健医療従事者

 

 経済力とHIV流行の影響の大きさを勘案すると、ほとんどの国はまだ、エイズ対策に十分な額の公的予算を投入しているとはいえません。商品市場の多くが崩壊した後でも、サハラ以南のアフリカは経済成長を続けています。アフリカおよび世界の政策決定者は、HIV予防、ケア、治療のプログラムを支えるためにこの成長を活用すべきです。こうした投資は労働生産性を高め、将来の医療費支出を抑え、子どもの成長を助けることによって、15倍の経済リターンを生み出すことを認識すべきです(注9)。

 いまドナーの資金が減れば、各国が国内支出を増額しようとする意欲も失われ、これまでの投資も無駄になってしまいます。多くの国がここ数年で得られた成果を得られなくなるのです。国内資金を増額させたものの、それだけでは十分に流行の重荷から脱しきれない国にとっては、罰を受けるようなものです。

 

 保健医療人材への投資

 エイズ対策において、最も重要な資産は人です。保健システムがHIV陽性者を治療したり、HIVの新規感染を防いだりするわけではありません。人が行うのです。毎日働いている保健医療従事者は、しばしば大きな困難と闘いながら、HIV対策の最前線に立っています。しかし、その努力は十分に報われてはいません。

 

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  図 保健医療従事者不足 2016年720万、2035年1290万人

 

 多くの国で保健医療従事者は極端な供給不足にあります。不足する人材はすでに720万人に達し、2035年には1290万人に拡大すると推計されています(注9)。80以上の国で、人口当たり保健医療従事者数はWHO勧告の最低基準を下回っています。

 この人材不足を解消するためにできることはすべて行い、同時に現在の保健医療従事者を大事にしなければなりません。しかし、HIV感染とエイズ関連の死亡を減らすことを望みながら、そのために働いてくれる保健医療従事者を失うようなことがあまりにもしばしば、起きています。必要なツールを得られない保健医療従事者がたくさんいます。安い賃金で、しかも厳しい職場環境のもとで働いているのです。研修や教育は不適切で、昇進の機会もほとんどありません。

 

 

 

 

 

 

SPENDING NOW TO AVOID SPENDING MORE LATER

 

UNAIDS estimates that at least US$26.2 billion will be needed annually by 2020 to implement an optimally effective AIDS response5. In 2015, total HIV investments amounted to US$19.0 billion, and no meaningful increase in total resources for AIDS occurred within the past three years, raising concerns about our ability to sustain the gains we have made1. These trends leave us well short of what we need to drive further progress in reducing new HIV infections and AIDS-related deaths.

 

図 UNAIDS資金推計

 2020年には年間2620億ドル必要

 

Our community faces important challenges in working to mobilize essential new funding. The range of global health and development priorities is proliferating, as reflected in the nearly 200 targets of the Sustainable Development Goals. It will require nimble, steady advocacy to both make the case for new resources for AIDS and show how these investments improve multiple development priorities.

 

Activism by scientists, clients, healthcare workers and community members has sustained the AIDS response. But in traditional donor countries, the grassroots energy that helped propel funding increases has dissipated. If we hope to save the next generation from the health threats posed by the epidemic, we must get back to basics, uniting in an urgent effort to remind decision-makers that HIV isn’t over, and that pulling out now risks losing all the gains we have made and effectively wasting the unprecedented resources that have already been spent.

 

 

Strengthening sources of predictable and sustainable financing

 

For several years, the most reliable funding for HIV prevention and treatment programmes has come from the Global Fund and the US President’s Emergency Plan for AIDS Relief (PEPFAR). Funding pillars for HIV scientific research have included the US National Institutes of Health and the Bill & Melinda Gates Foundation. Moving forward, ensuring the continued strength of these funding sources will be pivotal to hopes for major progress on AIDS. The successful three-year replenishment of the Global Fund in 2016 offers encouragement that this essential funding vehicle will remain for the foreseeable future.

 

However, these seemingly solid sources of AIDS funding also confront potential threats to their viability. Many European governments have curtailed global health and development spending to accommodate new spending for other priorities. And in the US, historically the leading provider of AIDS financing, anticipated deficit reduction efforts and other factors could place sharp downward pressure on funding for the global HIV response. Strong, smart and sustained advocacy will be needed to meet these challenges.

 

Additionally, we need to push back against the growing notion that national income categories alone should determine eligibility for international support. Many of the key populations most heavily affected by HIV live in middle-income countries. Although some middle-income countries are addressing the HIV-related needs of key populations, many more are not. People, not national borders, should be the touchstone for how AIDS resources are allocated.

