7月29日からカナダのモントリオールで、第24回国際エイズ会議(AIDS2022)が開かれています。日本からもaktaの岩橋さんが参加し、Facebookに現地からの写真やレポートが掲載されています。帰国後の報告も楽しみですね。
TOP-HAT News第167号(2022年7月)では、この機会に8年前にオーストラリアのメルボルンで開かれた第20回会議(AIDS2014)を振り返ってみました。
「メルボルンからモントリオールへ」、2014年と2022年、なぜか共通点があります。なぜかというよりも、流れの中の必然とも言うべき苦い共通性だったのかもしれません。
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第167号(2022年7月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
2 エイズパラドックスとは マイケル・カービー元判事の演説から
3 テーマは『文化 ~くりかえされるもの うまれるもの~』
4 aktaライブラリ
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第24回国際エイズ会議(AIDS2022)は7月29日、カナダのモントリオールで開幕。8月2日まで5日間にわたり、会議会場に加え、オンラインでも参加が可能なハイブリッド開催となっています。
前回(2年前)、米国のサンフランシスコ・オークランド両市で開催予定だったAIDS2020はコロナ流行の影響で急遽、会議史上初のバーチャル開催に変更されました。したがって、今回のハイブリッド開催も会議史上初となります。
逆に今回はコロナの流行に加え、ウクライナ情勢の影響もあって、会議参加のためにカナダに入国することが困難になった人も少なからずいたようです。バーチャル開催はそうした人たちにも参加の選択肢を提供できるようになりました。
話が少し跳びますが、ウクライナ情勢の影響を強く受けた国際エイズ会議と言えば、2014年にオーストラリアのメルボルンで開かれた第20回会議(AIDS2014)を思い出します。
まず、2014年という年を振り返ってみましょう。2月にロシアのソチで冬季五輪が開かれています。ロシアは前の年に同性愛宣伝禁止法を制定しており、欧米各国首脳の多くがロシア国内の人権状況への懸念から五輪開会式をボイコットしました。五輪が閉幕した直後の3月には、そのロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合した年でもあります。
そして、2014年7月17日、アムステルダム発クアラルンプール行マレーシア航空17便が、ウクライナ東部の反政府勢力支配地域の上空を飛行中、ミサイルに撃墜される事件が起き、乗客・乗員298人全員が死亡ました。この事件では、国際合同捜査チーム(JIT)が作られ、元ロシア軍少佐ら4人を殺人罪で起訴しています。裁判はオランダの裁判所でいまも継続中です。
撃墜事件が起きたのは、メルボルンのAIDS2014が開幕する直前だったことから、マレーシア航空17便には、国際エイズ学会(IAS)のジョープ・ランゲ元理事長をはじめ6人の会議参加予定者が搭乗していました。7月20日の開会式では、亡くなった6人に1分間の黙とうが捧げられ、国際エイズ学会(IAS)のフランソワーズ・バレ-シヌシ理事長(当時)が「私たちはAIDS2014をこの人たちに捧げます」と追悼の言葉を述べました。
また、この時の開会式では、オーストラリアのマイケル・カービー元判事がジョナサン・マン賞の受賞記念講演を行っています。
治療の進歩と普及により、世界のHIV/エイズ対策は2014年以降、目覚ましい成果をあげてきました。それでも2030年のエイズ流行終結という目標の実現はいまなお、極めて困難な見通しです。世界の現実はいま、2014年当時の試練と直接つながっている。カービー元判事の演説は、そのことを改めて思い起こさせるものでもあります。
2 エイズパラドックスとは マイケル・カービー元判事の演説から
ジョナサン・マン博士は世界保健機関(WHO)の世界エイズプログラム(GPA)の初代部長であり、1980~90年代のエイズ対策を牽引してきた研究者ですが、1998年にニューヨーク発の航空機の墜落事故で亡くなっています。
マイケル・カービー元判事が記念講演を依頼されたのはマレーシア航空17便の撃墜事件の何週間も前ですが、AIDS2014の開会式が演説の場だったことから、この演説は死亡した6人のAIDS2014参加予定者の追悼の辞にもなりました。
カービー氏は同時に、理不尽な暴力の犠牲になったエイズアクティビストたちの名前を演説の中で挙げ、反同性愛法などHIV対策を妨げる法律の存在を強く批判しています。
また、ジョナサン・マンがしばしば指摘していた「エイズパラドックス」を紹介し、「法律と政策は、エイズの流行に対する解決策の一部であり、決して問題の一部であってはならない」と強調しました。
エイズパラドックスとは『HIVに感染した人たちを処罰し、排除しても、HIVの新規感染は減らず、逆にHIV陽性者を守ることがHIV感染の予防にも効果がある』ということでしょうか。
カービー元判事は、演説の中でこのパラドックスを含め、エイズ対策の6つの教訓をあげています。要約すると以下のようになります。
1 科学的な根拠に基づく。
2 当事者の声を聞く。
5 感染症対策の伝統的手法を超えて考える。
6 人々の生命を守るために法律や政策を変える勇気を持つ。
カービー元判事の2014年ジョナサン・マン賞受賞記念講演の日本語仮訳は、エイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログで2回に分けて紹介されています。
https://asajp.at.webry.info/201407/article_15.html
https://asajp.at.webry.info/201407/article_16.html
3 テーマは『文化 ~くりかえされるもの うまれるもの~』
第29回AIDS文化フォーラムin横浜が8月5日(金)~7日(日)に開かれます。
こちらもハイブリッド開催です。リアル会場は、かながわ県民センター(横浜駅西口徒歩5分)。オンラインはZOOM&YouTubeLive配信。
AIDS文化フォーラムin横浜は1994年夏、横浜で第10回国際エイズ会議が開催された時にスタートしました。
《アジアで初めての国際エイズ会議は、大きな注目を集めましたが、行政や学会中心の国際会議は参加費が8万円で、とても市民参加できるものではありませんでした。この時、国際会議に並行して草の根の市民版エイズフォーラムをやろうと、多くのボランティア・NGO・専門家たちが、AIDS文化フォーラムを立ち上げたのです。そこでは国際会議に集まるリソースパーソンを講演者にしたり、NPOのネットワークを作ったり、感染者によるパフォーマンスがあったり様々な試みが行われました》(公式サイトから)
以後、毎年8月の最初の週末(金~日曜)に開かれるようになり、今年で29回目を迎えました。参加は無料です。プログラムは公式サイトでご覧ください。
4 aktaライブラリ
東京・新宿二丁目のコミュニティセンターaktaの公式サイトには、活動報告書やaktaでこれまでに作成、発行したパンフレットなどの紹介ページがあります。PDF版のダウンロードもできます。