復刻シリーズ 『それでも世界は ラヴズ・ボディ6 エイズと社会ウエブ版36 』

 ビギナーズ鎌倉の旧ブログはいまはもう消えてしまいましたが、いくつかの原稿は引っ越しの際に大急ぎでサルベージしました。その一つ2010年に東京都写真美術館でラヴズ・ボディという作品展が開かれた際のレポートです。

 Facebookで一度、再掲載したのですが、それも見つけるのが困難になってしまったので、改めて掲載します。

 復刻シリーズは時々、思い出したように昔の原稿を発掘して紹介します。私のアーカイブというか備忘録的なシリーズですが、時々、掘り出し物があるかもしれません。よろしく。

 

◎それでも世界は ラヴズ・ボディ6 エイズと社会ウエブ版36 (2010.10.31)

 エイズアクティビストの張由紀夫は学生時代の1993年、京都のギャラリーでアルバイトをしたのがきっかけになり、ダムタイプというアーティストグループと知り合った。その中心的メンバーである古橋悌二が同性愛者である自らのセクシャリティHIV感染のカミングアウトを行っていたことが、彼に強い影響を与えた。古橋がエイズによる敗血症で95年に亡くなり、それを看取ったことから「バトンを受け取ったような気持ちで、今日まで活動を続けてきた」と張由紀夫は語っている。

 

ハスラー・アキラは99年ごろから数々の作品を発表しているアーティストであり、実は張由紀夫と同一人物である。もちろん、エイズアクティビストとしての日常とアーティストの活動が切り離されて(あるいは切り分けられて)存在しているわけではないし、その作品も21世紀初頭の日本の現実の中で、エイズの流行に直面するということがどういうことなのかを色濃く反映しているものが多い。

 

ただし、2つの名前を持つ存在が完全に同一であるのかと改めて問われると、そこには微妙な差異があるような気もしてくる。たとえば、張由紀夫とハスラー・アキラとが有する人のネットワークは、重なり合うようでいて同一ではなく、そのネットワークの豊潤さからあえて焦点を求めようとしても、それが一人の人物に収斂していくとは限らない。同一の人物によって形成されているネットワークでありながら、2つの焦点を持つ楕円のような構造がそこには存在するのではないだろうか。あくまで仮定の上での話ではあるが、東京都写真美術館の『ラヴズ・ボディ』展で張由紀夫/ハスラー・アキラの作品が連名で提示されているのも、そうした微妙な楕円形感覚があるからだろう。

 

 厚労省エイズ動向委員会報告では、国内の新規HIV感染者報告の約7割、エイズ患者報告の約5割は男性の同性間の性行為が感染経路であると考えられている。おそらくは報告が示唆する流行の現状に対応するためにということなのだろうが、張由紀夫によると、HIV/エイズに関連する政府の予算も、個別施策層としてのゲイコミュニティを対象にした予算と一般の予算が切り分けられ、「一般の中にはゲイが存在していないと考えられている」という。より現実に即した対策を目指すための手法が、政策の意図を超えて、あるいは政策の意図に内在化されたかたちで、性的な少数者に対する新たな排除の感覚を生み出していく。エイズアクティビズムの中で張由紀夫が感じるそうした危惧を踏まえ、ハスラー・アキラは「今回の展覧会が開催されたことの意義」を強調しつつ、次のように語る。

 

 「昨年の新型インフルエンザの流行に対する社会の対応は80年代のエイズパニックと同じなのではないかと感じざるを得ない。誰が犯人かを捜しだして排除する。感染症の流行に対するこのような感覚において日本の社会はほとんど変わっていない。その状況が怖い。過剰なまでに予防が強調され、無菌室のような空間や時間を作ることを理想とするような怖さを感じた」

 

