「はじめに」で綴るエイズ対策史 その10

 TOP-HAT Forum(東京都HIV/AIDS談話室)は『HIV/エイズに関する知識と情報を幅広く伝え、エイズの流行について話し合う機会を増やすことを目的にしたHIV/エイズ総合情報サイト』です。東京都の委託を受け、特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議(JASA)が運営しています。

 

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 そのサイトの資料室欄に《「はじめに」で綴るエイズ対策史》というページがあります。本日、新たに「その10」を掲載しましたのでご覧ください。
 http://www.tophat.jp/material/d10.html
 「はじめに」はJASAが毎月発行する『TOP-HAT News』の巻頭記事です。
《今回は、2011年12月の第40号から2012年2月の第42号までの「はじめに」の記事3本にプラスして41号の2番目の記事『企業でHIV陽性者と共に働くためのポイント』を掲載しました》

 

◎流行30年の曲がり角(第40号 2011年12月)


HIV感染と就労 ~課題の再検証を~(第41号 2012年1月)

◎企業でHIV陽性者と共に働くためのポイント(第41号 2012年1月続き)


◎《つなぐ つづける ささえあう》(第42号 2012年2月)

 

 こうやって振り返ってみると、わずか数年の間に大きく変わったことも、実はそれほど変わっていないことも、それぞれあるということを改めて感じます。

 

『時代の土俵も変化する』  One Side/No Side14

 世の中は次から次へといろいろなことが起きるので、わずか2カ月余り前のことでも、ずいぶん昔の出来事のように感じられてしまいます。
 現代性教育研究ジャーナルの6月号に掲載された連載コラム One Side/No Sideの14回目です。

www.jase.faje.or.jp

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 大相撲の土俵になぜ女性は上がることができないのか。おかしいじゃないの!と、4月にはあれほど大きくテレビや新聞でも取り上げられていたのに、最近ではほとんど話題になりません。
 ニュースとしては旬が過ぎてしまったということなのか。でも、忘れてしまえばそれで終わりというものでもなかろう。こんなときこそ時代遅れのコラムの出番・・・とばかり、遅ればせながら、そして、例によって回りくどくもありますが、取り上げました。写真は6月号の表紙です。コラムは12ページに載っているので、お手数をおかけしますが、捜してお読みいただければ幸いです。

 

『国連加盟国がエイズ終結に向けた努力の拡大を強調』 UNAIDSプレス声明

20166月の国連ハイレベル会合で採択された『エイズ終結に関する2016年国連政治宣言』では、その後の世界のHIV/エイズ対策について、国連事務総長が毎年、総会に報告するよう求めています。その2018年版報告書『エイズ対策を国連改革とグローバルヘルスのテコに』が613日の総会会合で提出されました。今年は2016年の宣言採択から当面の目標である2020年までの高速対応に至る中間年ということになります。成果はそれなりに上がっているが、これからよほど頑張らなければ目標に到達することはできないといった内容です。

会合の模様を含め国連合同エイズ計画(UNAIDS)がプレス声明を発表しています。その日本語仮訳です。

 報告書のタイトルをもう一度、見ていただきましょう。『エイズ対策を国連改革とグローバルヘルスのテコに』となっています。英文では Leveraging the AIDS responseです。総会議長も開会の辞で「本日の議論は他の目標や目的にもつながることを忘れてはならない」と述べています。まあ、その通りではあるのだけれど、「大切だ」と言葉の上で強調はしていても、その言葉の背景には、他の課題解決の役にも立つし・・・といったニュアンスが含まれているような感じもします。

 もちろん、プレス声明を読む範囲でも、重要な指摘はたくさんあり、国連並びに加盟各国の本気度を疑うわけではみじんもありません。疑っちゃあ、いけませんよね。でも、どこか「HIV/エイズ対策はそれなりに成果を上げてきたし、ほどほどに対応していけばいいんじゃないの」といった気分が国際的にも広がっているような感じがしないこともありません。

 声明の最後に載っている推計値は昨年末時点で公表されたものと同じです。新たな推計は今月末か7月初めに出されるのではないかと思います。

  

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国連加盟国がエイズ終結に向けた努力の拡大を強調

 エイズ終結に向けた進捗状況検証の総会会合で、国連事務総長HIV報告書を提出    UNAIDSプレス声明

http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2018/june/united-nations-secretary-general-presents-his-report-on-hiv

