南アフリカのダーバンで開かれていた第21回国際エイズ会議(AIDS2016)の公式サイトから、開催期間中の1日ごとの概要報告『AIDS2016 Daily Review』の日本語仮訳です。HATプロジェクトのブログに初日~4日目の報告をそれぞれ掲載しました。最終日(閉会式)については、全体のまとめとともに来週(つまり今週)、掲載しますということですが、まだ載っていません。
仮訳の方はHATプロジェクトでご覧いただくとして、以下に簡単な解説というか感想を付しておきます。
第21回国際エイズ会議(AIDS2016)開幕
http://asajp.at.webry.info/201607/article_12.html
(解説) 初日の7月18日(月)は故ネルソン・マンデラ大統領の誕生日でした。2000年のダーバン会議当時、マンデラ氏はすでに大統領を退いていましたが、エイズ対策には現職当時よりもむしろ熱心に取り組んでいたように記憶しています。
ターボ・ムベキ大統領がエイズのHIV原因説を否定し抗レトロウイルス治療の導入を阻んでいたのとは立場が180度異なっていました。
そうした歴史を踏まえ、AIDS2016の初日報告では、16年前のマンデラ氏の会議における演説(開会式はムベキ大統領が演説したので、マンデラ演説は会議の中の別の機会に行われたと思います)がまず取り上げられています。
また、《初日に開かれた一連の記者会見では、会議のテーマ“Access Equity Rights Now”(いまこそ公平な権利へのアクセスを)が何度も紹介され、最も弱い立場の集団を守ること、女性、女児、すべての若者に対する予防と治療のサービスを拡大することの必要性が強調された》ということです。
AIDS2016 2日目:女性と少女、新しい予防の研究、スティグマと差別
http://asajp.at.webry.info/201607/article_13.html
(解説)予防に関しては、この会議の終幕をもって国際エイズ学会(IAS)の新理事長となったリンダ-ゲイル・ベッカー博士が「世界的なPrEP時代の夜明け」と語るなど、かなりハイになっています。
ただし、次のような記述もあります。研究者は威勢がいいけれど、「エイズはもういいだろう」ムードは世界的に広がっているのではないかという危惧を持たざるを得ません。
《政治が揺れ動き、資金は不足し、エボラのような新たな流行も出現している時代にHIVへの関心をどう持続させていくかは、19日の会議のもう一つの大きなテーマだった。地震や武力紛争、難民危機、そしてアドボケートたちが「エイズ対策の歴史の中でも例のない」という資金拠出の減少に直面しつつ、HIV治療と予防を持続的に前に進めていくにはどんな戦略が必要なのかを検討するセッションやメディアイベントが開かれた》
この日のハイライトは、ジョナサン・マン賞を受賞した南ア最高裁のエドウィン・キャメロン判事の受賞記念講演でしょうか。AIDS2016公式サイトに演説原稿が載っているのでまた時間を見つけて日本語仮訳に挑戦します。忘れた頃に載るかもしれませんが、よろしく。
AIDS2016 3日目:責任をもってターゲットを達成する
(解説)研究成果の報告は《ケニアとウガンダの地方で実施されたSEARCH研究からは暫定結果が報告され、UNAIDSの90-90-90目標達成に向けた大きな成果が示された》といった調子で押せ押せムードですが、現実の世界はどうなんでしょうか。特別セッションにおけるビル・ゲイツ氏の発言も紹介されています。
《世界のエイズ対策はもう手を緩めてもいいだろうと考える人たちのために、ゲイツは人口動態上の助言を提供した:「史上最大の人口層が」と彼は指摘した。「HIVの感染リスクが最も高い年齢になろうとしています」》
この日はエルトン・ジョン卿も登場し、《インクルージョンと人権の尊重がなければ、いくら科学的成果を積み重ねてもエイズの流行を終結させることはできない》と念を押しています。
AIDS2016 4日目:ギャップを埋める 英王子も参加
http://asajp.at.webry.info/201607/article_15.html
(解説)英国のヘンリー王子(ハリー王子)とエルトン・ジョン卿が特別セッション『若者の意見でエイズ終結を』に参加しました。
《ハリー王子はセッションで南アフリカの治療行動グループ(TAG)やACT UPなどの活動家組織、そして自らの母であるダイアナ妃も含め、HIVスティグマの克服に取り組んできた多数の個人の勇気を称えた。エルトン・ジョン卿はライアン・ホワイトやニコシ・ジョンソンら大きな影響を与えた若者たちを振り返った》
今回の会議のメディア登録者は800人だったそうです。大変な数ですが、これまでの会議からすると少し減っているような印象も受けます。
『HIVとエイズに関する責任ある報道とセンセーショナルな報道』というワークショップもあったようです。
《このワークショップでは、人権尊重を促進し、国際保健のターゲットを達成できるようジャーナリスト、アクティビスト、科学者らが「ヘッドライン(見出し)を超えて」協力していくにはどうしたらいいかが議論された》
大切なテーマではありますが、「協力」のしばりが強くなることへの危惧も残ります。リスクコミュニケーションのあり方みたいな研究が、メディアコントロール的な視点でどんどん進められていくことへの違和感も踏まえたうえでの議論であって欲しい。