 人から人へと感染する疾病の流行は、コミュニケーションと深くかかわりのある現象でもある。つまり、社会の中に存在する人が他の人とまったく関係を持たない状況がありうるとすれば、病原体の感染もまた成立しない。RED STRING(赤い糸)と名付けられたハスラー・アキラの作品の前に立つと、「それでいいのか」と問いかけられ、一瞬の困惑に投げ込まれる。たとえば、抱き合って横になっている男性2人の人形は、指と指とを絡めた手のまさにその指先のみが赤く塗られ、血の色を連想させる。エイズの病原ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は日常の生活では感染しませんということが予防啓発のメッセージとしてしばしば語られる。ここでいう「日常の生活」には「性行為を除いては」という注釈が必要だろうが、それは別にしても、日常の生活で絶対に感染は起きないのかと詰め寄られれば、「そんなことはありません」と答えざるを得ない。指先に出血を伴うような傷口がお互いにあれば、握手で感染することだってありうるではないか。

 

 あるいは、男女が並んで歩いている人形がある。その2体の人形を結ぶ赤くて細い糸はさらに後方に伸び、後をついてくる犬につながっている。てっきり若いカップルが犬を連れて散歩をしているところではないかと思って犬の人形をよく見ると、赤い糸は犬の首輪につながれているのではなく、犬が端をくわえている。つまり、犬は細く伸びた血の糸を噛んでいるのだ。のどかに見える散歩の風景が一転してまがまがしい情景に変化していく。

(注)作家本人に確認したら、これは散歩ではなく台所に立っているところで、人形は玉ねぎと包丁を持っているのだという。まいったね。アートのたくらみについていくのはなかなか大変だ。ただし、台所の男女もまた、まがまがしく見えるものではないので、血の糸が介在して生まれる状況の変化は散歩の想定と基本的に変わらないと考えていいだろう。

 

 HIV感染を心配する人から相談を受けた経験がある人の話では、抱き合うだけで感染することはありませんよと説明しても、「万が一、こういうことがあったら」「それでも万が一・・・」と容易に納得してもらえないことがまれにあるという。万が一のケースを想定していけば、もちろん日常の生活の中でもHIVに感染する可能性はある。その万が一すら起きないように、絶対の安全の保障を世の中が求め始めたらどうなるのか。「感染が起きるということは、人々が出会ったり、触れ合ったり、何がしか関係を持つことです。それを否定することは、人間の社会に闇を作ることではないか」と張由紀夫/ハスラー・アキラはいう。RED STRINGとともに『ラヴズ・ボディ』展に出品されているビデオ作品の中で、彼は次のようなメッセージも送り出している。

 

だけど忘れないで

それでも世界は

愛に溢れているんだ

 

 HIV治療の進歩と予防の重要性を強調するあまり、エイズの流行という現象のすべてを技術的に処理できるといわんばかりの言説をためらいもなく披瀝してはばからない世の中だからこそ、韜晦に逃れることなく、「触れ合いを肯定的に伝えたい」という張由紀夫/ハスラー・アキラの直截なメッセージは貴重である。

 

どうやって訳すかな Make Some Noise

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が3月1日の差別ゼロデーに向けた今年のキャンペーンを発表しました。

 http://www.unaids.org/en/

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  UNAIDSの公式サイトからスピーチバブルという吹き出しカードのようなものをダウンロードして、何かノイズを書き(あるいは描き)、写真を撮ってキャンペーンのFacebookページに投稿するというキャンペーンのようです。スピーチバブルはこちらから。投稿はこんな感じになります。

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 Make Some Noiseは日本語に訳すと「差別解消に向けて、何か声を上げよう」といった意味でしょうか。でも、これだとどうもNoiseの騒音とか雑音とかという部分の印象がうまく伝わりません。

 もっと騒ごう、ずけずけ言おう、なんでもひと言、黙ってたまるか・・・ちょっと違うかなあということで、いいキャッチがあったら教えて下さい。

    ◇

Make some noise

http://www.unaids.org/en/resources/documents/2017/2017_zero-discrimination-day

 

 #zerodiscrimination.(差別ゼロ)に向けて今年はすべての人にノイズをあげてもらいます。個人でも、コミュニティでも、声を上げて下さい、そして世界を変えていきましょう。差別ゼロデーは、誰もが社会の変革に加わり、公正で公平な社会を目指せることを示す重要な示す機会です。

バマコからバルティモアまで、健康の権利はすべての人のものです。 #ZeroDiscrimination Dayは、誰もが、どこでも安心して医療やケアを受け、誇りを持って生きられるようになることを目指します」 ミシェル・シディベUNAIDS事務局長

 

This year we are calling on everyone to make some noise for #zerodiscrimination. Individuals and communities can join voices and transform the world. Zero Discrimination Day is an opportunity to highlight how everyone can be part of the transformation and take a stand for a fair and just society.

