標高1400メートルのブルームフォンテーンは、1995年ラグビーW杯で日本代表がニュージーランド代表と対戦し、145対17という歴史的大敗を喫した悪夢の地である。サンウルブズも昨年、ここでチーターズと対戦した時には、92対17と大差で敗れています。
魔物が住んでいるのではないかと思いたくなるようなこの結果は、高地で酸素が薄く、選手の疲労蓄積度も平地で行うのとは大きく異なるためだろう。
したがって、今度も大敗かなあと思っていたが、11日(日本時間12日未明)の試合は大健闘だった。
チーターズ 38 - 31 サンウルブズ
高地での試合は、力の差が増幅されて点差に出てくる。そう考えれば、今季のサンウルブズの力は昨年よりも大きく向上していると受け止めるべきだろう。
だが、勝てなかった。末端ファンのおじさんとしては、よくやったと思う一方で、惜しかったなあ、勝てたのに、ここで勝たなきゃ・・・とすぐに態度が変わってしまう。
あえて言わずもがなのことに言及すれば、観るスポーツとしてのラグビーの人気度を高め、ファン層を広げるには、善戦ではなく、勝つことが何よりも必要になる。
濃い目のファンなら、敗れたとはいえ、随所に光るプレーを見せた選手たちに拍手を惜しまないだろう。ただし、本日の新聞の運動面を見ても分かるように、大相撲やWBCの記事が大きく扱われている一方で、ラグビーに関しては「サンウルブズ開幕3連敗」程度のあっさりした見出しで短く報じられているだけだ。
www.sanspo.com それはそうだろうと思う。私が編集長だったとしても、負けたのなら短く載せておけばいいやといった判断になるだろう。
勝つことで少しずつ注目度を高める。その積み重ねがいまは重要だ。2015年の秋に、関心度という点ではお先真っ暗だったラグビーに何とか多くの人が関心を持つようになったのは、W杯イングランド大会で、日本代表が南ア代表に予想もしなかった勝利をつかみ取ったからに他ならない。この勝利によって2019年W杯日本開催にも何とか期待が持てるようになった。
あのときを思い出せば、日本代表は試合終了直前、3点差でペナルティを得た。FB五郎丸がPGを狙えば同点。つまり引き分けに持ち込める。それだって日本にとっては快挙である。
だが、ジャパンは勝ちを目指してスクラムを選択した。あの決断。そして決断にいたる努力の蓄積。実はそんなことはまったく知らない日本国内の多くの人たちが「ラグビーもやるねえ」と関心を持つ。ルールなど知らなくても、面白そうじゃないのと振り向く。
しつこいようだが、その積み重ねが大切になる。サンウルブズのスーパーラグビー参戦により多くの選手が本場のレベルを経験して力がついた。それはもちろん大切なことではある。ただし、2019年W杯という機会に向けて、ラグビー人気を高めるという観点に立てば、それだけではだめだ。このことは指摘しておかなければならない。
サンウルブズはもちろん、日本代表ではないが、日本代表の強化の重要な手段としてチーム編成がなされ、疑似日本代表といった位置づけでファン層の拡大を目指す立場にもある。
昨年は1勝13敗1分だった。1勝は貴重な実績ではあるが、実は相手のジャガーズが遠征の最後の試合で疲れ切ってへろへろになっているのに助けられ、何とか勝ったという試合である。それでもなお、たった1つでも勝った試合があったことでデビューシーズンは救われた。
今年はもう1段、階段をあがろう。つまり、2勝しよう。ぜいたくはいわない。ただし、善戦だけではだめだ。
今回の惜敗はブルームフォンテーンの悪夢を払拭した。若手の活躍も目覚ましかった。選手の経験値が高まっている。こうしたもろもろの効果を考えれば、価値ある善戦として評価したい。それがラグビーファンの気持ちだろう。
だが、そこまで入れ込んでいるファンは日本全国でもそうたくさんいるわけではない。好意的な評価に安住することなく、見るスポーツとしてのラグビーの魅力を高めるには、さまざまなプロモーション策があるのだろうが、それも試合での勝利体験を共有できる機会がなければ無駄になってしまう。
グラウンド上で激しくぶつかり合う心配のない末端ファンであり、一方で人は何に注目するかを考える仕事はうんざりするほど続けてきた賞味期限切れの記者(スポーツ記者じゃないけど)としては、しつこいようだが、この点は大いに強調しておきたい。