本日(6日)付産経新聞に掲載された主張(社説)です。
ラグビーW杯 ノーサイドの笛を釜石で
http://sankei.jp.msn.com/sports/news/140706/oth14070603120005-n1.htm
2019年に日本で開かれるラグビーワールドカップ(W杯)の開催都市に岩手県釜石市が名乗りを上げた。
東日本大震災の被災都市にとって、復興とW杯誘致の両立は簡単なことではない。スタジアムの建設など課題も多い。
ただし、東京五輪前年に開かれるラグビーW杯は、そうした困難を克服し、復興の足取りを世界に伝える機会でもある。ラグビーのまちの立候補を歓迎したい。
ラグビーW杯日本大会は、19年9、10月に開催される。開幕戦と決勝戦は東京の新国立競技場で行われるが、他の会場は現在、組織委員会が立候補都市を募集しているところだ。今年10月に立候補が締め切られ、来年3月には10~12の開催都市が決まるという。
02年にサッカーW杯を日韓で開催したこともあって、ラグビーの大観衆を収容可能なスタジアムはすでに国内各地にある。釜石市が開催都市になるには少なくとも1万5千人収容のスタジアムを新設しなければならない。
復興過程の都市にとって、スタジアムの新設は建設費だけでなく、その後の維持費が負担になるおそれもある。
ただし、釜石はかつて日本選手権7連覇を果たした新日鉄釜石の本拠地だった。その歴史は重視したい。松尾雄治氏や森重隆氏といった大学ラグビーの花形選手と地元の高校出身の洞口孝治氏ら屈強で粘り強いFWを擁した釜石ラグビーを支えたのは、大漁旗を持ってスタンドに陣取る地元ファンの声援だった。
市内ではいまもその後身のクラブチーム「釜石シーウェイブス」が活躍している。プレーはしていないがラグビーが大好きという人も多い。大会後も大学や社会人チームの合宿などに活用していければ、W杯施設はラグビー都市釜石の貴重な財産になるはずだ。
W杯誘致は震災復興に取り組む人たちの大きな励ましになるだけでなく、世界中から受けた支援に対し、被災地からの感謝を伝える貴重な機会でもある。
ラグビーでは試合終了をノーサイドという。死力を尽くして戦っていた両チームが最後の笛を合図に敵でも味方でもなくなる。サイドがなくなり仲間になる。ノーサイドの笛は明日への勇気の笛でもある。釜石でその笛を聞きたいという思いもまた大切にしたい。