化血研不正 厚労省はなぜ見過ごした

 本日(12月4日)の産経新聞の主張(社説)です。

化血研不正 厚労省はなぜ見過ごした

 血液製剤やワクチンの国内メーカーである一般財団法人「化学及血清療法研究所」(化血研)が、40年にわたって承認外の不正な製造を続けていたことが専門家による第三者委員会の調査で明らかになった。

 血液製剤に関しては製造記録の偽造も繰り返すなど「常軌を逸した隠蔽(いんぺい)体質」と委員会が指摘するほど悪質な不正である。厚生労働省は業務改善命令などの行政処分を検討する方針だが、ことはそれで済む問題なのか。

 そもそも、血液製剤やワクチンの国内メーカーはそれほど多くはない。長期の不正や隠蔽に厚労省は本当に気づかずにいたのか。この点にも疑問が残る。

 第三者委員会の調査報告によると、化血研は昭和49年ごろから国の承認と異なる工程で血液製剤を製造しはじめ、平成元年ごろには承認外の抗凝固剤を入れるなどの行為が常態化していた。

 しかも、20年前からは医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づく国の調査で不正が発覚しないよう、製造記録の偽造などの隠蔽工作も行っていた。2日付で辞任した宮本誠二理事長は「見て見ぬふりをしてきた」と組織ぐるみの不正であることを認めている。

 化血研は昭和20年、熊本医科大学(現・熊本大学医学部)を母体に発足し、薬害HIV訴訟の被告にもなっている。平成8年に薬害の再発防止を誓って和解が成立した際、その誓いの裏で不正と隠蔽が続けられていたことになる。

 委員会は血液製剤やワクチンの安全性に問題は認められないとしているが、そうだとしても不正や隠蔽の存在は、医療に対する信頼性を大きく損なってしまった。

 血液製剤を生涯にわたって使用する患者は少なくないし、ワクチンへの信頼が失われれば、接種を控える人が増える恐れもある。感染症の流行が拡大し多くの生命を奪うことにもなりかねない。

 製品による直接の被害がなくても、信頼性の喪失が国民の生命や健康に及ぼす影響は大きい。

 献血血液を原料とする血液製剤も、母子保健や感染症対策の基本となるワクチンも国内のメーカーは少数であり、専門家間の情報交換も緊密に行われているのに、監督官庁が40年も不正に気づかずにいられるのはどうしてなのか。安全監視の姿勢も含め、不正の背景を解明すべきだろう。