 

ニューヨーク2018613日 2016年の国連総会で合意された2020高速対応ターゲットの中間地点に際し、国連加盟国がHIV対応の検証会合に集まった。会合は米・ニューヨークの国連本部で開かれ、加盟各国がそれぞれの成果と課題を伝えるとともに(アントニオ・グテレス)国連事務総長から世界のHIV/エイズ対策の現状に関する報告を受けた。

ミロスラフ・ライチャーク国連総会議長は開会にあたり「本日の議論は他の目標や目的にもつながることを忘れてはならない」と開会の辞を述べた。「この会合はさらに広範な活動を展開していく機会としても活用することができる。このウイルスとの闘い、そしてそれに伴うスティグマとの闘いを続けていきましょう」

国連事務総長は報告書『エイズ対策を国連改革とグローバルヘルスのテコに』を提出し、「世界は2030年のエイズ流行終結に向けて大きな成果をあげています。しかし、その成果はまだ不均衡なものであり、もろくもあります。この節目の時にあたり、エイズから解放された世界の実現に向け、お互いの約束を果たす意思をもう一度しっかりと固めなければなりません」と述べた。

 報告書は抗レトロウイルス治療の指数関数的な拡大により、現在では世界のHIV陽性者の半数以上が治療を受けられるようになったこと、その結果として2010年に150万人だったエイズ関連の死者数が、2016年には3分の1減の100万人に減ったことを示している。また、子供の新規HIV感染防止の成果も指摘し、世界が今後も努力を続けばHIV母子感染をなくすことが可能になると強調している。

 UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は全体会合に出席し「私たちはエイズ終結に向けた重要な転換点に達しています。HIV感染の永続的減少に向け、結束して取り組むことがいまこそ大切です」と述べた。

 会合では30カ国以上が自国の進展について報告した。その多くがUNAIDSとその合同プログラムへの評価と支援を確認するとともに、エイズ終結に関する2016年国連政治宣言で約束したターゲット実現への意思を繰り返し表明した。

 「米国はHIV/エイズパンデミックとの闘いにおけるUNAIDSのリーダーシップを強く支持する」と米国のデボラ・バークス世界エイズ調整官兼グローバルヘルス外交特別代表は語った。「UNAIDSHIVの疫学データを集中的に収集する努力を続け、活用できるようにしていることは、極めて重要な対策の基盤であり、このパンデミックを制御するためのロードマップを提供しています。正確なデータに基づいて、これまでの実績を把握し、対応できていないニーズを特定し、最大の成果があげられるよう効率的かつ効果的に資金を投入していかなければ、2030年のエイズ流行終結というターゲットを実現することはできません」

 国連事務総長報告は、医療のアクセスを得られている人の数は2010年の770万人から20176月の2090万人へと3倍近く拡大している。その一方で残る1580万人はいまも必要な治療を受けられずにいるという現実もある。とりわけ子供に対する治療アクセスの拡大は遅れ、2016年段階で治療アクセスを得ているHIV陽性の子供は43%にとどまっている。

 報告書はまた、新規HIV感染の防止も十分ではないことを警告している。年間の新規HIV感染者数は2010年の220万人から2016年の180万人へと18%減っている。ただし、2020年までに年間新規感染者数を50万人に抑えるというターゲットに到達するには、HIV予防の努力を大きく飛躍させなければならない。とりわけ高いリスクに曝されている人口集団への対応が必要である。全体会議の場では数多くの登壇者からこうした見解が何度も示された。

 ケニアのラザラス・O・アマヨ国連大使はアフリカグループを代表して「エイズの影響は依然、サハラ以南のアフリカ地域で不均衡なまでに大きく、東部・南部アフリカ地域では若い女性の新規HIV感染のリスクがとりわけ高い状態が続いています」と語った。「HIVエイズに対する包括的かつ普遍的で、統合されたアプローチが必要であり、そのための投資が必要なことも繰り返し強調したい」。東部・南部アフリカでは、全人口の10%にあたる1524歳の若い女性層が、新規HIV感染の26%を占めている。

