HIV陽性者はなぜ予防に取り組むのか ローレル・スプレイグGNP+事務局長演説から エイズと社会ウェブ版297

 世界HIV予防連合の創設会合については先日、国連合同エイズ計画(UNAIDS)と国連人口基金UNFPA)のプレスリリースの日本語仮訳で少し紹介しました。

 その創設会合には、世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)も参加し、ローレル・スプレイグ事務局長が演説を行っています。

www.gnpplus.net

GNP+公式サイトに掲載された演説原稿については、日本語仮訳(ほぼ全文)を作成し、エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに乗せてあります。詳しくはそちらをご覧いただくとして、ここでは演説の一部を紹介しつつ、私の感想も少し述べておきます。

 

 2020年までにHIVの新規HIV感染を世界全体で年間50万件以下に抑えることは、現在の国際社会の共通目標になっています。もう少し厳密にいうと、国際社会の共通目標である「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結」を2030年に実現するには、その中間目標として2020年までに90-90-90ターゲットを達成する必要がある。

 つまり、『HIVに感染している人の90%が自らの感染を知り、そのうちの90%は治療を開始し、さらに治療を受けている人の90%が体内のウイルス量を低く抑えられる状態を目指す』というターゲットです。

 このターゲットが達成できれば、年間の新規感染は世界全体で50万人以下に減るというのが国連の試算なのですが、最近は「どうも減少のペースがはかばかしくありませんね」ということを認めざるを得ない状況になっています。

 締め切りの2020年末まであと3年ちょっと。世界HIV予防連合は何とか現状を打開すべく、UNAIDSUNFPAという二つの国連機関の事務局長が共同議長となり、国連加盟国や市民社会組織、国際組織などが参加した連合体ということで、HIV陽性者の国際的ネットワークである世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)もメンバーに加わっています。

 でも、HIV陽性者は予防とはあまり関係ないんじゃないの?そうした疑問はGNP+にもよく寄せられるのでしょうか。ローレル・スプレイグ事務局長は『HIV予防において、HIV陽性者が担える役割は、2つの重要なメッセージを明確に伝えることです』と述べています。

『第一は、HIV検査で陽性となったとしても、大丈夫です。二番目のメッセージは、HIVに感染している状態は生涯にわたって続き、生活はHIVに感染していない方が はるかに 楽だということです』

 そして、検査でHIV陽性と分かった人には『あなたが生き残るために必要なものはすべて、いま、この世界にあるのです』と呼びかけています。

 さらにスプレイグ事務局長は『この二つのメッセージ あなたは大丈夫です、でもHIVには感染していない方がいいでしょう はしばしば、矛盾しているように受け止められることがありますが、そうではありません』として次のように述べています。

 『HIV予防については、人びと脅すようなメッセージが使われることがあまりにもしばしばありました。HIV陽性者はまるで悪魔であるかのように描かれるのです。こんなやり方ではうまくいくわけがありません。医学的な理由であれ、社会的な偏見のためであれ、HIV検査の結果を恐れるようになればなるほど、感染を心配する人は検査を受けようとしなくなります。安心してHIVについて語れること、HIV検査を受けること、そしてHIVに感染した状態で安心して生活できるようにすること、それらがすべて、HIVに感染しないでいることを容易にするのです』

 治療の進歩に伴って注目されるようになった『予防としての治療(T as P)』が成立するためにも『予防としての支援(S as P)』が必要です。こんなことは実は30年も前から指摘されていました。演説の中でスプレイグ事務局長も『HIV陽性者は常に、HIV予防対策の中心にいました。キーポピュレーションが主導する私たちのコミュニティがHIV予防を創造してきたのです』と指摘しています。

もちろん、HIV陽性者だけがその役割を担ってきたわけではありませんが、だからといって予防に関して果たしたHIV陽性者の役割は小さいということにはなりません。くわしくは、演説日本語仮訳を読んでいただくとして、もう一節だけ、仮訳から引用しておきます。

 『それでもなお、HIV陽性者は予防の議論の中では、失敗者として排除されることが、あまりにもしばしばあります。ここでわずかの時間でいいのですが、HIV陽性者を予防の失敗者として考えていなかったかどうか、皆さんの胸に問い直してください。そしてパートナーであり、同時に予防に関する知識が最も豊富な人として、私たちのことをもう一度、思い浮かべてください』

「もう、一節だけ」と書いたばかりなのに未練がましく恐縮ですが、さらに少し追加すると、HIV陽性者が本当に予防への関与を果たせるようにするには、次の3点が必要になるとしています。

1)    HIVに感染していることで人を非難しない。

2)    予防の権利を保障する国の能力について検証する。

3)    予防のための資金活用をコミュニティにまかせる。

HATプロジェクトの日本語仮訳はこちらでご覧ください。

http://asajp.at.webry.info/201710/article_3.html