世界エイズデーを前にして、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が新しい報告書を発表しました。そのプレスリリースの日本語仮訳です。
UNAIDSは毎年この時期に報告書を発表し、世界のどこかでそのお披露目の会合を開いています。プレスリリースを見ると、今年は南アフリカのケープタウン郊外にあるカエリチャというタウンシップで開かれたようです。
UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は「2000年当時、南アフリカでは90人しか治療を受けることができなかった。このことはもう、覚えていない人の方が多いでしょう」と会合で語っています。
「いま南アフリカは生命を救うための世界で最も大きな治療プログラムを実施している国になっています。400万人以上のHIV陽性者が治療を受けているのです。私たちはこの大きな成果に勇気づけられ、そしてその成果を継続し、広げていかなければなりません」
治療の普及を最大限アピールできる場所を選んだわけですね。治療を受けている人が400万人ですか。その努力も並大抵のものではありませんが、流行もまた、すさまじいということを改めて感じるデータです。
おっと、紹介が遅れましたが、今年の報告書のタイトルは『健康の権利』です。
現在展開している世界エイズデーのキャンペーンと連動した内容ですね。というか、むしろ報告書の制作過程で、情報分析や検討を重ね、今年はこれだな・・・ということで、キャンペーンの方向性が固まっていったのかもしれません。勝手な想像ですが・・・。
リリースには末尾に主要推計値が示されています。HIV陽性者数や新規感染者数、死亡者数は今年7月に公表されているデータと同じです。異なっているのは、治療のアクセスの部分で、前回は2016年末時点の抗レトロウイルス治療を受けている人の数が1950万人でした。今回は2017年6月現在で2090万人となっており、2000万人の大台を超えています。以下、プレスリリースです。
治療を受けているHIV陽性者は約2100万人 UNAIDSが『健康の権利』報告書発表
ケープタウン/ジュネーブ 2017年11月20日 ― HIV治療の普及は大きく進んでいる。世界エイズデーを前に、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は治療へのアクセスが拡大を続けていることを示す最新報告書を発表した。2000年当時、抗レトロウイルス治療を受けているHIV陽性者は世界で68万5000人だった。2017年6月までにその数は約2090万人に増えている。この劇的な拡大は、HIV陽性者が勇気と決意をもって自らの権利を求め、その要求を支える確固としたリーダーシップと財政的な対応がなければ、実現できるものではなかった。
「2000年当時、南アフリカでは90人しか治療を受けることができなかった。このことはもう、覚えていない人の方が多いでしょう」とUNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は南アフリカのカエリチャで語った。「いま南アフリカは生命を救うための世界で最も大きな治療プログラムを実施している国になっています。400万人以上のHIV陽性者が治療を受けているのです。私たちはこの大きな成果に勇気づけられ、そしてその成果を継続し、広げていかなければなりません」
治療を受ける人が増えれば、それだけ多くのHIV陽性者が生存し、よりよい生活を続けていけるようになる。また、医学研究によると、効果の高い抗レトロウイルス治療を続けているHIV陽性者からは、他の人へのHIVの感染が97%も起きにくくなる。HIV陽性の妊婦に対する治療のアクセスが拡大したことで、子供のHIV新規感染は急速に減少している。HIVの影響が最も深刻な東部・南部アフリカでは、2016年の子供の新規HIV感染件数が2010年と比べ56%も減っている。世界全体でも47%減だった。
「カエリチャでは2001年に初めてHIV治療を受けられるようになりました。最初の一人です。いまは4万2000人がここで治療を受けています。カエリチャの治療プログラムの成功は、南アフリカのHIVプログラム全体の成功の縮図です」と南アフリカのアーロン・モツォアレディ保健相はいう。
現在の課題は、治療を必要としていながら受けられないでいるHIV陽性者、子供91万9000人を含む1710万人のそうした人たちが確実に治療へのアクセスを得られるようにすることにある。また、新規感染が増加している国々ではとくに、HIV予防を公衆衛生プログラムの最上位に位置づける必要がある。
UNAIDSの新たな報告書『健康の権利』は、社会から排除されがちであり、同時にHIVに最も深刻な影響を受けている人びとがまさに、緊急に必要としている保健医療と社会保障のサービスを得られず、得ようとしても大きな困難に直面している現実があることを強調している。だが、報告書はその現実に対応している革新的な事例もまた報告している。
たとえばインドでは、セックスワーカーに対し、そして広く社会的にも、スティグマのない保健医療サービスを提供できるようにするため、セックスワーカーが看護助手として働けるようにするためのトレーニングを行っている。ウガンダでは、エイズで両親を失った孫の世話をする祖母のグループが、伝統的な籠を編んで売り、孫たちの学費にあてている。
2016年には、HIVに新規感染した人は年間約180万人で、年間300万人が感染していた1990年代後半のピーク時と比べると39%減となる。アフリカの年間新規HIV感染は2000年当時と比べると48%も減少している。
しかし、保健医療とHIVのサービスを提供することが最も効果的と考えられる地域や人口集団に対し、そうしたサービスを拡大してこなかった国々では、新規HIV感染が急速に増加している。たとえば東欧・中央アジアでは、新規HIV感染が2010年当時と比べると60%も増加し、エイズ関連の死者も27%増えているのだ。
