3月24日(金)、つまり本日は世界結核デーです。といっても、結核にはあまり詳しくないので公益財団法人結核予防会 結核研究所のサイトからの受け売りですが、どうして今日が「世界結核デー」なのかは次のよう説明されています。
http://www.jata.or.jp/tp_detail.php?id=81
『細菌学者ロベルト・コッホが1882年に結核菌の発見を発表した日にちなみ、1997年の世界保健総会で制定されました』
そうか、ロベルト・コッホのことは以前に紹介したこともありました。すっかり忘れてしまって・・・。制定が1997年ということは今年が世界結核デー20周年ですね。
その前日の23日午後、東京・内幸町の日本記者クラブで、公益財団法人日本国際交流センター/グローバルファンド日本委員会主催のメディアセミナー『世界における結核感染および流行の現状』が開かれました。
今年は世界結核デーをはさんだ3月22日から25日までの4日間、東京で第6回国際結核肺疾患予防連合アジア太平洋地域学術大会が開かれているので、その会議の参加者である以下の3人が結核対策の現状やなぜいま結核なのかといったことをお話しされました。
スヴァナンド・サフさん ストップ結核パートナーシップ事務局次長
エルド・ワンドロさん 世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)結核担当
(写真は左から司会のグローバルファンド日本委員会、伊藤聡子さん、スヴァナンド・サフさん、エルド・ワンドロさん、エロイザ・セペダ=テンさん)
フィリピン出身のテンさんは、会見ではルーイと呼ばれていました。建築家志望だった20代のときに治療薬が効かない多剤耐性結核(MDR-TB)にかかって長い闘病生活を続け、その過程で後遺症として視力を失いました。現在は結核活動家として、すべての人びとが結核の治療を受けられるようになることを目指しており、セミナーでは自らの体験を語るとともに「結核は単に医療の問題ではない。社会的な問題である」と強調されました。HIV/エイズとも共通の課題ですね。
サフさんは世界保健機関(WHO)からストップ結核パートナーシップに転じた専門家で、世界の結核感染の最新動向について報告しました。
結核は史上最も多くの人の死亡原因となった病気で、現在も世界全体で年間約180万人が亡くなっています。少し前までは年間の死亡者が最も多い感染症はエイズでしたが、抗レトロウイルス治療の普及でエイズの死者は大きく減少し、2015年現在では110万人となっています。結核の死者が最多となった背景にはそうした事情もあります。
HIV/エイズ関連の死者が減少したのは、抗レトロウイルス治療の普及に世界が協力して取り組んできた成果であり、それで「エイズはもういいだろう」などといった気分が広がってしまえば、再び困難な流行の拡大に直面することになります。
したがって、エイズ対策は「自己満足のリスク」(英国のヘンリー王子)に陥ることなく、引き続き対策を進めていく必要がありますが、それと同時に結核への対策も疎かにはできません。何世紀にもわたる流行であり、その歴史に見合った治療研究の蓄積もありながらなお、年間180万人もの人が亡くなっているのです。まさしくルーイさんが指摘されたように「医療だけでなく、社会が対応しなければならない」流行です。
ワンドロさんは、結核担当のシニア疾患コーディネーターとして、グローバルファンドの国際的な結核対策支援について報告しました。各国への個別の支援だけでなく、地域全体の課題として数カ国にまたがる支援が必要なこと、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジと持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す大きな枠組みのもとでの対応が重要なことなどを強調されています。
結核についてはエイズによる死者の最も大きな死亡原因でもあります。HIV/エイズ対策の観点からも軽視はできません。結核対策か、エイズ対策か、ではなく、両方重要です。持続可能な開発目標(SDGs)では、17の目標(ゴール)のうちのゴール3『あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する』には12のターゲットがあり、そのうち3番目に『2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する』(外務省仮訳)というターゲットが掲げられています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
つまり、エイズ、結核、マラリアはともにSDGsの枠組みのもとで流行終結(あくまで公衆衛生上の脅威としての流行の終結という意味ですが)を目指すという共通目標のもとに対策を進める必要があります。
結核対策については2018年に国連総会ハイレベル会合の開催が予定されています。国連総会では昨年(2016年)6月、エイズ流行終結に関する国連総会ハイレベル会合が開かれ、世界中の国が2030年のエイズ流行終結に向けて努力を続けていくことが確認されました。 今度は結核です。「またかよ」といわず、同時進行的な目配りを続けていきましょう。
SDGsでも明らかにされているようにそれぞれの対策が孤立していては相乗効果は望めません。お互いの強みを生かし、弱みを補って成果を積み重ねていく必要があります。
サフさんによると、結核の場合、現在の対策を続けていたのでは、2015年の結核感染率(人口10万人あたり142人)が、目標とする人口10万人あたり10人にまで抑えられるようになるのは、2185年のことです。しかも、多剤耐性結核(MDR-TB)や超多剤耐性結核(XDR-TB)が広がればますます治療は困難になります。
これでは困る。いまこそ国際社会の政治の意思として、本気で結核に取り組まなければらない、というのがハイレベル会合開催の理由でしょう。
最近のHIV/エイズ対策と結核対策の組み立て方にはよく似たところもあります。ストップ結核パートナーシップは結核流行終結に向けた2016~2020年の計画のパラダイムシフトを発表しています。この5年が勝負だということで、HIV/エイズ対策の高速対応に似ていますね。
しかも、そこには「人間中心のグローバル目標」として90-(90)-90のカスケード目標も掲げられています。真ん中の90は()に入っているなど、少し差異はありますが、基本的な考え方はそっくりです。
最初の90は、少なくとも感染している人の90%が診断を受けられるようにする。次の(90)はこのうちの90%がキーポピュレーションの人びとであること。そして最後の90は診断された人の90%が治療に成功することです。達成時期については2025年までのできるだけ早い時期となっています。
結核カスケードの場合、真ん中の(90)の対象となるキーポピュレーションはどんな人たちなのか。最初に紹介した結核研究所の「世界結核デー」に関する説明には次のように書かれていました。
『貧しい人々、移民、難民、少数民族、高齢者、女性や子供たち、HIV感染者・・。結核は、特に社会の中で取り残されている人々、感染の危険性の高い人々の中でまん延し続けています』
かなりHIV/エイズ対策との相乗効果が大きいことが分かります。
日本ではどうなのか。この点は、結核研究所のホームページで「シールぼうや」が「結核は過去の病気だと、思っていませんか?」と問いかけ、丁寧に歴史と現状を説明しています。そちらをご覧下さい。
つまり、過去の病気ではないということですね。