UNAIDS『人権ファクトシートシリーズ2021』 エイズと社会ウェブ版583

 コロナ流行の不安が大きかったせいか、国内ではあまり注目されていませんが、エイズ流行40周年を迎えた今年6月、ニューヨークでエイズに関する国連総会ハイレベル会合が開かれ、新たな政治宣言が採択されました。2025年まで5年間の国際的なHIV/エイズ対策の方向性を示す重要な宣言です。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)はこの会合に先立って、2025エイズターゲットおよびその実現の道筋を示す世界エイズ戦略2021-2026を発表しており、政治宣言にはその内容が全面的に取り入れられました。ハイレベル会合ではロシアなど数カ国が異論を唱えたものの、日本も含む圧倒的多数の加盟国が政治宣言の採択に賛成しています。

 「公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」を2030年までに達成するという国際社会の大目標の実現に向け、今後5年間の国際的な中間目標が決まりました。しつこいようですが、あえて繰り返すと、日本も含む加盟国が賛成しています。国内ではどうも関心がなさそうだし、政局にも影響しないようだから、もう忘れちゃおう・・・というわけにはいきません。

 おっと、例によって前置きが長くなりましたね。すいません。本題に入りましょう。

 こうした一連の動きを踏まえ、UNAIDSの公式サイトには、人権ファクトシートシリーズという7種類の文書が、これも6月に紹介されています。

 翻訳にやや時間がかかったので遅くなりましたが、公益財団法人エイズ予防財団の翻訳チームによるその日本語仮訳PDF版が出来上がり、API-Net(エイズ予防情報ネット)に昨日(9月8日)、掲載しました。こちらでご覧ください。 

api-net.jfap.or.jp

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 『エイズ終結の妨げとなっている社会的障壁を克服するため、さまざまな分野の人権課題とその対応策を分かりやすく説明した人権ファクトシートシリーズ』です。以下の7分野に分かれており、各巻とも5~6ページの短いシリーズです。

 『HIVと犯罪化』

 『HIVと薬物使用者』

 『HIVとゲイ男性など男性とセックスをする男性』

 『HIVトランスジェンダーおよび多様なジェンダーの人たち』

 『HIVセックスワーク

 『HIVと刑務所など閉鎖された環境にいる人たち』

 『HIVスティグマ、差別』

 内容は、各分野の人権課題に関するデータ、人権の視点をどうやって健康上の成果につなげるか、関連する2025年エイズターゲットや国際的な人権に関する義務・基準・勧告の紹介などで構成されています。UNAIDSの公式サイトによると、今年の末にはさらに4種類が追加されるようなので、発表されたらそちらも鋭意、翻訳にかかりたいと思います。乞う、ご期待。

 ビジュアル的な工夫も凝らし、それなりに親しみやすくする努力はうかがえますが、訳してみた印象では、やや硬いかなあという感じです。

 もちろん、各分野の入門編としてこの程度の硬さはかみ砕いて読んでほしいとも一方では思う。コンパクトにまとめてあるので、各巻ともざっと目を通すのに、それほど時間はかかりません。あまり敬遠しないでね。

 末尾には参考資料や引用文献が豊富に紹介されています。各分野の研究を志す学生さんやHIV/エイズ関連のコミュニティワーカー、アクティビスト、さらにはコロナの流行で感染症対策と人権の課題をもう少し掘り下げて考えてみたいなと思っている人、何か書きたいなと思っている人にとっては、とくに有効に活用できるのではないかと思います。