 "From Bamako to Baltimore, the right to health belongs to all. On this #ZeroDiscrimination Day let us commit to ensuring everyone, everywhere can access health care safely and live life fully with dignity."

  Michel Sidibé, UNAIDS Executive Director

3月9日(木)にHIVcheck報告会

 2015年から続けられていた『UNAIDSが掲げる臨床評価指標90-90-90達成のための男性同性愛者に対する新しいHIV検査システムの構築に関する研究』の成果報告会が3月9日(木)の夕方、国立国際医療研究センター(東京都新宿区戸山1-21-1)で開かれます。
 http://www.ca-aids.jp/event/170309_hivcheck.html

 新宿2丁目のコミュニティセンターaktaで行われていたHIVcheckの報告会ですね。公式サイトもあるので、ご覧いただくと、どんな研究だったのか、ある程度の知識が得られるのではないかと思います。

 https://hivcheck.jp/

 

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 東京・新宿2丁目のコミュニティセンターaktaで毎週木曜の夜に検査キットを配布 

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→キットを受け取った人は持ち帰って自分で血液を「ろ紙」に採り、

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エイズ治療・研究開発センター(ACC)検査室へ郵送する

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→結果はウェブサイトで確認

   
 概略を説明するとそんな流れになります。この間に相談や結果確認後のフォローなどもきめ細かく工夫されているので、サイトでご覧下さい。

 研究結果報告も一部掲載されています。
 https://hivcheck.jp/news/event/155/

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 『国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターは、コミュニティーセンターaktaやぷれいす東京との共同研究として、2015年8月より「HIVcheck」を実施してきました。2016年12月末に検査キットの配布を終了し、当初の予想を上回る1395件の利用がありました。研究にご参加下さった方々へ、結果の一部をご報告いたします』

 HIVcheckの検査キットで「確認検査が必要」となり、ACCなどの医療機関で確認検査を受けて陽性と確認された件数は34件でした。検査件数に占める陽性の割合を計算してみると、2.4%ぐらいでしょうか。
 このデータだけで東京圏のMSM(男性とセックスをする男性)のHIV陽性率を即断することはもちろんできません。ただし、少なくともHIVの感染を把握し早期の治療開始につなげることを目的とした検査手法としてかなり費用対効果の高い方法になり得るということは推測できるのではないかと思います。

 結果報告の最後には《本研究は2016年12月末で検査キットの配布を終了しましたが、来年度以降、再開できるよう努力しております。詳細が決まりましたら、皆さんにお知らせいたします》と書かれています。こうしたかたちでの共同プロジェクトが事業または研究として、継続的に展開できるようになることを期待したいですね。

 

UNAIDSがコンドームを必要とする人へのアクセス改善を呼びかける声明

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が2月13日、コンドームの利用拡大を呼びかけるプレス声明を発表しました。内容的にはこれまでのメッセージの繰り返しですが、T as Pだとか、PrEPだとかに入れ込み気味の時期にまたどうしてわざわざ声明なのか・・・と思って訳して見たら、冒頭にでてきました。バレンタインデー前日の2月13日が国際コンドームデー(International Condom Day)ということで、それにあわせた声明です。

《この5年間、成人の新規HIV感染が年間190万人で横ばいの状態が続き、世界の中には増加している地域もある中で、コンドームと潤滑剤を含むHIV予防オプションへのアクセス改善が緊急に必要です。たとえば、最も深刻なHIVの影響を受けているサハラ砂漠以南のアフリカでは、コンドームのニーズと提供可能量のギャップは30億個以上と推計されています》

 参考までにネットで調べて見たら、国際コンドームデーはAIDS HEALTHCARE FOUNDATIONという団体が提唱し、国際的にはけっこういろいろなイベントが実施されているようです。

 

www.unaids.org

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UNAIDSがコンドームを必要とする人へのアクセス改善を呼びかけ

