今日は世界エイズデーですね。ごくごく穏当な、あまりにも常識的過ぎる指摘に終始している感もないことはないのですが、このくらいのことは確認しておきたい。昨今の話題を振り返ってみるとそんな感じもします。1日付産経新聞の主張です。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131201/bdy13120103150000-n1.htm
献血血液の輸血で、60代の男性が、エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していたことが明らかになった。
日赤は血液の安全確保のために世界でも最高度の精度を持つHIV検査を献血に導入してきた。抗体だけでなく、ウイルス遺伝子の断片を調べる検査も取り入れ、感染直後のウインドウ期間(検査では感染が把握できない期間)も、大幅に短縮されている。
それでも現在の技術で感染リスクをゼロにすることはできない。今回の事例は、それを再確認させるものでもあった。厚労省と日赤はさらに検査の精度を高める手法を導入する方針だという。巨額の費用がかかることになるが、技術の進歩に伴い一層のリスク低減をはかる努力は必要だろう。
同時に、少し視野を広げて今回の事例を考える必要もある。
HIV治療は大きく進歩している。HIVに感染しても早期に感染を把握し、体内のウイルスの増殖を妨げる治療を続けることで、長く社会生活を維持していけるようになっている。
平均余命は感染していない人とほぼ変わらないところまで延ばせるという海外の研究報告もある。感染した人にはぜひ手厚い治療と支援を提供してほしい。
一方で、献血が検査目的で使われていることへの懸念も指摘された。輸血による感染のリスクを高める行為は厳に慎んでほしい。
ただし、非難するだけでは人の行動は変わらない。感染を心配する人の心理的、社会的要因にまで踏み込んで背景を考える必要がある。保健所では無料匿名でHIV検査が受けられるのだが、利用しにくいという声も聞く。
より利便性の高い検査手法の開発や検査機会の提供、安心して受検できる社会的雰囲気の醸成もあわせて追求すべきだろう。
わが国は、世界でもまれなほどHIVの陽性率が低く抑えられてきた。それが血液の安全性の基盤にもなっている。エイズ対策のNPO(非営利組織)やHIV陽性者グループが研究者と協力して予防啓発や陽性者支援に取り組んできた成果も大きい。
1日は世界エイズデーである。こうした地道な活動を支える人や企業が増えることが、実は大きなリスクの低減策につながる。この点も忘れないようにしたい。