 

 

Increasing domestic investments in AIDS

 

Even as overall spending on AIDS has begun to decline over the past two to three years, domestic spending on AIDS has continued to increase as more and more countries are allocating public financing towards HIV prevention, care and treatment programmes. Yet while domestic spending has been a recent bright spot, most countries are still spending far too little, especially on primary prevention.

 

 

“We very much appreciate the efforts by the government and other partners to make antiretroviral therapy available throughout our country. However, third-line regimens remain unavailable. We urgently need to make these available, as we already have patients who are failing on second-line regimens. Although viral load monitoring is now less costly than it was, it remains a luxury for some patients.”

Dr. Hermine Meli, IAS Member

Healthcare worker, Cameroon

 

Analyses indicate most countries have yet to dedicate public sector funds to the AIDS response to a degree that corresponds with their economic potential and national HIV burden. Even following the collapse of many commodity markets, most economies in sub-Saharan Africa continue to expand. Decision-makers in Africa and other parts of the world need to leverage this economic growth to support HIV prevention, care and treatment programmes, recognizing that these investments generate 15:1 economic returns by increasing labour productivity, averting future medical expenses, and improving outcomes for children9.

 

Reducing donor funding now would further disincentivize countries from increasing their spending, and waste previous investments – leaving many countries unable to sustain or build on the gains made in recent years. It would also punish countries that have increased domestic resources but cannot yet afford the full burden of their epidemic.

 

Investing in the health workforce

 

In the AIDS response, people are our most important resource. Health systems do not treat people living with HIV or prevent new HIV infections. People do. The healthcare workers who labour every day – often against considerable challenges – are the front line of our response to HIV, and the response is serving them insufficiently.

 

図 保健医療従事者不足

 2016年720万人vs 2035年1290万人

 

In many countries, health workers are in extremely short supply. The workforce shortage, already estimated at 7.2 million, is projected to grow to 12.9 million by 203510. In more than 80 countries, the population-level density of health workers falls short of the minimum threshold recommended by WHO.

 

These shortages mean that we need to do everything possible to support and value the healthcare workers we have. Far too often, though, we fail the healthcare workers on whom we must rely if we hope to drive down new infections and AIDS-related deaths. Too many healthcare workers lack the tools they need, are underpaid, work in challenging environments, receive inadequate continuing education, and have few opportunities to advance in their field.

 

『3つの優先事項』 IAS年次書簡2017 その2

 国際エイズ学会(IAS)の2017年年次書簡『力強い科学 果敢なアクティビズム』の続きです。比較的短い第2章の『3つの優先事項』と第3章『HIV予防を真剣に考える』を日本語に訳しました。要約すると『HIV治療と予防の両方に一層、力を入れていく必要があり、それには資金をさらに増やしていかなければならない。ただし、資金には限りがあるので、その最大限の効果が発揮できるように工夫する必要がある』という主張ですが、それがなかなかうまくいかないのが世の中というものでもあります。

 予防としての治療(T as P)については、有効性を強調しつつも、『HIV治療だけでは不十分なことも次第に明らかになってきました:過去5年間、治療の普及率は着実に上がっていったのに予防の成果はあがっていません』と述べています。

 そんなこと前から言っているでしょと私などは顔をしかめたくなる気分ではありますが、ここではあえて「そらみろ」とは言うまい。IASが曲がりなりにもそうした現実的な認識に立っていることをまずは評価しましょう。

 『HIVに感染しやすくなるような社会的もしくは構造的要因を減らしていく「社会的ワクチン」を機能させる戦略が必要です。最も弱い立場に置かれている人たちの生活を改善することでHIV感染のリスクを減らしていく戦略です』

 ありそで、なさそな暇を見つけながらですが、さらに翻訳を進めていきましょう。

 

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3つの優先事項

 エイズとの闘うための目標を達成するには、他の保健、人権擁護活動と協力してこれまで以上に努力を重ねつつ、新たな創造的方法を生み出していく必要があります。今まで通りのやり方を踏襲していたのでは、新規感染とエイズ関連の死亡を減らすという目標に対し、失敗のレシピを提供するだけで終わってしまうのです。

 とりわけ、HIVエイズへの闘いを持続していける資金が確実に保証されなければ、目標の達成は望めません。必要額と実際に使える金額とのギャップは年々、拡大していく中で、HIV関係者は以下の3つの重点分野で協力していくべきです。

 