             プレス声明

 ジュネーブ 2017年2月13日 – 国際コンドームデーに際し、UNAIDSは各国に対し、コンドームへのアクセスと使用を妨げる障壁を取り除くよう呼びかけた。コンドームはHIV感染と性感染症を予防する効果的な方法である。この5年間、成人の新規HIV感染が年間190万人で横ばいの状態が続き、世界の中には増加している地域もある中で、コンドームと潤滑剤を含むHIV予防オプションへのアクセス改善が緊急に必要です。たとえば、最も深刻なHIVの影響を受けているサハラ砂漠以南のアフリカでは、コンドームのニーズと提供可能量のギャップは30億個以上と推計されています。

 UNAIDSはコンドームの供給を拡大するための革新的なアプローチを生み出す工夫を創造的かつ戦略的に考えていくことを支援しています。各国は保健施設で無料もしくは低価格のコンドームが提供できるようにすること、社会的企業やコミュニティベースのプログラムなどで想像力に富むマーケティング戦略と配布システムを開発することが必要です。

 世界のHIV新規感染は2015年現在、年間で推計210万件です。コンドームへのアクセスの拡大は、2020年までに世界のHIV新規感染を年間50万人以下にするというターゲット(2030年のエイズ流行終結に不可欠のターゲット)を実現するための極めて重要な要素なのです。

 

 

UNAIDS calls for improved access to condoms for all who need them

 

GENEVA, 13 February 2017—On International Condom Day, UNAIDS is calling for countries to remove barriers that hinder access to, and the use of, condoms. Condoms are an effective means of preventing HIV and sexually transmitted infections. With the annual number of new HIV infections among adults remaining static at 1.9 million for the past five years, and increasing in some parts of the world, there is an urgent need for improved access to HIV prevention options, including condoms and lubricants. For example, the gap between availability and need in sub-Saharan Africa—the region most affected by HIV—is estimated to be more than 3 billion condoms.

 

UNAIDS supports creative and strategic thinking around innovative approaches to improving condom availability. Countries should make condoms available for free or at a low cost through their public health facilities and engage in imaginative marketing strategies and distribution systems, including social enterprises and community-based programmes.

 

In 2015, there were 2.1 million new HIV infections. Increasing access to condoms is a critical element to meeting the target of fewer than 500 000 new HIV infections by 2020—an important milestone in efforts to end the AIDS epidemic by 2030.

 

大島も ワカメも波も サーファーも

 風はまだ冷たいけれど、光の春と言いますか。午後の散歩に出ると・・・。

 

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 海も輝いていました。雲の下に見えるあの島は。

 

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 伊豆大島ですね。ヨットが通り過ぎて行きます。

 由比ガ浜の遠浅の砂浜に降りると、のどかなようで波もけっこうありました。寒さも何のそのということで、海岸に近い海はこんな状態です。

 

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 波が来ました。かなりうねってますね。

 日射しは強い、とはいえ・・・寒くないのでしょうか。

 

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 再び砂浜に戻って(・・・といいますか、ずっと砂浜にいたんだけど)、いまはワカメの収穫の季節です。

 

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 朝早く沖でとれたワカメをゆでで洗濯ばさみで干す。強い日射しと冷たい風。うまみがどんどん凝縮されます(すいません、出まかせで書いていますが、たぶん凝縮されます)。

 

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 船が帰ってきました。だいぶ時間が遅いようなので、何か別の用があったんでしょうね。鎌倉は江戸時代からの漁業のまちでもあります。

 たとえば、いかにもお金をかけたパンフレットとか・・・

 ちょっとしつこいかもしれませんが、昨日のGNP+の声明に関する感想の続きです。引用でも紹介した『口先だけのマーケティングは別にして』という部分は、英文では『Slick marketing aside』となっています。Slickはとりあえず『口先だけの』と訳しましたが、それでよかったかどうか。

 試みにネットの英和辞典で『Slick』を調べてみると。
 なめらかな、すべすべした、上手な、巧妙な、口先のうまい、ずるがしこい・・・などといった意味があるようです。何か、いいんだか、悪いんだか。

 『 a slick magazine 』は、調子の良いことばかり書いて、すべりやすい雑誌・・・ではないですね。『(つや出し上質紙を使った)高級雑誌』の意味があるそうです。