 エイズ対策に必要な資金が年間70億ドルも不足していることを含め、エイズ終結に関する2016年国連政治宣言のターゲットを実現するには、なすべきことがまだ数多くあると報告書は指摘している。そして、各国が高速対応軌道に戻るために、HIV予防革命の活用、人権尊重とジェンダー平等の促進、新規感染減少のためのHIV2020ロードマップの活用など、5つの強い勧告を行っている。

 

2016年推計(治療普及は20176月現在)

 ・抗レトロウイルス治療へのアクセス 2090万人 [1840–2170万人]20176月)

 ・世界のHIV陽性者数  3670万人 [308–4290万人]

 ・年間新規HIV感染者数 180万人 [160–210万人]

 ・エイズ関連の疾病による年間死者数 100万人 [83–120万人]

 

 

 

 

United Nations Member States stress that critical efforts must be scaled up to end AIDS

Press statement

United Nations Secretary-General presents his report on HIV as United Nations General Assembly meets to review progress towards ending AIDS

 

NEW YORK/GENEVA, 13 June 2018—At the halfway point to the 2020 Fast-Track Targets agreed by the United Nations General Assembly in 2016, United Nations Member States have come together to review progress in responding to HIV. Gathered at the United Nations Headquarters in New York, United States of America, Member States presented the progress and challenges in their countries and heard from the United Nations Secretary-General, who presented his report on the global response to HIV.

The President of the General Assembly Miroslav Lajčák opened the meeting. “We cannot forget that what we are doing today ties into our other goals and objectives,” he said. “We can use today’s meeting to explore opportunities for even more action. Let’s keep going. Let’s keep fighting this virus—and the stigma that comes with it.”

The United Nations Secretary-General presented his report, Leveraging the AIDS response for United Nations reform and global health, and said, “The world is making good progress towards ending the AIDS epidemic by 2030, but progress is uneven and fragile. At this pivotal moment, we must renew our focus and shared commitment to a world free of AIDS.”

The report shows that the exponential scale-up of antiretroviral therapy has now reached more than half of all people living with HIV, which in turn has contributed to a decline of one third in AIDS-related deaths, from 1.5 million in 2010 to 1 million in 2016. It also notes the progress in stopping new HIV infections among children and highlights that eliminating mother-to-child transmission of HIV is possible if the world remains focused.

The Executive Director of UNAIDS, Michel Sidibé, attended the plenary meeting. He said, “We are at a critical juncture on the path towards ending AIDS. We must unite and use our collective force to push HIV into permanent decline.”

More than 30 Member States reported on progress in their countries, many expressing their appreciation and support for the work of UNAIDS and the Joint Programme while reiterating their commitment to achieving the targets in the 2016 United Nations Political Declaration on Ending AIDS.

The United States strongly supports UNAIDS and its leadership in combatting the HIV/AIDS pandemic,” said Deborah Birx, United States Global AIDS Coordinator and Special Representative for Global Health Diplomacy. “UNAIDS’ focus on producing the most extensive data collection on HIV epidemiology continues to be fundamentally important and is our road map to controlling this pandemic. We cannot achieve the targets to end the AIDS epidemic by 2030 without the right data to track our progress, pinpoint our unmet need and effectively and efficiently direct resources for maximum impact.”

The report of the United Nations Secretary-General shows that while the number of people accessing treatment almost tripled from 2010 to June 2017, from 7.7 million people on treatment to 20.9 million, 15.8 million people are still in need of treatment, and progress in expanding access to treatment for children is particularly slow. Just 43% of children living with HIV had access to treatment in 2016.

It also flags that more needs to be done to stop new HIV infections. New HIV infections declined by 18% from 2010 to 2016, from 2.2 million to 1.8 million, but to reach the target of 500 000 new infections by 2020 HIV prevention efforts must be significantly stepped up, particularly among populations at higher risk, a sentiment echoed by many of the speakers at the plenary meeting.

Lazarus O. Amayo, Permanent Representative of Kenya to the United Nations, spoke on behalf of the African Group. “A lot remains to be done as AIDS continues to disproportionately affect sub-Saharan Africa, with the risk of new HIV infections remaining exceptionally high among young women in eastern and southern Africa,” he said. “We reiterate the need for a comprehensive, universal and integrated approach to HIV and AIDS, as well as investments towards it.” In eastern and southern Africa, young women aged between 15 and 24 years account for 26% of new HIV infections, despite making up just 10% of the population.