  • HIV治療とケアへのアクセス拡大に引き続き取り組むと同時に、不可欠なHIV予防戦略の規模拡大を重視し、限られたエイズ資金による戦略的な成果を高めていく。
  • HIVとの闘いに必要な資金を生み出す努力を倍増させる。
  • 治療薬および他のHIV予防、ケア、治療に不可欠な手段のコストをさらに引き下げる。

 

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 HIV予防を真剣に考える

 限られた資金で成果を高めるには、効果が証明されている予防戦略にあてる財源を拡大しなければなりません。UNAIDSの報告書によると、HIV感染の一次予防に向けられている資金は現在、エイズ支出全体の20%にとどまっています。予防サービスに25%をあてるという世界目標には届いていません(注1)。ドナーおよび各国がHIV治療の拡大に力を入れる一方で、HIV予防対策が弱くなっているのです。

 HIV予防に対する優先度が低いことで、心配されていた通りの悲劇が生み出されています。2010年以降、成人の新規HIV感染は減少していないのです。また、若い女性(15~24歳)の感染は、減少しており、それ自体は重要なことではあるのですが、減少率は6%と控えめな状態にとどまっています(注3)。UNAIDSの報告によると、南アフリカ、エジプト、ナイジェリア、ロシア、ウクライナなど人口の多い国々のいくつかでは、2010年から15年までの間に成人の新規HIV感染が増加しています。

 

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 検査アクセスの拡大やコンドームと潤滑剤の普及、焦点をしぼったHIV教育への投資は、資金の有効な使い道であるだけでなく、倫理的な観点からも大切です。引き続き子どもの新規感染排除を目指すことにも同じことが言えます。どこに住んでいるかに関わりなく、HIV感染のリスクにさらされているすべての人が、感染を防ぐ手段にアクセスできるようにならなければなりません。しかし、多くの国でHIV感染の予防対策の政策的な優先度が低下していることから、予防サービスへのギャップはむしろ広がっています(注1)。

 感染に対する脆弱性が最も高い人たちに届けることができなければ、予防プログラムは成功しません。努力してはいるものの、最も感染しやすい人たちを対象にすることができず、そのニーズに対応することもできない場合がしばしばあります。対象を絞り、予防対策を集中させていくにはどうしたらいいのか。方法をめぐる知識そのものはこの数年、爆発的に広がっています。それでも、流行の現実にあわせ、教訓を実際の予防対策に生かしていくことはできずにいるのです。

 HIV予防のための資金をただちに増やし、プログラムを強化する一方で、HIVに感染しやすい人たちには、自らのリスクを認識しリスク低減をはかっているかどうかに関わりなく、二次予防を提供する。そうした戦略への投資も必要です。

 

挿入コメント

 「予防はHIV陰性の人たちだけでなく、HIV陽性の人にも必要です。個人レベルでHIV予防の重要性を認識してもらうには、理解のある患者の助けを借りなければなりません」

 ロイス・マツル、IASメンバー、ジンバブエHIVに感染して生まれた24歳の女性

 

 長期持続型の曝露前予防投薬(PrEP)は、ユーザーに毎日の投薬を求めることなく成立する将来の予防戦略を約束するものです。しかし、多くの国で経口PrEPの普及さえ遅々として進まないという事実でも分かるように、この選択肢を必要とする人が利用しやすい環境を各国と医療提供者とコミュニティが積極的に準備をしていかない限り、長期持続型PrEPが確固とした公衆衛生上の成果を上げることはできません。セックスワーカー、男性とセックスをする男性、注射薬物使用者、トランスジェンダーの人たちといったキーポピュレーションにとって、PrEPが状況を大きく変える可能性はあります。ただし、それはPrEPの約束を実現させる効果的なプログラムが実施されれば、という条件付きです。機敏かつ持続可能な提供戦略が必要です。経口および注射によるPrEPを選択肢として示すことができれば、普及率は確実に上がっていくでしょう。

 自発的男性器包皮切除は男性のHIV感染を防ぐ包括的な予防パッケージの一部であり、HIV陽性の男性が減ることで間接的には女性への感染も防ぐことになります。ここでもまた、私たちの努力は十分ではありません。サハラ砂漠以南のアフリカの優先対策14カ国で、2015年に新たに男性器包皮切除の手術を受けた男性の数は前年より減っています。これは2007年に世界保健機関(WHO)が自発的男性器包皮切除をHIV予防の手段として推奨するようになってから初めてのことです。(注1)。