 

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(スリックな海・・・とは言わないか。すいません、単に写真を入れたかっただけ。記事とは関係ありません)

 

 雑誌じゃないけれど、高級そうなパンフレットというのはHIV/エイズ分野でも時々、お見かけします。もちろん、それなりのスポンサーが付いていなければ、つやつやの高級紙に印刷することなどできないのでしょうが、どんなスポンサーなのか・・・。

 Slick merketingについつい反応して、想像というか、妄想がふくらんでしまいました。忘れてください。

 と言いながらブログに載せるというのもどうなの? そうしたご指摘は当然あろうかと思いますが、最近の米国の動きには、個人的にどうも違和感があって・・・。これにトランプさんが加わってくると、どうなることか。まったく先が見通せません。

 

恐怖と感染性と検出限界以下について GNP+

最近はすっかり世界のHIV感染予防対策の中心となった感がある「予防としての治療」(T as P)について、世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)が2月8日付けで公式サイトのニュース欄に見解を発表しています。声明と受け止めてよさそうですね。

On Fear, Infectiousness & Undetectability

http://www.gnpplus.net/on-fear-infectiousness-undetectability/

 

 その日本語仮訳です。あまり知らなかったのですが、米国ではU=U(Undetectable= Untransmittable)キャンペーンというのがあって、これには著名なエイズアクティビストも数多く参加しています。治療によって体内のHIV量が検出限界以下に下がれば、感染のリスクも、ないと言える状態にまで下げられる。この点を強調するキャンペーンです。

 そのためには検査の普及、治療の早期開始というのがT as Pの骨格、そして感染していない人にも目配りし、予防目的で抗レトロウイルス薬を提供するのがPrEP(曝露前予防服薬)です。

 U=Uキャンペーンのサイトを見ると、米国の名だたるエイズ関係団体が賛同しているようなので、私などは、あちゃ~、アメリカはこういうことになっちゃっているのか、と改めて驚くとともに、GNP+の声明もそのキャンペーンに賛意を示すものかと思ったら、どうも違いますね。最初の内は外交辞令といいますか、一応、ちょっと持ち上げていますが、後の方はだんだんきびしくなってきます。「口先だけのマーケティングは別にして」などとかなり激しい表現も出てきますね。

 《口先だけのマーケティングは別にして、HIV陽性者が必要とし、望んでいるのは、陽性を病気のベクター(媒介者)と見なすようなレトリック(すなわち、私たちはあなたが病気を広げないようにするため、あなたたちとともに働きます)が復活することではない。そうではなく、私たちの健康と安全と幸福を第一に考え、性パートナーとしても、同僚としても、仲間または友人としてもHIV感染を理由に恐怖の対象とされるいわれはないということを再確認するメッセージなのだ。治療を受けているかどうか、あるいは検出限界以下かどうかということに関わりなくである》

 個人的には、U=Uキャンペーンよりもこちらの方が共感できるような印象ですが、《陽性を病気のベクター(媒介者)と見なすようなレトリック(すなわち、私たちはあなたが病気を広げないようにするため、あなたたちとともに働きます)》といった指摘を前にすると、少々たじろぎます。お前もそうじゃないのと言われると、そうかもしれないと思ってしまうような・・・。

 そうしたことも含め、なにかと考えさせられる声明なので、ご関心がお有りの方はお読みください。U=Uキャンペーンももっと調べて見る必要がありそうですが、それは時間があればまた。

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 恐怖と感染性と検出限界以下について

    GNP+ 2017年2月8日

 

 抗レトロウイルス治療(ART)を受け、少なくとも6カ月はウイルス量が検出限界以下の(そして、他の性感染症にはかかっていない)HIV陽性者なら、HIV感染の可能性は無視できるほど低いということが、10年前にはまだ証明されていなかった。

 HIV治療と予防に関する医科学研究の大きな進歩により、いまはもう違う:予防としての治療や曝露前予防服薬(PrEP)を含め、HIV感染予防における抗レトロウイルス治療の必要性と有効性は繰り返し、はっきりと示されている。

