減少傾向は本物か 2015年新規HIV感染者・エイズ患者報告確定値 エイズと社会ウェブ版228


 国内のエイズ患者・HIV感染者報告数について、厚生労働省エイズ動向委員会が昨年(2015年)の年間確定値を発表しました。

 新規HIV感染者報告   1006件 過去8位
 新規エイズ患者報告数  428件 過去8位
 
   合計        1434件 過去9位

 厚労省で昨日(5月25日)、エイズ動向委員会が開かれ、その終了後の記者会見で公表されています。私は会見には出られなかったので、後から入手した発表資料を見て書いています。毎年のことですが、動向委員会は2月に速報値を公表し、統計を精査したうえで5月ごろ確定値を発表しています。参考までに今年の速報値と比べるとHIV感染者報告数は16件、エイズ患者報告数は5件増えています。つまり合計では21件増ということになります。

 発表資料はAPI-Net(エイズ予防情報ネット)にもPDF版が掲載されています。詳しくはそちらもご覧下さい。 

http://api-net.jfap.or.jp/status/2015/15nenpo/15nenpo_menu.html

 ここからは確定値ベースで話を進めましょう。患者・感染者の合計報告数が最も多かったのは2013年の1590件でした。その翌年の14年は1546件だったので、昨年の確定値は2年連続の減少ということになります。しかも、前年より100件以上少なくなっているので、年ごと推移を見ると、横ばい傾向から減少に転じたのかなあという印象も受けます。

 ただし、昨日の記者会見で同時に公表された今年1~3月期の報告数は352件で、前年同時期の321件と比べるとかなり増えています。最初の四半期だけでは即断しがたい面もありますが、少なくとも減少傾向が続いているとはいえません。

 あくまで報告ベースの数字なので、その期間にHIV検査を受ける人が増えたか減ったか、あるいは検査を受ける人の中でHIV感染のリスクが高い人がどのくらいの割合を占めているかといったことによっても、増減は左右されます。それでは去年に比べ、今年の1~3月はHIV感染のリスクが高いと思われる人が検査を受けに行くような出来事があったかどうかと振り返って見ると、そのような出来事は(少なくとも私には)思い当たりません。

 報告の数字から現在の感染の状況を推定するのはますます難しく、困難とすら言えるかもしれないので、あくまで私の個人的な印象でしかありませんが、国内のHIV/エイズの流行は依然、横ばいかあるいは微増ぐらいの感じで推移しているのではないでしょうか。

 再び確定値に戻ります。感染経路別では性感染が圧倒的多数を占めています。これは合計ではなく、HIV感染者報告、エイズ患者報告それぞれに報告数を示した方がいいでしょう。

HIV感染者報告】
 同性間性感染 691件(感染者報告数全体の約69%)
    異性間性感染 196件(感染者報告数全体の約19%)

エイズ患者報告】
 同性間性感染 250件(患者報告数全体の約58%)
   異性間性感染    95件(患者報告数全体の約22%)

 同性間の性感染が多数を占めている傾向はここ何年も変わりません。わが国のHIV感染は男性とセックスをする男性(MSM)を中心に起きており、対策もまたゲイコミュニティなどMSM層に焦点を当ててメッセージやサービスを提供していく必要があるという基本線も当然、変わらないと考えておくべきでしょう。

 ただし、微妙な変化ですが、新規HIV感染者報告の確定値を前年確定値と比べると、報告数全体に占める割合は同性間の性感染が少し減り、異性間の性感染が逆に少し増えています。

HIV感染者報告】(2015年確定値)
 同性間性感染 789件(感染者報告数全体の約72%)
    異性間性感染 179件(感染者報告数全体の約16%)

 これも即断はできないのですが、同性間の性感染を防ぐための対策が苦戦を重ねながらも少しずつ成果をあげ、逆に異性間の感染については報告が少ないという安心感から予防意識が少し薄れ気味になっているのではないか。そんな見方もあり得るということを(一応、保留付きで)考えておく必要もありそうです。

 発表資料の委員長コメントには《まとめ》として最初に女性の新規HIV感染が増加していることを指摘しています。

《1 新規HIV感染者数及び新規AIDS患者報告数は平成26年に引き続き減少した。女性のHIV感染者報告数は過去3年間、46件、50件、58件と数は少ないが増加傾向を示した》

 著名な臨床家であり、医学者でもある岩本愛吉委員長のコメントはあくまで慎重ではありますが、私の個人的感想と同質の危惧を表明しているのではないかと、これもあくまで個人的に想像しています。