The report shows there is still much work to do to reach the targets in the 2016 United Nations Political Declaration on Ending AIDS, including filling the US$ 7 billion shortfall in funding for the AIDS response. It sets out five strong recommendations to get countries on track, including mobilizing an HIV testing revolution, safeguarding human rights and promoting gender equality and using the HIV Prevention 2020 Road Map to accelerate reductions in new HIV infections. 

 

In 2016 (*June 2017) an estimated:

*20.9 million [18.4 million–21.7 million] people were accessing antiretroviral therapy (in June 2017)

36.7 million [30.8 million–42.9 million] people globally were living with HIV

1.8 million [1.6 million–2.1 million] people became newly infected with HIV

1.0 million [830 000–1.2 million] people died from AIDS-related illnesses

 

永野健二著『経営者:日本経済生き残りをかけた闘い』(新潮社) 読後感想文

 2016年に出版された『バブル』がそうだったように、永野健二さんの新著にもわずか3文字で内容を直截に表すタイトルがつけられています。多少とも本を出した経験がある者としての感想をいえば、なかなかそこまでは思いきれません。出版社によほど腕っこきの参謀がいるか、著者自身が時間をかけて内容の検討を重ね、文章を練り上げていく過程で、これしかないと思えるところに到達したのか、どちらかでしょう。

 勝手な想像で恐縮ですが、おそらくは後者の要素が強いのではないかと私は思います。

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 同時に書店で初めて新刊の一冊を手にしたときには「それにしても『経営者』とは、まいったね」という印象でもありました。

『バブル』には、タイトルだけで読みたいと思わせる磁場のようなものがあったのですが、今回の第一印象は、なんといいますか、「経営者かあ、あまりご縁がないなあ」と少々、躊躇する感じですね。

 結局は購入し、ようやく読み終わったので、少し感想を書きます。ひと言でいえば、私にとっては最も縁遠い人たちかもしれない『経営者』という存在を通して、同年代のジャーナリストが、同時代の歴史を描く手わざの鮮やかさに感心し、『バブル』から受けた新鮮な印象に劣らず、もしかしたらそれ以上に、興味深く読みました。

 本書は戦後間もない時期から、高度経済成長期を経て、バブルを招き、そしてバブル崩壊後の長い停滞に至る時代を4章に分け、それぞれの時代の代表的企業経営者17人を取り上げています。その17人が誰なのかは目次を見れば分かるので列挙しませんが、登場する経営者のすべてが、私にとっては会ったことも、お話をうかがったこともない人です。より詳細に言えば、そのうちの2人はお名前も本書で初めて知りました。

同じように長く新聞記者をやっていながら、ぼ~っと生きてんじゃねえよ!とお叱りを受けそうですね。面目ない。

 話が横道にそれました。『バブル』と『経営者』の2冊には共通するキーワードがあります。それは『渋沢資本主義』です。おそらくは著者による造語なのでしょうが、渋沢栄一という明治期の経済人が土台を築いた日本独自の資本主義といった意味でしょうか。

『バブル』ではいまひとつ腑に落ちた理解ができていなかったのですが、渋沢資本主義へのこだわりをより強く打ち出した『経営者』の序文には、その内容が簡潔かつ平易に説明されています。少し引用しましょう。

『資本主義という苛烈な仕組みを、穏健な日本社会の中に埋め込むための知恵だった。欧米流の利益第一の資本主義ではなく、「公益」を第一に考え、公益の追求が利益を生み出す資本主義だった』

そして、その『日本資本主義の哲学』は『戦後の日本システムを通じて脈々と生きつづけた』と説明したうえで、著者は『明治維新から太平洋戦争の敗北までを前期渋沢資本主義』『戦後の復興からバブルまでの時代を後期渋沢資本主義』と名付けています。

本書が主に取り上げているのは『官民が役割を分担しつつ一体となって動き、その頂点に「興銀、大蔵省、新日鉄」が君臨する』という『後期渋沢資本主義』の時代、およびその存在の前提が80年代のバブルの時代に崩壊して、現在に至るまでの時期に相当します。