 Prevention Access Campaign(予防アクセスキャンペーン)がスポンサーになり、多数の米国著名エイズアクティビストが参加して発足したU=UキャンペーンはUndetectable(検出限界以下)とUntransmittable(感染の可能性がない)という単語の頭文字をとって最近のこうした進歩を強調している。キャンペーンはHIV予防としての治療の効果について広く社会的理解を得ることを目指すものだ。キャンペーンはまた、HIV陽性者に対すでにスティグマと差別に一段と拍車をかけるようなHIV感染にまつわる嘘を一掃することも期待している。体内のHIV量が検出限界以下に抑えられているHIV陽性者の感染性に関する誤った情報のために、そしてHIV陽性者の非感染性を示すエビデンスを知らないために、HIV陽性者を犯罪者として扱う国が数多く存在し、不当な法の適用がなされてもいる。

 良質の科学と強力なエビデンスに支えられているとはいえ、U=Uキャンペーンのメッセージに対しては泣き所を突かれるような懸念を感じているアクティビストもいる。キャンペーンは恐怖を広げることになり、HIV陽性者をもともと(いまは抑えられているが)病気のベクター(媒介者)としてしか見ないような規範的な考え方を追い散らすのではなく、むしろ強化するのではないかと考えるからだ。

 もっとはっきり言えば、「私たちを恐れないでほしい、受け入れてほしい。なぜならば私たちからはもう感染しないのだから」という啓発のメッセージは、すべてのHIV陽性者の解放に力を与えるような言説にはならないからだ。

 過去36年間、世界中のHIV陽性者およびキーポピュレーションのコミュニティは、恐怖とスティグマと差別に正面から取り組み、闘ってきた。自らの存在を明らかにし、圧制に抗い、人権と平等と正義を求め、力を集めることでその闘いを続けてきた。世界中の何百万というHIV陽性者が、ウイルス量とかかわりなく、受け入れられることを求め、私たちを取り巻く恐怖と闘ってきたのだ。治療を受けていようと、いまいと、私たちは性パートナーとして恐怖の対象とされる存在ではない。

 自分のウイルス量を知ることのできない状態にあるコミュニティのメンバーからも、キャンペーンは懸念を持たれている。世界中の何百万というHIV陽性者が検出限界以下のウイルス量を切望しながら、治療へのアクセスがなかったり、治療の中断をしばしば余儀なくされたり、ウイルス量を検査することができなかったり、執拗なスティグマや差別や暴力に苦しめられていたりといった理由で、その状態を実現できていない。U=Uキャンペーンは、よくて見当外れ、悪くすれば、世界中の大半のHIV陽性者が直面する社会的、政治的、経済的現実を蔑視するようなキャンペーンになってしまうだろう。

 口先だけのマーケティングは別にして、HIV陽性者が必要とし、望んでいるのは、陽性を病気のベクター(媒介者)と見なすようなレトリック(すなわち、私たちはあなたが病気を広げないようにするため、あなたたちとともに働きます)が復活することではない。そうではなく、私たちの健康と安全と幸福を第一に考え、性パートナーとしても、同僚としても、仲間または友人としてもHIV感染を理由に恐怖の対象とされるいわれはないということを再確認するメッセージなのだ。治療を受けているかどうか、あるいは検出限界以下かどうかということに関わりなくである。

 HIV陽性者は予防としての治療キャンペーンを必要としている。何よりもまずあなたが生きるために必要であり、他の感染症にかかるのを防ぐことができ、そしてイエス、あなたの治療によってHIV予防の利益も受けられる。だから治療を受けようというメッセージを大胆かつ明確に広げる必要があるのだ。

 GNP+は恐怖を持つことなくHIV陽性者を受け入れるメッセージを支持する。HIVの流行を止め、すべての人の健康と安全と幸福を守ることを本当に実現しようとするなら、エビデンスに基づく保健対策と人権政策、HIV陽性者に向けられ、陽性者が経験してきた恐怖やスティグマ、差別、暴力をなくすためのプログラムとその実践が不可欠になる。

 GNP+は各地域や国におけるHIV陽性者のネットワーク組織のネットワークとして1986年に編成された。現場のHIV陽性者の声とニーズを世界につないでいる。また、HIV陽性者のネットワーク、および若者を含むより広いキーポピュレーションのコミュニティや人びとの能力向上にも取り組んでいる。GNP+はHIV陽性者のための包括的な治療、ケア、支援のプログラムとサービスを求めるアドボカシー活動と協力して、スティグマ、差別、人権侵害に取り組んでいる。

 

 

 

On Fear, Infectiousness & Undetectability

 

Ten years ago the notion that a person living with HIV (PLHIV) on antiretroviral therapy (ART) with an undetectable viral load for at least six months (without any other sexually transmitted infections) had reduced the possibility of HIV transmission to negligible levels, was unproven.

