4219 和食文化 遺産だからこそ育てよう

 

 ちょっと遅れてしまいましたが、紹介しておきましょう。10月26日(土)の産経新聞に掲載された主張(社説)です。


【主張】和食文化 遺産だからこそ育てよう 
 
http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/131026/lif13102603090001-n1.html

 料理上手ではなくても、自分がほめられたような誇らしい気持ちになったのではないか。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産事前審査で、日本が提案した「和食 日本人の伝統的な食文化」が新規登録にふさわしいとする「記載」の勧告を得た。

 12月上旬のユネスコ政府間委員会で正式登録される。

 無形文化遺産は、ユネスコの保護条約に基づいて登録される。世界遺産が有形の自然環境や建物、町などであるのに対し、芸能や社会習慣、祭礼、伝統工芸技術などが対象だ。日本からも能楽や歌舞伎、京都祇園祭の山鉾行事など21件が登録されている。

 政府間委員会は条約締約国のうち24カ国で構成され、事前審査は6カ国の補助機関が担当する。このいわば小委員会での記載勧告が本委員会で覆された例はない。

 だが、そうした前例を持ち出すまでもなく、和食はすでに世界中でたくさんの人に受け入れられている。登録は当然だろう。

 日本政府は高級な会席料理ではなく、新鮮で多様な食材とその持ち味の尊重、栄養バランスに優れた健康的な食生活など、日々の生活にも直結した食習慣そのものを「遺産」として申請した。

 それが認められたことは大いに喜びたい。同時に、その遺産は後ろ向きの姿勢に終始していたのでは守れないこともあわせて認識しておくべきだ。

 日本に限らず、食文化は日々の生活の長い蓄積の中で育まれてきたものだ。ただし、その蓄積は、社会環境の変化や異なる文化との交流によって、絶えず新しい工夫を生み出しながら今日の姿にたどり着いている。変化と工夫こそが伝統の糧というべきだろう。

 早い話が、古くから伝わる料理の調理にさえ、今は電気製品の調理器具が使用され、新しい食材が数多く取り入れられている。料理の魅力の一つが驚きにあることを考えれば、そのような形で、できることの領域が広がるのはむしろ歓迎すべき動きである。

 歓迎できない変化もある。ユネスコ補助機関の勧告が伝えられたのは、くしくも一流ホテルのレストランの食品偽装表示が発表されたのと同じ日だった。今、日本人は自国の文化に本当の誇りを持てるのか。和食の無形文化遺産登録は、それを日常の生活の中から考える貴重な機会でもある。