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強引にトランプ氏勝利をHIV/エイズ対策と結びつける視点 エイズと社会ウェッブ版254

 米国の大統領選は共和党のドナルド・トランプ氏が接戦を制して当選を確実としました。朝から開票速報を見て、「そういうこともありうる」などと言いながら、でも、まさかね・・・と思っていたら、そうなってしまいました。

 テレビの開票速報番組に出演されていた皆さんも、国際政治に詳しい方、あまり詳しくないけれどとりあえずビールの方を含め、概して表情が重かったようにお見受けしました。外野席の私と同じような感触だったのかもしれません。

 ともかく結果は出ました。2017年からしばらくは、トランプ氏を大統領とする超大国・米国が世界にどのような変化を与えていくのか、その読めない現実を読みながら、もろもろの政策分野に対応していかなければなりません。
 私の主要な関心事は、国際的なHIV/エイズ対策がトランプ米政権のもとでどう変わり、それが日本国内でHIV/エイズ対策に取り組む人たちにどのような影響を及ぼすことになるのか、ということです。

 この際、しばらく途絶えていた「強引にHIV/エイズ対策と結びつける」シリーズを復活させましょう。このシリーズは新型インフルエンザが流行すれば、エイズ対策と新型インフルエンザを結びつけて論じ、東京オリンピックパラリンピックの招致が決まれば五輪とエイズ対策を結びつけ・・・といった調子で、その時々の話題性に便乗して何とかエイズの話題を売り込もうという、純粋にしてかつ不純な動機に基づく、不定期掲載です。その成り立ちからして、論理構成には無理があるのですが、そうでもしなければ、なかなか読んでもらえないというやむにやまれぬ事情もお察しください。

 で、トランプ氏勝利の影響ですが、正直言ってわかりません。でもそこで終わったらこのシリーズは成り立ちませんね。勇気を振り絞って続けましょう。

 オバマ政権のもとでのHIV/エイズ政策はすごく良かったわけではありませんが、それほど悪くはなかったと個人的には思っています。
 治療の進歩が予防の効果を高め、それでエイズの流行は終結に持ち込むことができるという医学研究者や製薬企業の打算をあまり疑うことなく受け入れている点は、残念ながらexcellent(すごく良かった)とは言えない。とくにワシントンDCで開かれた2012年の第19回国際エイズ会議では「エイズ流行の終わりの始まり」みたいな主張を強く打ち出し、「治療こそ予防」プロパガンダを強引に世界のHIV/エイズ政策の潮流にすることで政権の得点にしようという迷惑なすけべ根性もあったのではないかと思います。
 けれど、ブッシュ政権時代に生まれたPEPFAR(米大統領エイズ救済緊急計画)の充実強化をはかり、HIV陽性者に対する入国規制を撤廃し、HIV陽性者およびHIV/エイズの流行に大きな影響を受けているキーポピュレーションに対するスティグマや差別の解消に重要課題として取り組んできた。その姿勢は悪くはなかった。功と罪を測りにかければ、効の方がかなり大きかったなあという印象を受けています。
 そのこれまでの流れが、政権の交代によってどう変わるのか。トランプ氏の候補者としての数々の言動を考えると、良い方向に変わることはあるまいという印象は受けます。でも、何にもやらないうちから即断することは、とりあえず慎みたいですね。
 おそらくは政権移行までの短い期間にトランプ氏がエイズ政策に直接、言及することはないでしょうが、性的マイノリティや移住労働者への対応、薬物対策、国連の開発政策との距離の取り方など深く関連する領域への発言の機会は増えるかもしれません。そうした発言、および政権発足後のエイズ政策担当者の布陣といったもので、その具体的な方向性を探っていく必要があります。


 蛇足になりますが、8年前のオバマ政権発足時には、PEPFARの責任者である米国政府の地球規模エイズ調整官人事が注目されました。ブッシュ政権時代に大きな成果をあげてきた現職の留任が濃厚とされていたからです。オバマ氏の政権移行チームからその人物に留任の要請があったということも当時は伝えられました。
 ところがオバマ新政権が発足し、ヒラリー・クリントン氏の国務長官就任が決まったとたん、政権の方針は一転し、現職調整官は退任することになりました。
 その退任した人物こそが現在、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)事務局長のマーク・ダイブル氏です。オバマ政権はことエイズ政策に関する限り、発足時点で人事上の大きな失策をおかした政権でもありました。
 
 だから、その逆もありうると甘い期待をしているわけではありませんが、選挙の結果が出てしまった以上、悲観も楽観もせず、次の動きに備えることが大切ですね。
 ま、こういうことを自分に言い聞かせているあたりは、とりあえず悲観的な気分になっていることの表れではあります。ただし、エイズ対策35年の歴史を振り返れば、もっと悲観的な状況はいくらでもありました。その意味でいえば、今回もまた、楽観的とまでは言えないけれど、注意深く流れを見極めながら、ポジティブに今後の対応を考えていきましょう。