4308 『2001年以降のHIV/エイズに関する声明、約束、宣言』3 エイズと社会ウエブ版143

 

 まとめの部分です。2005年の時点ではまだ、エイズ対策についてかなり悲観的な見通しが強調されています。その後の成果もあるのでしょうが、最近は逆に治療の進歩で楽観的な見通しが(努力をすればという条件付きで語られることがおおいにせよ)意識的に強調されることが多いようですね。個人的には最近の傾向にもかなり違和感があります。

 

 世界エイズキャンペーン(WAC)は当時、かなりいい動きを見せていたように思いますが、最近は停滞気味です。毎年毎年、世界レベルでHIV/エイズに焦点を当てたキャンペーンを続けていくということはかなり大変なことなのでしょうね。問題の大きさ、深刻さが明らかであったとしても、継続していくことにはそれ自体、困難が伴います。

 

 WACの場合、2004年にUNAIDSから独立した当時の事務局長はマルセル・ヴァン・ソース氏でした。私は直接、お会いしたり、話したりしたことはありませんが、インタビュー記事などを読んだ範囲で判断すれば、彼の存在が大きかったのではないかと思います。ソースト氏は2011921日に急逝しています。WACの失速はその少し前あたりからではなかったかと私には感じられます。WACの活動については極東の島国から傍観者敵に見ているだけなので単なる感想なのですが、現在のWACがどうなっているのか、背景も含め説明していただける方がいるとありがたいですね。

 

    ◇ 

 

3.終わりに

 この文書は過去5年間のHIV/エイズに関する国際的な公約をどう理解したらいいのかについて、指針を示すものである。はっきりしているのは、選ばれた資料の範囲でも多数のレベルの約束や事実認定が一緒に存在しているということだ。目的はそれぞれ異なるが、すべてその時点でのHIV/エイズに関る知識による制約を受けている。

 

 すべての声明には共通のメッセージが存在していることに留意する必要がある。この点は興味深い。それらの声明はみな、HIV/エイズがますます大きな 問題となっていることを確認し、それに対応する行動を提案している。しかし、最近では説明責任を果たすことを求める新たな傾向も現れている。すでに四半世紀を経過しようとしているのにHIV/エイズの流行は終わりそうになく、対策に取り組む意欲はあるのに、HIV感染の数も影響も拡大を続けているという認識があるからだ。

 

 各国政府、研究機関、国際機関などに対し、過去5年にわたって繰り返し示されたHIV/エイズ分野の成果に関する事実、公約、約束について説明責任を果たすよう求める声は大きくなっている。世界エイズキャンペーンのテーマ(ストップ・エイズ! キープ・ザ・プロミス);2005年の多数の重要な会合や 報告からの結論と提言;2006年の国際エイズ会議で予定されているテーマ(実行のとき);そして2006年の国連エイズ特別総会検証会合の予想される成果はすべて、こうした傾向を指し示している。

 

 国際的な議論には大きな分裂の兆候も出ている:たとえば、EUを代表してトニー・ブレアが行ったスピーチは、EUHIV/エイズ政策について、事実に基づく戦略よりも道徳的価値観を優先させた米国政府の政策とはっきり対立するものが含まれていることを示している。

 

 2006年に何を期待するか

 モスクワの主要8カ国(G8)首脳会議は、世界経済にあたえるHIVの影響を認めるなど重要な要因の確認をさらに行い、アフリカ各国政府に対して「グッド・ガバナンス」の追求を求めることになるだろう。 

 

 UNDPの報告書はおそらく、多くの国が2015年までにMDGsを達成することはできないだろうとの予言を繰り返し、HIVが多くの地域で開発に対する非常に深刻な影響を与え続けていることを確認するだろう。

 

 自らの任期の最後となる総会で国連のコフィ・アナン事務総長は加盟国に対し、国連エイズ特別総会検証会合(20065月)でまとまる各国のエイズ対策進捗状況に関する成績表をもとに失望の意を表明するだろう。その評価は2003年と2005年行われた国連エイズ特別総会評価(たとえば「5年前にこの同じ部屋で採択されたコミットメント宣言を守る気があるなら、われわれはコースを保ち、これまでの倍の努力をしなければならない」といった指摘)と同様のものになるはずだ。

 

 他のどんなテーマにも増して、そして2005年世界サミットと主要8カ国(G8)首脳会議の約束に対応する意味でも、HIV/エイズは「必要な人すべ てに対し治療へのユニバーサルアクセスが確保される状態に2010年までに可能な限り近づくことを目指し、HIV予防、治療、ケア、サポートの規模を拡大すること」という公約に基づき、すべての政府および国連機関にとって2006年の中心課題になるであろう。

 

 これまでの約束の多くは、約束の実現には何が主要な障害なのかを検証する段階で失速していったが、新たな公約に対しては「ユニバーサルアクセス」の実現に対する障害の検証にとどまらず、その障害を打破するための行動に速やかに移ることを期待したい。

 

 「治療」の本質は何かをまず定義するべきである。抗レトロウイルス薬(ARV)に対するユニバーサルアクセスという究極のゴールは明らかに重要である。だが、「3バイ5」計画が示したように、そのゴールに向かって闘い、待っている間にも、すべての可能な方法で何百万という人が生きていられるようにし なければならない。

 

「治療へのユニバーサルアクセス」は、包括的なケアと治療のアプローチに対する広範なアクセスの確保、人々がHIV感染の有無を確かめられるようにするための支援、エイズの進行を遅らせる手立て、結核をはじめすべてのHIV関連症状に対する予防と治療などを含め、広く解釈する必要がある。

 

「ユニバーサルアクセス」に対する要請はどうなるのか。果てしなく思えるほどの声明と公約と宣言のリストは消耗してしまったのか。残されている道はひとつだけである:説明責任を果たすよう求める声はさらに大きくなるだろう。市民社会のアドボカシーとキャンペーンはより一層、組織化され、効果を高め、これ までの公約や約束をもとにして国際機関や各国政府、非政府組織の行動の欠如を一段と鋭く問いつめることになるだろう。

[注:この文書はHealth & Development Networks ( HDN, www.hdnet.org )Ian Hodgson Tim France が世界エイズキャンペーンのために作成した]