ル・コルビュジエ建築作品群の世界遺産登録決定に関しては、こちらの記事も非常に興味深く読みました。
上野の西洋美術館、最後まで難産の世界遺産登録
仕掛け人、山名善之・東京理科大教授が語る舞台裏(上)
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO0466168009072016000000?channel=DF130420167231
「失格」寸前からの大逆転 上野の美術館、世界遺産に
仕掛け人、山名善之・東京理科大教授が語る舞台裏(下)
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO04661680Z00C16A7000001?channel=DF130420167231
見出しで「仕掛け人」と紹介されている東京理科大学、山名善之教授(近代建築史・意匠)へのインタビューです。(上)は登録決定前日、(下)は当日の日付になっています。
ル・コルビュジエの作品群は2009年にイコモスから登録延期の勧告を受けています。4段階の勧告のうち3番目、「書類の骨格を再考して出し直せ」ということだそうで、評価はあまり芳しくありません。1カ月後の世界遺産委員会では巻き返して2番目の「情報照会」に押し上げたのですが、この間の共同推薦国間の協議がまず興味深いですね。
《日本の関係者は「勧告はごもっとも。もう登録はむりだ」という反応。一方、仏は「だからイコモスはだめなんだ。世界遺産委に働きかけ、逆転だ!」と正反対のものでした》
ここがインタビュー(上)のハイライトでしょうか。私などは思わずフランスにパチパチしたくなってきます。
(下)は3年後の2011年、登録再チャレンジの話から始まります。2月に推薦書を再提出したけれど、5月のイコモス勧告はなんと、4段階のうち最低ランクの「不登録」。鎌倉が2013年に受けたのと同じ評価ですね。いくらなんでも、これはないよねと思ったなあ、あの時は・・・。
《ただ、よくよく考えてみれば、イコモスの1回目の勧告は「骨格をつくり直せ」でした。ですから、我々が情報の追加にとどまり、骨格自体を見直さなかったことに対して、「勧告に従わないのなら登録は認められない」ということだったのです》
吉良上野介かイコモスは!と私などは少々、感情的になってしまうタイプですが、さすがにイコモスメンバーの一人でもある山名先生は冷静です。
《イコモスにしてみれば、世界遺産委の方針に従い、審査を厳格にしたにもかかわらず、世界遺産委にかけると、推薦国のロビー活動をうけて登録を認めていく。イコモスが「我々の仕事はなんなんだ」となるのも道理でしょう》
「武家の古都・鎌倉」に対するイコモスの「不登録」勧告が出たときには、逆に「イコモスはなんなんだ」と私などは思ったものですが、立場が変われば受け止め方も変わってくる。勉強になります。
鎌倉はイコモス勧告が出た後、世界遺産委員会でも同じ結論になれば制度上、二度と推薦は受けられなくなる(つまり再チャレンジの道も閉ざされる)ことから、推薦をいったんとりさげました。その後、再チャレンジの機運まで盛り下がってしまったのは残念でしたが、緊急避難としては致し方なかったと思います。
ル・コルビュジエ建築作品群の共同推薦国は逆に中央突破をはかる道を選んでいますね。実はこの時もいくつかの推薦国からは取り下げようという意見が出ていたのですが、山名先生が対策会議で「引き下げるのはよくない。突っ込もう」と主張したそうです。
《問題点を明確にするためです。「推薦理由の骨格をこの機会にやり直そう。イコモスだって我々の主張に耳を傾けるはずだ。ひとつひとつ話し合い、解決していかなければ、また同じ過ちを繰り返すことになる」と話しました。幸いこの主張は受け入れられました》
結果的にこの時の世界遺産委員会では一ランク上の「登録延期」の決議を勝ち取り、首の皮一枚で今回の登録決定につながったわけですね。《この決議で最も重要なのは「イコモスと推薦国が対話をしなさい」ということを盛り込んだ点です》と山名先生は語っています。
《これまでイコモスと我々が公に接触することは許されていませんでした。この決議で、初めてそれが可能となったのです》
その後の展開については、インタビュー記事の(下)をお読みください。鎌倉の世界遺産登録をめざす人たちにとっても大いに参考になるはずです。少なくとも私は「ああ、イコモスに対し外野席から嫌みばかり言っていてもしょうがないなあ」と少なからず反省しております。
なにせ、「武家の古都・鎌倉」の現地調査を担当したのは中国の専門家(しかも、一人)でした。「元寇の昔にさかのぼれば利害関係者じゃないの。これはないよね」と私などはひそかに憤慨したものですが、そういうことはもう言うまい(言ってるけど)。
2013年からはすでにかなり時間が経過していますが、鎌倉の町の中の世界遺産登録への内発的な意欲が盛り上がっていない。ここが当面の課題の一つですね。実務を担当する方への側面援助として、このあたりのワクワク感を醸成するにはどうしたらいいのか、思案のしどころです。