本日のビジネスアイ紙に掲載されたコラムです。
参考までにダーバンのAIDS2016のテーマは “Access Equity Rights Now”(いまこそ公平な権利へのアクセスを)です。
《いまなお包括的な治療、予防、ケア、支援のサービスへのアクセスを欠いている人たちがサービスを受けられるよう協力して行動することをこのテーマは呼 びかけています。たとえば、HIV陽性者の60%以上はいまも抗レトロウイルス治療を受けられないままの状態です;女性、女児、男性とセックスをする男 性、トランスジェンダーの人々、セックスワーカー、若者、薬物使用者、その他の排除されやすいグループが対策の中で後回しにされたままです;HIV予防研 究への投資は抑えられたままです;そして犯罪者扱いなどの人権侵害が広くみられ、効果的な対策の遂行を妨げています》(2015年11月4日のプレスリリースから)
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【視点】楽苦備な世界 7月のダーバンは冬でも熱い
http:// http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/160614/cpd1606140500001-n1.htm
ラグビーが冬の季語であることを知ったのは高校生の頃だから、もう50年以上も前になる。当時は「成人の日」だった毎年1月15日に大学と社会人の優勝チームが日本一をかけて対戦し、それがシーズンの実質的なフィナーレとなった。
ラグビー部の先輩からは「漢字で書くと楽苦備だぞ」と教えられた。楽しいことも苦しいこともある。だから、練習は苦しいけれど、がんばれ!といわれると妙に説得力があった。
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世界最強とされるスーパーラグビーに今年、日本から参戦したサンウルブズは苦闘の楽苦備シーズンを送っている。
6月は各国代表の試合を集中的に行う月間なので、スーパーラグビーは短いオフとなった。それまでの2~5月の成績は1勝1分10敗。僅差の負け試合に与えられるボーナスポイントも含め勝点は9、順位は全18球団中最下位に低迷している。
ただし、大接戦の試合もあり、新規参入チームとしては健闘している方ではないかと個人的には思う。なにせ相手はラグビー王国ニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアの代表クラスがごろごろいるチームばかりなのだ。
代表マッチ月間の6月が終わるとシーズンが再開し、7月に各チームの公式戦残り3試合が行われる。北半球と南半球では季節が逆転しているとはいえ、冬の競技の感覚はすでにない。スタンドのファンにも、通年で楽しめるスポーツとなった。
サンウルブズは7月2日に東京・秩父宮ラグビー場でオーストラリアの強豪ワラターズとのホーム最終戦に臨んだ後、南ア遠征に出て2試合を戦う。
シーズン最終戦は7月15日(日本時間16日未明)、国際港湾都市として有名なダーバンで地元シャークスと対戦。たまたまではあるが、ダーバンではその3日後、第21回国際エイズ会議が開幕する。参加者約2万人、取材陣だけでも1000人の大会議だ。地元ではおそらくラグビーとエイズ会議の2つの話題で持ちきりになるだろう。
国際エイズ会議は実は、2000年7月にもダーバンで開かれている。その約2週間後の九州沖縄サミットとあわせ、世界のエイズ対策の転換点とされる歴史的な会議だった。つい最近、国際エイズ学会(IAS)が発表した16年版年次書簡には次のように書かれている。
《15年前に新千年紀が始まった頃を振り返ってみましょう。町で知らない人に声をかけ、世界最大の保健問題は何かと尋ねれば、答えはおそらく「エイズ」でした》
いま同じ質問をしても「エイズ」と答える人は少ない。医学の進歩と国際的な治療普及の努力が劇的に状況を変えたからだ。エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染に対し、延命効果の高い治療薬は、00年当時でもすでに開発されていた。だが、その薬を入手できるのは先進国のHIV陽性者だけで、途上国ではほとんどの人が治療を受けられないまま死を待つしかなかった。
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こんな露骨な生命の格差が許されていいのかという怒りの声が00年ダーバン会議で上がり、世界は治療の普及に本気で取り組むようになった。その結果、エイズによる年間の死者数も、新規HIV感染者数も、当時と比べれば大きく減少した。
ただし、IASの書簡は《それでもなおエイズは続き、広く信じられているよりも多くの人命が奪われています》と指摘している。15年末時点の世界のHIV陽性者数は3670万人で、そのうち治療を受けられる人は1700万人。まだ半数弱でしかない。いまなお年間推計110万人がエイズによって死亡しているのだ。
ラグビー強豪国・南アは、世界最大のHIV陽性者人口を抱える国でもある。サンウルブズはその国で、苦にも楽にも満ちた競技を闘うことを選択し、日本ラグビー界はそれを19年ラグビーW杯に向けた選手強化の切り札にしようとしている。末端の一ファンとしても、それに異存はない。
ただし、ラグビーを通じて日本と因縁浅からぬ関係ができた以上、南アの厳しい現実にも目を向けてほしい。そうであってこその「楽苦備」と言うべきだろう。