UNAIDS世界エイズデー2015報告書『場所と集団に焦点を当てる:2030年のエイズ終結に向けた高速対応に向けて』 エイズと社会ウェブ版203

 12月1日の世界エイズデーを前に国連合同エイズ計画(UNAIDS)が昨日(11月24日)、新たな報告書『場所と集団に焦点を当てる:2030年のエイズ終結に向けた高速対応に向けて』を発表しました。例によって、力作と言いますか、大部な報告書なのでとても全部は読み切れません(すいません)。とりあえず、UNAIDSの公式サイトにあるプレスリリースを日本語仮訳でHATプロジェクトのブログに掲載しました。

『場所と集団に焦点を当てる:2030年のエイズ終結に向けた高速対応に向けて』 UNAIDS報告書 

http://asajp.at.webry.info/201511/article_4.html

  このリリースだけでも非常に参考になります。ぜひ、お読みください・・・ということをお伝えしたうえで、以下は少々、嫌みな内容になってしまいますが、私のプレスリリースを訳したうえでの感想です。ひと言でいえば、プロパガンダ的なご都合主義が気になるので、ついつい皮肉トーンが出てしまったのですが、そもそもプレスリリースに対し、プロパガンダ的だとか、ご都合主義だとか批判してみても、批判になりませんね。MDGsからSDGsへと移行する中で、他の保健分野同様、UNAIDSもいまは苦しい立場です。善戦健闘を祈る!

 

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 世界のエイズ対策は過去15年、ミレニアム開発目標MDGs)のもとで大きな成果をあげてきました。今後15年間は、持続可能な開発目標(SDGs)の一部である2030年のエイズ流行終結という大目標に向けて対策をさらに充実させていこう・・・ということなのですが、21世紀の最初の10年間のように国際社会が危機感をもってエイズ対策に取り組み、投入される予算も大きく増加していったというようなストーリーは今後15年間には期待できそうもありません。

 かといって、ここで対策が失速してしまえば、HIV感染が再び拡大していくことは避けられない。どうすればいいのか。効率よく対策を進める。資金の集中的投入をはかるということで、選択と集中が大きな課題として掲げられています。

 具体的にはまず、今後5年間が勝負なので、投資を前倒ししてでも目先の5年間の対策に全力を集中する。つまり時間的集中ですね。

 次いで、この5年の間は、新規のHIV感染が最も多く発生している場所と集団に対策を集中する。つまり、人の所在も含めた空間的集中です。

 プレスリリースの記述を借りれば『公衆衛生の脅威としてのエイズの流行の終結には、対策をより強化し、データのさらなる改善をはかり、HIVの新規感染が最も多く起きている場所と集団に必要なサービスが届けられるよう対策の焦点を絞っていく必要がある』ということになります。

 そのために報告書は『より多くの人に包括的なHIVの予防と治療のサービスを提供するため、革新的な方法を採用した50カ所以上のコミュニティや都市や国の事例を紹介している』ということです。事例集のような感じですね。

 で、2020年までの5年間、高速対応アプローチに邁進するとどうなるのか。

 『報告書は、HIVの予防と治療のサービスをより受けやすくするための資金の再配分の方法を各国に示している。高速対応アプローチと投資の前倒しによってギャップをより速く埋め、使える資金を増やすことで、2020年以降は逆に資金需要が減少しはじめることになる』

 そうなってほしい。心からそう思いますが、そんなに都合よくいくものなのでしょうか。なんか、うまく丸め込まれているような感じもします。

 『最大限の成果がはかれるよう地域と集団とプログラムを絞ることで、2030年までに2100万人のエイズ関連の死亡と2800万人の新規HIV感染、590万人の新生児のHIV感染を防ぐという巨大な利益がもたらされる』

 そうなることを信じましょう。とはいえ選択と集中から少々、外れたところで気になる指摘もプレスリリースにはあります。

 『報告書は、HIV陽性者数が少なく、HIV陽性率が低い地域の方がHIV症例の多い地域よりも差別的な態度が強くなる傾向があることを指摘している。矛盾した結果にも見えるが、一般的な傾向としては実は、HIV感染が広がっている地域、そしてより多くの人が治療を受けている地域の方が、HIVに関する教育と理解が浸透していることが多い。一方で、こうした差別的な態度があるために、低流行地域の人たちはスティグマや報復を恐れ、HIVサービスを受けようとしなくなっている』

 リリース全体の流れからすると、ここだけ変に浮いている感じがあります。ただし、つい先日、米国でチャーリー・シーン氏がテレビ番組に出演してHIV感染を公表したことが話題になりましたね。そのときの反応をみても、この指摘にはかなり説得力があります。HIV感染が最も多く起きているところに資源を集中する。これは対策のあり方として必要なことだと思います。異論を差し挟むものではありません。でも、それだけでは済まないぞ!というのは、日本のように国際的に見れば低流行国とされる国でエイズ対策を長く取材してきた物好きな記者の実感でもあります。

 多角的な目配りの必要性も頭の片隅においていただきながら、プレスリリースの日本語仮訳をお読みいただければ幸いです。もう一回URLを紹介しておきます。

日本語仮訳 http://asajp.at.webry.info/201511/article_4.html

 UNAIDSプレスリリース(英文)

  http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2015/november/20151124_LocationPopulation