 HIV治療は二次予防のもう一つの有力手段です。しかし、HIV治療だけでは不十分なことも次第に明らかになってきました:過去5年間、治療の普及率は着実に上がっていったのに予防の成果はあがっていません。その典型的なケースがルワンダです:90-90-90ターゲット(注4)の達成に向けて着実に進んでいるように見えるのに、国内の年間新規HIV感染数は2011年から2015年までほとんど変わっていません。高い治療カバー率がありながら、HIVの感染が継続しているというこのパターンはオーストラリアでも同じです(注6)。HIV感染の二次予防の成果が出るのには時間がかかるでしょう。

 治療がもたらす予防への効果を十分に高めるには、アクセスを拡大し、治療カスケードのすべてにわたって改善を進めていかなければなりません。世界が年間新規HIV感染の減少軌道に戻るには、抗レトロウイルス薬(ARV)によるHIV感染リスクの低減とともに、一次的なHIV感染リスクを下げるための予防対策の強化が必要です。

HIVに感染しやすくなるような社会的もしくは構造的要因を減らしていく「社会的ワクチン」を機能させる戦略が必要です。最も弱い立場に置かれている人たちの生活を改善することでHIV感染のリスクを減らしていく戦略です。現金給付と教育へのアクセス拡大が10代の少女や若い女性のHIV感染リスクを下げることはすでにエビデンスとしてはっきり示されています。しかし、私たちが構造的介入策として理解していることと現実の世界で起きていることとの間には大きなギャップが口を開けています(注7)。HIV予防の構造的介入策の規模を拡大するには、エイズコミュニティが教育や社会保障、人権、司法など他分野の人たちと積極的に協力していく必要があります。

 

 

 

THE THREE PRIORITIES

 

While redoubling our efforts to work in partnership with other health and human rights advocates, we need new, creative ways of achieving our goals against AIDS. Business as usual is a sure recipe for failure in our quest to drive down new infections and AIDS-related deaths.

 

In particular, reaching our goals requires sufficient, predictable and sustainable financing for the fight against HIV and AIDS. As the gap between the amount needed and what is actually available widens year by year, HIV stakeholders must unite to take three key actions:

 

    Enhance the strategic impact of finite AIDS funding by prioritizing the scale-up of essential HIV prevention strategies as we work to continue expanding access to HIV treatment and care

    Redouble our efforts to generate the level of resources needed to combat HIV

    Further reduce the cost of medicines and other essential HIV prevention care and treatment tools.

 

 

 

GETTING SERIOUS ABOUT HIV PREVENTION

 

To improve the impact of finite resources, we need to increase financing for proven HIV prevention strategies. UNAIDS reports that only about 20% of current AIDS spending is focused on primary prevention – short of the global target of 25% for prevention services1. As donors and countries have focused on scaling up HIV treatment, the commitment to HIV prevention has waned.

 

The deprioritization of HIV prevention has yielded predictably tragic results. Since 2010, there has been no decline in new HIV infections among adults, and there has been only a modest, if still important, 6% reduction in new infections among young women (aged 15-24)3. From 2010 to 2015, UNAIDS reports that the number of new HIV infections among adults has increased in some of the world’s most populous countries, such as South Africa, Egypt, Indonesia, Nigeria, Russia and Ukraine1.

 

MAP

 

Investing in increased access to testing, condoms and lubricants and in targeted HIV education is not only money well spent, but is also an ethical necessity. The same is true about our continuing work on eliminating new infections among children. Every person vulnerable to HIV infection, no matter where he or she lives, deserves access to the means of protecting against HIV acquisition. However, as the priority given to HIV prevention has fallen, gaps in providing critical prevention services have widened in many countries1.

 

Prevention programmes are only successful if they reach those at greatest vulnerability. Too often, our efforts have not been sufficiently targeted and tailored to the groups most likely to become infected. In the past several years, we’ve seen an explosion of learning regarding optimal ways to target and focus prevention efforts, but we still often fail to put these lessons to use or to align our prevention efforts with the reality of the epidemic.

 

While taking immediate steps to ramp up spending and programming for HIV prevention, we need to invest in strategies that offer secondary protection to individuals who are vulnerable to HIV infection, regardless of whether they recognize their risk or take steps to reduce it.

 

“Prevention is not just for HIV-negative people but for HIV-positive people as well. We need to use the awareness of expert patients to help people understand at a personal level the importance of HIV prevention.”

