気になる20代のHIV感染報告増加傾向 エイズ動向委員会が2014年新規HIV感染者・エイズ患者報告確定値 エイズと社会ウェブ版184

  国内の昨年(2014)1年間の新規HIV感染者・エイズ患者報告数(確定値)が27日、厚生労働省エイズ動向委員会から発表されました。年間速報値は2月に公表されていますが、それと比べると患者・感染者の合計数で26件増え、以下のようになっています。()内は速報値

 

 新規HIV感染者報告数 1091件(1075件) 過去3位

 新規エイズ患者報告数   455件( 445件) 過去4位

 患者・感染者報告合計  1546件(1520件) 過去3位

 

 患者・感染者報告の合計がこれまで最も多かったのは、一昨年の1590件でした。それよりは44件少なくなっていますが、年間報告1500件前後のまま高止まりで横ばいという傾向は依然として続いています。

 

 感染経路別では、男性の同性間の性感染が最も多く、新規HIV感染報告の約72%(778件)、新規エイズ患者報告の57%(255件)を占めています。

 

 いわゆる「高止まりで横ばい」の傾向はもう8年ほど続いています。対策がうまくいっていないから報告が減らないと考えるべきなのか、それとも、横ばいからこれ以上、増えていかないように何とか持ちこたえてきたと解釈した方がいいのか。個人的な感想レベルで言えば、私は後者の見方なのですが、ここ数年、エイズ対策がじりじりと後退している印象も否めず、最近は持ちこたえるのももう限界という嫌な印象を受けることがしばしばあります。

 

 今回の発表で言えば、年齢別で20代の新規HIV感染報告が増えているというあたりが気になります。「嫌な印象」のアラームが響き渡っている感じですね。

 

 昨年の20代の新規HIV感染報告は349人で、国内のエイズ統計を取り始めた1985年以降では最も多かったということです。30代は347人だったので、20代の方が報告数は多くなっています。これは12年ぶりの逆転ということで、若い層への情報が十分に届いていないのかもしれません。大いに危惧すべき逆転です。

 

 この日の発表では、6月1~7日のHIV検査普及週間の啓発イベントの記者会見もあわせて行われました。

http://api-net.jfap.or.jp/event/HivInsWeek/ExaminationWeek2015_ev.html

 

 ラジオDJの山本シュウさんをはじめ、熱心にHIV/エイズに取り組んでこられた芸能関係の方たちのご努力にはいつも頭が下がる思いですが、気がかりも少しあります。嫌がられるかもしれませんが、あえて触れておきましょう。

 

 前述のように、新規HIV感染報告の72%は男性の同性間の性行為による感染です。年齢別の感染経路は本日の発表では分かりませんでしたが、20代の感染報告も当然、同性間の性行為による感染が多数を占めていると考えるべきでしょう。

 

 しかし、キャンペーンでの注意喚起と検査普及への呼びかけは、男女間の愛や性を前提とした若者へのメッセージと受け取れるものでした。少なくともゲイ男性を含む性的少数者に対する理解が広がっていくようなメッセージではないという印象を私は受けました。

 

 HIV/エイズの流行に関心を持ってもらう窓口として、可能な限り多くの対象にメッセージを届けたいという意図は分からないこともありません。したがって、キャンペーンを否定したいと思っているわけではありませんが、語られていないことに対する微妙な違和感はぬぐえません。

 

 動向委員会報告のデータからでも、感染がいま、どこで起きているのかを推測することはできます。感染の最も高いリスクにさらされている人たちが、安心して、あるいは自ら積極的に検査を受けてみようかなと思えるような雰囲気を醸成していく。できることなら、そうしたところにメッセージの矢印が向いていてほしい。ラジオDJの中でもグレートコミュニケーターの一人として知られる山本シュウさんの会見だったので、あえてそうした高いハードルをやすやすと超えていくような啓発のイベントを期待したいと思います。

 

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 動向委員会の委員長コメント(pdf版)はこちらをご覧下さい。

  http://api-net.jfap.or.jp/status/2014/14nenpo/coment.pdf

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