『ツインパンデミック時代のキーワード』 TOP HAT News144号

 2020年世界エイズデー(12月1日)を中心にした国内啓発キャンペーンのテーマは『知ってる!?  HIVエイズの違い』です。何をいまさら・・・と思われる方もいるかもしれません。

 ただし、じゃあ、知ってる?と尋ねると、え~と、何だったかな?と答えにつまってしまう人も意外に多そうです。分ったと思っていても、あるいは実際に分かっていても、時間がたつと忘れたり、あいまいになってしまうことは多々あります。

 新型コロナウイルス感染症COVID-19が世界に広がる中で、日本の国内でも、まるでエイズの流行の初期に戻ったように、恐怖や不安の拡大がもたらす理不尽な現象が次々に起きました。

 HIV/エイズ対策に長く携わってきた人にしてみれば、なんでまた!? と当惑することも多かったと思います。経験したことでも、時間がたてば人は忘れてしまう。これもまた、HIVエイズ対策の経験の蓄積から得られた教訓の一つです。分っていると思うことでも、繰り返し伝える努力は必要です。

 HIV/エイズとCOVID-19という2つの新興感染症パンデミックが同時に進行する「ツインパンデミックの時代」だからこそ、改めて「知ること」が重要なキーワードになる。TOP-HAT News144号(2020年8月)は巻頭で今年のキャンペーンテーマについて取り上げました。あえて、もう一度。知ってる?

 

 

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        第144 号(2020年8月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに ツインパンデミック時代のキーワード

 

2  第34回日本エイズ学会学術集会・総会もWeb開催に

 

3 AAA(アクト・アゲインスト・エイズ)が活動に終止符

 

4  『パンデミックパラドックス

 

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1 はじめに ツインパンデミック時代のキーワード

 12月1日の世界エイズデーを中心にした2020年世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマが決まりました。

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 『知ってる!?  HIVエイズの違い』

 キャンペーンは厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱し、12月1日の前後1カ月ぐらいを中心に全国で様々な啓発活動が展開されます。各自治体やHIV/エイズ分野のNPOの活動にテーマを反映させてもらおうと考えれば、夏までにはテーマを決めておかなければなりません。

 ということで、今年は7月22日(水)に厚労省がテーマを発表し、API-Net(エイズ予防情報ネット)にその趣旨が掲載されています。

 https://api-net.jfap.or.jp/edification/aids/camp2020.html

 テーマの策定に至る過程では、春からエイズ予防財団やHIV/エイズ関係のNPOのメンバーらが中心になって、今年はどんなメッセージを伝える必要があるのか、伝えたいのか、検討を重ねてきました。そのうえで2つの候補案を厚労省に提案し、『知ってる!?・・・』が採用されています。

エイズ予防財団と国内のNPO3団体が協力して運営するHIV/エイズ総合情報サイト『コミュニティアクション』にもテーマ紹介のページがあります。こちらもご覧ください。

www.ca-aids.jp

 

 なぜ今年は『知ってる!?・・・』なのか。新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックが、HIV/エイズの啓発キャンペーンにも色濃く反映されています。

 『そのCOVID-19対策の中でも「正確な情報と知識」の重要性が改めて認識されています。知らないことが不安を増幅させ、不正確な知識や誤った情報が広がる。そのことが有効な対策の成立を困難にします。社会的な差別や偏見によって病気そのものを上回る被害を生み出すことにもなります』

 同じようなことは、HIV/エイズ対策の中でも繰り返し経験してきました。もちろん、COVID-19とHIV/エイズとでは、感染経路も発症に至る経緯や病状も、流行の拡大を防ぐための手法も異なります。それでも感染症パンデミックという重大な事態に社会が対応するとき(あるいは対応しそこなうとき)には、不思議なくらいによく似た現象を経験します。そこから引き出され、蓄積された教訓は次のパンデミックにも生かせるのではないか。仮定の話ではなく、いまそのことを世界中が、そして日本の社会も、リアルタイムで経験しています。