この間の経営者群像を永野さんはかなり冷徹に描き、対象によってはどこか突き放したような記述も目につきます。

バブル崩壊後の失われた20年を経て、現在の大手企業経営者のある種の惨状を見れば、採点が厳しくなるのも致し方ないのかもしれません。

ただし、経済記者としての長い経験の蓄積を持つ著者には、それらの多くの経営者の大半と直接、接触し、その印象から評価すべきところは積極的に認めていく視点もあり、それが逆に哀切ともいうべき内容の深みを本書に与えているように思います。

前著『バブル』に登場した紳士たちの多くは時代の大きな渦にほんろうされ、消えていくのですが、そのことを批判的に記述しつつも、どこかに惜しむような、あるいは墓碑銘を刻み込むような哀切があったことをもう一度、思い出しました。

各章には45人ずつ経営者が紹介されていますが、必ずその最後に紹介される経営者には高い評価が与えられています。それは時代の若干のずれをあえて無視して言えば、「バブルに踊らなかった人たち」とも言えそうです。

そうした経営者に対する評価には、『バブル』で踊った人たちへの別れとあわせて、『80年代のバブルの時代に存続の前提が崩壊する』という経緯をたどってきた渋沢資本主義がもう一度、新たな再生を果たすことを願う永野さんの思いが込められているようにも、私には受け取れました。

例えば第2章『高度消費社会の革命児たち』の4番目に登場する宅急便の生みの親、小倉昌男氏について永野さんはこう書いています。

『官民が一体となった予定調和の資本主義を、戦後の渋沢資本主義と呼ぶならば、小倉こそ渋沢資本主義を壊した男、渋沢資本主義に引導を渡した男である』

ただし、そこで終わるのではなく、すぐ後では『その崩壊が明らかになりつつあるアメリカ式の市場原理主義に代わるモデルを小倉昌男に求めるならば、小倉こそ新しい資本主義の実践者であったと言ってもよい』とも続けています。

小倉氏は10年以上も前に亡くなっていますが、永野さんはさらに『小倉昌男が考えつづけ、実践しつづけたテーマは、資本主義は公益に資することができるのかという問題だった』と書き、その『古くて新しいテーマ』について『それは資本主義に解のない解を求める旅を、すでにいない小倉昌男に代わって私たちが始めることでもある』と結んでいます。

 次の時代に向けて、どこかラブソングにも似た記述とはいえないでしょうか。

 あとがきで著者は『今、グローバリゼーションが世界に浸透するなかで、資本主義が問い直されている。明るい未来は何処にも見当たらないようにみえる』と書いています。この危機感は実は、まったく畑違いのHIV/エイズの流行という現象にジャーナリストとして取り組んできた私の現在の課題と通底するものでもあるように思います。少々我田引水気味になりますが、機会があればそのあたりの感想ももう少し書いてみたい。そんなことを漠然と思いつつ、この一冊の贅沢な読書体験をひとまず終えましょう。

 

 

♪星の流れに~ 『ペスト』の時代

100de名著の追加です。

 第1回放送を見終わりました。「不条理の作家」と言われるカミュ、並びにその作品『ペスト』がまず紹介され、その後、導入部に踏み込んでいきました。

 ああ、そうなのかと位置づけを分かりやすく説明していただけたように思います。

 テキストには略年譜もついていたので、それを見ると、カミュが『ペスト』の執筆を開始したのは1942年でした。第二次世界大戦中であり、出世作とも言うべき『異邦人』が刊行されたのと同じ年でもあります。

 『異邦人』の成功によって、じっくりと次の作品に取り組めるようになったという感じでしょうか。ただし、執筆には時間がかかったようで『ペスト』刊行は戦後の1947年です。

 戦時下のレジスタント運動にも加わるなど何かと大変な時期が続いたのでしょうね。

 カミュ自身が17歳ぐらいの時に当時、最大の感染症だった(地球規模で見ればいまもそうかもしれないけど)結核を発症し、執筆を開始して間もなくその結核が再発しています。このため、療養生活を余儀なくされる時期もあったようです。

 『ペスト』が刊行された1947年当時は欧州も戦後の混乱期をまだ脱しておらず、同時に感染症の流行は世界レベルで人類が遭遇する大きな災厄のひとつでした。日本でも結核が「国民病」と呼ばれるほど広がっていた時期です。♪星の流れに~と菊池章子さんが歌いはじめたものの、まだ大ヒットには至っていなかった年でもあります。蛇足ながら付け加えれば、すでに老境にある私もまだ生まれていませんでした。