健康の権利に関しては、国際法や各地域の法律、条約、国連の宣言、各国の法律、憲法などにより世界中で繰り返し言及されてきた。『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』の第12条では、すべての人が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することと健康の権利を定義している。HIV陽性者およびHIVに影響を受けている人たちをはじめとするすべての人が、自分自身の健康に関しては自ら判断し、差別されることなく、尊敬と尊厳をもって、健康不良な状態を予防し、治療を受ける権利も、その中には含まれている。
各国政府には基本的人権に基づき、健康の権利を尊重し、保護し、実現する責務があることをUNAIDSの報告書『健康の権利』ははっきりと示している。
この報告書は、HIV陽性者やセックスワーカー、薬物使用者、ゲイ男性など男性とセックスをする男性、若者といったHIVの影響を大きく受けているコミュニティにとって健康の権利がどのような意味を持っているのかを伝える声を提供している。
「20年前には、治療へのアクセス確保を求めて闘っていました。いまはアクセスだけではなく、私が健康で前向きに生きていくために必要なサポートを求めて闘っているのです。それが私の健康の権利です」と市民社会代表のシンディ・ムガエさんは語る。
どこであれ、健康の権利があいまいにされるところでは、HIVが広がる。たとえばサハラ以南のアフリカでは若年層の新規HIV感染の67%は15~24歳の若い女性・少女で占められている。複数の調査により、この地域の若い女性・少女の多くは、年長の男性から感染していることが明らかにされている。これは、若い女性や少女がセーファーセックスを求めることができるかどうか、教育を受けられるのか、それぞれの年齢に適した性と生殖に関する健康サービスを受けているのかどうかといった懸念が大きいことを示すものだ。
また、これらの研究は、HIV陽性の男性にはHIV検査や治療、さらにはより幅広い保健サービスが、なかなか届けられないという問題も明らかにしている。男性に健康の権利を自覚してもらうことが大きな課題なのだ。2016年にはサハラ以南のアフリカの男性は、女性に比べると、18%治療を受けようとしない傾向が強く、エイズ関連の疾病で死亡する人が8%多かった。
2016年のエイズ終結に関する国連政治宣言で示された「2030年までに公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行を終結させる」という目標の行く手に待ち受ける課題はどこにあるのか、健康の権利はそれをはっきりと示している。
新規HIV感染とエイズ関連の死亡を減らすために、そして必要不可欠な保健サービスへのアクセスを確保するためには、保健需要に対応する資金の拡大が必要なことを強調している。各国経済の中で保健支出の割合を高めること、効率化や民間部門との協力で資金の有効活用をはかることなどを通して必要な資金を確保する方法も示している。2020年のHIV資金ギャップは70億ドルと推計されている。
2030年に公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結を実現するために、UNAIDSは2020年までの高速対応課題を設定している。そのためには、誰もが、どこにいても自らの健康の権利を実現し、必要な保健、社会サービスを利用できるよう共同スポンサーやパートナーと緊密に協力していく必要がある。
2016年末(*は2017年6月)現在の推計
*2090万人[1840万~2170万人] 抗レトロウイルス治療を受けている人(2017年6月)
3670万人[3080万~4290万人] 世界のHIV陽性者数
180万人[160万~210万人] 新規HIV感染者数
100万人[ 83万~120万人] エイズ関連の疾病による死者数
UNAIDS announces nearly 21 million people living with HIV now on treatment
CAPE TOWN/GENEVA, 20 November 2017—Remarkable progress is being made on HIV treatment. Ahead of World AIDS Day, UNAIDS has launched a new report showing that access to treatment has risen significantly. In 2000, just 685 000 people living with HIV had access to antiretroviral therapy. By June 2017, around 20.9 million people had access to the life-saving medicines. Such a dramatic scale-up could not have happened without the courage and determination of people living with HIV demanding and claiming their rights, backed up by steady, strong leadership and financial commitment.
“Many people do not remember that in 2000 there were only 90 people in South Africa on treatment,” said Michel Sidibé, Executive Director of UNAIDS, speaking in Khayelitsha, South Africa. “Today, South Africa has the biggest life-saving treatment programme in the world, with more than 4 million people on treatment. This is the kind of acceleration we need to encourage, sustain and replicate.”