 『HIVエイズの原因となるウイルスであり、エイズはそのウイルスによって免疫の力が低下することで引き起こされる様々な症状(症候群)です』

 いまだからこそ、この当たり前のことから、もう一度、丁寧に伝えていこうよ。そんな議論から生まれたのが今年のテーマです。実は16年前の平成16年のテーマは『“HIV”と“エイズ”の違い、知っていますか?』でした。よく似ています。でも、まねしたわけではありません。ほぼ同じテーマですが、16年の間に治療は大きく進歩しました。

もちろん、知識がすべてを解決するわけではありませんが、正確な知識が前提として伝わらなければ、感染症の流行がもたらす恐怖や不安、そこから生まれる偏見と差別を克服することもできなくなってしまいます。16年前とは、メッセージに込められた内実も自ずと異なってくると指摘したうえで、コミュニティアクションは次のように述べています。

HIV/エイズとCOVID-19というツインパンデミックの時代のキーワードとしても、改めて「知識」に焦点をあてる必要があります』

 

 

2 第34回日本エイズ学会学術集会・総会もWeb開催に

 11月27日(金)〜29日(日)に予定されている第34回日本エイズ学会学術集会・総会がWEB開催になりました。

 今年は千葉市美浜区幕張メッセが会場の予定でしたが、COVID-19の流行を考慮し、開催方法の変更を決めたということです。

 詳細は公式サイトでご覧ください。
www.aidsjapan2020.org

 

 

3 AAA(アクト・アゲインスト・エイズ)が活動に終止符

 音楽業界を中心に1993年からエイズ啓発活動に取り組んできたAAA(Act Against AIDS/アクト・アゲインスト・エイズ)が7月20日、活動を終了しました。公式サイトに『Act Against AIDS活動終了につきまして』というお礼の文章が掲載されています。

www.actagainstaids.com

『もちろんエイズは依然としてこの世に存在し、日本でも新たな感染者が報告されています。しかしながら、私たちの活動がエイズについて考えたり、友人や家族、パートナーと会話するきっかけ作りとなる、と同時に日本における社会貢献活動の活性化にも、わずかながらでも寄与できたのではと考えています』

AAAは創設以来27年にわたり、12月1日の世界エイズデーを中心に全国でコンサートを開催し、音楽の力で多くの人を励ましてきました。また、HIV/エイズに対する理解を広げるためのポスターや冊子などの資材も独自に作成し、中学校や高校に提供しています。

その貢献は『わずかながら』どころか、極めて大きかったと言うべきでしょう。活動の終了は残念ではありますが、むしろこちらから「長い間、ありがとうございました」と感謝の言葉を贈りたいと思います。

 

 

4 『パンデミックパラドックス

 米国の安全保障分野の民間シンクタンク、国際戦略問題研究所(CSIS)のグローバルヘルス政策センター(GHPC)がHIV/エイズ対策の課題を取り上げた5回シリーズのドキュメンタリーフィルム『パンデミックパラドックス』の公開を開始しました。英語版ですが、第1回『I am worried』をYOU TUBECSISチャンネルで見ることができます。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=6&v=UOTic9GqyZk&feature=emb_title

 第1回は、米アーカンソー州南アフリカのクワズール・ナタール州、ウクライナオデッサ市からの報告と世界の著名なHIV研究者のコメントで構成されています。

 タイトルの「パンデミックパラドックス」とは、世界がHIV/エイズ対策に力を入れ、なんとか拡大を抑えてきたものの、まだ道半ばのその成果に満足してしまい、現状は逆に流行の再燃を招きつつあるという懸念です。

成功が再燃を促すという逆説(パラドックス)は、米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長、国連合同エイズ計画(UNAIDS)元事務局長のピーター・ピオット博士、グローバルファンド前事務局長のマーク・ダイブル博士らそうそうたる専門家たちが揃って指摘し、現状に強い危機感を表明しています。インタビューはCOVID-19というもう一つのパンデミックが登場する前に収録されたということですが、第1回の最後にプロデューサーのスティーブン・モリソン氏が登場し、新たなパンデミックによってその危機は一段と深刻化しつつあると語っています。