 その後の医学の進歩で、一時期はお医者さんたちの間で「感染症の時代は終わった」と真顔で語られる時代がありました。

 しかし、1980年代初頭に新たなウイルス感染症であるエイズが流行し、世界は混乱と動揺の中で、そうではなかったという現実に直面します。

 『ペスト』は、ネズミが死んでいるのを主人公の医師が見つけるところから物語が始まります。静かな語り口、ごくごく小さな、日常的にありふれた出来事のひとつとして埋没してしまうかもしれない異変が導入部に配置されていました。

 私が『ペスト』を読んだのはいつごろだったのでしょうか。導入部のネズミのあたりは鮮明に憶えているのですが、その後のストーリーの展開も、重要な記述の数々ももうすっかり忘れています。

 古い本棚から新潮文庫の『ペスト』を引っ張り出してみると、初版から何十刷かを経て、平成8年に刷られた分を購入しています。西暦にすると1996年ですね。個人的なことで恐縮ですが、アトランタ五輪の取材を最後に産経新聞のニューヨーク支局勤務を終え、東京に戻った年でした。おそらくエイズ取材の参考にということで、帰国後に購入した本の一冊だったと思います。

 だいたい私は本を読んでも、読み終わったら片っ端から忘れてしまうタイプなので、不思議ではないのですが、それにしてもきれいに忘れてしまうものだと我ながら感心してしまいます。

 この機会にもう一度、読み直した方がいいかな。でも、最近は、紙ぼこりかインクの粉末か分かりませんが、何かのアレルギーで、古い本を読もうとすると、鼻とのどが痛くなり、目もむずむずしてきます。

 電車の中で隣に座ったおじさんが漫画雑誌をぱらぱらとめくると、それだけでもう鼻とのどがおかしくなるほどです。「おじさん、ぱらぱら止めてよ」などと注文を付けると、とんでもないトラブルに巻き込まれかねないので、そういう時は、しょうがない我慢するか・・・と、ささやかな不条理を受け入れています。

したがって、古い本はとても読めません。文庫で新しい本を買ってもう一回読むかなあ。どうしようかなあ・・・。

 おっと、脱線しました。テキストも一気に読まず、回を追いながら小出しに読んでいるので、第2回以降の展開が楽しみです。

 

今月はカミュの『ペスト』ですね 

 NHKEテレで毎週月曜日の夜に放送される100分de名著は、私にとって必見の番組というわけではありません(プロデューサーの方、ごめんなさい)。ただし、取り上げられるテキストによっては「これは見逃せないなあ」と思うことがたまにあります。6月はアルベルト・カミュの『ペスト』ですね。
 

www.nhk.or.jp

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 これは必見かなあ。本日午後、書店でNHKのテキストを購入し、さっそく今晩の第1回に備えています。
 文学作品の読み方は読む人によって様々でしょうが、私の場合はもう、狙いはひとつといいますか、エイズの流行に対するこれまでの社会の動きとこれからの対策を念頭に置きつつ、引き出せる教訓は目いっぱい引き出しちゃおうという魂胆です。ま、うまくはまってくれるかどうか。
 もうちょっとすると、100分のそのまた4分の1が始まりますね。

 

 

海もまつり 町もまつりだ 由比ガ浜

 鎌倉の6月はお祭りの季節でもあります。トップバッターは1日、2日の葛原岡神社(くずはらおかじんじゃ)例祭。威勢のいい掛け声とともに私の住む集合住宅の前の道もお神輿が通っていきました。

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 由比ガ浜の海岸へ向かう道ですね。ゴジラが上陸した海浜公園の前で右折したので海には出ませんでしたが、この解放感はまさしく海辺のお祭りです。

 

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  葛原岡神社は《後醍醐(ごだいご)天皇の忠臣として鎌倉幕府倒幕に活躍した日野俊基(ひのとしもと)卿をお祀りする神社》(神社公式サイトから)であり、海岸からはかなり離れた源氏山公園隣接の高台にあります。
 ただし、由比ガ浜の総鎮守ということで、お祭りになると地元は盛り上がり、お神輿が町内を練り歩きます。

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 こちらは海岸。海の家の工事はまだ始まったばかりですが、砂浜にはたくさんの人が繰り出し、もう限りなく海水浴に近い状態ですね。

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 暑かったからなあ。