 

Not anymore, major research advances in biomedical HIV treatment and prevention science; continuously and conclusively demonstrate the increased need for and power of antiretroviral medication in the prevention of HIV – including treatment as prevention and PrEP.

 

Capitalizing on these recent developments, the U=U (Undetectable = Untransmittable) campaign, sponsored by the Prevention Access Campaign and founded by a number of prominent HIV activists from the U.S., is aiming to spread much needed public awareness about the effectiveness of treatment as prevention of HIV. The campaign also hopes to dispel falsehoods about the transmission of HIV that exacerbates existing stigma and discrimination faced by PLHIV. Misinformation about the infectiousness of PLHIV with undetectable viral load, and/or lack of knowledge of the evidence that shows the un-infectiousness of PLHIV also contributes to the overly broad and inappropriate application of criminal law against people living with HIV in many countries.

 

While backed by good science and strong evidence, concerns with the messaging of the U=U campaign has really hit a nerve with some activists who feel that it traffics in the currency of fear, and builds-on rather than dispels normative assumptions about the bodies and identities of PLHIV as nothing more than primary (albeit, controlled for now) vectors of disease.

 

To put it more bluntly, the public message of “don’t fear us, accept us, because some of us aren’t infectious anymore,” may not be an empowering liberation discourse for all PLHIV.

 

Over the last 36 years, people living with HIV, and key population communities around the world, have been addressing and challenging fear, stigma and discrimination head-on. We have done this by unveiling our identities, resisting oppression and collectivizing our intersectional struggle for human rights, equality and justice. Millions of people living with HIV around the world are demanding acceptance and challenging those afraid of us, irrespective of our viral load. We are not to be feared of as sexual partners, whether or not we are on treatment.

 

The campaign has also raised concern among community members who live in contexts where knowing one’s viral load is not an option. For the millions of PLHIV around the world who are unable to achieve the coveted status of undetectability, due to a lack of access to medication, frequent treatment interruptions, the unavailability of viral load testing, and/or pervasive and debilitating levels of stigma, discrimination and violence, the U=U campaign is, at best, irrelevant and, at worst, myopically dismissive of the social, political and economic realities that most PLHIV around the world face.

 

Slick marketing aside, what PLHIV need and want is not a revival of the rhetoric of PLHIV as vectors of disease (i.e. we work with you so that you don’t spread the disease). Rather what PLHIV need and want is validation that first and foremost our health, safety and wellbeing is prioritized and messages that reaffirm that we are not to be feared as a sexual partner, colleague, peer or friend due to our HIV-positive status, whether or not we are on treatment or undetectable.

 

PLHIV need treatment as prevention campaigns that boldly and unequivocally advance the messages that first and foremost take your treatment because YOUR life matters the most, you can protect yourself from other infectious diseases and yes you can also enjoy HIV prevention benefits from treatment.

 

GNP+ supports the message of acceptance of PLHIV without fear. A meaningful commitment towards stemming the HIV epidemic and securing the health, safety and wellbeing of all cannot be met without the promotion of evidenced based health and human rights policies, programmes and practices that aims to eliminate the ongoing fear, stigma, discrimination and violence directed towards, and experienced by, PLHIV.

 

Incorporated in 1986, GNP+ is a network of networks and members that engages with people living with HIV regionally and nationally. We channel the voices and needs of people living with HIV on the ground to the global level. We also work to identify and address the capacity building needs of networks of people living with HIV and people who are part of broader key population identities and communities, including young people. GNP+ addresses stigma, discrimination and human rights violations in tandem with advocacy for greater access to comprehensive and integrated treatment, care and support programmes and services for all people living with HIV.