Loyce Maturu, IAS Member

24-year-old woman born with HIV, Zimbabwe

 

Long-acting formulations of pre-exposure prophylaxis (PrEP) offer promise as a prevention strategy that does not require daily effort by the user. But, as the very slow uptake of oral PrEP in many countries shows, long-acting PrEP will only have a robust public health impact if countries, providers and communities are prepared to make this option readily available to those who need it. For key populations – sex workers, men who have sex with men, people who inject drugs, and transgender people – PrEP is a potential game-changer, but only if we translate the promise of PrEP into effectively targeted programmes. Smart, sustainable delivery strategies will be needed, and uptake will be most robust if people are offered a choice of PrEP options, including both pills and injections.

 

As part of a comprehensive prevention package, voluntary medical male circumcision offers men protection against HIV acquisition, and also provides indirect protection to women by reducing the number of men living with HIV. Here, too, however, our efforts are falling short of what is needed. For the first time since 2007 when the World Health Organization (WHO) began recommending voluntary medical male circumcision for HIV prevention, the number of men newly circumcised in 2015 was lower than in the previous year in 14 priority countries in sub-Saharan Africa1.

 

HIV treatment is another powerful form of secondary HIV prevention. But it is increasingly clear that HIV treatment alone is insufficient: the lack of progress on prevention over the past five years occurred at the very time that coverage for treatment was steadily rising. A case in point is Rwanda: though the country appears on track to reach the 90-90-90 treatment targets4, the annual number of new HIV infections was virtually unchanged from 2011 to 20155. The same pattern of high treatment coverage and persistent HIV transmission is apparent in Australia6. The impact of secondary HIV prevention will take time.

 

We will only fully leverage the prevention benefits of treatment if we continue expanding access and improving outcomes across the treatment cascade. To put the world back on track towards lowering the annual number of new HIV infections, the reduction in HIV transmission risks associated with antiretroviral (ARV) therapy must be coupled with an equally strong prevention effort that decreases the risks of primary HIV acquisition.

 

Strategies that mitigate social or structural factors that increase HIV vulnerability function as a “social vaccine”, reducing HIV risks by improving the lives of the most vulnerable. The evidence is now robust that cash transfers and expanded access to education reduce the vulnerability of adolescent girls and young women to HIV, but there is a yawning gap between what we know about structural interventions and what is happening in the real world7. Scaling up structural interventions for HIV prevention will require that the AIDS community collaborate with actors in other fields, such as education, social protection, human rights and law enforcement.

宗教宗派を超えて祈る 3.11追悼・復興祈願祭

 東日本大震災から6年となる3月11日午後、鎌倉の鶴岡八幡宮東日本大震災追悼・復興祈願祭」が行われます。

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              ◇
 3月11日の大震災から6年を迎えるその日、その時間。
 鶴岡八幡宮舞殿にて、鎌倉の神道仏教キリスト教が合同祈願をいたします。
 犠牲者を哀悼し、被災者のみなさまに思いを寄せて、鎌倉の神職、僧侶、司祭、牧師が心をひとつに祈りを捧げます。
 みなさまもどうぞご参集の上、ともにお祈り下さい。
※14時46分に、市内の寺院・教会の鐘が鳴ります。鶴岡八幡宮にいらっしゃれない方も、どうぞご一緒にお祈り下さい。
※祭事の前後に、境内にて【相馬ながれやま踊りJuniorの会】による「相馬流山踊り」(福島県南相馬市)の奉納があります。
    (鎌倉宗教者会議公式サイトから)

www.praykamakura.org

日時:平成29(2017)年3月11日(土)14:40~16:10ごろ
場所:鶴岡八幡宮(JR鎌倉駅から徒歩約15分)
 どなたでも参加できます。詳細は鎌倉宗教者会議の公式サイトでご覧下さい。
     ◇

 この追悼・復興祈願祭は東日本大震災から1カ月後の2011年4月11日に鶴岡八幡宮で開催され、今年で7回目となります。2回目以降は毎年3月11日に執り行われるようになり、会場も仏教寺院、キリスト教会、神社と移っています。鶴岡八幡宮が会場になるのは3回目なので、今回はいわば3巡目に入ったかたちですね。
 『鎌倉の神道仏教キリスト教の宗教者が宗教の違いを超えて集結し、追悼・復興祈願祭を執り行う』というこの貴重かつ重要な体験が基盤となり、2013年6月には鎌倉宗教者会議が設立されています。
 《歴史的な鎌倉文化圏を地盤とする宗教者が、宗旨・宗派を超えて手を取り合い、豊かな「宗教都市・鎌倉」の実現を目指します。「祈る心」を伝え、育てていくことにより、鎌倉市民を始めとする人々の平安を実現し、豊かな精神生活に寄与することを目的といたします》 (公式サイトの「鎌倉宗教者会議とは」から)。