The rise in the number of people on treatment is keeping more people living with HIV alive and well. Scientific research has also shown that a person living with HIV who is adhering to an effective regime of antiretroviral therapy is up to 97% less likely to transmit HIV. As treatment access has been scaled up for pregnant women living with HIV, new HIV infections among children have rapidly been reduced. From 2010 to 2016, new HIV infections among children were reduced by 56% in eastern and southern Africa, the region most affected by HIV, and by 47% globally.
“In 2001, the first person in Khayelitsha started HIV treatment. Today there are almost 42 000 people on treatment here. The success of Khayelitsha’s treatment programme is a microcosm of the massive success of South Africa’s HIV programme,” said Aaron Motsoaledi, Minister of Health, South Africa
The challenges now are to ensure that the 17.1 million people in need of treatment, including 919 000 children, can access the medicines and to put HIV prevention back at the top of public health programming, particularly in the countries in which new HIV infections are rising.
The new report from UNAIDS, Right to health, highlights that the people most marginalized in society and most affected by HIV are still facing major challenges in accessing the health and social services they urgently need. However, the report also gives innovative examples of how marginalized communities are responding.
In India, for example, a collective of sex workers has trained sex workers to work as nursing assistants, providing stigma-free health services to sex workers and the wider community. In Uganda, groups of grandmothers are weaving and selling traditional baskets to allow them to pay for schooling for the grandchildren in their care who lost their parents to AIDS.
In 2016, around 1.8 million people were newly infected with HIV, a 39% decrease from the 3 million who became newly infected at the peak of the epidemic in the late 1990s. In sub-Saharan Africa, new HIV infections have fallen by 48% since 2000.
However, new HIV infections are rising at a rapid pace in countries that have not expanded health and HIV services to the areas and the populations where they are most effective. In eastern Europe and central Asia, for example, new HIV infections have risen by 60% since 2010 and AIDS-related deaths by 27%.
References to the right to health are found in international and regional laws, treaties, United Nations declarations and national laws and constitutions across the globe. The right to health is defined in Article 12 of the International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights as the right of everyone to the enjoyment of the highest attainable standard of physical and mental health. This includes the right of everyone, including people living with and affected by HIV, to the prevention and treatment of ill health, to make decisions about one’s own health and to be treated with respect and dignity and without discrimination.
UNAIDS Right to Health report makes clear that states have basic human rights obligations to respect, protect and fulfil the right to health.
The report gives voice to the communities most affected by HIV—including people living with HIV, sex workers, people who use drugs, gay men and other men who have sex with men and young people—on what the right to health means to them.
“Almost twenty years ago, the struggle was about access to treatment. Now, my struggle is not only about access but about ensuring that I have the support that I need to live a healthy and positive life. That is my right to health,” said Cindy Mguye, Civil Society Representative.
Wherever the right to health is compromised, HIV spreads. In sub-Saharan Africa, for example, 67% of new HIV infections among young people are among young women and girls aged between 15 and 24 years. Studies have shown that a large number of young women and girls in the region contract HIV from older men, demonstrating multiple concerns about the ability of young women and girls to negotiate safer sex, stay in education and access age-appropriate sexual and reproductive health services.
Studies have also shown the difficulties health services face in reaching men with HIV testing and treatment as well as broader health services, showing the challenge in encouraging men to exercise their right to health. In 2016, men in sub-Saharan Africa were 18% less likely to be accessing treatment and 8% more likely to die from AIDS-related illnesses than women.
The Right to health gives a clear demonstration of the challenges ahead in efforts to end the AIDS epidemic as a public health threat by 2030, as outlined in the 2016 United Nations Political Declaration on Ending AIDS.
The report underscores that to reduce new HIV infections and AIDS-related deaths and ensure access to essential health services, funding for health needs to increase. It gives examples of how to enhance funding, including increasing the share of health spending as a proportion of national economies, making savings through efficiencies and partnering with the private sector. The funding gap for HIV is estimated at US$ 7 billion by 2020.
UNAIDS has set an agenda to Fast-Track the response to HIV by 2020 towards ending the AIDS epidemic as a public health threat by 2030. It will continue to work closely with its Cosponsors and partners to ensure that everyone, everywhere can fulfil their right to health and can access the health and social services they need.
In 2016 (*June 2017) an estimated:
*20.9 million [18.4 million–21.7 million] people were accessing antiretroviral therapy (in June 2017)
36.7 million [30.8 million–42.9 million] people globally were living with HIV
1.8 million [1.6 million–2.1 million] people became newly infected with HIV
1.0 million [830 000–1.2 million] people died from AIDS-related illnesses