メディアセミナー「2030年までのHIV流行の終結に向けた道筋とは」 エイズと社会ウェブ版665

 TOP-HAT Newsの第181号(2023年9月)でもお知らせしたHIV/AIDS GAP6の主要メンバーがスピーカーとして登壇するメディアセミナー「2030年までのHIV流行の終結に向けた道筋とは」が10月5日午後、東京・千代田区大手町ファーストスクエアで開催されました。実質的な記者会見だと思いますが、何か新しいことを発表するのではなく、メディア関係者に背景的な知識を得る機会を提供するとの位置づけからセミナーと呼んでいるようです。主催はGAP6の特別協賛企業である製薬会社のギリアド・サイエンシズ社です。

 セミナーではまず、国立国際医療研究センターの臨床研究センター長で、日本エイズ学会理事長でもある杉浦亙博士が「進化するHIV療法とHIV流行の終結に向けた課題」と題し講演を行いました。

 HIVに関する薬剤耐性ウイルスの研究で名高い杉浦先生のお話は、私のような医学研究の素人にも分かりやすく、抗レトロウイルス治療薬の開発が、何段階かのブレークスルーを経て、現在のエイズ終結に向けたキーとなる進化を遂げてきたことに一定の理解を得ることができました。ローマは一日にしてならず、ですね。

 蛇足ながら付け加えておくと、「一定の」と書いたのは講演内容の限界ではなく、お話を伺った当方の理解力に限界があるからです。念のため。

 第2部に相当するパネルディスカッション「国内のHIV流行の終結に向けて残された課題とは」には、GAP6を構成するHIV/エイズ分野の6つのコミュニティ組織・当事者組織の代表、および医学分野の研究者である国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターの田沼順子医療情報室長が参加しました。

 全部で7人の大所帯です。この人数での会見となると、互いの顔を立てなければという配慮も働き、結果として無内容な発言が相次ぐことも多いので、ちょっとどうなることかと思ったのですが、事前に十分な打ち合わせを重ねていたせいか、求心力のあるストーリー展開で現状と課題を分析し、それぞれの発言のバトンタッチも見事でした。

 発言は厚労省宛の要望書の6項目を解説するという構成で、田沼先生が最後に述べていたように、国内のHIV/エイズ分野のコミュニティの現状把握力、分析力、および説明能力の高さを実証する機会となったように思います。

 GAP6は2年前の世界エイズデー(12月1日)にコンソーシアムとして活動を開始し、1年半を超える議論を経て厚労省への要望書提出に至りました。

 息の合った本日のディスカッションもそうした蓄積があったからでしょう。コミュニティレベルで、あえてエイズ終結を目標として打ち出すことにも、大きな決断が必要だったと思います。

 その「覚悟」は大いに評価するという前提のうえでの話ですが、個人的には「2030年のエイズ終結」がどのような状態を目指すものなのかが、いま一つ、よく見えてこないという印象も一方であります。

 「公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」という説明も一瞬ありました。目標がそこにあるとしたら「公衆衛生上の脅威とならない」状態とはどんなものなのか。ひょっとすると「そういうことならもう脅威ではないね」→「エイズ対策はほどほどでいいんじゃないの」という論理展開の罠にはまってしまうことにもなりかねない。

 いまコミュニティの力を重視することは、対策上便利だからとか、その方が効率的だからといった文脈で語るべきでは、おそらくありません。

 この時期にこそLiving Together(一緒に生きている)という発想を失わず、妙な価値観の逆転を避ける工夫も必要になります。「公衆衛生上の脅威とならない」状態をゼロ目標としてとらえず、いかに持続可能にしていくか。日本のコミュニティにとっては、その維持力こそが目指すべき課題ではないか。素晴らしいパネルディスカッションを聞きながら、そんな感想も持ちました。