初日に政治宣言を採択 エイズに関する国連総会ハイレベル会合 エイズと社会ウェブ版573

 いささか旧文に属するのかもしれませんが、安全安心・・・じゃなかった、記憶と記録のために書いておきましょう。5年に1度のエイズに関する国連総会ハイレベル会合が6月8-10日にニューヨークの国連本部で開かれ、初日8日の全体会議で政治宣言が採択されました。

 これまではHIV/エイズ分野の政治宣言はコンセンサス(国連全加盟国が投票を行わずに賛成)で決まることが多かったのですが、今回はロシアがハームリダクションに関する部分など3カ所の修正を求めたことから、投票による採択となりました。

 コロナの影響でバーチャルとのハイブリッド開催だったのに加え、今回はちょっと異例の展開ですね。反対は結局、4カ国(ロシア、ベラルーシ、シリア、ニカラグア)だけで、圧倒的多数の賛成で政治宣言は採択はされています。内容や文言に関しては、総会の開幕以前に、加盟国だけでなく様々なステークホルダー(関係者)による議論が何カ月にもわたって重ねられ、3次にわたる草案が示されていただけに、ロシアの対応に対しては「何をいまさら」という感じだったようです。

 冷戦の終結からしばらく、そして天安門事件からもしばらくの間とは異なり、保健や人の命にかかわる問題に関しても、世界は再びコンセンサスですんなりまとまるわけにはいかない時代に入っているようですね。

 それはともかくとして、HIV/エイズの困難なパンデミックに対し、世界は今後、少なくとも2025年までの5年間、この新たな政治宣言によって承認された2025年エイズターゲット、およびその実現を支える世界エイズ戦略2021-2026に沿って進められることになりました。

 2025年エイズターゲット、および世界エイズ戦略2021-2026の報告書要旨はAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に日本語仮訳で紹介してあります。

 

api-net.jfap.or.jp

  

api-net.jfap.or.jp

 

 政治宣言そのものについては、持って回った表現の多い国連の採択文書を訳すのは少々、面倒だなあと思っていたら、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が当日、プレスリリースを発表しています。渡りに舟ということで、こちらも日本語仮訳を作成し、PDF版でAPI-Netに載せていただきました。上記2文書に加え、このリリースがあれば、だいたい感じがつかめるのではないかと思います。少々、手抜きの感もあり、恐縮ですがよろしく。

api-net.jfap.or.jp

 

 個人的には、リリースの中の次の指摘に注目しました。

『また、HIV陽性者やHIV感染のリスクに直面している人たち、HIVに影響を受けている人たちの間でスティグマと差別を受ける人の割合を10%未満に減らすこと、そのためにundetectable = untransmittable(U-U、ウイルス量が検出限界値未満ならHIVは感染しない)という考え方を広げることも約束しています』

 文章自体が、また・・・で始まる追加的な言い方ではあるのだけれど、HIVに関連した「スティグマと差別を受ける人を減らす」ことを目的に『U=U』の考え方の普及をはかる。そのことの重要性が政治宣言により国連加盟国の共通の了解事項となりました。もちろん、日本政府もこの宣言に賛成しています。

 個人的な話に戻って恐縮ですが、私はU=Uの考え方について全面的に賛成しているわけではありません。医療の分野の人たちがU=Uを語るときの語り口に同床異夢のような居心地の悪さを感じることがあるからです。また、U=Uなんだから、治療薬があれば、もうコンドームでもないだろうと、あからさまには言わないまでも、示唆するような言動にもしばしば接することがあります。この辺りは、宣言ではコンビネーション予防の大切さを強調することでカバーしていますが、違和感は残ります。

 それでも、なぜU=Uなのかを明確にし、U=Uを提唱することの限界も認識したうえでなら、もう一歩、U=Uの考え方の普及に踏み込むべきかなあと、いまは思っています。