どうするエムポックスワクチン エイズと社会ウェブ版651

 国内におけるエムポックスのワクチン接種について、日本HIV陽性者ネットワークJaNP+の高久陽介代表理事が「Mpoxワクチン接種の前に知ってほしいこと」という文章をJaNP+公式サイトに掲載しました。

HIV陽性者の人権と健康を守ること、および患者の医療に関する自己決定の観点から、以下の背景について知っていただいた上で、今回の国内でのMpoxワクチン臨床研究に参加するかどうかを検討をしていただきたい》と呼びかけるためです。

www.janpplus.jp

 高久さんは《すでに報道されている通り、厚生労働省は、男性同士での性的接触がある人を対象に、Mpox(サル痘)の発症予防のためのワクチン接種を行うことを決めました》としたうえでエムポックスのワクチンには以下の2種類があると報告しています。

1. MVA-BN

 海外ですでに大量の接種実績をもち、HIV陽性者を含め安全性・有効性について多くのエビデンスが蓄積されているワクチンだが、日本では未承認であるため現時点では使用できない。皮下注射あるは皮内注射での接種が可能である。

2. LC16

 国内での臨床研究で用いられるワクチン。二又針を用いた接種であるため接種手技の指導および習得が必要である。安全性に関する臨床エビデンスの蓄積は十分ではない。

 

 また、厚労省の決定に対しては『すでに臨床レベルで安全性・有効性が認められているワクチンを導入する決定を行わずに、HIV陽性者やゲイ・バイセクシュアル男性等を“実験台”にしてまで、あえてリスクのあるワクチン開発を国が後押ししているのは、なぜなのでしょうか?』と強い懸念を表明しています。

 

 一方、日本エイズ学会のワクチン接種勧奨のためのガイドライン作成委員会は6月13日付で『HIV感染者および非HIV感染者へのエムポックスワクチンに関するガイドライン ver. 1』をまとめ、エムポックスワクチンに対する現時点での考え方を示しています。

HIV感染者および非HIV感染者へのエムポックスワクチンに関するガイドライン ver. 1 | news | 日本エイズ学会

 『海外での使用実績から得られたMVA-BNに関するエビデンスをまとめるとともに、現在、日本で使用可能なLC16m8をどのように使用していくかについて、ガイドライン委員会で討議して専門家の意見をまとめ、緊急に臨床現場での対応のヒントとなる提言』を目指したということです。

 ただし『本稿は現時点での暫定解に過ぎない。今後の知見の集積および状況の変化により、柔軟に修正していく方針である』ともことわっています。

  『ver. 1』となっているのもこのためで、いくつかの推奨事項の中には12人のガイドライン作成委員の見解がかなり異なっているものもあります。その異なり具合も一覧表にして示されており、現時点で情報を伝えるには、それがむしろ誠実な姿勢なのかもしれません。詳しくは日本エイズ学会のサイトでガイドラインをご覧ください。

 

 なお、エムポックスワクチンの臨床試験については、厚労省の臨床研究データベースJRCT(Japan Registry of Clinical Trials)の臨床研究等提出・公開システムのウェブサイトに掲載されています。
乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16によるエムポックス発症予防効果を検討する無作為化比較試験(LC16エムポックス予防効果試験)
https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT1031230137