【エイズ対策15年】 「もういいだろう」は困る

 本日(7月21日)付産経新聞の主張(社説)です。

 【エイズ対策15年】 「もういいだろう」は困る

http://www.sankei.com/column/news/150721/clm1507210002-n1.html

 世界のエイズの流行について国連合同エイズ計画(UNAIDS)が最新報告書を発表した。

 今年は2000年に始まった国連ミレニアム開発目標(MDGs)の最終年である。「エイズの流行の拡大を止め、縮小に転じる」ことは目標の一つだった。報告書も目標に対する15年間の成果を中心にまとめられている。

 エイズの原因であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の新規感染者は2000年時点で年間310万人だったが、14年には200万人に減った。世界がなにも対応しなかったら600万人になっていたとの推計もある。

 10年前のエイズによる死者は年間200万人だったが、14年は120万人に減少している。エイズ対策は2000年以降、3000万人のHIV感染と780万人の死亡を防いできたという。MDGsの中でも、とりわけ目覚ましい成果である。

 コンドーム使用などの性感染予防策や感染者の体内のHIVの増殖を抑える抗レトロウイルス治療の進歩と普及などが、こうした成果を支えてきた。

 治療に関しては、感染した人の体内のウイルス量が大きく減り、他の人への感染のリスクも大幅に下がることが最近の研究で明らかになった。研究が進み、「予防としての治療」が今後の予防対策にさらに大きな成果をもたらすことも期待されている。

 国連は来年から次の15年に向けた「持続可能な開発目標」(SDGs)を発足させる。エイズ分野の目標は30年までに公衆衛生の脅威としてのエイズの流行を終わらせることだ。

 具体的には年間のHIV新規感染、エイズによる死者を15年後にはそれぞれ20万人程度に抑えることを目指す。

 そのためには治療を受けられる人を現在の1500万人から倍以上に増やす必要がある。HIVに感染した人、感染の高いリスクにさらされている人への偏見や差別を解消し、検査や治療を受けやすくするような支援と社会環境の整備がますます重要になる。

 15年間の成果のせいか、最近は「エイズはもういいだろう」といった発言も聞かれるが、それでは困る。感染が再拡大し、せっかくの成果が台無しになるのは目に見えている。流行はまだ終わっていないことを認識すべきだ。