『世界最強組織のつくり方 ─感染症と闘うグローバルファンドの挑戦』

 世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)戦略・投資・効果局長の國井修さんが8月7日、新著を刊行しました。ちくま新書の一冊です。

www.chikumashobo.co.jp

 さっそく鎌倉駅前の島森書店で購入しました。例によって遅読なもので、少しずつ読み進めています。新書とはいえ、300ページの大著です。読み終わるまでに少し時間がかかりそうなので、とりあえず冒頭部分を読んだ範囲での感想とワクワク感を少し。読後の感想文ではありませんが、悪しからず。

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 そもそもタイトルが『世界最強組織のつくり方』です。なんだなんだ、とその自信にまず圧倒されます。ちょっと引用しましょう。『はじめに』の部分の3行目。

 『これら三大感染症による死者数は、二〇〇〇年当時、年間五〇〇万人以上にのぼり、ボーイング七四七型ジャンボジェット機が毎日二三機墜落するのに匹敵するといわれた』

 三大感染症とは、HIV/エイズ結核マラリアのことです。その死者が年間五〇〇万人以上・・・といわれても、数字があまりに大きくなるとかえって実感が持てなくなってしまうことがあります。

 こういう時には、具体的な比較事例を持ち出し、その大きさを伝る手法がしばしば使われます。たとえば、この公園の広さは甲子園球場300個分・・・といった感じですね。

 したがって、感染症対策の分野では当時、実際にそういわれていたのかもしれませんが、たとえ方がかなり激しい。しかも年間でなく、毎日です。うわあ、大変なことだなあと改めて思います。タイトル同様、このあたりの記述も思い切りがよく、逡巡するところがありません。グローバルファンドはなぜ生まれたのか。その理由を直截に伝え、読者を引き込んでいきます。

 『ニーズに応じて配分し有効活用して、リターン(感染症の予防、死亡の低減)を得るという一連の活動を投資と考え、その効果と効率を最大化するためのメカニズムを創り、稼働させ、進化させてきた』

 そうか投資か。マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏は『ウォールストリートジャーナルの記事で「私が行った最高の投資」の一つ』と述べているそうです。目指す効果は感染症の予防と死亡の低減なのですが、その投資効果についても、リターンは何憶ドルといった数字を含めて検討されていきます。官民連携を超える『二一世紀型パートナーシップ』と呼ばれる所以ですね。

 ただし、著者の國井さんはもともと投資家ではなく、お医者さんです。裏表紙の略歴には『アジア、アフリカ、中南米など110か国以上で人道支援、地域保健、母子保健、感染症対策、保健政策の実践・研究・人材育成に従事』とあります。現在のポストに就いたのは2013年です。グローバルファンドの『約一〇人の幹部の一人として執行部会や理事会に出席し、戦略情報部、技術支援・連携促進部、コミュニティ・人権・ジェンダー促進部など五つの部を統括』しています。もう六年もこの激務の職にある。これは大変なことですね。

 本書のタイトル『世界最強組織のつくり方 ─感染症と闘うグローバルファンドの挑戦』については、國井さん自身、『挑戦的な題名を付した』と書いています。それだけの期待と支持と支援を背負い、『解決策が未だ示されていない課題』への答えを模索する。その決意を示したタイトルというべきでしょう。国際機関だけでなく、民間の企業にも組織のあり方を追求するうえで、重要な示唆が得られそうです。ぜひ、お読みください・・・と著者に代わって勝手に言う前に、早く自分で読まなきゃ。毎日、暑いけれど、楽しみだぞ、これは。