国連合同エイズ計画(UNAIDS)が6月末から『Respect and dignity matter』というキャンペーンを展開しています。日本語では『尊厳と尊重、それが大切です』といったところでしょうか。7月はオランダのアムステルダムで第22回国際エイズ会議(AIDS2018、23~27日)が開かれ、HIV/エイズ関係の宣言や発表が盛りだくさんだったので、ちょっと目立たなかった印象ですが、メッセージはHIV/エイズ対策の現状を考えるとかなり重要なのではないかと思います。
実は7月9日にも当ブログで紹介してあるのですが、このまま埋もれてしまうのも忍びないので、もう1回、改めて・・・ということで微力ながらTOP-HAT News第119号の巻頭で取り上げました。
キャンペーンのサイトとあわせてご覧ください。
『尊厳を守り尊重するということは、許容(tolerance)ではなく受容(acceptance)することです』
このtoleranceとacceptanceも日本語ではどんな訳語がいいのか。かなり考えた末に許容と受容で対比してみました。
許容でなく受容。存在を許してもらうわけではなく、そのまま受け入れる。これもまた重要かつタイムリーなメッセージかなあと(昨今の日本の動きもにらみつつ)改めて感じています。
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第119号(2018年7月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに HIV/エイズ対策に見る『尊厳と尊重』の大切さ
2 第25回AIDS文化フォーラムin 横浜 8月3日(金)~5日(日)
3 『地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究』
4 使えるツールとして生かすために エイズ予防指針
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1 はじめに HIV/エイズ対策に見る『尊厳と尊重』の大切さ
国連合同エイズ計画(UNAIDS)が6月末から『Respect and dignity matter(尊厳と尊重、それが大切です)』というキャンペーンを展開しています。「あなたにとっての尊厳と尊重とは」(What does it mean to you)と問いかけ、インターネットで投稿を受け付ける・・・そんなキャンペーンです。公式サイトからビデオや絵はがきをダウンロードしキャンペーン素材として活用することもできます。
簡単な手順で、短いメッセージを投稿できる仕組みがこのキャンペーンのポイントでしょう。投稿されたメッセージは『メッセージボード』に並べられ、閲覧できます。
数が多いので個々のメッセージまではとても訳せませんが、せめて、ということで、キャンペーンの趣旨説明(about)の日本語仮訳を作成しました。エイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに掲載したので、こちらもご覧ください。
http://asajp.at.webry.info/201807/article_1.html
感染した人の体内でHIVの増殖を抑える抗レトロウイルス薬をいくつか組み合わせて服用する抗レトロウイルス治療の進歩により、HIVに感染したとしても、必要な治療を続けていれば、感染していない人と同じくらい長く、そして就労や社会生活を維持しながら生きていくことが期待できます。1980年代や90年代の前半にもたれていた「死の病」のイメージは、現状ではあてはまりません。
また、治療の普及が予防にも効果があることを示す研究成果も相次いで報告され、T as P(予防としての治療=Treatment as Prevention)という考え方も国際的に広く共有されています。
その結果、治療の普及が進めば、T as Pでエイズの流行は終結するという数学モデルも示され、流行の制圧に大きな期待がかけられています。
ただし、話はそう簡単に終わるものではなさそうです。
これまでの推移を見るとエイズ関連の死者数は大きく減少しているものの、HIV新規感染の方は期待通りに減少しているわけではないからです。
抗レトロウイルス治療の普及が実現するには、その普及を支える社会的な条件にも同時に目配りが必要です。すべての人の尊厳を重視し、人権の尊重を基本にしたものでなければ、HIV/エイズ対策が効果をあげることはできません。このことは、20世紀末に航空機事故で急逝した世界保健機関(WHO)の元世界エイズプログラム部長、ジョナサン・マン博士や初代UNAIDS事務局長だったピーター・ピオット博士が1980年代から、ことあるごとに、繰り返し強調してきたことでもあります。
延命という意味では、そして長く生きられるようになった分の生活の質を保証するという意味でも、治療は目覚ましい進歩を遂げています。それでもなお、世界のHIV/エイズとの闘いはまだ道は半ばです。
UNAIDSは2017年に『いまや世界のHIV陽性者の半数以上が必要な治療を受けている』と報告していますが、これは同時に「いまでもなお、HIVに感染している人の半数近くは生きていくために必要不可欠な治療を受けることもできずにいる」という困難な現状を示すものでもあります。繰り返しますが、道はまだ半ばです。
今回のキャンペーンの趣旨説明には『尊厳と尊重があれば(それぞれの人の尊厳を守り、尊重することで)、安全が保てます。安定します。恐れることなく、自分でいることができます』と書かれています。
逆の言い方をすれば、「安全で安定した生活」と「恐れることなく自分でいることができる環境」が保障されなければ、感染を心配する人が自ら進んでHIV検査を受けることも、感染が分かって必要な治療を受けることも、そしてHIV感染を防ぐために必要な情報やサービスを受けることも困難になってしまいます。
趣旨説明の中でUNAIDSはこう指摘してもいます。
『尊厳を守り尊重するということは、許容(tolerance)ではなく受容(acceptance)することです。人がその人本来の姿で受け入れられるということです。どこから来て、だれを愛し、どんな行動をとり、誰とセックスをするか、その人にとって必要なものが大切なのです』
許容でなく受容。存在を許してもらうわけではなく、そのまま受け入れる。これもまた重要なメッセージですね。
2 第25回AIDS文化フォーラムin 横浜 8月3日(金)~5日(日)
息の長い継続は《尊厳と尊重》のお手本といえるのかもしれません。AIDS文化フォーラム in 横浜は1994年8月、横浜で第10回国際エイズ会議が開かれたことがきっかけになってスタートしました。以後、毎年8月の最初の金土日に開催され、今年で第25回の節目を迎えます。
その節目の年のテーマは『♯リアルとつながる』。開催は8月3日(金)から3日間、かながわ県民センター(横浜駅西口徒歩5分)で。 参加自由・入場無料です。
《AIDS文化フォーラムでは、色んな立場の人、色んな意見があり、様々な“リアル”が認められています。そんな様々な“リアル”とつながってみませんか?》(チラシから)
プログラムなど詳細情報は公式サイトでご覧ください。
3 『地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究』
平成27年度から29年度までの3年間にわたって研究を行ってきた厚労省研究班が報告書をまとめました。「地域におけるHIV陽性者支援のためのウェブサイト」で3年間の『総合研究報告書』および『平成29年度 総括・分担研究報告書』のPDF版をダウンロードできます。
4 使えるツールとして生かすために エイズ予防指針
日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)のニュースレター第36号(2018年6月)に《エイズ予防指針って、そもそも何?》という特集記事が掲載されています。
日本のHIV/エイズ対策の基本となるこの指針は、1999年10月に告示され、これまでに3回、改正されています。現行指針は一昨年末からの見直し作業を経て、今年1月18日に告示されました。
特集記事は国内のHIV/エイズ対策の現状や改正のポイントなどを報告し、指針の見直しは実は大臣告示で終わったわけではなく、『実際に役立つツールとして使う』という宿題はむしろこれからにゆだねられていることも指摘しています。