【湘南の風 古都の波】「神輿ぶり」の熱気 境内包む

 ちょっと遅くなりましたが、先週の土曜日(18日)のSANKEI EXPRESS 掲載された連載【湘南の風 古都の波】です。関東地方の梅雨明けは7月19日(日)でしたね。それ以来、猛暑に突っ走られちゃって・・・。7月の初めには、「ちょっと肌寒いね」などと話していた日もあったのに。紙面の中心は私の駄文ではなく、渡辺照明記者の写真です。こちらでご覧下さい。
  http://www.sankeibiz.jp/express/news/150718/exg1507181400002-n1.htm



【湘南の風 古都の波】「神輿ぶり」の熱気 境内包む

 今年の梅雨はずいぶん肌寒いねえ…などと話していたら、いきなり夏が来た。暗鬱な雨と雲ばかりで、少々滅入(めい)るような空が、一転してからりと晴れ上がったのは11日の土曜日だった。鎌倉祇園として知られる「大町まつり」の初日でもある。

 梅雨明けはまだとはいえ夏はまさしく、まつりとともにやってきた。しかも、市内の西方に連なる低い山の向こうに日が隠れるころになると、海からの風がさっと吹き抜ける。昼の暑さとは対照的な夕暮れのこの心地よさ。

 まだ明るさの残る大町の八雲神社境内から「大」の字の提灯(ちょうちん)をずらりと掲げた神輿(みこし)が町に繰り出す。

 平安時代後三年の役で兄の八幡太郎義家を助けるため、東北へ向かう途中の新羅三郎義光が、鎌倉に立ち寄る。このとき疫病がはやっていたので京都の祇園社祭神をここに遷し、悪疫を退治したという。

 このため、大町の八雲神社はかつて祇園天王社と呼ばれ、いまも「鎌倉の厄除(よ)けさん」として知られている。午後7時からの「神輿ぶり」は休憩時間をはさんで約2時間、4座の神輿が周辺の町を回る。担ぎ手はそろいの法被姿。地元の人だけでなく、公募もしているので外国人や女性の姿も見られ、何だか楽しそうだ。見ている方もうきうきしてくる。

 午後9時過ぎ、神社に戻った4座の神輿が境内の楠の周囲を回りはじめた。半径6、7メートルの円を描き何周も回る。ジョギング程度のスピードだが、遠心力で担ぎ手が振り飛ばされそうな場面もある。転ばないか。はらはらする。壮観なエンディング。その熱を、夏の夜風がすっと冷まし、また静かな町が戻ってくる。

 ≪夏の海へ 小トリップ≫

 鎌倉にある由比ガ浜、材木座、腰越3海水浴場の海開きは1日だった。あいにくの雨模様で、傘を差しながら式典会場の由比ガ浜海岸に向かう。まあ、梅雨のまっただ中だから致し方あるまい。

 お隣の逗子海水浴場は少し早く6月26日。さらにその隣の葉山町にある森戸、一色海水浴場は逆に少し遅くて7月4日に海開きが行われた。

 残念ながら7月の最初の10日間は雨天の日が多く、雨が上がっても海水浴には肌寒い。湘南の海もまだ、開店休業状態だった。

 本格的な海水浴シーズンの到来を思わせたのは、大町まつりの神輿(みこし)ぶりと同じ11日の土曜日だ。からっと晴れた。

 その後、台風11号の接近もあって梅雨明けはしばらくお預けとなったが、今年もまた、7月の後半からはたくさんの人が海を訪れるだろう。

 葉山町の海岸沿いにある真名瀬(しんなせ)のバス停は、その森戸海水浴場と一色海水浴場の間のいわばエアポケットのような空間にある。

 目立たない。だが、バス停の白いコンクリートの待合所も、その向こうに広がる水平線も素晴らしい。地中海沿岸には行ったことがないのであくまで想像だけれど、まぶたを閉じれば、どこか南仏あたりの海岸が浮かんでくる。そんなまぶしさで輝いている。

 バス停越しに海を見る。右に少し歩くと源頼朝創建と伝えられる森戸神社(森戸大明神)。本殿裏の磯から沖へ700メートル先には名島の赤い鳥居、その手前に裕次郎灯台。さらに沖を望めば相模湾上に江の島が浮かび、お天気に恵まれた日なら富士山も見える。

 裕次郎灯台の正式名称は「葉山灯台」というそうだが、石原裕次郎さんの三回忌を記念して建てられ、地元の人たちには通称の方が親しまれている。

 バス停に戻ろう。目の前の海の左側は真名瀬漁港。はるか沖合から、ゆっくりと漁船が戻ってくる。

 のどかです。漁港の隣のマンション群から道路一つ隔てた芝崎海岸は海の生物の宝庫である。

 満潮時には真ん中に松の木がある小山だけが島になって残り、後は海中に没する。ただし、潮が引くと岩場が現れ、道路から石の階段を降りてその岩場にも出られる。ヒトデやカニ、ナマコ、ウミウシアメフラシ…こりゃあ楽しいね。葉山御用邸にも近い。海洋生物学者として知られた昭和天皇もこの岩場で研究に打ち込まれたという。

 ひと夏に100万人を超える海水浴客が集まる鎌倉の由比ガ浜ほどではないが、もうすぐ葉山の海もたくさんの人でにぎわう。

 海水浴の合間につかの間の小トリップも…と、お勧めしたいところだが、この魅力を味わうには、あまり人が来ない方がいいか? 微妙なところだ。